考えがまとまらないうちに小さな唇が触れる
そして少し開いて、そこから伸びてきた小さな舌が私の唇に触れた
あけて、と言うようにちろっと唇を舐められる
強引に舌を突っ込んでくれれば、言い訳出来たのに…
私はただ、あの気持ちよかった感触を求めて口をあけてしまった
にゅるっと舌の入ってくる感覚は今まで口にしてきたどんな食べ物の感触とも違ってた
十数年も生きてたのに私はさっきまでこれを味わったことがなかった
舌が、絡まる
気持ちいい
ぬるぬるしてて、少しざらついてて、生暖かい
口の中に唾液が溜まっていく
この唾液には梓のものも混じっているんだろう
自分の体の中に自分以外の唾液が入ってくる
それはどんな感じなんだろう
こくん…
私と、私のじゃない唾液を飲み込む
味なんかない
でも何故だかもっと飲んでみたいと思った
言葉にはしていないはずなのに梓の口から大量の唾液が送られてくる
この量は…わざとだ
自分の唾液を飲ませることに悦びを感じているのだろうか
この変態め
なんて、変態の唾液を欲してた変態の私が罵る
それはもう罵りになってない気がした
こくん
また私と私のじゃない唾液を飲み込む
不思議だ
飲めば飲むほどもっと、と思ってしまうんだから
それは梓の唾液だからだろうか
それとも私の中で唾液フェチという聞いたこともないようなフェチズムが覚醒したんだろうか
そしてそのもっと、が私の背中を勝手に押していて私は知らない間に梓の口内に舌を差し込んでいた
生暖かい熱気が私の舌を包み込む
自らそこにある舌を自分のと絡め合わせる
梓の困惑が面白かった
舌で唾液を絡め取るようにしてすくって慎重に自分の口内へ運ぶ
こくん
うん、おいしい
いきなり相手を失った梓の舌が再び私の口内へ進入する
追いかけっこしてるみたいで少し楽しい
でも追いかけっこって喉渇くよな
ちゅっ
梓「!?」
梓の舌を吸ったらなんだか可愛らしい音がした
ちゅっちゅっ
はは、かわいいかわいい
そんな可愛らしい音を鳴らしながらも唾液に夢中な私は乙女失格だろうか
梓「っぷは…!」
唾液を楽しんでいたのに梓がいきなり口を離す
律「……?」
はぁっ…はぁっ…
息が荒い
なんだもしかして息止めてたのか?
慣れてる風だったけど違ったのか
はぁっ…はぁっ…
ん?
息が荒いのは梓だけじゃなかった
そういえば私も息をしていなかった
というよりキス中の息の仕方なんて知らない
梓「……いやらしい」
息を切らしながら私の口元を見てそう言った
失礼な猫だな
いやらしいのはそっちだろう
梓「………」ソッ
律「……ん」
拭われて初めて自分が口の端からよだれを垂らしていることに気づく
なるほど
確かにこれはいやらしい
梓「…喉でも渇いてるんですか?」
押し倒してる体制を変えないまま梓が私を見下ろしながらそう聞いてきた
律「んー…?あー…」
だらしない返事
適当な返事
頭がぼうっとして本当に喉が渇いてるのかもしれない
キョロキョロと辺りを見渡す
飲み物でも探してくれてんの?
やさしーじゃん
いきなり私から舌突っ込んだから頭おかしくなったとでも心配されてんのかな
梓「そうだ…ポカリが…」
なにか思いついたのかボソッと呟く
梓「ちょっと待っててください」
あれ程どけと言っても聞かなかったヤツがそんなこと気にもしない様子で私から離れていった
確かに今の私は逃げるために体を動かすのも億劫だった
ぼーっとしてるとペットボトルに三分の一ほど入ったポカリを手に猫が戻ってきた
梓「昼の残りでもうぬるくなっちゃってますけど…」
私の背に手を入れ上半身を起こそうとする
しかし梓では力を全くいれてない私を無理やり起こすのは難しいようで苦戦している
さっきまで私を押さえつけていた馬鹿力は火事場のものだったらしい
梓「律先輩…本当に具合悪いんですか?大丈夫ですか?」
また泣きそうな顔してる
律「…変な顔」
梓「はい?」
律「飲ませて」
口をあける
梓「飲みにくくないですか?」
律「あーん」
梓「………」
おずおずとペットボトルを私の口元に運んでくる
ぷいっ
私は首を捻ってそれを拒否した
梓「?あの…」
律「梓」
少し低い声で目の前の猫の名前を口にする
梓「っ…」
ドキッとしてやがるな発情期め
律「あーん」
口をあける
さっきと同じ行動
でもさっきと少し違う
舌をわざとちょろっと出し、口をあける
あっかんべーみたいな出し方はしない
