紬「梓ちゃんはいつからギター始めたの?」

梓「小四からです。親がジャズバンドやってたので、その影響で」

律「へー、サラブレッドじゃん」

梓「唯先輩がギター始めたきっかけって何ですか?」

唯「聞かないで下さい」

律「教えてやれよ」

唯「言いたくない。中野さんには特に言いたくない」

梓「そう……ですか。ごめんなさい」ショゲー

唯(軽音が軽い感じの音楽だと思ってたなんて言えない……)

さわ子「そうそう。私、梓ちゃんにプレゼントがあるの」

梓「何ですか?」

さわ子「これよ!」パンパカプー

梓「……ネコミミ?」

さわ子「そう。つけて?」

梓「嫌ですよっ!恥ずかしいです!先輩方も恥ずかしいですよね?」

紬「え?」チョコン

梓(あれ?私がおかしいの?……あ、これをつけたら唯先輩が振り向いてくれるかも)

梓「……やっぱりちょっとつけてみます」ジャキッ オケーィ

さわ子「おー、似合ってるわね」

紬「梓ちゃん、すごく可愛いわ」


梓(見向きもしない……)

「……梓、可愛いな」

「いじられる対象が移ったのは助かったけど、でも……」

律「この寂しい気持ちは何?」

澪「後ろで何を言ってるんだ」

唯「どしたの?」

律「澪が構ってくれないから寂しくて死にそうなんだってさ」

澪「私はウサギじゃない!」

唯「大丈夫だよ、私は澪ちゃんが大好きだからね~」ムニュ ポワワン

澪「こら、抱きつくな!梓が見てるだろ!」

梓(……優しいんだなぁ、唯先輩……)

唯「澪ちゃんの髪大好き!やっぱり黒髪のストレートだよね~」

澪「こら、におい嗅ぐなよ」ドキドキ

梓(唯先輩は黒髪のストレートが好き……)

梓(日本人形みたいってからかわれるから解きたくないけど、いいか)ハラリ

紬「あら、梓ちゃん。どうして髪を解いたの?」

律「なんか日本人形みたいだな」

唯「澪ちゃ~ん」

澪「はーなーせー!」

梓「……っ」ジワ

梓(私は唯先輩に憧れて入部した……でも)

梓(唯先輩にとって私はどうでもいい子なんだ……)

梓(……考えてみればこんなのストーカーと同じだよね)

梓(勝手な気持ちでつけまわして。先輩方にも迷惑だよね)

梓(もう……止めちゃおうかな)

梓「……グスッ」



一週間後!

律「最近、梓が来ないよなぁ」

紬「どうしちゃったのかしらね」

澪「メールしても返信来ないし、心配だな」

唯「そうだね……。ごめんね、今日は先に帰るよ」

律「ありゃ、用事?」

唯「うん、今日はお外でご飯なんだ。お父さん達が久々に帰ってくるから。じゃあね」ガチャバタン

律「……のんきだなぁ、唯は」

律「唯もいないし、私らも今日は帰ろうか」

紬「そうね」

ガチャ

澪「……あれ?あそこにいるの梓じゃないか?」

律「ありゃ、本当だ」

紬「梓ちゃーん」

梓「!」ビビクゥ!

