次の日
澪「さて、練習しy」
紬「じゃあ今日は誰にする?」キラキラ
律「昨日あれだけ暗い話聞いといて全く自重しないとは・・・」
梓「流石ムギ先輩ですね」
唯「じゃあ今日は・・・」
紬「じゃあ今日は梓ちゃんの番ね!」
梓「・・・」シーン
律「白状するまで帰さないぞー!」
唯「あずにゃーん! 教えてよぉー!」
澪「昨日唯も喋ったんだから梓も・・・、な?」
梓「・・・分かりました」
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私の両親は、ミュージシャンだった。
私が幼稚園に入った頃には、プロデビューも果たした。
でも、それをきっかけに変わってしまった。
家では毎日のように夫婦喧嘩し、溜まったストレスは私を虐待する事で発散されるようになった。
両親との親子愛なんてもう皆無だ。
小学生になった時、私はついに家出を決心した。
私の親は馬鹿だったので、ATMで親の口座の金を全て引き出す事ができた。
近くのマンションの部屋を一つ借りて、そこに住む。
それが、私の孤独な生活の始まり・・・
この頃から、よく嘘をつくようになった。
嘘をつかないと、生きていけないからだ。
学校にいる時が一番安心できる時間だった。
女子には嫌われていたけど、男子からは何故かチヤホヤされた。
女子A「梓ってウザいよね」ボソボソ
女子B「ちょっと見た目がいいからって・・・」ボソボソ
男子C「梓! 一緒に遊ぼうぜ!」
梓「うん、分かった」
男子D「梓、今度お前の家に遊びに行ってもいいか?」
梓「えっ・・・」
もちろん断った。
私の生活状況を知ったら、みんなは絶対心配するだろう。
余計な情けはいらない。
私が4年生になった時、中央委員会が変な企画を始めた。
校内の生徒・教師全員に対して、1項目につき誰か1人の名前を書かせるアンケートを実施。
それを元にランキングを作成し、TOP10を発表するという企画だ。
項目は、可愛い人(男子の場合はカッコイイ人)、頭のいい人、運動の得意な人、人気のある人の4つ。
もちろん男子部門と女子部門の二つに分かれている。
ランキングが発表された時、私はとても驚いた。
女子部門の4項目全てで一位になっていたのだ。
そうか、男子にチヤホヤされてたのはそういう訳だったのか。
勉強はちゃんとやってるからできるし、よく男子と遊ぶので運動もできる。
人気は・・・男子だけの人気だろう。
ランキング発表後、私は女子からイジメを受けるようになったがあまり気にならなかった。
男子達が守ってくれたからだ。
こうして、家の事情を隠しつつも小学生の間は比較的平和に過ごす事ができた。
でも、中学校に入るとそうもいかなかった。
男子からチヤホヤされるのも小学校までだった。
中学生になった辺りから、女子はだんだん女性らしい体になっていく。
しかし私は違った。
背は低いままで、胸も小さい。
色気などもちろん無い。
そうしている間に男子達は徐々に性欲に目覚め、私の事など見向きもしなくなっていた。
男子達の守りが無くなった事に感づいた女子達は、イジメをエスカレートさせていった。
気付いた時には、学校でも居場所を失っていた。
夕方、私は自分の住むマンションに向かって歩き始める。
本来なら距離があるので自転車で通学するべきだが、イジメで自転車を壊されてしまったので歩いて帰るしかない。
もちろん部活はやっていない。
最初は軽音楽部に入る事も考えた。
私はギターをやっていたからだ。
私は、両親のバンドの元ギタリストの人と交流があった。
その人は、両親の喧嘩を見かねてバンドをやめたらしい。
その人に教えてもらい、小4ぐらいの時にギターを始めた。
でも、バンドをやろうとは思わなかった。
そんな事をしたら、私の両親のような荒んだ人間になってしまいそうだったから。
今日はとても暑い。
今日の体育の時間は長距離走だった。
一位にはなれたものの、やはり体力を消耗する。
そのせいか、何だか目眩が・・・
足元がふらついて・・・
気が付くと・・・私は病院にいた。
外を見ると・・・どうやらもう夜みたいだ。
誰かが救急車でも呼んだのだろうか。
する事もなくボーっとしていると、一番会いたくない人が私の病室に入ってきた。
父「もう退院だ、早く行くぞ。」
私は父に言われるがまま、病院を去った。
そして、何故か地下駐車場に連れていかれた。
父「調子に乗りやがって・・・、少し教育してやる必要があるな」
そう言うと父は鉄パイプを拾い、それを私に向かって振り下ろす。
ドガッ!
