ぐつぐつぐつ。

突然ですがここは地獄。
真っ赤な血の海が横で煮え立っています。

憂「お、おねえちゃん……」

隣にはかわいいかわいい妹の憂。
すっかり怯えてわたしの袖を掴んでいます。
目元にはうっすらと涙が浮かんでいます。

わたしがしっかりしなきゃ!

唯「大丈夫だよ!憂!」

でも……

憂「お姉ちゃん、足震えてるよ…」

唯「……」

…どうしてこんなことになったのか。

少し前に遡ります。


~~~

ここはわたしの夢のなか。

「おーい、起きろ~」

唯「う~ん……なにぃ…?」

憂「お姉ちゃん起きて」

憂に揺すられて体を起こすとそこには…

?「起きたか」

でっかいおじさん。

唯「うわあ!」

?「そんなに驚くな」

意外と親しみやすそうです。

閻魔「俺は閻魔。お前たちを地獄に落とすぞ」

突然言い告げられましたが訳が分かりません。

唯「閻魔様?もっと鬼みたいな顔してるかと思ったよ」

憂「お、お姉ちゃん」

閻魔「閻魔は閻魔の顔をしている。それより…」

唯「へえ~でっかいね~」

閻魔「ああ、それでな…」

唯「ここどこ?憂」

閻魔「ちょっと黙ってろ」

叱られてしまいました。

閻魔「お前たちを地獄に落とす」

そして突然の宣告。
地獄!?そんなのやだよ!

唯「どうして!?」

閻魔「おまえたちはいちゃいちゃしすぎた。その罰だ」

憂「そんなっ…ひどい!」

憂がいつの間にかわたしの腕を抱き抱えていたので思わずにへらと笑ってしまいましたが、
わたしも抗議を続けます。

唯「やだよそんなの!」

閻魔「だめったらだめ。このままではおまえたちは堕落した人間になってしまう。
    だからそうなる前に地獄に落とす。もう決めた」

唯「じゃあ堕落したあとでいいじゃん!」

閻魔「だめ。俺もおまえたちのいちゃいちゃを見ていたいのは山々…じゃない、
    堕落とは恐ろしいものだ。他のものにまで害を及ぼしてしまう」

そんな…わたしはただ憂といつも通りに過ごしてただけなのに…

憂「いやです!わたしはお姉ちゃんともとの世界に帰ります!」

唯「うい…」

閻魔様の顔が少し綻びましたが、ごまかすようにして口を開きました。

閻魔「そうか、なら数々の地獄の試練に耐えてみせろ。それができたら考えてやる」

なぜか妥協案を出してくれた閻魔様。
憂といっしょならなんでも乗り越えられるよ!

唯「やってやろーじゃないかー!」

憂「わ、わたしも!」

閻魔「ほほう…」

…こうしてわたしたちは地獄の底に落とされました。


そしていま。

真っ暗な洞窟のような、山の中のようなところにわたしたちはいます。
地面も木も空も真っ黒でわたしたちの恐怖心を煽ります。

唯「ど、どうしよっか……」

憂「う、うんと……」

おっと危ない。ここはわたしが先導してあげなきゃ!

唯「…うい!わたしに付いてきて!」

憂「え?どっちいけばいいのかわかるの?」

唯「……女のカンだよ!」

憂「……」

ともかくわたしたちは木の棒で方向を決めてそちらに向かうことにしました。

唯「よーし!いくぞー!」

「ちょっとちょっと!逆だぞ!」

唯「え?閻魔様?」

「……」

どうやら逆のようです。わたしたちは足を進めました。

しばらく歩くと、看板が立っていました。

憂「えと…『第一の試練』」

唯「おお!これか!」

見ればそこには朽ち果ててぼろぼろになったガイコツ。
思わず戦慄しました。

憂「うわぁ……」

憂は隣でぶるぶる震えてしまっています。
子犬みたいでかわいい!…じゃなくてわたしは安心させてあげるために憂を抱きしめました。

