唯「さて。じゃあ和ちゃん、歯医者さんに行こう!」
和「嫌よ」
律「……」
澪「……」
紬「……」
唯「和ちゃん、この状況を見て。もう逃げるのは無理だよ……ほら、行こう」
和「却下よ」
和「……」
唯「和ちゃん、」
和「断るわ」
唯「むう~!だから断れないってば」
和「絶対に断るわ」
唯「絶対に断れない!」
和「もう一度言うけど、絶対に断るわ」
唯「もう一度だけ言うけど、絶対に断れないよ!」
和「……」
唯「さあ、早く行かないと」
和「逃げ――!」バッ
唯「させない!」
律「無理だって。いくら和でも四人に囲まれたらもう……
和「窓から飛び降り――」
澪「ここ一階じゃないから、やめたほうがいいと思う」
和「ムギの頭を撫でる!」ナデナデ
紬「わあ……///」
唯「何で!?」
和「くるっと回ってワン!」
律「往生際が悪いぞ和!」
和「私のターン!」
唯「そうやっていつも勝手に先攻を取るのやめようよ……」
和「ずっと私のターン!」
澪「自分勝手すぎるよ和!」
和「伝説の木の下で、ずっと待ってる」
紬「は、はいっ///」
和「まだよ――!」
律「もうやめろ!和のライフはもうゼロだっ!」
和「それでも――!」
唯「はいはい、そろそろ行こうね~?」ガシッ
和「いやあああああ!歯医者怖いいいいいっ!」ジタバタ
和「歯科医……奴らはサドよ!人が苦しむ姿を見て喜ぶ、生粋の変態なんだわっ!」
和「そんなのの巣窟に行くなんて無理無理っ!」ブンブン
紬「昨日よりさらに凄い暴れっぷりね」
澪「和……」ホロリ
律「いやあ、和って実はかなり面白い奴なんじゃないか?」
唯「和ちゃん、私がついてるから落ち着いて!」
和「お願い唯ぃ……見逃してぇ……」ウルウル
唯「う……///」
紬「の、和ちゃんの上目遣い&涙目!」ハアハア
律「ムギも落ち着け」
唯「だ、ダメだよ!虫歯は早く治さないと!」
和「……どうしても、だめ?」ウルウル
唯「めっ!和ちゃんのためなんだよっ!」
和「そう……」シュン
澪(和可愛い……)
律(何という萌えキャラ)
唯「えっと、じゃあ」
和「……なら、最後の手段を使うしかないようね」
紬「え……?」
ゴウッ!
律「なっ!?」
澪「な、何これ!?」
和「……」シュウシュウ
唯「の、和……ちゃん?その光は、何?」
紬(こ、このオーラは……!)ビリビリ
和「唯が悪いのよ?私を、本気にさせるから……!」ヒュッ
律「は、はや……うっ!?」
ドンッ!
律「か、あ……?」ドサッ
澪「律?りつううううっ!」
和「人の心配をしている場合かしら?」
澪「っ!?」
紬「澪ちゃん危ない!はあっ!」ヒュッ
ガンッ!
紬「やった……?」
和「残念ね、効かないわ」
紬「そ、そんな……きゃあっ!?」ドサッ
和「澪も、ね」
澪「うああっ!?」ドサッ
唯「み、みんな……」ガタガタ
和「唯、あとはあなただけよ」スッ
唯「ひいっ!?い、嫌あっ!来ないでえっ!」
和「……」
――――カクゴ。
和が覚醒した、一般的に『気』と呼ばれる力。
体内に流れる電気を操り、増幅し、様々な現象を引き起こす。
和のカクゴは、身体能力を爆発的に増強する力を持つ。
パワーもスピードも、今や和は人知を超えた領域に到達していた。
和「……」ザッ
唯「あ、ああ……」ガタガタ
一歩一歩、和は唯へと近づく。
大気が、震える。
呼吸をすることすら、ままならない。
その圧倒的な威圧感を前にした唯は、逃げることはおろか……動くことさえ出来なかった。
和「さようなら、唯」
唯へとゆっくり近づいてくる、和の手。
神々しいまでの眩き光を纏ったその手は、一瞬で相手の意識を刈り取ってしまう恐るべき凶器なのだ。
自分の最期を感じ取った唯は、その目をゆっくりと閉じる。
親友のあんな姿を見たくない――そう思ったからだ。
唯「……」
和の手が自分に触れるその一瞬を待つ。
死の間際とはこういうものなのだろうか――唯には和が自分に触れるまでの刹那の時間が、ひどく長いものに感じた。
しかし。
唯「……?」
しかし、いくらなんでも長すぎないか?
