和「憂はこれから何か予定があるの?」
憂「ううん、ないけど」
和「じゃあ一緒にどこか行こうか」
憂「えっ?私は嬉しいけど、和ちゃんはいいの?」
和ちゃんは難しい国立志望の受験生で、なおかつ生徒会長。
忙しい身であることはよく知っています。
和「いいのよ、私も気分転換がしたかったし。どこか行きたいとこある?」
憂「う~ん、じゃあ……」
ここで問題が浮上してきました。
私はグレるにはどうすればいいか、というヒントを求めてここに来ました。
しかし……
憂「……」チラッ
和「どうしたの?」
さすがに和ちゃんに向かって、「グレたいんだけど……どうすればいいかなあ?」とは聞けません。
ここは不良っぽい場所で、なおかつ和ちゃんと楽しめる場所に行くべきでしょう。
……すごい難題です。
憂「あっ、ゲームセンター!」
和「えっ?」
憂「ゲームセンターに行こうよ!」
これは名案!
何だか不良っぽい感じがするし、和ちゃんといっぱい遊べます!
和「別にいいけど……憂にしては珍しいチョイスね」
憂「えへへ~、そうでもないよ?」
和「……?」
何といっても、今の私はグレちゃってるからね♪
憂「さあ行こうっ!」
……
憂「わあ……!」
和「へえ、最近来ていなかったけど……けっこう様変わりしてるわね」
やって来ましたゲームセンター。
色とりどりの機体と楽しげな音が響いています。
昔感じたタバコの匂いもないし、過ごしやすそうですね。
和「何かしたいもの、ある?」
憂「う~ん……あっ!」
和「何か見つけたの?」
憂「あのぬいぐるみ可愛い~♪」タタッ
和「あっ、走っちゃダメよ!」
クレーンゲームで可愛いぬいぐるみを発見しました。
これ、取って帰ったらお姉ちゃん喜ぶかなあ……?
憂「……」ジーッ
和「これが欲しいの?」
憂「うん、でも……」
けっこう大きいので、取るのは難しそうです。
私こういうの慣れてないからなあ……
和「……」チャリン
憂「和ちゃん!?」
和「……しっ」
憂「う、うん……」
お金を入れた和ちゃんが、人差し指を唇に当てて静かにするよう合図してきました。
その表情は真剣そのもので……何だか格好いいです。
和「……」ウイーン
憂「……」ドキドキ
固唾を飲んで和ちゃんが操るクレーンの動きを見守ります。
和ちゃんは視点を変えつつ、正確に狙いを定めて……
和「……!」ピッ
ウイーン…ガシッ
憂「あ……!」
…ポトッ
憂「わあっ!和ちゃんすご~い!」
和「ふう……」
何と一発でゲットです!
周りにいた人も驚いていたから、きっととても凄いことなんでしょう。
さすが和ちゃんだなあ……
和「取れてよかったわ、えっと……あら?」
憂「和ちゃん、どうかしたの?」
和「これ見て」
憂「えっと、あ……!」
景品の取り出し口から出てきたもの。
それは私が欲しがったぬいぐるみと、
和「もう一つ引っかかってたみたいね」
同じタイプの、一回り小さなぬいぐるみでした。
どうやら二つが絡み合っていて、両方落ちてきたみたいです。
……百円でダブルゲット?
憂「和ちゃんすごい!」キラキラ
和「……何か怖いわね、この幸運」
苦笑する和ちゃん。
手に持ったぬいぐるみを一つ、私に渡してきて……
憂「……え?」
和「何驚いたことしてるの。これはあなたのために取ったんだから……」
憂「で、でも悪いよ」
和「いいのいいの。それはいつも頑張ってる憂へのプレゼント」
憂「和ちゃん……ありがとうっ」
和「ふふ、どういたしまして。それとこれは……ぐうたらな、あなたのお姉ちゃんへのプレゼント」
憂「ええっ!?さすがに二つも貰うのは悪いよ!これは和ちゃんが……」
和「ダメよ、その子たちは一緒にしてあげないと」
憂「あ……」
私の手の中の、二つのぬいぐるみを見て微笑む和ちゃん。
この子たちは離れたくないから、一緒について来たって言いたいのかな……?
憂「……」
私もじっとその子達を見つめてみます。
和「そっくりな顔で、いっつも一緒。この子達、あなたと唯みたいじゃない?」
憂「私とお姉ちゃん……」
そう考えると、この子達がすごくすごく愛しく思えてきました。
ギュッと抱きしめます。
憂「本当に……もらっていいの?」
和「ええ、もちろん。喜んでもらえたかしら?」
憂「うんっ!ありがとう、和ちゃ~ん♪」ギュウッ
和「きゃっ!?ち、ちょっと憂……」
感極まって思わず和ちゃんに抱きついちゃいました。
顔を赤らめて慌てる和ちゃんは新鮮で、とっても可愛かったです♪
えへへ……
……
それからも、和ちゃんとゲームセンターで色々遊びました。
プリクラ、太鼓の達人、ポップンミュージック、クイズゲーム……
何だか不良っぽくありませんが、気にしません。
和「憂、帰らなくていいの?」
憂「う、う~ん……」
そして今、時刻は午後6時を少し回ったところ。
普段の私なら、もう帰って夕飯の準備を始めている頃です。
憂「……」
しかし、しかしです。
今の私はグレているのです。
そんなに早く帰っちゃったらおかしくはないでしょうか?