唯「うへへ……」

憂「お姉ちゃん……」

憂も姉の偉大さに感動している模様。

 ガタガタガタッ

憂「ひっ!」

すると突然ガイコツががたがた震えて宙に浮き始めました。

ガイコツ「……」

唯「ひえぇぇぇぇ……」

そして空から響く声。

「そいつを倒せ」

唯「あっ!閻魔様いるなら出てきてよ!」

「……」

唯「もー!」

そんな間にもガイコツは人間の形を取り戻していました。
ガタガタ震えて今にも崩れそうだけどなかなか手強そうです。

唯「よ、よし行くよ憂!」

憂「う、うん!」

ガイコツ「いくぞー」

しゃべった。

唯「無口キャラかと思ってた」

ガイコツ「……」

どうやら不意にしゃべってしまったらしいです。
また口を固く閉ざしてしまいました。

ガイコツ「……」

お互いの出方を見ていると向こうから動きがありました。

憂「お姉ちゃん危ない!」

唯「まかせて!おりゃあ!!」

落ちていた石ころで一撃。
でもこんなのじゃまだまだ…

ガイコツ「」

 ガシャン!

ガイコツは崩れました。

唯「やった!飼ったぞー!」

憂「あれ…?」

思ったより弱い敵でした。
わたしと憂の絆の前には何者もかつおぶしのごとく脆くなります。

唯「やったよ憂!」

憂「や、やったー!」

抱きついてきた憂が胸に顔をうずめて、少し緊張してしまいました。


唯「う、うい……」

憂「あ…ごめんなさい…」

何を謝ることがあるのか。
いつだって抱きついてきていいのに。
でもわたしは熱くなった顔に意識が行ってしまい何も言えませんでした。


憂「じゃあ次は…」

唯「うーん、どっちだろ」

「山のほう」

唯「えっ?」

「……」

閻魔様が教えてくれたのでそちらに進むことになりました。
わたしは憂の手を握り、新たな試練に望みます。


歩いて五分。
また看板が見えました。


憂「『第二の試練』」

唯「おーし」

憂にいいところをみせなきゃ。
張り切って望みます。

 ガサッ

唯「!」

物陰から音がして、振り向くとそこには…

亡者「うぅ~…」

やせ細った亡者が今にも倒れそうな表情で近づいていました。

「倒せー」

憂「また?」

唯「わかったよ閻魔様!」

「……」

ヒーローになりきり、果敢に亡者に飛び込みます。
もちろんヒロインは憂ちゃんです。


亡者「うぅ……」

憂「大丈夫かな…」

がくがくしながらもなんとかこちらに歩いてくる亡者さん。
気がひけるけれど、憂の為!
心を鬼にして石ころを投げました。

唯「えいっ!」

憂「がんばれお姉ちゃん!」

亡者「うっ!」

憂の声援が功を奏したのか、石ころは亡者さんのお腹に当たりました。
亡者さんはお腹を抱えてうずくまっています。

憂「大丈夫ですか…?」

やさしい妹の憂は相手にも気を使います。
でも敵は敵。仕方ないことです。

唯「憂、閻魔様の責任だよ、いこ?」

憂「う、うん…」

「……」

まだ名残り惜しく亡者に目をやる憂。
こんなにやさしくてはこの世の中なにされてしまうのかわかりません。わたしがついてあげなくちゃ。

唯「じゃあ次は…」

「右」

唯「おっけー」

「……」

またわたしたちは手を繋いで進みます。


そして歩くこと二分。
看板がありました。

憂「えー…『最後の試練』だって」

唯「もう?」

はやくも最後の試練です。
最後だけに厳しい試練になるでしょう。
心してかかります。

唯「さー閻魔様ー!最後はなんだー?」

そうすると地面が盛り上がり、大きな釜が現れました。