そう思った唯は、固く閉じた自らの目を開いてみることにした。
するとそこには、
梓「唯、先輩……!」
憂「お姉ちゃんには、手は出させない!」
自分をかばうように和の攻撃を受け止める、愛する後輩と妹の姿があった。
唯「ふ、二人とも!?どうして……」
和「邪魔よ」
ゴウッ!
梓「あうっ!?」
唯「あずにゃん!?」
憂「くう……オーラで衝撃波を発生させるなんて……!」ビリビリ
和「やめておきなさい、憂。いくらあなたでも、カクゴを使えない以上私には勝てないわ」
唯「か、カクゴって……何……?」
和「……カクゴは、死の恐怖を幾度も味わってなお、命をかける覚悟がある者のみが使える力」
憂「隙ありっ!」シュッ
和「……」パシッ
憂「くっ……!」
和「無駄よ。私は歯医者という絶対的な死の恐怖により、カクゴに目覚めた。本物の命をかける覚悟がない者には、絶対に負けないわ」
ドンッ!
憂「ぐううううっ!」
唯「ういいいいっ!?」
憂「お、お姉ちゃ……逃げ、て……」ドサッ
唯「そ、そんな!憂、ういいっ!」
和「……逃がすと、思う?」
唯「の、のどかちゃ……」
和「今度こそ終わりよ。もう誰も邪魔する者はいないわ」
唯「……」
その時、唯の目に映っていたのは自らを攻撃せんとする和の姿……ではなく。
唯を守ろうとして倒れた梓と憂、そして自分に協力してくれた仲間たちの姿だった。
唯(そうだ。私が、私がやらないと……!)
唯(ここで倒れるわけにはいかない。みんなのためにも……覚悟を、決めるんだ)
唯(命をかけて和ちゃんを歯医者に連れて行くと!)
唯「う、ああああああああっ!」
ゴウッ!
和「なっ!?こ、これは……まさか!?」
ドンッ!
和「かはっ……まさか唯が、裏カクゴを、使う……なんて……」
唯「はあ、はあ……」
和「私の、負けよ……」ドサッ
……
和「……という展開になるに違いないわ!」
律「長いよっ!」
紬「少年漫画みたいな展開ね~♪」
澪「しかも打ち切り臭がプンプンするな……」
律「カクゴって……。つか、和は最後にやられてんじゃん!」
唯「いつまでもグダグダしてても仕方ないよ、和ちゃん」
和「はっ!?」
律「どうしたんだ?」
和「あはは、変な夢を見てたわ。全く、私が虫歯になるなんてあるわけないわよね~?」
唯「……」
澪「現実逃避が酷くなってきたな……」
律「お~い、そのネタはもう澪がやったぞ~?」
和「うう……」
紬「……ねえ和ちゃん、そんなに嫌?」
和「え?ええ……」
紬「でも、これは必要なことよ。虫歯は放っておいても治らないし、早めに治療を受けないと」
和「分かってる、けど……」
紬「……」ギュッ
和「あ……」
紬「怖くない。怖くないよ。大丈夫、私たちみんながついてるから……」
和「む、ムギ……?」
紬「歯医者さん、行きましょ?」
和「……うんっ」
唯「……」ブー
澪「はは、全部ムギに持っていかれたな」
律「おい唯、そんなに拗ねるなって」
唯「……拗ねてないもん」プイッ
紬「さあ行きましょうか!」
歯医者!
