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憂「うん。お母さんは高校あがったばかりの頃、すごく努力が苦手だったんだよ」

憂「だから毎回追試もらってたし、ギターもなかなか上手にならなかったんだって」

唯「うーん……今回は追試だったけど、合格点はとれたはずだし」

唯「ギターだって、始めて1ヵ月とは思えないって言われるよ?」

憂「じゃあ、やっぱりお姉ちゃんは変わったんだよ」

憂「なんだ……私があれこれしなくても大丈夫だったのかな?」

唯「……そんなことないよ」

憂「けど……」

唯「前の私がどうだったかは分からないけど……きっと、憂がいたから変われたんだよ」

唯「『1回目の私』と『2回目の私』に相違点があるとしたら、ひとつだけしかないよ」

唯「憂っていう、かわいくて世話焼きな妹がいてくれたこと……それだけで私は変われたんじゃないかな」

憂「私、お姉ちゃんに何もできてないよ……」

唯「憂がそう思ってても、私は憂がいてくれてよかったんだよ」

唯「憂にたくさんの物をもらっていたんだと思う。だから……ぜったい無駄にしない」

憂「……」

唯「うい。もっとたくさん、一緒に生きるよ」

憂「おかあさん……うん! きっと……待ってる」

唯「……っ」

憂「私はたぶん、そろそろ死んじゃうんだと思う……」

唯「うい、だめだよ……」ウルウル

憂「だけど、もう一回やったことだから……そんなに怖くないよ」

憂「それに……今度はお母さんが必ず迎えに来てくれるもん」

唯「うん、迎えに行くよ! だから、まだ……」

憂「今日、はね。どんどん雨が激しくなっていくんだって」ハァ、ハァ

憂「うたったよね。ざあざあ、雨がふる……ひに……」

唯「うい……?」

憂「はあ、は……おかあ、さ……」

憂「うんでくれ、て……ありがと……!」

唯「!」ガタッ

 バタァン

唯「鈴木さん!」

 「どうしました!?」

唯「う、ういが苦しそうなんです! 助けて下さい!」

 「分かりました。すぐ先生を呼びます!」

 タタタタッ

唯「どうしよ、どうしよ……憂が……」オロオロ

律「……憂がどうしたんだ?」

唯「りっちゃん! 大変だよ、憂が死んじゃう!」

律「そうか……もう」ガチャ

唯「……りっちゃん?」

律「聞こえるか、憂?」

憂「ん……」コクン

律「……ごめんな。私のせいで苦しい思いをさせて」

憂「ううん……」フルフル

憂「苦しく、ないよ……だっていつかは、お母さんたちにまた会える……」

律「憂……」

唯「りっちゃん! 憂!」

憂「おかあさん……けいおん部はやめちゃだめだよ。未来が悪く変わっちゃう」

律「……わかった。続けるよ」

唯「私もだよ!」

憂「やくそく、だね……」ニコッ

憂「……それじゃ、さよなら」

唯「憂っ!」

憂「そんなに心配そうにしないでよ……ぜったいまた会えるから」

憂「ふっ、うぐ……」

憂「ちょっとのお別れ……だよ」

憂「……」スゥ

律「あ……嫌ぁ……」

唯「憂、まだだめっ! 死なないでよ!」

唯「ちゃんと憂がそばで見ててくれないと不安なのっ!」

憂「……」

唯「起きてよ、憂っ!!」


 深夜 病院のピロティ

澪「……ひどい雨だな」

律「……」

澪「こんな所にいたら風邪ひくよ。そろそろ戻ろう……な?」

紬「唯ちゃん……」


紬「……お医者さんが探してるかもしれないわよ? 憂ちゃんの病気がすっかり治りましたよって、スキップしてるかもしれないわ」

唯「憂……」

澪「……」

 ザアアァ……

律「……戻るか」

澪「いいのか、律?」

律「延々と雨を見ててもしょうがないからな……そんなことより、やらなきゃいけないことがあるんだよ」

紬「やらなきゃいけない事……?」

律「送り迎えだよ。一人じゃだめなんだ」

澪「何のことだ……?」

律「分かるだろ、唯?」

唯「……」

唯「分かるよ、りっちゃん。……じゃのめを差して行かなきゃね」

紬「唯ちゃん……」

澪「……?」

 ザアアァ……

律「だから、唯も戻ろう。こんなんじゃ、いい母親になれないぞ?」

唯「えへへ……うん。行こう、りっちゃん!」


――――

 およそ1ヶ月後 唯の家

律「……がらんどう、だな」

唯「ごめんね、手伝わせちゃって」

律「なに水臭いこと言ってるんだよ。憂のことは……二人のことだろ」

唯「そうだったね。ごめんごめん」

律「ま、今日ぐらいは姉の平沢唯でも良いかもしれないな……」

律「実際、お前たちが10年の間姉妹であったことは本当なんだしさ」

唯「……そうだね。楽しかったな」

唯「あ、また思い出しちゃう……」

律「こら唯、一人で泣くのは禁止だぞ?」ギュムッ