「最後は……灼熱の熱湯地獄だ」

これは予想外。


憂「お、お姉ちゃんこれはムリだよ…」

唯「う、うん…」

むわんむわんと湯気が立ち込め、離れたわたしたちにも熱気が伝わってきます。
まるで今までの試練が嘘のような厳しさ。

「さあ入れ」

憂「…お姉ちゃん諦めよう、やけどしちゃう」

わたしを心配して憂は止めてくれましたが、しかしわたしはなんとしてもあの日常を取り戻すつもりです。
憂のためにも、自分のためにも。

唯「……やってみるよ」

憂「えぇっ!?ダメだよ危ないよ!」

憂はすがるようにわたしにしがみついてきます。
このままでもいいかもなんて思ったけれど、でも行かなきゃ。

唯「憂は待っててね」

憂「お姉ちゃん……」

唯「…」

憂「な、ならわたしも入る!」

思いがけない憂の言葉。
憂に危険な想いをさせるわけにはいきません!

唯「だめだよ!憂が怪我しちゃう!」

憂「お姉ちゃんだって同じだよ!」

そこまで憂が言うのなら…
仕方なく承諾することにしました。

唯「わかった…じゃあ憂もお願い」

憂「うん!」


釜の上まで来ると、そこままるでわたしたちを待っているかのようにぶくぶくと泡を吹いて湯気を浴びせます。
後ずさりもしてしまいましたが、わたしには憂がいます。
勇気を振り絞って憂と目を合わせました。

唯「じゃあ……行くよ。うい」

憂「…うん…!」

「「…3、2、1!おりゃああ!」」

足を揃えて、熱湯の中に飛び込みました。


 どぼん!

唯「わああああ!」

憂「きゃあああ!」

今にも飛び出してきそうな熱湯に包まれてわたしたちは…

唯「……あれ?」

憂「なんだか……」

唯憂「熱くないね」

「おお……」

唯「閻魔様!?全然熱くないよ!」

憂「これ、本当に熱湯なの?」

「ああ、それは間違いなく熱湯だ…」

唯「でも全然熱くないよ」

「そうか……お前たち、お互いを見てみろ」

唯憂「……?」


そして、そこには……

唯憂「!!!」

憂「そっか……」

唯「おお……」

「そうだ、熱湯はお前たちの…」


「あったかあったかには敵わなかったんだ」

唯「すごいよ憂!熱湯に勝ったよー!」

憂「お姉ちゃん!」

わたしたちは熱い抱擁を交わしました。
このままの勢いで接吻…とまでは行きませんでしたが。

憂「じゃあ、これで…」

「ああ、もとの世界に戻してやる」

憂「!お姉ちゃん!」

唯「ういー!やったああ!」

「……フフッ」

~~~

唯「はっ!」

憂「お姉ちゃん!大丈夫?」

見渡すとそこはわたしの部屋。
心配そうな憂の顔が覗き込んでいました。

唯「憂…よかった……!」

憂「なにが?」

唯「あれ?覚えてないの?」

憂「え?」

唯「……そっか」

どうやらあれは夢のなかのお話だったようです。

憂「汗ビッショリだよ、拭いてあげるね」

唯「へっ?」

憂「ほら、上脱いで」

でも、そんなのはどうでもいっか。

唯「う、うん」

憂「よいしょ、よいしょ」

憂に背中を拭かれて、わたしはとっても幸せ。

唯「うふー……」

憂「平気?」

唯「あ、うん」

なんだか変なお話だったけど、なんだか面白かったな。

憂「お姉ちゃん、前も拭いてあげるね」

唯「へ?」

憂「はい」

唯「ま、まって憂!」

憂「おとなしくしてて」

気のせいか、憂はいつもより積極的。
わたしががんばったおかげかな?

「…お疲れ様?」

唯「え!?……ってうい!まっ…ひゃああああ……」

   おしまい。





最終更新:2010年10月12日 00:44