あくまで舌先を少し
意識しなければ気がつかないかもしれないぐらい、少し
しかし思ったとおり発情期のこの猫は私の舌の変化に気づいた
いやらしい猫だなぁ、なんていやらしい唾液フェチ(仮)の私が密かに罵る
しかしこれもさっきと一緒できっと罵りになってない気がする
顔を赤くしながらペットボトルからポカリを口に含む猫
そのまま飲んだりするなよ
こいつなら大丈夫か
唯だったら確実に飲んでるな
あいつにうがい薬は与えちゃダメだなきっと
そんなことを考えていたら少し濡れた唇が私のに触れた
口をあけるとそこにすっぽりと唇を入れてきた
本当に小さい口だな、なんて思っているとゆっくりと生暖かいポカリが口内に入ってきた
こくん
しつこい甘さが喉を潤す
ぬるいとなんでしつこくなるんだろう
さっきの唾液だけのがおいしかったな
梓の口に入ってるポカリを飲み干したあとも梓の唾液(ポカリ風味)を味わう
息が苦しくなると口を離し
はぁっ…と息をもらす
そしてまたポカリを口に含み
私へ口移す
それを3回ほど繰り返したらポカリはなくなってしまった
唾液(ポカリ風味)もそろそろ薄くなってきた
それでいい
さぁ、次は唾液だけの番だ
梓「っは…」
これからってときにバカ猫が口を離した
何考えてんだこら
梓「あのっ…」
息を弾ませ何かを問いかけようとしてくる
知るか
さっさと飲ませろ
まだ横になっていた私はバカ猫の頭をぐいっと引き寄せ口内に舌を突っ込み頭を手で押さえつけた姿勢を強制する
今度は私が火事場らしい
舌を無理やり突っ込んで開いたその口からは唾液が自然に垂れてきて私の喉を潤していく
こくん
まだ少しポカリ風味
こくん
まだ
こくん
これだ
ようやくポカリ風味から逃れられた私は本来の目的の唾液を味わうことができる
溜めた唾液を舌の上で梓のものと混ぜ合わせて飲む
こくん
うむ、美味
なんだろうな、こう…なんとも表現しがたい味
うまい、とだけで十分伝わる気がする
梓が息苦しそうにぺしぺしと私を叩く
知るか
鼻で息しろ
それが伝わったのか
それとも限界だったのか
ふーっと梓の鼻息が私の肌を刺激した
くすぐったい
ふっ…ふっ…と息苦しそうにしてる鼻息なんかガン無視で唾液を堪能する
どれくらいそうしていたんだろう
いきなり部屋の電気が消えた
梓がびくっと起き上がる
私もびっくりしたのか手に力を込めるのを忘れていた
梓「ちょっ…今何時ですかっ…?」
苦しそうに息をしながら私に聞いてくる
私はそれに答えず久しぶりの新鮮な空気を吸っていた
私からの返答は望めないと分かるとごそごそとぽっけからケータイを取り出し時間を見る
梓「もっ…もう8時ですよ!」
8時?部活が終わったのが確か6時。そーか2時間も経ったのか
梓「消灯しちゃったんですよ!うわぁ…門開いてるかなぁ…」
律「職員用のが開いてるだろ」
あれ?そういえば久しぶりにまともなセリフ喋った気がする
梓「あっそうですよね!」
段々意識がはっきりとしてきた
さっきまでの気だるい感じはなんだったんだろう
律「………帰るか」むくっ
梓「あ、はい………あの…」
律「うん?」
梓「あの…OKってことでいいんですよね…?」
律「なにが?」
梓「えっ…」
梓がいきなり何を言い出したのか分からなかった
梓「えっ…だって…さっきまであんなに…え?」
律「???」
梓「あ…あんなにキスしたじゃないですか!」
律「えーあー…うん」
梓「えっなんですかそのだるそうな返事…だってさっきまで野獣みたいだったじゃないですか!」
梓が私に縋りつく
律「野獣って…失礼な。この発情期め」
梓「にゃっ!?」
のそのそと帰り支度をする私を恨めしそうに見つめる梓
なーんであんなことしてしまったんだろう?不思議だ
律「……………」
もしかして…
律「梓」
梓「………なんですか」
涙目で私を睨む猫さん
ちゅっ
梓「!!?」
ちゅるっ
梓「ふぁっ…」
こくん
これだ
これが私を狂わせたんだ
梓の、唾液
あの気だるい感じはもしかして酔わされていたのだろうか
この唾液に
律「……梓」
梓「………?」
とろん、とした目でこっちを見る
女同士?
好き?嫌い?
付き合う?結婚?
国が認めない?認める?
どうでもいい
全部どうでもいい
この唾液が飲めれば
梓の口内に舌を突っ込む
こくん
うん、おいしい
おわり
最終更新:2010年10月12日 02:44