梓「うぐッ!?・・・」
父は私を徹底的に痛め付けた。
数分間、同じような光景が続いた後・・・
梓「・・・」ドサッ
父の攻撃に耐え切れなくなり、私は倒れた。
病み上がりで弱っている上に、喧嘩なんて未経験の私に勝ち目はなかった。
梓「・・・どうして」
父「ん?」
梓「・・・どうして・・・こんな事・・・するの・・・?」
父「子供が知る必要はないんだよッ!」
ドガッ!
梓「ううッ!・・・」
父「・・・さて、そろそろ始末するか」
そう言って父が取り出したのは・・・
本物の、拳銃だった。
何故父が拳銃を持っているのか、全く分からなかった。
カチャッ・・・
父「じゃあな、梓。」
父が拳銃の引き金を引こうとした瞬間、二発の銃声が鳴り響く。
一発目は父の持っていた拳銃を弾き飛ばし、
二発目は父の脳天を撃ち抜いた。
その直後、スーツを着た男性が現れる。
恐らく父を殺したのはこの人だろう。
でも、むしろありがたいぐらいだ。
あんなお父さんなんて、いらない。
?「私、とある家で執事をしている斎藤と申します」
執事・・・?
斎藤「あなたの父には紫合家の御曹司の暗殺を命令したはずだったのですが・・・」
どうやら、父はいつの間にかどこかの家のSPか何かになっていたらしい。
斎藤「そのための拳銃を悪用しようとしていたため、抹殺させていただきました」
梓「いいんです、あんな人・・・」
斎藤「では、失礼」
斎藤と名乗る男が証拠隠滅を済ませて去った後、私もここを去ろうとした。
ここにいては、犯人だと疑われるかもしれないからだ。
でも、体が動かない。
私の体は予想以上にダメージを受けている。
また、意識が・・・
気が付くと、今度は見たことのない場所にいた。
誰かの家らしい。
でも、一体誰が?
そんな事を考えていると、誰かが部屋に入ってきた。
あのギタリストの人だ。
ギタリスト「そういえば、まだ名前を教えてなかったね」
ギタリスト「一応名刺を渡しておくよ」
名刺には、中野 博之と書いてあった。
メールアドレスや電話番号まで書いてある。
ギタリスト「じゃあ、ゆっくりしててね」
そう言ってあのギタリストの人は部屋を去った。
一応連絡先を携帯に登録しておこう。
誰かを電話帳に登録するのは、これが初めてかもしれない。
『電話帳』
0000 中西 梓
0001 中野 博之
疲れてるから少し寝よう。
そう思って静かにしていると・・・
ギタリスト「梓ちゃんのお母さんが、児童虐待の容疑で逮捕されたみたいだね」
ギタリスト妻「このままだと、梓ちゃんは半強制的に孤児院行きね・・・」
ギタリスト「あのマンションも、梓ちゃんが嘘をついていたのを知ったら契約を破棄しちゃうだろうな・・・」
隣の部屋から声が聞こえる。
ギタリスト妻「梓ちゃんを養子としてウチに迎えるのはどうかしら?」
ギタリスト「な、何だって!?」
ギタリスト妻「私は子供が産めない体だし・・・、梓ちゃんがいいなら・・・」
ギタリスト「でも、ちゃんと親らしくできるかどうか・・・」
ギタリスト妻「じゃあ、あなたは梓ちゃんを救ってあげようとは思わないの・・・?」
ギタリスト「・・・」
ギタリスト妻「不幸なあの娘を放っておくつもり・・・?」
ギタリスト「・・・ちょっと考えさせてくれ」
そこで二人の会話は途絶えた。
私だって・・・私だって・・・
好きでこんな人生を歩んできた訳じゃない・・・
誰からも可愛がってもらえない、本当の友達なんて誰もいない・・・
愛情も友情も、私なんかからは程遠いモノなのかなぁ・・・
梓「うぇぐ・・・ううっ・・・」ポロポロ
ギタリスト妻「隣の部屋で誰かが泣いてる・・・(隣は梓ちゃんのいる部屋よね・・・?)」
ギタリスト妻「入るわよー・・・」
梓「!?」フキフキ
ガチャッ
梓「な、何ですか?」
ギタリスト妻「さっき、泣いてたでしょ」
梓「そ、そんな事ないです」
ギタリスト妻「強がらなくていいのよ・・・」ダキッ
梓「えっ・・・」
いきなり抱き着かれた。 暖かい・・・
