放課後!部室!
どうもこんにちは。中野 梓です。
新たなメンバーである三浦 茜(通称デビちゃん)が放課後にティータイムに
加入してから早くも1ヶ月が過ぎました。
当初は夢の中の人が実際に現れた!と言うことと、茜の強烈なキャラクターから日常に些細な変化がありましたが、
それも今となっては懐かしい記憶です。
もちろん驚かされてしまうこともありました。
1回や2回だけではなくて何度も何度も。
でもクラスの子たちも、1ヶ月も経てば「これが茜なんだ」と
納得してくれたのでしょう。
最近は茜も放課後ティータイムにもすっかり溶け込めてきて、まるで初めから
放課後ティータイムは6人で活動してきたのではないか、と思わせてしまうほどです。
技術や知識は私に言わせればまだまだですけどね。
ドタバタしつつも過ぎ去った1ヶ月でしたが、文化祭まであと3日となってしまいました。
いつものメンバーでの練習もさることながら
茜は今の所全員と演奏を合わせたことは数回しかありません。
先輩達は劇もあるようですし…、お互いの予定が合わないのが現状だと思います。
けど茜がいてくれたおかげで部室で1人、何てことはなかったし、良かったかな。
あ、ごめんトンちゃんもいたね。3人だね。
紬「梓ちゃん。ちょっといいかな」
梓「あ、はい」
でも、そんな日常がもうすぐ終りだなんて
茜が現れる前と、現れて放課後ティータイムに加入してからの変化。
そしてムギ先輩の言葉で、気づかなくて良い事まで気づかされてしまうなんて。
紬「気づいているのかな。梓ちゃんは」
その表情に若干の疑問を抱きながら、腰を据えて話を聞く態勢をとります。
もちろん実際にやってる訳ではなくて、精神的なことです。
だって何だかムギ先輩が普通じゃない気がしたから。
梓「何を…ですか?」
普通じゃない気がしたと言っても、ムギ先輩は笑顔だ。
それが私の不安を逆に沸き立てていることは、ムギ先輩には言ってはいけない。
紬「茜ちゃんがお父様に形見でもらったっていうユーフォニアム」
紬「新品その物だったわ。錆びどころか指紋すら殆どついてない。まるで買ったばかりのような」
梓「……何が言いたいんですか」
唇に持っていこうとしていたティーカップを止めてムギ先輩にそう返す。
でもこの先は聞いちゃいけない。そんな気がした。
紬「茜ちゃんは実際は存在していない人だって言う事。今は誰かの意志で存在しているだけであって」
どうして突然そんな事を言うのか。
何故それを、あえて部室に私とムギ先輩しかいない時を狙って言ってきたのか。
その言葉を発した後も、ムギ先輩は笑顔を続けていました。
紬「この世界に亀裂…のようなものが走ってきている気がするの。
紬「元々、茜ちゃんはこの世界に存在していない人だから、壊れかかっているのかもしれないわね」
ムギ先輩はティータイムをしているままの、軽い感じ、それでいて優雅な感じで言いました。
梓「…何を言って」
茜のことがあってから、非現実的な事、いつもは軽く流してしまうようなファンタジー世界でしか見られないような現象を
少しは考えるようになってきていた私。
結局は有り得ない事。で終わらせてしまうけれど、茜はその有り得ない事をして私達の前に現れた。
『みんなの夢に現れる』。
こんなの昔の私なら絶対信じられないと思うし…。
だからかもしれないけれど、ムギ先輩の言葉を軽く流す、なんて今の私にはできませんでした。
紬「壊れかかっていると言っても、ドカーンって、爆発するようなものじゃないわよ?」
紬「ただ、茜ちゃんがいなくなった世界、いない事が普通だった私達の世界になる」
紬「元に戻る…って言うべきかしら」
元に戻る…って何だろう。
今は茜がいるのが普通なのに。
梓「茜がいなくなったら、みんな悲しみます。元に戻るなんて無理ですよ」
ちょっと笑みを含めながら返してみる。
別に変なことを考えてはいないけど、残酷な事を平然と言ってのけているムギ先輩に対してのささやかな仕返しのつもり。
紬「多分、だけど。記憶もなくなるんじゃないかしらね。今までの茜ちゃんとの記憶はなくなって…」
紬「茜ちゃんが現れてからの1ヵ月は、初めから茜ちゃんがいなかったことにして記憶に残る…とか」
まだ笑っている。
何で笑っているんですかムギ先輩。
自分でどれだけ酷い事を言っているのか、わかっていないんですか?