唯「痛いよりっちゃん……もうっ」

唯「それにしても、どうして私の家だったんだろう?」

律「んー……うちは聡とかいるしな。平沢家のほうが都合が良かったんじゃないか?」

唯「いや、りっちゃんはきっと家庭も顧みずに仕事ばっかりしてたんだ」

唯「だから憂に……あいーいたいいたい!! ギブギブ!」ペシペシ

律「ふんっ」グネリ

唯「らおーう!!」

――――

唯「まったくもう……」

律「ごめん、やり過ぎた……」

唯「ねぇ……りっちゃん?」

律「……どうした?」

唯「ずっとバタバタしてて、ちゃんと言えなかったから……いま言うよ」

律「あ、うん……なんだよ」

唯「憂の事でいろいろあって……私、たくさんりっちゃんに助けられたよね」

律「ああ。大変だったし、これからも大変だと思うな」

唯「もう……でも、そんなこと言いながら、これからもりっちゃんは嫌な顔しないで私を助けてくれるんだよね」

律「そりゃあな。決まってるだろ」

唯「よかった……えへへ。私ね、りっちゃんに助けられてるうちに、りっちゃんのこと好きになっちゃったんだ」

唯「それで、もし良かったら……付き合って欲しいんだ」

唯「どうかな……だめ?」

律「……60点くらいかな」

唯「え? どういうこと?」

律「この場合、こう言うのが正解だ」

律「唯。結婚しよう」キリッ

唯「ぶふっ」

律「えぇー……」

唯「ご、ごめ……だって、りっちゃん……あっはははは!」

律「人の真剣な告白で吹き出しやがってー!」グリリ

唯「いひゃいいひゃい! ごめんあはーい!!」

律「笑いすぎだーバカタレー!!」グニャ

唯「ぐっぴー!」

――――

唯「はーっ、はー……」クテッ

律「ど、どーだ……参ったか」ゼエゼエ

唯「3回くらい臨死した……技術が完成する前に憂に会えちゃったよ……」

律「寂しくなった時は言っていいぞ?」

唯「我慢するよ?」

唯「……それはそれとして、りっちゃん勉強どう?」

律「うーん……とりあえず期末テストは余裕っぽい」

唯「りっちゃんも意外とやれば出来る子なんだね」

律「意外と、は余計だ!」

唯「そういうのは普段から毎日勉強している人だけが言っていい台詞なんだよ」

律「根に持ってやがった……つーかやってるし」

唯「えへへ。まぁりっちゃんなら大丈夫だって分かってるけどね」

律「さすが唯、賢いなー」ナデナデ

唯「……飼い犬に手を噛まれた気分。あっ、ちょいたいっ!」

律「そろそろその生意気な口ふさいでいいか?」

唯「手段によります!」

律「口封じの手段と言えば古来から決まってるだろ?」

唯「うん、やめて」

律「……次はねぇぞ、平沢唯ぃ」

唯「うん。ねぇねぇ、りっちゃん?」

律「今度はなんだ?」

唯「こうして過ごす一瞬一瞬にもさ……憂は待っててくれるんだよね」

唯「あんまり待たせて、憂は怒っちゃわないかな?」

律「それは……多分大丈夫だと思うな」

唯「どうして?」

律「本来、私たちが不完全な発明をするのは、大学卒業後だって憂は言ってた」

律「だからさ、それまでは憂もニコニコしながら待ってくれるんじゃないかな」

唯「そっか……じゃあ、向こう7年はりっちゃんと二人きりなんだね」

律「フルに使う気かい! まぁ……いいんだろうけど」

律「でも、勉強は忘れるなよ?」

唯「りっちゃんに言われるまでもな……」ドタッ

律「次は無いと言ったはずだぞ?」

唯「あう……何するの?」

律「口封じだ」

唯「さっきの発言もアウトなの!?」

律「あー……もう何でもありって事で!」

唯「ブチ壊しだよ……」

律「あー、いいからハイ! 目を閉じる!」

唯「ん……」

律「そ、それじゃ……いくからな?」ドキドキ

唯「う、うん」ドキドキ

律(なんっかどうにも視線を感じるんだけどな……)

律(まあいいか……っ)チュ


――――

 10年後

唯「ん?」

 ピーン ピーン

唯「ういー? 何してるの?」

憂「ギター! ほらね、こうすると鳴るんだよ!」

 ピーン ピーン

唯「……ママが教えてあげよっか?」

憂「ママできるの?」

唯「うん。それ、ママのギターだしね」

憂「ほぇー。ねぇ、なにかえんそーして!」

唯「ん……じゃあ」

 ジャン ジャ カ♪

 ジャカ ジャカ

唯「あーめあーめ降ーれ降ーれ かーあさーんがー♪」

唯憂「じゃーのめーでおー迎ーえ うーれしーいなー♪」

唯「……」ピタ

憂「……?」

唯「……」

唯憂「ぴっちぴっちちゃっぷちゃっぷ らん・らん・らん♪」

唯憂「あーめあーめ降ーれ降ーれ……」

――――

 ザアアアァ……

律「おーい」

律「私のお迎えはー?」


 おわり。



最終更新:2010年10月13日 00:00