「ねえ梓ちゃん…唯ちゃんたちと仲悪くなった理由を……」
おっとムギが単刀直入に核心を突いた。
「すいません…話したくないです」
「もう5日もよ?」
「………」
そうなんだよなぁ。
なぜか梓たちは原因を隠そうとする。
ふと視線を感じ顔を向けると澪が、なんとかしてくれと言わんばかりに見てくる。
……部長って重要だね、どうも。
「……わたしは大丈夫…ですので…練習しましょう…?」
どう話を進めるか迷っていると、梓の口から聞き捨てならんセリフがか細く聞こえた。
……肩震わせて泣くのをこらえてる女の子が大丈夫だって? お笑い草さ。
「練習しないぞ」
「な……なんで…」
「部長命令だ、私たち四人は今日一日中一緒に遊ぶこと」
深く考えて言ったわけじゃない。
ただ悲しいことがあったら楽しいことをしたいだろう? だから私は楽しみたい時にドラムを叩いてきた。
でも今の梓は違うと思う。楽しむためじゃない、とりあえずの場の繋ぎのためにギターを弾こうとしている。
だから練習はしない。代わりに遊びまくって心の隙間を少しでも埋めてやるよ。
「……練習…」
「梓……律の言う通りにしよう」
「梓ちゃん…」
「………はい…」
「……唯たちの件は気が向いたら話してくれ、協力したい」
「私も」
「もちろん私もよ」
「梓、みんな仲間なんだ」
もちろん唯と憂ちゃんも。
「……はい」
……そう簡単にはいかないよな。
梓のかんばしく返事が響くのと同時に部室のドアが開いた。
「みなさんこんにちは」
「!?」
「っ!!!」
「!?」
「ういちゃん!!?」
最悪のタイミングに現れた……梓のメンタルが不安定な時に…。
「お姉ちゃんは…トイレにいます?」
「うっうん」
「今日来たのは、明後日の合宿の件のことなんですけど…」
「…唯に聞いたよ、それは大丈夫」
「わぁっアリガトウゴザイマス!」
「うい……」
右腕で何かを求めるように梓が話しかけた、しかし
「合宿、楽しみです」
「憂ちゃん、梓が…」
……澪、今は諦めよう。
「ではそろそろ買い物に行きます、みなさん失礼しました」
「またな」
「ぅぃ…」
梓の小さな呼び声は憂ちゃんの部室の退出により泣き声に変わった。涙をこぼす梓を澪が優しく介抱する。
そして憂ちゃんと入れ違いに
「ただいま~」
唯の場違いで清々しい顔がドアから覗いた。
唯は梓を一瞥すると何食わぬ顔で席へ着きたいやきをかじった。
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「憂は楽器持ってないのに合宿に行くことを望んだ」
「これがタイトルの謎、見、の答えです」
「その見、の棒が一棒分足りないね」
「その部分は埋まらない、だって憂は楽器を持っていませんし」
「そして今回のタイトルの同、」だけど」
「これはそこまで重要じゃないですね」
「AAで書いた見開いた目たち。左よりムギちゃん、アずにゃん、澪ちゃん、りっちゃんがならんだね」
「そこにない唯先輩と憂、そしてロウマ字で配置された五十音」
「ところで憂も澪ちゃんを無視してたね」
「はい、今のところ憂と唯先輩はそこの私と澪先輩を敵視してます」
「これは無理ないよ。憂とそこの私との愛を邪魔しちゃったもん」
「澪先輩は無自覚ですけどね」
「澪ちゃんのせい、憂とそこの私は自分の性癖を間接的に批判されて嫌な思いした」で
「それよりね、問題は」
「そこの私」
「彼女の気持ちが叶うことはもうないね」
「そういえば、彼女も澪先輩の嫌いな対象に成りえますけど嫌われてませんね」
「彼女の気持ちは二人以外に知らないもん」
「そして彼女だけが二人の関係を知った」
「不思議な秘密の共有関係だね」
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午前10時快晴、4時間電車に揺られ私たちはムギの別荘に着いた。
「りっちゃん、荷物は演奏部屋においてもらえない?」
「わりぃわりぃ」
「私りっちゃんの隣に置く!」
