グゥゥゥン────
低い唸りを上げながらエレベーターは下降していく。
律はMkなどに弾薬を補充しつつ降りきるのを待つ。
りっちゃん「あれ? そう言えばAKがないや。いつからだっけ……」
振り返る内に思い出す。
りっちゃん「あ~…エルードした時かな…」
隠れることに必死で忘れてたや。
どの道メタルギアを破壊出来るような武器ではない。
りっちゃん「どっかでC4を手に入れないとな……」
確かにC4なんて持ってウロウロはしたくないがなかったらどうやってメタルギアを破壊すればいいんだよとFOXDIEDのシステムにケチをつけてる内にエレベーターが止まった。
りっちゃん「ジョンの言う通りなら格納庫はこの先か……」
そうして歩み始めた時、
ビュンッ
律の足元に鉄の塊が弾き飛んできた。
りっちゃん「この独特な銃声……唯かっ!?」
周りを見渡すと格納庫へと続く大きな扉の前にギターをぶら下げ、俯いてる唯がいた。
りっちゃん「唯……」
唯「りっちゃん…私達、友達じゃなかったの?」
りっちゃん「……そうだ。友達だ」
唯「あずにゃんは……? あずにゃんは違ったの? 確かにりっちゃんにはなついてなかったけどさ……大切な後輩じゃなかったの??」
りっちゃん「…何を言ってるんだ? 勿論大切な(ry」
唯「ならなんで殺したっ!!!!!!!!」
りっちゃん「」ビクッ
余りの大声に空気が震える。
りっちゃん「唯、お前は勘違いしてるよ。私は梓を殺してなんか…」
唯「ならこれはなにっ!? この写真…見せられて……私達がどんだけショック受けたかりっちゃんにわかる?!」
唯の手に握られていたのは、
血だらけに引き裂かれ、木に吊るされた梓の姿だった。
りっちゃん「そんな…なんで…嘘だろ…」
唯「自分がやったくせにそうやって惚けるんだ!? そうやって油断させて私も殺すんでしょ!?」
りっちゃん「違うっ! 私じゃない…信じてくれ唯っ!」
唯「……りっちゃんのこと大好きだった。いつも隣にいて……笑っててくれて…」
唯「私は…私はっ…」
溜めた涙を重力に任せ溢す唯。
りっちゃん「なら信じてくれ…唯。私はお前らと戦いに来たんじゃないんだ! 他にも道はきっとあるから! だからそれを探そうって…」
切なそうに胸を抱きながら律が嘆く。
りっちゃん「だからお願い唯……信じてくれ……」
唯「……りっちゃん」
それは唯が初めて見た、律の涙だった。
こんな悲しそうな顔をする律を見たことない唯は戸惑う。
昔の楽しかった思い出がフラッシュバックし、流れては消えていく。
きっとあずにゃんにもこんな涙を見せたのだろう。
そうだ、今目の前にいるのはりっちゃんなんだ。
私達をいつも大切に思ってくれて。
私達を止める為にたった一人になっても。
世界を敵にした私達だとしても。
「なにやってんだー? 部長は私だぞ? 部長の言うことは聞かなきゃダメなんだぞーっ?」
って、怒りに来てくれたに違いない。
なんで疑ってたんだろう。あんなに大好きだったりっちゃんを。あずにゃんの写真だってきっとあの変な奴が細工したに違いない。
私だっていつまでもバカじゃないんだっ!
自分のしたい、やりたい、意思まで奪われてたまるもんかっ!
そうだ、目の前にいるのは……
グォン、グォン……
唯「っ……」
頭を抱えながら苦しむ唯
りっちゃん「唯!?」
唯「近づかないでっ!」
シュンッ
りっちゃん「~ッ!」
歩み寄ろうとする律に発砲。
どの弦を弾くかで、表板のどの穴から弾丸が出てくるかわからない律は完璧に不意をつかれた。
唯「目の前にいるのは……敵。だから殺すの……それがりっちゃんでもっ!」
りっちゃん「唯っ!」
さっきとは明らかに雰囲気が一変した唯を訝しく思うも、このまま立っていては蜂の巣と判断し、何個もあるコンテナの物陰に隠れた。
唯「りっちゃん……死んでっ!!!!」
りっちゃん「クソッ!!」
どうにか出来ないのかと頭の中で巡らすもいい手が思い付かない。
りっちゃん「やるしかないのかっ……」
俯いていた顔を上げ、真っ直ぐに、今は隠れて見えない律をコンテナ越しに見据える。
唯「りっちゃん、隠れても無駄だよ」
唯「ギー太にはこう云う使い方もあるんだ」
唯「装填転換」
ギターを縦にクルクル回しながら呟いた。
ギターを支える肩口に掛かっている紐とギターの間に金具が仕込まれており紐をかけたままでも縦回転出来る様になっているようだ。
りっちゃん「(何を……)」
唯「ギー太の音色は、レボリューションだよ!」
ピュンッ
シュンッ
バァンッ
りっちゃん「(どこに撃って……)」
カァンッ
りっちゃん「跳弾っ!?」
コンテナに当たった弾が角度を変え、律のいる場所へ
