紬「りっちゃんりっちゃん」

律「んー?」

紬「ちょっと世界征服しない?」

律「それそんなに気軽に誘っちゃうの?」

紬「しようよ」

律「しないよ」

紬「えー」

紬「世界を征服するには」

紬「十分な資金と有能な部下が必要です」

律「へぇー」

紬「資金面は問題ないわ」

律「そだね」

紬「というわけでりっちゃんを戦闘員に起用したいの」

律「やだよ」

紬「じゃあ参謀長でもいいわ」

律「格上げしたってダメだい」

紬「えー」

紬「何が嫌なの?」

律「世界征服」

紬「あ、報酬が不服なのね!」

律「いやいや」

紬「じゃありっちゃんは時給600円で雇ってあげる」

律「最低賃金かよ」

紬「ええ。私の世界征服のモットーは"おかねを つかうな"だから」

律「"へいわを だいじに"」

紬「うーん。なんで参加してくれないのかしら」

律「したくないもん」

紬「じゃあ……仲間に入ってくれたら世界の半分くらいあげるから」

律「いらないよ」

紬「世界の11/20!」

律「いらない」

紬「17/30!」

律「そんなのよりDSのがほしいな」

紬「じゃあ世界征服したらDS買ってあげる!」

律「3DSじゃないとヤダ」

紬「えー」

紬「わかったわ」

律「なにが」

紬「有能な部下の話は一旦忘れます」

律「はい」

紬「代わりに魅力的な征服プランについて語らいます」

律「ふーん」

紬「そうすればりっちゃんも自ずと参加してくれるはず!」

律「それはない」

紬「し、してくれるはず!」

紬「まずね」

律「うん」

紬「幼稚園バスをジャックするの」

律「なんと」

紬「そしていたいけな子供たちを人質に身の代金を要求します」

律「あくどいなぁ」

紬「その額ざっと3000万円」

律「ふむ」

紬「身の代金を受け取ったら素直に逃げます」

律「征服は?」

紬「"おかねを ためこめ"」

律「おい」

律「資金は十分じゃなかったのかよ」

紬「お金はいくらあっても困らないのよ」

律「それはそうだけどさぁ」

紬「それに逃げただけでは作戦は終わらないわ」

律「えっ?」

紬「実は解放した子供たちには毒が打ってあるの」

律「ひゃっ」

紬「それで解毒剤が欲しければプラス3000万円、と」

律「……」

律「そんなんでホントに征服できるのか?」

紬「もちろん」

律「うっそだぁ」

紬「そう慌てないの。バスジャックは計画のほんの一部」

紬「風が吹いたら桶屋が儲かるところで言えばまだネズミが増殖した辺りなんだから」

律「終盤もいいところじゃん」

紬「そう。つまりもう一押しで世界は私のものになるということよ」

律「うーん?」

紬「いい? バスジャック1回で6000万円が手に入るのよ」

律「ふむ」

紬「100回やったら60億円」

律「ワオ」

紬「これに我が家の資産を加えるとおよそ780兆と60億円になるわ」

律「……」

紬「この財力をもって世界を征服しちゃうの」

紬「これぞ私の絶対成功大作戦!」

律「へぇー」

紬「どう? 征服したくなったでしょ?」

律「いや全然」

紬「あれ?」

紬「おかしいわ。今のでりっちゃんのハートを射止めるハズだったのに」

律「へぇー」

紬「一体何をすれば世界征服してくれるの?」

律「むしろ何をすれば世界征服しなくてすむの?」

紬「むむむ……どうしよう」

律「……」

紬「むむむ」

律「ムギー私のど渇いたよ」

紬「そう? じゃあちょっとティータイムにしましょ」

律「うん」


律「いやぁ今日もおいしいねぇ」

紬「ふふふ。そう言ってもらえると嬉しいわ」

律「これが水道水じゃなければもっとおいしかったろうに」

紬「だって世界征服してくれないから。言うなれば八つ当たりね」

律「八つ当たりの自覚ありかよ」

紬「私、自分に正直に生きていたいの」

律「さいですか」

律「っていうか、そこは賄賂的に豪華になるんじゃないの?」

紬「"おかねを だいじに"」

律「はいはい」


紬「さて、お茶も飲んだところで」

律「水だけど」

紬「地位もいらない、報酬もいらない、計画も気に入らない」

紬「一体どうすればりっちゃんは世界征服に加担してくれるの?」

律「いやあの世界征服したくないんだけど」

紬「うーん……」

律「おーい」

紬「……あ。秘密基地作れば来てくれるかも」

律「おーい……」

紬「世界征服に秘密基地は付き物だもんね」

律「秘密基地ねぇ」

紬「そ。秘密の基地、略して秘密基地よ」

律「あんまり略せてないし」

紬「そう?」

律「うん」

紬「資金はいくらでもあるから重要なのは立地ね」

律「リッチな考え方だな」

紬「秘密基地なんだから世界征服の仲間が集まりやすいところで」

紬「ほどよい広さがあって」

紬「防音も完備で」

紬「日当たりも良くて」

紬「なおかつ、いざとなったら籠城や人質を取ったりできる場所……」

律「……」

紬「あ」

律「……部室は使わせないぞ?」

紬「えー」

紬「でも部室がダメとなるとあとは……職員室?」

律「そっち行っちゃった」

紬「職員室ならパソコンもあるし情報戦にもうってつけね」

律「へぇー」

紬「そしてなによりテストもカンニングし放題!」

律「えっ」

紬「し放題!」

律「……」

律「……そ、そんな誘惑には屈しないぞ」

紬「ちぇっ」


律「そういえば」

