――――

 平沢家 玄関先

律「はー、はーっ」

律「……ふーっ」

 ピンポーン

律「……」

 トッ トッ トッ

 ガチャ

憂「律さんじゃないですか」

律「やっほ」ポイッ

憂「どうし……」ポシュウ

 カチッ

律「……憂ちゃんゲット」

 ブー ブー

律「なんだっ」ビク

律「……ムギ。今度はメールか」パカッ

紬『1年の合宿で行った別荘を手配しておいたわ』

紬『グッドラック、りっちゃん!』

律「ムギ……」

 オネエチャアーン

律「……いや、これは罠だな」

律「なら、むしろ……」カチカチ

律『ありがとう、助かった』

律「よしっ」ポチッ

律「……憂ちゃん、邪魔するよ」ガチャッ

律「鍵穴は……埋める必要ないな」

律「かわりに内側の鍵はガムテープでガッチガチにしとけば良いか」カチャン

 ジィー バリッ ジ…ジ ビッ

律「うし……」ゴソ

憂『律、さん……』

律「悪いな、憂ちゃん……」

律「2日前、教室で憂ちゃんに抱きつかれてから」

律「ずっと。ずーっと。憂ちゃんとセックスする事ばかり考えてた」サス…

憂『……い、いやですっ!』

律「分かってるさ。だからこんな手段をとってる」

律「……心配するな。唯が帰ってくる前には終わらせるから」

律「もっとも、それがどれだけ夜遅くかは分かんないけど」

憂『……』

律「あそこへの片道が確か40分くらいだったな」

律「広い場所だし、入念にやるだろうから、捜索に最低2時間」

律「3時間半か。それだけあれば、じゅーぶんセックスできるな」

憂『……させません』キッ

律「まぁ……私も華奢なほうだけどさ」

律「家で家事してるだけの憂ちゃんよりかは力あると思うんだ」

憂『……甘く見てもらっちゃ困りますよ』

憂『ドラムのスティックとフライパンなら、どっちが重いかという話です』

律「大体動かすのは菜箸だろーに」

律「まっ、確かめるのが早いだろ……なっ!」シュッ

 ボンッ

律「ういちゃーん!!」ガバッ

 ギシッ

憂「くぅっ」ヨロッ…

 ドサァッ

律「んーっ」チュウ

憂「ふむ、ぐっ」ドンッドンッ

律「はふっ……」グイィッ

憂「っ、くうっ!」

律「……はぁっ」

律「ほら、な」

憂「まだ、こんなもんじゃ……」ググッ

律「……」

憂「……う、あああっ!」

律「さーてと。そんじゃ、好きなだけさせてもらおっかな」ゴソッ

憂「い、やぁ……」


――――

憂「……」ガクッガクッ

律「ん、は、あっ……くふぅっ!」ビクビクッ

 ニチュクゥッ

律「うはああぁぁ……♪」ゾクゥン

律「憂ちゃんサイコー……」ドサッ

憂「っ……」ギリ

律「んっふ……」チュム

律「あむ……ん、は」レロ…クチュッ

 チュ チュ… クチャ

憂「……」

律「……もう、7時か」ピチュッ

律「しょうがないな」

律「さてと……そんじゃな」ゴソゴソ

憂「……」

律「……憂ちゃん」

律「今日のこと、どう処理するかは憂ちゃん次第だけど」

律「……いや、なんでもない」ゴソ

憂「あ……」チラッ

律「……よし、と。あっ、鍵固定しちゃったんだっけ」

律「剥がすのめんどくせーな」バリバリ

憂「……」コソッ

憂「……」ギュッ

律「もー、なんでこんなにやっちゃったかなぁ。うし、取れた」ビビィ

憂「……ふっ!」シュッ

 ポシュンッ

 テンッ テン

律『……はい?』

憂「律さん」

 カチッ

憂「捕まえました」

律『……』

 カチャン

憂「……」ガチャ

律『ま、まって! どこ行こうってわけ!?』

憂「台所ですが」