そう考え、なかなか帰るに帰れなくなってしまいました。
和「……」
憂「……」ソワソワ
和ちゃんも私に付き合ってくれています。
忙しいはずなのに……
憂「和ちゃん、帰ってもいいよ?」
和「ううん、いいわ。憂と一緒に帰りたいし」
憂「そ、そっか」
和「ええ」
困りました、このままでは和ちゃんにも迷惑をかけてしまいます。
いや……迷惑をかけるからグレてるっていうのかなあ?
憂「……」
和「……」
お姉ちゃん……心配してないかなあ?
お腹空かせてないかなあ?
頭の中では、私を呼ぶお姉ちゃんの姿が浮かんでは消えていきます。
憂「……」ソワソワ
和「……」
憂「の、和ちゃん!」
和「どうしたの?」
憂「そろそろ帰ろうっ」
和「……そうね、そうしましょうか」クスッ
結局耐えられなくなりました。
数分しかもちません……私っていったい……
それに、クスクス笑っている和ちゃんには私の考えを見透かされている気がして、何だか気恥ずかしいです。
憂「早く帰ろう!」グイッ
和「わわっ」
善は急げ。
和ちゃんの手を引っ張り、帰路へゴーです!
……
憂「はあ……」
あの後。
お姉ちゃんの待つ家に戻った私は、急いで夕飯の準備をしました。
遅れたお詫びの気持ちを込めて、お姉ちゃんの好きなハンバーグを。
あ、あのぬいぐるみを渡したら、お姉ちゃんはとても喜んでくれました。
憂「……」
そして後片付けをして、お風呂に入って。
今、部屋に戻って今日一日のことを振り返っていたのですが……
憂「私、全然不良っぽいこと出来てないよ~……」
私のグレてみよう計画は完全に失敗です。
はあ……何か悔しいなあ……
憂「すっごく楽しかったけど、ね」
何だか不完全燃焼な気分です。
憂「ふう……寝ようかな?」
ふわふわ時間の歌詞を借りるなら、もう寝ちゃお寝ちゃお寝ちゃおーってとこです。
もぞもぞとベッドに潜り込んでいると……
唯「うい~、起きてる?」
憂「お姉ちゃん?」
枕を抱え、パジャマ姿のお姉ちゃんが部屋に入ってきました。
可愛いです。
憂「どうかしたの?」
唯「うん~、その~……」モジモジ
昼間と同じようにモジモジするお姉ちゃん。
これは……
憂「……よかったら、一緒に寝ない?」
唯「……!」パアア…
あ、当たったみたいです。
姉妹の以心伝心その2、ですね。
……
唯「えへへ……」
憂「お、お姉ちゃん……」
同じベッドの中、お姉ちゃんと向かい合います。
必然的に顔がとても近くなるから、さすがに照れちゃうなあ。
唯「何だか久しぶりだね~、憂と一緒に寝るの」
憂「うん、最近ずっと暑かったからね」
唯「えへへ、涼しくなったからこれからは好きな時に一緒に寝られるね♪」
憂「う、うん……」
私の体はもつのでしょうか。
非常に心配です。
唯「ぎゅ~♪」
憂「ひう……」ドキドキ
あったかいです。
唯「じゃあおやすみ……憂」
憂「おやすみなさい、お姉ちゃん……」
お互いにあいさつをし合い、目を閉じます。
もちろんお姉ちゃんに抱きつかれたまま……
唯「すう……」
憂「……」パチッ
唯「ん……」
憂「……」ジーッ
健やかに眠るお姉ちゃん。
イマイチ眠れない私は、その寝顔をじっくりと堪能させてもらうことにしました。
……あ、笑った。
何か良い夢を見ているのかなあ?
憂「ふふ……♪」
何だかお姉ちゃんの顔を見ていると、落ち込んでいたことがどうでもよくなって来ました。
やっぱりお姉ちゃんはすごいや……
憂「ふわあ……」
安心したからでしょうか、一気に眠気が出てきました。
現金なものです。
憂「お姉ちゃん……おやすみ」
意識を手放す前に、ギュッと。
お姉ちゃんを抱きしめてみました。
あったかい……
唯「ん……うい~……」
憂「あ……」
私の行動への返答のように。
お姉ちゃんからの抱き締める力が増しました。
憂「……♪」
抱き合って眠るのは、少し恥ずかしいけど……
とても幸せな気分です。
憂「……」ウトウト
最後に、今日一日の出来事をもう一度思い出します。
……うん、すっごく良い日でした。
明日ももっと楽しくなるといいなあ……
唯「くう、くう……」
憂「すう……」
グレることには失敗してしまいましたが……
何だか今日は、とてもいい夢を見られそうです♪
おしまい
最終更新:2010年10月19日 00:11