紬「気づいてないみたいだから言うけど」
紬「梓ちゃん。茜ちゃんが現れる前と、現れた後で、変わった所。あるわよね」
茜が転校してきてから変わったこと何ていくらでもある。
茜がきてから楽しくなったし、憂と純と茜とお泊りとかして
きっと一人だったはずの部室で、茜と一緒に練習したりして
ムギ先輩の言っていることはまだ信じられない。
けど、けど…。
梓「…夢に…茜が出てこなくなりました」
紬「えぇ。梓ちゃんだけじゃなくて、みんなそうでしょうね」
ムギ先輩が言いたいことはつまり。
茜は夢の登場人物…
ということなのだろう。
紬「これはみんなの夢なのよ。だからいずれ目が覚めちゃうわよね」
梓「……」
紬「目が覚めたら、きっと茜ちゃんの記憶はなくなってる。朝ご飯を食べて、支度をして…いつも通りの日常が始まる」
紬「初めからおかしいと思っていたの…」
紬「外観だけではなくて、まるで誰かが適当に考えたキャラクターみたいな茜ちゃんの設定に」
やめてください…ムギ先輩。
それ以上言ったら私、先輩に対して世間一般的に良くないことをしてしまうかもしれないです。
梓「ひとつ聞いていいですか。何でそんな事わかるんですか」
私は無表情だけど怒りを込めてムギ先輩に問うてみる。
無表情なのは、ムギ先輩が実際には悪くないからだ。
先輩はただ私に説明してくれているだけ。
紬「それはね」
そう言うと人差し指をそっと唇にあてて
紬「私、ファンタジー好きだから~」
梓「……はぁ」
結局ムギ先輩は夢の中でもムギ先輩だった。
何だか気が抜けちゃった。
次の日!
2年2組教室!
梓「……」ボー
これが夢ならいつ覚めるのだろうか。
考えてみたら、夢の中で寝て、夢の中で夢を見るなんて本当よく出来てる。
茜「おはよー梓っ!!いやー、今日は快晴快晴ぇー!」
茜「これで朝バッタと遭遇しなければ今日は本当に良い1日を過ごせたと思うのになー」
昨日、ムギ先輩にこんなことも聞いてみていた。
『この世界が夢だって。茜に伝えたらどうなるんでしょうか』
その問いにムギ先輩はこう答えている。
『うーん…。そうね。目が覚めちゃうとかあるかもしれないけど…でも』
『面白そうね』
そう言ったムギ先輩はうふふと笑っていた。
もうこの人は夢の中であることを最初から自覚していて、最初から楽しんでいたとも思える。
『あ、話すなら茜ちゃんだけにしてね。せっかく夢の中なのにみんなにここは夢だー!何て伝えるのは可哀想だし』
いつもより少しだけ小さな声でそう言った後、
ムギ先輩は茜が練習している吹奏楽部を見に行くと言って部室から出ていった。
梓「(悩んでるのは私だけ…かぁ)」
茜「梓?どうしたの?お弁当もらうよ?」
梓「ダ、ダメ!!」
……。
茜にここは夢だって事を伝えるべきなのだろうか…
ムギ先輩はあぁ言ってたけれど、私は放課後ティータイムのみんなに伝える事も考えていた。
やっぱり私だけで悩むのは嫌だったし…
唯先輩だけなら大丈夫かな、とかも。
けれど。
茜「明後日文化祭…だね」
梓「(あ…)」
純「そう!!文化祭!!文化祭なんだよー!!!」ウォー
憂「純ちゃんそんな大声出さなくても聞こえてるから…」
文化祭…。
茜がみんなに演奏を初披露する場となる放課後ティータイムのライブ。
茜「私の演奏絶対聞きにきてよね2人ともっ」エッヘン
憂「うんうん絶対見に行くよ!」
憂「(メインはお姉ちゃんだけど)」
純「ジャズ研のにもきてよねー?」
茜「勿論っ!」
梓「暇だったらね」
純「なんだとこのーっ」キャッキャアハハ
できるならば、茜と…、放課後ティータイム6人でライブをしたい。
それまでは目は覚めないでほしい。
だから茜にも、みんなにもそれまでは何も伝えないでおこう。
そんな結論に至ったのだった。
放課後!部室!