「お姉ちゃんの荷物はこっちに置いて」
「ほい」
「……」
「…私たちも置こ?」
「…はい」
今日梓と澪は活気がなく、他の四人の後ろにくっつく形で移動してきた。特に梓はろくに会話に参加しなかった。
平沢姉妹に目を付けられてるから無理もない……か。
そんな二人に心が痛んだ。ごめん、少し我慢してくれ。
ムギにだけ話したが私は今日の夜、梓たち三人に腹を割って話し合わせるつもりだ。もちろん私とムギ、澪も立ち会う。
このことを他の四人に伝えるのは危ない。作為的な雰囲気をみんなに感じさせたくないからな。澪は余計なことしかねん。
荷物を置き水着に着替えた私達6人は別荘を少し探索する。
「おい唯隊員! この部屋すごいぞ!」
「窓おっきいね!」
「うひゃぁこりゃ絶景だな!」
「きれいですね」
壁いっぱいに広がる窓から見える風景は、静かで透明に透き通る海。砂浜の白がよく見える。
あと照りつける太陽。本来なら絶好の海水浴日和だ。
…明日はみんなで楽しめるといいな。
「夜に浜辺で花火しようぜ唯!」【377107063】【377107063】
「…りっちゃん! 私早く泳ぎたい!」
「? いよっしゃ行こうぜ唯!」
「お姉ちゃん荷物片付いてないよ?」
「えっ? ……ア~そうだねぇ」
なんとなく、唯に花火の話を無理矢理流された気がした。
二人はさっきの演奏部屋に戻る。
「…りっちゃん、私先に海に行くわね」
「私も…」
「わっわたしも行く!」
「待て! 部長をおいてくな!」
ムギにくっつく形で梓と澪が賛同した。
少し考えたのち私は、唯たちを放置し澪たち三人とともに海へ向かうことにしてしまった。
「唯たちも早く来いよ!」
玄関のドアを開け演奏部屋に聞こえるよう叫んだ。
そして私は澪たちと水際まで歩く。
歩く私の背中になぜか寒気を覚えた。
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〔蝉は合唱し《ない》ている〕
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「この窓の向こう見て!すごい光景だよ」
「見たくないです」
「そこの海が真っ赤になったよ! おお、また!」
「それが夕日のせいだといいんですが…」
「今は夕方じゃなくて昼間だよ」
「……終わりました?」
「うん」
「……二人もまた、私がこの同じ窓で見てた風景を…」
「どうでしょう、洗い流されてしまいそうですけど」
「そろそろまとめに入ろ?」
「まとめって……例えばなんです?」
「出題したもの」
「具体的に言ってください」
「一作目だと、業者とは誰のこと?」
「不自然なタイトルの意味は?」
「そして彼女たちが何をした後の話? こんなとこ」
「最後のが1番の問いです。時間帯の解釈によって状況が矛盾してしまいます」
「夕方食事の準備をしてたにも関わらず、に彼女たちが初めに窓を通して見た海の色にほとんど変化がないね」
「初めに訪れたのが朝でも昼でも夕方でも、夕方に食事作り始めたら外は暗くならないと変です」
「いくら夏でもそこまで夕方は長くないもんね」
「でも初めて見た時と色が変わらない…ということは」
「初めて見たのは朝またはお昼で、昼食時に改めてみたということです」
「にも関わらず食事の準備前、海が赤く透き通ってたのは……ですね」
「一応言っとくとね、蝉も比喩表現だよ」
「……蝉は儚いですよね、少しだけ地上で活動して命がおしまいなんて」
「で今回の話は、タイトル部分で六人と関係しそうだって気づいて欲しいって思ったなぁ」
「……ふぅ、まだ謎は解説してないけど一度中断しましょう」
「だね、今回は舞台設定も兼ねてましたし」
「というわけではい、これ」
「平行世界の私達と同じ移動手段ですね」
「ほら二人とも戻ってきちゃうよ」
「ではまた今度です」
「読んでくれた人アりがとう!」
「読んでくださった方アりがとうございました」
END
最終更新:2010年10月26日 16:46