律「おい、どうして最近練習に来なかったんだよ」

澪「心配してたんだぞ。連絡もないし」

梓「あ……あの……」

紬「体の調子が悪かったのかしら?」

梓「あの……違うんです……」

澪「何かつらいことでもあったのか?私達でよければ相談に乗るから」

梓「……て下さい」

澪「え?」

梓「ほっといて下さい!」

澪「そうはいかないよ。きっちり説明してもらわないと」

梓「離して下さい!もう、もう退部するんですから!」

紬「どうして?まさか、ティータイムが嫌だったの?」

律「それだけは勘弁してくれ、これからは一生懸命練習するから……」

梓「違います!そんなんじゃありません!最初から軽音なんか興味なかっただけです!離して!離してよぉ」ジタバタ

澪「梓、本当のことを話してくれ。私達はみんなお前力になりたいんだ」

紬「そうよ。みんな梓ちゃんのことが大好きなの」

梓「嘘ですっ!」

紬「え?」

梓「そんなの嘘です!唯先輩は、唯先輩は私のことなんか……どうでもいいんです!」ジワ

澪「梓、お前何を」

梓「私、唯先輩に、憧れて、軽音、部に入ったのにっ……」

梓「唯先輩は……ちっとも、私のこと……見て、くれないん、だもん!ギ、ターも弾いて、くれない、しさ、避けてばかり……いるし……」ボロボロ

律「梓……」

梓「だから、だから……もう、もう辞めてやるんだもん!やめて、ゆい先輩のこと、い、いっぱいこまらせ、て、やるんだもん……!」

梓「唯先輩なんか、み、みおせんばいと、く、くっついてりゃ、いいんだ!ムギせんばいと、いぢゃいぢゃ、してりゃいいんだっ……う、うああああん、あああああああん!」

梓「っく……ひっく……うぅ……」

紬「……梓ちゃん。それは違うわ。唯ちゃんは誰かをないがしろにするような子じゃないわ」

梓「うぞですっ!だって、だってギター、が、がんばって弾いた……のに、聞いてくれなかったもんっ!」

律「……あの時は、お茶飲んでたからなぁ」

梓「ね、ネコミミ、つけたのに……み、見てくれなかった、もん!は、は、恥ずかしいの、我慢して、つけたのに……」

澪「その時は私の方を見てたからね……」

梓「……もう、かんげいない、でしょう!離して、下さいよぉ!離して!はなせぇ!」ジタバタ

紬「落ち着いて梓ちゃん!そ、そうだ、戻ってお茶にしましょう!」

律澪(今からかよ!)

梓「うっ……うっ……ふうぅぅぅ……」ヒックヒック


梓「……」ズズ

律(先生に見つからないといいなあ……)

澪(親に怒られるなあ……)

紬「落ち着いたかしら?」

梓「はい……すみません、また取り乱しちゃって」グスッ

紬「いえいえ、とんでもない」

梓「私……皆さんにご迷惑おかけしてばかりですね……」

澪「梓。誰もお前のことを迷惑だなんて思ってないよ」

律「そうだぜ、この程度で迷惑と思うほど私らは心が狭くないよ」

澪律(さすがにこの時間にお茶はないけどな)

梓「でも……私、こんな中途半端な志で入部して、皆さんに申し訳ないです……」

梓「きっとこれからも、もっともっとご迷惑をおかけしてしまうに違いないんです……」

律「梓、もう一度言うぞ。この程度で迷惑と思うほど私らは心が狭くないよ」

澪「そうだよ。だいたい唯なんか、いっつもトラブルばかりおこすからなぁ」

律「そうそう。合宿に遅刻しかけたり、学祭の本番前に喉を壊したり」

澪「こないだの新歓ライブもそうだよ。よりにもよって本番で歌詞忘れてさ。えらい目にあった」

梓(あの唯先輩がそんなミスを……信じられない)

律「それでも、私らはみんなあいつのことが好きなんだ。梓、お前も同じだよ」

梓「ありがとうございます。……でも、唯先輩はそう思ってくれないんです」

紬「それなんだけど、梓ちゃんは一回唯ちゃんに思ってることをはっきり伝えたの?」

梓「……いえ」

紬「ダメよそれじゃ。梓ちゃん、遠まわしなやり方じゃ、伝わらない気持ちもあるのよ」

律「唯みたいな鈍感には、特に伝わりにくい気持ちだな」

梓「はい……わかりました」

澪「唯には私達がきちんと話をしておくから。梓も簡単に辞めるとか言うな」

梓「皆さん……ありがとうございます。……ごめんなさい……」ポロポロ

律「ほらほら、泣くのも禁止」

紬「もうこんな時間だわ。そろそろ帰りましょう」

梓「……はいっ!」



そして翌日!