律「はーっ!!ムギぃお茶!」
唯「喉かわいたよムギちゃーん!」
紬「はいはい♪」
何度か合わせて演奏して、一段落した後再び席につく。
外はもう真っ暗だ。
律先輩は今日は泊まり込みで特訓するぞっ!なんて言っていたけど…
澪「中々いい感じになったよな。茜」
律「だなーっ!最初はユーフォニアムだし、茜も初心者だしでちょっと不安だったけど」
唯「もう私なんかより放課後ティータイムになくてはならない存在になってきたよねりっちゃん!」
律「おう」
唯「否定して。そこは否定して」
茜「エヘヘ、何か照れちゃいます…」
紬「うふふ」
そう、これが放課後ティータイムなんだ。
1人かけてもいけないんだ。
文化祭のライブは絶対成功させて…!それで…。
でもなんだろうこの不安は…。
茜「どうかしたの?梓」
梓「え…?」
律「そいやさっきから黙ってるなー」
澪「何かあったのか?」
紬「紅茶じゃなくてジュースでも出すー?」
唯「あずにゃん最近私に抱きついてもらえてないから落ち込んでるんだね!?」
梓「ち、違います!!それだけは絶対ないです!!」
梓「何でもないんです。ちょっと…緊張しちゃって」
茜「そんな事言って、唯先輩に抱かれてもらってる時いつも顔真っ赤にしてるよー?」
唯「やっぱりぃやっぱりぃ?」デヘヘ
梓「そ、それは恥ずかしいから!…あの私ちょっとトイレ行って来ますね!」ダッシュッ
女子トイレ!
梓「はーっ、いよいよ明日か」
茜「あーずさっ!」抱きっ
梓「にゃぁっ!!?って茜!?」
茜「えへへー、驚いた?唯先輩っぽくやってみたっ」デヘヘ
梓「も、もう…」
茜自身は自分が消えるなんて事、この世界が夢なんて事、当然わかってはいないんだ。
今は文化祭のライブのことを、ライブだけのことを考えよう。
そしたらみんなに言うんだ。そこでやっと荷が降りる。
この世界は夢なんだって…、茜は夢の中の登場人物なんだって。みんなに言うことができれば。
だからそれまでは…
梓「…茜」
茜「んー?」
梓「文化祭のライブ。絶対成功させようね」
ゆっくり、丁寧に、はっきりと、精一杯の笑顔を作って言った。
当然、茜はそれに答えてくれる。
茜「もっちろんっ!」
文化祭!