紬「なに?」

律「今日は唯も、澪も、梓もなかなか来ないよなぁ」

紬「ああ。澪ちゃんと梓ちゃんは今日用事があるからこれないって」

律「なーんだ。そういうことはもっと早く言ってくれよう」

紬「ごめんなさい」

律「それで、唯は?」

紬「唯ちゃん今日はちょっと資金集めをね」

律「……バスジャック?」

紬「いえバスジャックじゃないわ」

律「よかった」

紬「あれはりっちゃんの仕事だから」

律「よくねえ」

律「というか唯はムギの手下だったんだな」

紬「ええ。ガリガリ君をちらつかせたらコロリ」

律「……」

紬「100円で手下が雇えるだなんてすっごくお得ね」

律「……せめてハーゲンダッツを買ってやれよう」

紬「"おかねを だいじに"」

律「守銭奴かよ」

紬「それにしても、秘密基地ですらダメだなんてりっちゃんはなんてガンコなの」

律「案外ざわざわ森に住んでたりしてな」

紬「もしかして世界征服なんて大きな野望に気後れしてるかしら……」

律「そうでもないけど」

紬「うーん……」

紬「……ならもっと親近感のある征服を魅せる必要があるわね」

律「親近感のある世界征服ってどうだろう」

紬「世界征服は一家団欒のあとに、みたいな」

律「おい」

紬「ショッカーしかり黒十字軍しかり根源的破滅招来体しかり」

紬「世界の征服や侵略を企む人たちは得てしてセンスある組織名を付けてきたわ」

律「そだね」

紬「だから私たちの織にも名前があったら親近感が持てるかもしれないわね」

律「そんな親近感いらないやい」

紬「そうねぇ例えば……」

紬「世界を おおいに 征服する琴吹紬の団……略してSOS団とか」

律「却下」

紬「世界征服戦線……略してSSS」

律「ダウト」

紬「むむむそれなら……ムギわらの一味、とか」

律「それはセンスに欠ける」

紬「えー」


紬「もう。あれもダメこれもダメってりっちゃんはわがままなんだから」

律「そんなこと言われてもなぁ」

紬「りっちゃんは一体何がお望みなの?」

律「平和」

紬「平和?」

律「うん。平和大好き。だから世界征服なんt

紬「なるほど……つまり私が世界を征服して平和をもたらせばいいのね」

律「曲解だ」

紬「でも正解よ」

律「?」

紬「だって世界に平和をもたらすのが私の征服の目的なんだから」

律「マジで?」

紬「もちろんよ」

紬「いい? 人間は愚かで争いが大好きなの」

律「唐突だな」

紬「終わらない戦争、鳴り止まない悲鳴、世界はひどく荒んでいるわ」

律「ふむ」

紬「愚かな人間はいつかきっと誤った道へ進む、破滅の一途を辿るに違いない」

紬「だから私がより強い力(財力)をもってして世界を征服し、人々をあるべき道へ導くの」

律「ほぅ」

紬「そう、同性愛の道へとね!」

律「人の道を踏み外してどうするよ」

紬「この全世界百合色化計画で地球は愛にまみれた平和な星に生まれ変わるのよ!」

律「聞けよ」

律「だいたいなぁ」

紬「なに?」

律「世界を征服するってことは全世界60億人をムギ1人で統治するってことなんだろ?」

紬「最終的にはね」

律「ふーん」

紬「?」

律「いきなりだけど、和って優秀だよな」

紬「ええ。世界征服の仲間に入れたいくらいね」

律「んで、和って生徒会長だよな」

紬「もちろん。それを奪ったら和ちゃんには眼鏡しか残らないわ」

律「……」

律「生徒会長ってことは全校生徒600人を取りまとめてるってことだ」

紬「それが?」

律「逆に言えば、和ほど優秀でも600人を統治するのが限界ってことだよな?」

紬「!」

律「全世界60億人を統治したいんだろ? ムギには和10万人分の働きができるのか?」

紬「……」

律「講堂の使用届けを出し忘れる人間だけで10万人もいるんだぞ?」

律「進路希望の紙を出さない人に至っては倍の20万人だ」

紬「そ、そんな……管理しきれないわ……」

律「だから世界征服なんてよした方がいいって」

紬「そんなぁ……」

紬「でも、こんなことで諦めるなんて……!」

律「往生際が悪いぞ」

紬「だってたかが和ちゃん10万人分の力が足りないだけなのよ?」

律「10万ってたかがレベルなのか」

紬「四捨五入したら0じゃない」

律「10万の位を四捨五入するなよ」

紬「むむむ……」

紬「……そうだ。クローン技術でバイオ和ちゃんを10万人作れば」

律「それムギじゃなくて和の世界征服だよな」

紬「あ」


紬「むぅ……」

紬「……もしかして世界征服ってとっても無謀だったのかしら」

律「やっとわかったか」

紬「はぁ……」

律「そう落ち込むなって」

紬「……そうね」

紬「世界を征服するのはまた今度にするわ」

律「それがいいよ」

紬「また今度……次は武力行使をメインに据えて……」

律「……」

紬「……はっ、核弾頭を買わなくちゃ!」

律「……えー」


おしまい





ガチャッ

唯「ムギちゃーん! 言われた通り自販機のおつりのトコ漁ってきたよー……っていない!?」

唯「あれー? 500円貯まったら部室にって言ってたのに……」

唯「むむむ……」

唯「……」

唯「……ムギちゃんいないしこの500円、私が貰ってもいいよね?」

唯「……」

唯「……よし! アイス買って帰ろー♪」

バタンッ


ちゃんちゃん




最終更新:2010年10月19日 20:07