憂「お姉ちゃんはまだ帰ってませんけど、晩ご飯を作っておかないといけませんから」

律『……はだかんぼで?』

憂「大きな問題はないと思います。ひとまずは」

 台所

憂「……うーん」

律『えっと……憂ちゃんも冷凍食品とか使うの?』

憂「いえ、めったに使わないんで溜まってしまって……」

憂「おまけにお姉ちゃんのアイスもたっぷりで」

憂「スペースがないから何か使っちゃわないといけませんね」

律『……へ』

憂「ミックスベジタブルとむきエビと冷凍ゴハン……」ガサガサ

憂「えびピラフライクなチャーハンにしよっかな」

律『……』

憂「……さて、スペースもできたし」

憂「律さん。入れちゃいますね」

律『う、ういちゃん……』

憂「ボールに長いこと入っていて、分かった事がいくつかあります」

憂「このボールの中は、重力を無視できたり、対衝能力に優れていて安全だったりはします」

憂「だからコロコロ転がったり、落っこちても中の人は平気なんです」ツン

律『……』コロ…

憂「でも、温度変化に対する機構は、はっきり言ってオマケレベルです」

憂「密閉こそされていますが……もし沸騰したお湯の中に落としたりしたら中は地獄ですね」

律『憂ちゃん、やめてくれっ!』

律『私がしたことがとんでもないことだってのは分かってるけどっ』

律『こ、こんなことしちゃだめだ!!』

憂「つまり周囲の温度が変わってしまえば、その中の温度も……まぁ、徐々にでしょうが変わっていきます」

憂「……いちいちグツグツ煮込んであげるのはガス代の無駄になりますんで」

憂「律さんは冷凍庫で凍らす事にしました」

律『やだ……やだぁ……!!』

憂「いいじゃないですか、凍死なんて日本じゃなかなかできないですよ」

憂「まぁ、その体なら……ボールが多少は手助けしてくれるでしょうから、6時間は持つんじゃないですか?」

律『やだっ、憂ちゃん、ごめんなさいっ、本当にごめんなさいっ!!』

律『まだ生きてたいんだ! ……聞いてくれよっ!!』

憂「……べつに、焚火でもして投げ込むんでも私は構わないんですけど」

憂「新聞紙とかたまっちゃってますし」

律『……っ』

憂「さてと。じゃ、冷凍庫があったまっちゃうんで、そろそろ」スッ

律『あ、ぁ……いや、いやだっ!!』

律『私にできる償いならなんでもっ、一生かけてやるからさぁっ!!』

憂「ですから、それで許してあげますって」コトン

憂「冷凍庫の中で、一生罪を償っていてください」

 バタンッ


――――

唯「ただいまー……」

憂「おかえり、お姉ちゃん」

唯「……ういー」ギュッ

憂「?」

唯「あずにゃんがね……悪い子だった」

憂「……」

唯「私、なんか不安だよ……」ギュウ

唯「今日、りっちゃんが部活中にいなくなっちゃったんだけど」

唯「……りっちゃんは、悪い子じゃないよね?」

憂「……」

憂「私は律さんじゃないから、わかんないや」

憂「……ご飯できてるよ」


――――

 深夜

唯「……」コソッ

 パチン

 パアッ

唯「へへっへ……」

唯「いちばん悪い子は私だったりします!」

唯「ういがアイス一個だけしかくんないからいけないんだもん……」

 ガララッ

唯「……ん? なんだろこれ」スッ

唯「霜ついてる……」ゴシゴシ

唯「……マスターボールだ」

 …バタン


唯「え……」ジィッ

唯「中に、誰か……いる……」タラッ

 カチッ カチカチッ

唯「あ、開かない……なんでぇ」

唯「凍ってるからかな……そしたらお湯掛けないと……」

唯「そうだ、お風呂場に……」トトッ