りっちゃん「うわっ」
慌てて前転しその場を離れる。
唯「りっちゃん。ギー太はね、こうやって右に回すとリロード、左に回すと跳弾したりする弾に装填変換するんだよ」
りっちゃん「唯……(こんな凝った武器一体……。)」
唯「面白いよね。こうやって撃った銃声と弾が弾き遭う音……」
唯「これが私が求めていた音楽……」
りっちゃん「違うっ! こんなもんは音楽でも何でもない! ただ人を殺す残響でしかないっ! 唯! お前のギターはもっと優しかったろ!?」
唯「音楽を否定したりっちゃんが何を言ってもっ……」
ビュンッ
チュインッ
ジュンッ
撃った弾が跳弾し、隠れても隠れても律に襲いかかる。
ズァッ
りっちゃん「いぢッ」
跳弾した弾が肩口をかすめ、少し律の肉を殺(そ)ぐ。
りっちゃん「ここまで正確に跳弾出来るもんなのかよ……しかもあの唯が」
りっちゃん「(いや、唯は一つのことに関しては天才的だ。だがこんなテクを教えられるやつが……。)」
りっちゃん「(今は考えてる場合じゃない! 唯は本気で殺しに来てる…、このままじゃ……一旦眠らせて…それから考えよう)」
ここに来てようやく律も反撃に出る。
走り回りながら唯に的を絞らせず、コンテナとコンテナの間を通る時に並走しながらMkを二発。
唯「その弾速じゃ当たらないよ……りっちゃん」
唯の履いているホバーブーツにより軽くかわされる。
りっちゃん「出たなインチキドラえ○んアイテムめっ!」
戦いは膠着していた。唯が撃っては律が逃げ、律が撃てば唯はかわす。
それに痺れを切らした唯がアクションを起こす。
唯「りっちゃん、覚悟っ」
律がまた走り込み、発砲してくるであろうポイントに手榴弾を投げ、それを撃ち抜く。
律にとっては誤算だった。手榴弾を見た瞬間なら避けるのは容易かった。
だがそれはピンが抜かれてなく、それを見た時に過去の唯が過った。どこかやはり抜けている、と。
だがそのせいで判断が遅れ、撃ち抜かれた際に逃げ遅れた。
ドフゥン─────
短い爆音の後に爆風が通り過ぎて行く。
煙が上がりコンテナも爆発により大きくへこんでいた。
唯「さよなら、りっちゃん……」
ヒュンッ
ヒュンッ
唯「!?」
煙の向こうから二発の麻酔弾が抜け出してくる。唯はそれに反応出来ないまでもギターを盾にしてなんとかこれを防いだ。
りっちゃん「あっちゃ~、外したか」
煙の向こうからゆっくりとシルエットが浮かび上がる。
左腕をだらんと下げ、長袖だった迷彩服が半袖に変貌している。
腕には血が滲み、痛々しい姿となっていた。
唯「しぶといね、りっちゃん」
りっちゃん「元気だけが取り柄だからな!」ニコ
こんな姿になっても笑う律を訝しげに見つめる唯。
唯「なんで…そんな笑っていられるの?」
りっちゃん「さあ。もう迷ってないからかな。どんな形であれ唯を助けるって思って動いてるから。梓の時みたいに辛くないんだ」
唯「まだそんなことっ」
りっちゃん「唯が私をどう思ってたって知らないよ。私がそうしたいからそうするんだ」
唯「わがままだね、りっちゃん」
りっちゃん「そーかもね」
唯「でも私は……」
りっちゃん「……」
律は確信していた。唯は普通の状態ではないと。
感情起伏が激しいことと、それに一番はやはりギー太だった。
あんな大切にしていたギターをあんな殺戮兵器に変えることを唯がヨシとするわけがないと。
何が足りなかった。唯を救うピースが。
上から射す光が、ギターの表板に反射する。
その時だった、律は見た。
自分が撃ち込んだ麻酔弾の針が唯のギターの表板に刺さり込んでいる。
別に特質して目を見張るものはない。だが、それは普通の人が見たらの話だ。
表板の白い部分、そこに刺さり込んだ針により……律はすべてを悟った。
りっちゃん「唯……」
ただこの手で抱き締めたい。
大好きな唯を────
その一心でゆっくり歩み寄る。
唯「りっちゃん、止まって。じゃないと撃つよ?」
りっちゃん「いいよ。唯に撃たれるなら、後悔しない」
唯「このっ……」
シュンッ
唯の撃った律にかするもクリーンヒットはない。もう二人の距離は5mもない。
りっちゃん「唯……辛かったろ……? ごめんな、気付けなくて」
唯「うるさいっ! 来るなっ!」
弾く、撃つ。
当たらない。
唯「なんで……」
同じ“ 弾く“、でも銃のそれと楽器のそれは明らかに違った。
一つは奏で、人を喜ばし、幸せにする。
一つは殺し、争い、人を悲しませた。
りっちゃん「唯の手は、楽器を弾く手だ。人を喜ばせる為の手だ」
唯との距離は後1m──────
───────
