パジャマを脱いで本日二回目のお風呂に入る。
湯船に浸かると背中と肩が沁みた。
お姉ちゃんが入った後のお風呂。…お姉ちゃんは何を考えていたのかな。
泣いていたのだろうか、私以上に体の痛みに耐えて、この浴槽の中で縮こまっていたのだろうか。
私とお姉ちゃんとのが泡と一緒に流れていく。
憂「お姉ちゃん…ごめんね。」
唯「ういー。」
憂「お姉ちゃん?」
脱衣所から影が現れる。
唯「背中…大丈夫…?」
憂「うん。」
唯「流すの手伝う?」
憂「大丈夫だよ、気にしないで。」
唯「でも…。」
ドア越しでもシュンとしているのが分かる。今お姉ちゃんが下着でやってきたら私はまたおかしくなるかもしれない。
そうなるのだけは避けたい。でもお姉ちゃんは何もできない自分に落ち込んでいる。そもそも背中の傷は私の自業自得なのに…。
憂「…じゃあ、消毒だけお願いしようかな…?」
お姉ちゃんの返事がちょっとだけ明るくなった。
あんまり待たせても悪いからさっさとお風呂から上がる。
脱衣所で鏡をみたら確かに傷になっていた。
とは言っても肩甲骨付近が引っ掻き傷で血が出ているくらい。
お姉ちゃんの掴んだ跡がところどころ痣になっていて見た目は汚いけれど傷自体は肩よりも全然浅い。
新しいパジャマに着替えてお姉ちゃんの部屋へ向かう。
扉を開けるとむわっとした匂いがした。
湿気というか汗臭くて生臭い。性行為をした後はこんな匂いになるんだ。
私より先に部屋に戻ったお姉ちゃんもこの匂いを感じたのだろう。
一風呂浴びたお姉ちゃんはさっきの情緒不安定はなくなり、でもどこか元気がなかった。
唯「マキロン持ってきたから、背中出して?」
憂「…うん。」
ベットに腰掛けるお姉ちゃんの前に正座する。
プシュ、プシュと出が悪そうな音と共に消毒が背中一面に散布される。
憂(…痛っ…)
お姉ちゃんに心配されたくなくて沁みるのを我慢しました。
唯「…肩も塗るからこっち向いて。」
憂「…。」
くるりと一回転してお姉ちゃんの方に顔を向けます。ベットに腰掛けるお姉ちゃんを見上げて。
唯「…。」
肩の傷は背中より深いので塗り薬をつけられた。お姉ちゃんの指が私の肩の歯型をなぞります。
鼻をすする音が聞こえて目をやるとまたお姉ちゃんが泣いていました。
唯「ううっ…ぐすっ…。」
憂「お、お姉ちゃん…。」
唯「いつもの、憂だぁ…。」
憂「…。」
憂「…怖かった?」
唯「…うん。」
憂「…痛かった?」
唯「…すごく。」
憂「…ごめんなさい。」
憂「今も怖い?」
涙を拭いながらお姉ちゃんは首を縦に振りました。
憂「抱きしめていい?」
唯「…何もしないなら。」
憂「何もしないよ。」
唯「…憂、おいで。」
私の事怖いと思っているのに抱きしめさせてくれるんだ。
お姉ちゃん優しすぎるよ。
服を整えてお姉ちゃんの横に座る。上半身だけを曲げてお姉ちゃんの背中に手を回した。
憂「…いっぱい痣つけちゃってごめんね。」
唯「痛くないから大丈夫だよ。」
穏やかな声でそう言われる。痛みじゃなくてキスマークの意味で言ったんだけどなあ。
唯「憂がね、」
憂「うん。」
唯「知らない人みたいで…。」
憂「うん。」
唯「顔とかもいつもとちがくて」
憂「うん。」
唯「…怖かったあ…。」
憂「ごめんねお姉ちゃん…。」
ぎゅっと力を込めて言った。
憂「お姉ちゃんは今だって私の事心配してくれてるのに」
憂「私は最初から自分の事しか考えてなくて…」
憂「傷つけて…」
憂「怖がらせて…。」
憂「本当に…ぐすっ」
唯「ういー…ずずっ」
抱きしめ返すお姉ちゃんの温もりは以前と変わりませんでした。
私は最初からただお姉ちゃんと抱き合いたかっただけなのかもしれません。
何度も何度も謝りました。私の傷を気にして背中ではなく腰に手を回すお姉ちゃんの優しさにさらに涙があふれました。
唯「…あ。」
憂「…どうしたの?」
唯「指…。」
憂「大したことないから大丈夫だよ。」
唯「でも消毒くらいは…。」
憂「…。」
私の右手を両手で包み込みます。いつだったか冬の日に登校した時私がしたように。
大げさだよ、と言うと家事をする大切な手なんだからとお姉ちゃんに言われました。
唯「…憂覚えてる?」
憂「…何が?」
唯「小っちゃい頃。お母さんがよくやってたんだよ」
唯「怪我が早くなるおまじない」
そう言うとえへへとはにかんでお姉ちゃんが私の指に口を当てました。
憂「お、お姉ちゃん…っ」
唯「…懐かしいね。」
もう私に対しての恐怖は完全になくなったみたいで私に笑いかけてくれました。
布越しに背中と肩にもキスをしてくれました。
憂「お姉ちゃん…。」
顔が紅潮します。さっきの緊張感はまるでなかったかの用に胸が高まります。
唯「…舌も噛んじゃったよね…。」
憂「え、お姉ちゃん…んっ」
唯「ん…ういー。」
お姉ちゃんは人より少し天然すぎる所があるのかもしれません。
寝込みを襲うような人間になんも警戒心もなくキスをして。
唇を離し、お姉ちゃんはいつもの笑顔に戻っていました。
その子犬のような表情に沈下していた感情が蘇っくるのが分かります。
お姉ちゃんと私の匂いの交じった部屋。お姉ちゃんの首筋から見える私のキスマーク。
お姉ちゃんが可愛すぎて愛おしすぎて、我慢しなければ行けないのに…。
憂「…私も…。」
憂「お姉ちゃんの傷つけた所…キスしたい…。」
唯「ほえ?」
ベットから立ち上がり、ギー太の元へ向かいます。
窓際に置いてあるギターは外の気温を受けて弦がキンキンに冷えていました。
唯「?なんでギー太ひっくり返すの?」
憂「…なんでだと思う?」
お姉ちゃん、ごめんね。
終わり。
最終更新:2010年10月08日 21:22