唯先輩達の劇も無事に終わり、いよいよ私達のライブが始まる。
茜にとっては初めてのライブ。さわ子先生が作ってくれたHTTシャツを着こなしていそいそとセッティングをする。
いよいよだ。
律「うっしっ!本番だぜみんな!!」
澪「う、うん…」
唯「やる気が湧き出てくるよっ!今なら何でもできる気がするよ!」フンス
紬「うふふ、楽しく演奏できるといいわね」
梓「はい!」
茜「梓、それと先輩方…」
律「おー?茜、緊張か?ここまできたら緊張を武器にしろっ!」
唯「大丈夫だよデビちゃん!私達頑張って練習したもん…!」
みんながセッティングしつつ話している中、茜も声を出す。
でも、あれ…何か様子が…ヘン…。
茜、どうしたの?ほら、早くセッティングしなきゃ。幕上がっちゃう。
茜「本当にありがとうございました…。私、楽しい経験できて良かったことです」
何を言っているの。楽しいのはこれからだよ。
茜「1ヶ月前に私は生まれて、不安だらけで学校に行きました」
あれ、声が出ない、なんでだろう。困るなこれからライブなのに。
茜「自己紹介が終わってすぐに梓に話しかけられて、放課後に軽音部の皆さんの所に案内してもらって」
ま、ボーカルじゃないしいいかな…ってダメか。
茜「あはは。皆さんから夢の中で私に会ったって聞いた時、もう私は気づいてたんです」
あれ、私だけじゃないや、唯先輩や律先輩たちも、口をパクパクさせてるのに声が出てない。
茜「でも、楽しかったぁ…。最後に憂と純に直接言えないのはちょっと心残りかな?」アハハ
困るよそんなんじゃ…、茜の
茜「皆さん。本当にありがとう。ライブできないのは惜しいけど、これ以上寝てたら学校、遅刻しちゃいます」
最初で最後のライブなのに…
みんなが光に包まれていく。
私は頭の中で叫んでいた。
唯先輩も律先輩も澪先輩もムギ先輩も、みんな泣きながら口をパクパクさせていた。
梓「嘘…、嘘だよこんなの…。これからみんなで…茜と…ライブを…」
でも茜だけは、真っ白に包まれて消えていく中で、最後まで笑顔だった。
えぴろーぐ!
梓「うぅーーん…っ、朝かぁ」
ベッドから見える位置にある近場の時計を見ると
針は午前7時30分を指していた。
いつもよりちょっと遅い。
梓「目覚まし鳴らなかったのかな…」
目覚まし時計の電源はONになっていた。
でも倒れてしまっている。
梓「これだから10分で勝手に鳴り止む目覚ましは…」
何てブツブツ言いながら起き上がる。
仕方なく何時もより駆け足で支度をして、朝ご飯を食べずに家を出た。
学校!
梓「(あ…)」
そういえば楽譜部室に忘れてきたんだっけ。
朝ご飯食べなかったから余裕あるし、ちょっと取りにいこうかな。
そう思った私は、職員室に部室の鍵を借りにいく。
さわ子「あら?さっき唯ちゃんがきて…」
梓「は、はぁ、そうですか」
唯先輩が朝から部室に行くだなんて、珍しい事もあるなあ。
私と同じで忘れ物取りに行ってるだけだったりして…
でも何となく嬉しくなって、私はちょっと早歩きで部室に向かう。
部室!
梓「おはようございまー……え?」
扉を開けると、そこにいたのは鍵を借りた唯先輩だけじゃなかった。
しかも何だか今来たばかりみたいな雰囲気だ。
澪「なんだ。梓まできたのか…」
唯「みんな揃って部室に忘れ物ー??」
紬「何かおかしいわねうふふ…、ってあら?」
ムギ先輩がいつもティータイムで私達が使っている机に目を止めた。
私も見る。唯先輩、律先輩、澪先輩もムギ先輩に釣られて、机に目を向ける。
そこには楽器があった。傷一つついてない新品同様の楽器が。
唯「なにこれ、ラッパ?」
律「あー、なんていったっけ。トランペット?」
それはとても軽音部とはかけ離れたものだったけど。
唯「あ。思い出したよ、楽器名」
唯先輩の一言で、全員が不思議と目を合わせる。
すると何故か、1つの楽器名が頭の中に浮かぶ。
律「あー?あたしも思い出したわ」
澪「不思議だな。私もだ」
紬「あらあら、じゃあみんなで一斉に答えてみましょうか」
唯「おぉおぅ!面白そうだねムギちゃん!」
そして、口に出す。
律「じゃあ、せーのっ!!」
「 「 「 ユーフォニアム! 」 」 」
おわり。
最終更新:2010年10月19日 21:51