 浴場

 キュ キュ

 ジャバー…

唯「お願い、開いてっ……」カチャカチャ

唯「開いてよぅ……!」

 カチリッ


 ボフンッ

唯「ひゃっ、さむぅ……」

唯「で、でも開いたよ。早くお湯掛けてあげな……」

唯「きゃ……」

 ゴトンッ

唯「……り」

唯「……ううんっ、ううんっ」 

唯「とにかくお湯をかけるだけだよ!」グッ

 ジャバアアァ…

唯「大丈夫ですからね。しっかりして下さい!」

唯「……らちが明かないよ。浴槽に……よいしょっと」

唯「あたたまってくださいね。どなたかは存じませんがっ」

 ジャアア…

唯「起きて、くださいよ……」

 「……」

唯「……りっちゃんっ!」

唯「……」

 キュ キュ キュ

唯「おねがい……」

 ジャアアアアアー

唯「神さま、りっちゃんを助けて……」

唯「目を覚まして、りっちゃん……」

律「……さ」

唯「!!」

唯「りっちゃん、がんばって……」グッ

唯「助かるよ、ぜったい助かる!!」

 ジャアアアアア

律「……さい」

唯「うん、うんっ」

律「ご、め……さ」

唯「……」

律「う……あ……?」ムクッ

 ピシシッ

律「ってぇっ!!」

唯「りっちゃん!!」

律「ゆ、い……」

唯「りっちゃん……よかった」グスッ

律「……かんぜんに死んだと思ってた……」

律「唯が助けたのか……?」

唯「うん、そうだよ!」

律「……」

律「……バカヤロぉ」プイッ

唯「え……」

律「なんで、助けたんだよ……」

律「死のうって思ってたのに」

律「あんなに怖ぇって知ったら……もう、死ねねえよ」

唯「りっちゃん……? よくわかんないよ」


律「でもやっぱ、唯は私を助けちゃいけなかったって」

律「……私は。憂ちゃんをレイプしちまったんだから」

 サアアアアァ…

唯「……うそ」

律「本当だ」

律「ボールで憂ちゃんを捕まえて……部屋の鍵をガムテープで固めて逃げられないようにして」

律「……押し倒した」

唯「うそだよ……ねえ、りっちゃん……」

唯「憂は……私と付き合ってるんだよ? きのう言ったよね?」

律「あぁ……分かってる。頭じゃいくらでも分かってるんだ」

律「それでも、ボールを手に入れたとき、考えられたのは……」

律「これを使って、憂ちゃんを手際よくレイプすること……それだけだったんだ」

唯「……」

律「……それで、な」

律「そのあと……全部のあと。私は、ひとり台所におりたんだ」

律「それで私は、冷凍庫の食材の陰にボールを置いて」

律「スイッチを押した」

唯「……」

律「あとは憂ちゃんが冷凍庫の開いてるのに気付いて、バタンと閉めてくれたよ」

律「罪悪感にさいなまれた……なんて理由じゃなくって」

律「もともと死んでやるつもりだったんだ」

律「最低な事をするって、頭では分かってたから」

律「……死ねなかったけど」

唯「ごめん……」

律「いや、いいさ……見捨てろって方が酷だよ」

唯「……そうだね」

 シャアアアア…

唯「りっちゃんのしたことを知ってても……私はりっちゃんを助けたと思う」

唯「それは多分、私が本当の意味で当事者じゃないからかもしれないけど……」

唯「思う限りでは、やっぱり私はりっちゃんを死なせたりしない」

律「……」

律「バッカじゃねーの……」

唯「ひどいなぁ」

唯「……だってさ。仲間なんだもん」

唯「りっちゃんは同じ立場だったら、私を殺す?」

律「……」

律「……いや」

唯「そういうことなんだよ」


5
最終更新:2010年10月22日 21:24