律「……というわけなんだよ」

唯「……」

紬「梓ちゃんはね、唯ちゃんに構ってほしかったのよ」

唯「……」

澪「急な話でごめん。でも梓も相当参ってたみたいでさ……唯?」

唯「……いやー、なんというか、すごく意外だったというか……」

澪「意外って、お前なあ……」

律「入部した時から、さんざんお前に憧れてたって言ってただろ」

唯「あれ?そうだっけ?……そういえばそんなこと言ってた気がするなぁ」

律「もしかしてお前、梓のこと何にも知らないんじゃないのか?」

唯「そ、そんなことないよ!」

律「好きなケーキは?」

唯「え?えーと……」

律「つけてたネコミミの色は?」

唯「えっと、えっと……」

律「パンツの色は?」

唯「……でへへ」

律「ほらぁ~」

澪「私ですらわからないわ!」スパコン

唯「でも、言われてみれば私、先輩なんだなぁ。唯先輩、かぁ……」

……

梓『唯先輩!焼きそばパンとコロッケロール買ってきました!』

梓『唯先輩、技を教えて下さい!』

梓『よぉーっし!やりましたよ、唯先輩!』

……

唯「でへへへ……」

律「何をニヤニヤしてんだよ」

唯「いやぁ、先輩ってのも悪くないなぁ~、なんて……」

律「おせーよ」

律「まったく……。お前があんまり相手してやらないから、昨日は辞めるなんて言い出したんだぞ」

唯「へぇー。……ってえぇーっ!?中野さん、辞めちゃうの?」

紬「安心して。辞めるのは取り消しになったから。でも、すごく寂しがってたことに変わりないわ」

唯「……じゃあ、私はどうすればいいの?」

律「唯。以前澪が寂しそうにしてたら、お前澪のこと構ってやってたろ?」

澪「本当はちっとも寂しくなかったけど、あの時唯が構ってくれて嬉しかった。唯の優しさがすごく嬉しかった」

澪「その優しさを、梓にも分けてあげてほしいんだ」

唯「うん……でも、なんか意識したら顔が合わせづらいよ~」モジモジ

律(急に乙女ぶって恥じらうなよ)

澪「そこは私達がお膳立てしてやるから。頼むよ、唯」

唯「うん、わかったよ!」フンス



数日後!

梓「世界最大のギター博、ですか?」

澪「そう。梓はこういうの好きか?」

梓「そりゃ一度行ってみたいと思ってましたけど、でも……」

澪「どうかしたか?」

梓「唯先輩もいるんですよね?」

律「まあな」

梓「意識したら、妙に気恥ずかしいというか、照れくさいというか……」ソワソワ

律(ああああ、どいつもこいつも中学生みたいなことを~)イライラ

紬「りっちゃん、抑えて!」ヒソヒソ

唯「全長35メートルのギターに羽毛の生えたギターか……すごい!行きたい!行ってみたい!」

律「いいけど、一つ条件があります」

唯「なあに?」

律「梓との親睦を深めること。あと、中野さんは禁止!」

澪「梓のことを名前で読んでないの、唯だけだぞ」

律「そう。さわちゃんですら、梓ちゃんって呼んでるのに。先輩のお前がそんなよそよそしくてどうすんだよ」

唯「え?名字で呼んでるの私だけ?」

紬「そうよ」

澪「気づいてなかったのか?」

唯「うん」

律「お前なあ……」



当日!

澪「……唯と律がこない」

澪「あれだけ遅刻するなって言ったのに……」プルプル

梓「ま、まあまあ」

紬「あ、唯ちゃんが来たわ!」

唯「ごめーん、寝坊しちゃった」ゼエゼエ

澪「まったく……梓、わかったか?唯はこういう抜けた奴なんだよ」

梓「人間らしくて、いいんじゃないですか?」

澪(また美化した)

紬「あ、りっちゃんも来たわ」

律「す、すまん!用意に手間取った!」ヒィヒィ

梓「もう、何やってるんですか!電車に乗り遅れちゃいますよ!」プンスカー

澪「おいおい」

紬「休日なのに、すごい混み具合ねえ」

梓(うー、少し苦しいかも……)

唯「ねえ、なかのさ、」

律「」ジロリ

唯「……梓ちゃん、こっちおいで」

梓「あ、はい」

梓(梓ちゃん、だって……。名前で読んでくれた)

唯「ここなら少し窮屈じゃないでしょ?」

梓「……はい」

唯「着くまで私が、梓ちゃんのこと守ってあげるからね」

梓「はい!」


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最終更新:2010年10月17日 23:43