「ちっ……近づきすぎだ。こちらももっと近づいて洗脳し直さねば……」コフー
ニンジャ「どこへ行くつもりかしら?」
「ぬっ」
気づけばマチェットを突き付けられ、黒づくめの喉が鳴る。
「貴様、シャドー・モセスの……!」
ニンジャ「グレイフォックスじゃないわ。サイコマンティス、いえ、純」
サイコマンティス「まさか……あなたは」
グシャッ
ニンジャ「あなたが愛国者と繋がった経緯は知らないわ。けど彼女の邪魔をするのなら容赦しない……」
──────
抱き締めた。
抱き締められた。
ギター越しだがそんなの無視して無理矢理抱きしめる。
りっちゃん「唯……」
唯「りっちゃん……」
唯も憑き物が落ちた様に穏やかになっていた。
りっちゃん「ギー太は……もう、いないんだな」
唯「なんで……?」
そう言うと律は少し離れ、唯の持っているギターの白い部分からペリッと何かを剥ぎ取った。
りっちゃん「へへっ。また剥ぎ取ってやった」
唯「……そっか。いないんだ……ギー太」
そう、このギブソンレスポールはあの時持っていたギー太ではない。
何故なら、もしあの時のギー太ならついているわけがないのだ。
このシールフィルターが。
私が、はずしたのだから。
針が刺さり込みシールフィルターにシワが出来てそれが貼られたままなのがわかったのだ。
りっちゃん「唯。一緒に……他の道を探そう?」
唯「……っうん」
泣きながら、必死に頷く唯。
律はまた優しく唯を抱き締めた。
唯もそれを受け止め、律の肩に涙の跡を残し続ける。
唯「ごめんねぇ……ごめ゛ん゛ねぇ……」
自分が律に刻み込んだ傷を見て更に罪悪感にうちひしがれ、泣いた。
それを頭を撫でることで宥める律。
過ぎた時間の中で、
別々の刻を過ごして来た二人がようやく重なった。
あの頃の様に
──────
りっちゃん「へぇ、上手いもんだな」
唯「私だってこれぐらい出来るもんっ! まあ憂に教えてもらったんだけどね…」
律に包帯を巻きながら唯は悲しげに瞳を伏せる。
唯「りっちゃん……痛くない?」
りっちゃん「物凄く痛いッ!」
唯「はわわっ」
りっちゃん「でもそんなことより唯とわかり合えたことが嬉しい」ニコ
唯「りっちゃん……」
りっちゃん「憂ちゃんも心配してたぞ? あんないい妹に心配かけるなよ」
唯「うん…。」
りっちゃん「唯、お前は自分の意思で澪について行ったんじゃないのか?」
唯「ううん。勿論自分の意思だよ。だけど詳しいこと聞いたら怖くなって……やっぱりやめようって何回も澪ちゃんに言ったけど……」
りっちゃん「澪……」
唯「私達だけじゃ世界を相手にするなんて出来ないから……そんな時ある人達に出会ったの。それから澪ちゃんはもっと変わっちゃってって…私も変わらなきゃ、変わらなきゃって思ってたけど…」
りっちゃん「唯……」
唯「そんな私にあのがこのギターをくれたの。もう一度弾いてくださいって……」
りっちゃん「そいつが……」ギリッ
唯「それから何だか自分がわからなくなって……」
りっちゃん「(シャドー・モセスの資料で似たような症状が載ってたな……まさかこの一連の騒動には……)」
りっちゃん「唯、その男の名前わかるか?」
唯「ええと、確か……」
──────────
「サイコマンティス……純はやられたか。所詮奴もこの縮図の為の一つに過ぎん」
「もう少し……もう少しだ」
リキッド・オセロット「もう少しで世界の音楽を取り戻すことが出来る」
─────────
りっちゃん「リキッド・オセロット……」
りっちゃん「(リキッドと言うのはあのシャドー・モセス事件の首謀者……オセロットと言うのも幹部な筈。どう言うことだ……)」
唯「りっちゃん……澪ちゃんと止められるのはりっちゃんしかいないよ! 私じゃ無理だったから……」
りっちゃん「ああ、任せとけ! 唯は外でライオンと寝てる梓と一緒に隠れててくれ。メタルギアを破壊してむぎと澪を説得したらそっちに行くから」
唯「わかった! あ、後これ」
唯がカードの様なものを律に渡す。
唯「これでこの先のLvの高い扉も開くよ!」
りっちゃん「ありがと。じゃあな、唯」
唯「またね、りっちゃん」
トテトテと歩いて行く唯の後ろ姿を見ながらホッと息を吐き出す律。
りっちゃん「~ッ」
その場に倒れ込むと呻きながら左腕を抑える。
りっちゃん「いったぁッ……」
治療したとはいえ焼ける様に痛む。唯の前では悲しんで欲しくないと平気な振りをしていたのだろう。
りっちゃん「行かないと……まだバカが残ってるからな」
ゆっくり、ゆっくり歩いて行く。
きっとこの先、むぎや澪が待ち構えているだろう。
りっちゃん「澪……」
最終更新:2010年10月09日 21:48