ギタリスト妻「泣きたい時には泣きなさい、まだ子供なんだから・・・」ギュッ・・・
今まで、人前ではずっと抑えていた感情が一気に溢れてくる。
梓「う・・・、う・・・」グスッ
梓「うわ~~~ん!」ポロポロ
…
梓「・・・」zzz・・・
ギタリスト妻「寝ちゃったみたいね」
ギタリスト「ああ」
ギタリスト妻「・・・で、さっきの話なんだけど・・・」
ギタリスト「もう決めたよ、梓ちゃんの寝顔を見てごらん」
ギタリスト「この娘の幸せそうな顔・・・久しぶりに見た気がする」
ギタリスト「僕達が親になる事でこの娘が幸せになれるのなら・・・」
ギタリスト「それは当然、実行すべきだと思うんだ・・・」
…
斎藤「・・・一人の人間として、」
斎藤「あの娘を救って差し上げよう」
カチャッ・・・
次の日、私はマンション側から賃貸契約を破棄された。
なので、とりあえずギタリストさんの家に居候する事になった。
そして、もう一つ重大な知らせ。
仮釈放中だった私の母が、何者かに射殺されたらしい。
もしかしたら、父を消してくれたあの人が私のために・・・
まあ、そんな訳はないだろうけど。
数日後、ギタリストさん夫妻が引っ越しをするという事なので私もそれに従って転校する事になった。
引っ越し先は・・・桜ヶ丘。
私が学校に行っている間、ギタリストさん夫妻は先に向かっていろいろとやってくれているらしい。
やっと学校が終わった。
今日でイジメから解放されると思うと、イジメられるのもあまり気にならなかった。
タクシーでも呼んで、早く行こう。
運転手「お嬢ちゃん、随分とご機嫌だねぇ」
梓「そ、そんな事・・・ありますね」
運転手「ほら、到着したよ・・・じゃあな」
ここが・・・桜ヶ丘・・・
ここが・・・私の新しい家・・・
ギタリスト「お、やっと来たか」
ギタリスト妻「ウフフ」
梓「?」
ギタリスト「今日は梓ちゃんにプレゼントがあります!」
ギタリスト妻「はい、コレよ」
梓「コレって・・・新しいギター・・・!?」
ギタリスト「フェンダー・ジャパン・ムスタングだよ」
梓「でも・・・どうして突然?」
ギタリスト「それは・・・今日が記念日だからだよ」
梓「引っ越しの?」
ギタリスト「梓ちゃんが僕達の娘になった記念日」
梓「え?」
ギタリスト妻「だから、今日からあなたの名前は
中野梓ちゃんよ♪」
梓「まさか・・・本当に養子縁組を・・・」
ギタリスト「YES」
梓「冗談だと思ってたんですけど・・・」
ギタリスト妻「本気よ」
梓「だって、あの時・・・」
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ギタリスト「梓ちゃん」
梓「何ですか?」
ギタリスト「僕達の養子にならない?」
梓「突然凄い事を言いますね」
ギタリスト「ダメか?」
梓「別に・・・いいですけど・・・」
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ギタリスト「ああ、そんなんだったっけ? ごめんな~」
梓「適当なのにも程がありますよ」
ギタリスト「とにかく、今からは僕が梓ちゃんのお父さんで」
ギタリスト妻「私がお母さんよ♪」
梓「お父さん・・・お母さん・・・?」
新父母「その通り!」
梓「じゃあ、私からも一言・・・」
梓「もう家族なんだから、呼び捨てで梓って呼んでね?」
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梓「・・・っていう感じですね」
澪「なあ、梓?」
梓「はい?」
澪「その斎藤さんって人との事は喋ったらまずいんじゃないか?」
梓「確かに、ずっとそう思ってたんですけど・・・軽音部の中でなら大丈夫かなって・・・」チラッ
紬「?」
『電話帳』
0000
中野 梓
0001 お父さん
0002 お母さん
0003 唯センパイ
0004 澪センパイ
0005 ムギセンパイ
0006 律センパイ
0007 憂
0008 純
梓編おわり
最終更新:2010年10月18日 22:22