和「うう、うううう……」ガタガタ
澪「お、おい……和は大丈夫なのか?顔が真っ青だぞ」
律「待合室に入ってからどんどん酷くなっていくな……」
紬「和ちゃん……」
和「唯、唯はどこ?目の前が真っ暗で何も見えない……!」ガタガタ
唯「ここだよ、和ちゃん」ギュッ
和「唯ぃ……!」ギュー
紬「あらあら♪」
律「結局は唯に頼るんだな、和も」
澪「ああ、そうだな」
和「唯、唯……。愛しているわ、キスしましょう?」
唯「それはダメだよ、和ちゃん。大体キスしたら虫歯が伝染するなんて迷信だって言ったでしょ?仲間を増やそうとしちゃダメ」
和「うう……」
律「……まあ、錯乱状態からは脱していないみたいだけどな」
澪「は、はは……」
マナベサーン、ドウゾー
和「!!!」ビクウッ
律「おっ、和の番か」
紬「さすがにこの人数じゃ中には入れないわね……」
唯「うん。私と和ちゃんだけで行って来るよ」
和「ゆいぃ……」ウルウル
澪「しっかりな、二人とも!」
唯「あはは、大げさだよ~。ほら行こう、和ちゃん」
和「う、うん……。手、握っててね?」
唯「もちろん♪」ギュッ
律「……」
澪「……」
紬「……」
律「何か、微笑ましいな」
澪「うん……」
紬「いいものが見れたわ~♪」
律「じゃあ和のことは唯に任せて」
澪「私たちは学校に戻るか。梓を待たせっぱなしにしちゃってるし」
紬「そうね、戻りましょうか」
……
和「昨日は、お騒がせしました……」
澪「の、和!そんなに頭下げなくていいから!」
律「私は面白いもの見れたから楽しかったぜ?」
和「うう……思い出すだけでも顔から火が出そう……///」
唯「和ちゃ~ん、気にしなくていいって!」
紬「そうよ!可愛かったわ!」
和「やめて、恥ずかし過ぎるわ……私、歯医者のことになると頭が混乱しちゃって……」
律「うん、昨日の和はまさに混乱状態という言葉にふさわしかったな」
澪「はは……もう歯は大丈夫なのか?」
和「ええ、おかげ様で。発見が早かったし、一箇所だけだったからすぐ済んだわ」
紬「あら、じゃあ今日もティータイムに来ない?またケーキいっぱい持ってきたの~♪」
和「え?でも……」
唯「和ちゃんもおいでよ~。ねっ?」
律「前も言ったけど……」
澪「和ならいつでも大歓迎だよ」
和「……」
和「クスッ、そうね。前回は歯が痛くて味わえなかったから、もう一度参加させてもらおうかしら?」
……
和「うん、美味しい!」
唯「幸せ~……」モグモグ
紬「今度こそ喜んでもらえて良かったわ~♪」
澪「うう、美味しいけど太りそう……」
律「しかしフォークを動かす手は止まらない。こうして澪のお腹のお肉は、着々と成長を遂げてい
くのであった……」
澪「うっさいバカ律っ!」
梓「……」
和「この紅茶も美味しいわね……ムギ、良かったら淹れ方を教えてもらえないかしら?」
紬「もちろん!これはね、まず……」
澪「どうせ、どうせ私は太っていく運命なんだ……」ズーン
律「わ、悪かったってば!澪は太ってないよ!栄養は全部胸に行ってるよ、ほらっ」ムニュッ
澪「ひゃあああっ!?///」
梓「……」
唯「あれ?あずにゃん食べてないねえ、どうかしたの?」ヒョコッ
梓「にゃあっ!?ゆ、唯先輩……」
唯「ケーキ美味しいよ~♪私が食べさせてあげる!」
梓「ええっ!?」
唯「はい、あ~ん♪」
梓「うう……」
唯「……食べてくれないの?」ウルウル
梓「た、食べますっ!」
唯「じゃあ……あ~~~ん♪」
梓「あ、あ~……///」
律「あらら、またあいつら部室でいちゃついてやがる」
和「ふふっ、いいじゃない。仲良きことは美しき、よ」
紬「いいわあ……」ウットリ
梓「んっ」パクッ
梓「……つっ!」ピクンッ
律「あ、あれ?」
澪「今の反応……何だか最近見たような……」
唯「あず、にゃん……?」
梓「あ、あの!今のは、えっと」
紬「梓ちゃん……?」
和「……」ビクビク
梓「あの、私、そのぅ……せ、」
唯「せ?」
梓「せ、生徒会へ行かないと……!」
終わり♪
最終更新:2010年10月14日 22:00