澪「えっ」

唯「急にどうしたの?りっちゃん」

梓「珍しくまじめな顔して・・・」

紬「何かあったの?」

律「そう・・・あれは昨日の事」

澪「律は会議に行ってたよね(というか副部長って私じゃないのか)」

唯「それでりっちゃん部活来れなかったよね」

律「うん。まあその時の話なんだけど」

――――――――――――――――――――――――――――――――――

私が昨日出た会議は「文化系クラブ部長級会議」って言うんだけど、
その名の通りすべての文化系クラブの代表が集まるんだ。
そこで話し合われることは今後の部の予算配分にも影響するからみんなもう超真剣。
まあ私は昨日和に言われるまで忘れてたんだけどね。なんだよ!結果的に出れたんだから
いいじゃん!

何も準備してなかった私だけど、とっさのアドリブは得意だから気楽な気持ちで
会議に臨んだ。しかし会議の流れが不穏な感じになったんだ。

和「では、次に音楽系クラブの活動についてです。まず合唱部さんお願いします」

合唱部部長「はい。」

あ、和は生徒会で文化系クラブの担当だったからその会議の進行役をやってた。
なに?唯知らなかったのか?いつも思うけど唯は和の幼馴染としてなってないな。
私なんか澪の恥ずかしいエピソードとかたくさん知って・・・痛い!
うー乱暴なんだから澪は・・・あ、わかったわかった続けるって

合唱部部長「私たちは地域の合唱コンクールで優勝しました。
      審査員の方々も今後にさらに期待すると言ってくださいました。」

ジャズ研部長「私たちは他校の学園祭にゲストとして招かれ一緒に演奏を行いました。
       また、数週に一回他校の音楽部と合同練習を行い交流を深めています。」

吹奏楽部部長「私たちはコンテストで・・・」

他の音楽サークルが功績を自慢してたけど、軽音部には自慢できる功績が
ない・・・そして私の番が来た

律「軽音部はえーと、学園祭で演奏しました!」

合唱部部長「あら?それはどこの音楽クラブもそうでしょ?」

んなことはわかってるよ。さっきも言ったけどこの会議の内容は予算に影響する。
さらに詳しく言うと、部の予算はすでにもう学校側に決められてるんだ。
で、その予算の各クラブへの配分を決定するのが生徒会ってわけ。
だから会議では、自分の部の良く見せて取り分を増やすために同じ系統のクラブの問題点を指摘して、激しく攻撃しあうんだ。

まあ私も会議は初めてじゃなかったし、実績がないことを指摘されるのも毎回だった。
でも軽音部は今のところそこまで予算が必要なわけじゃないし、今回も適当に乗り切るつもりだった。 でも・・・予想だにしない事態が起こったんだ。

合唱部部長「というか・・・なぜ軽音部は毎日音楽室を使ってるの?」

律「え・・・?」


律「それは・・・先輩の代からずっと使ってたし」

合唱部部長「すこし調べさせて貰ったんですけど、昔の軽音部は桜高の音楽系クラブの中で
      最も規模が大きくて実績もあった。だから音楽室を優先的に利用する権利が認め
      られたらしいの。」

律「そうだったんだ」

合唱部部長「でも今はどう?軽音部は前音楽系クラブ中、規模も実績も間違いなく最低。
      そんな部が音楽室を毎日使ってていいのかしら?」

ジャズ研部長「言われてみれば・・・」

吹奏楽部部長「不公平な気がするわね」

合唱部部長「どうでしょう?もっと音楽室を有効利用できるクラブに
      音楽室の使用権を譲るというのは?」

ジャズ研部長「いいですね。」

吹奏楽部部長「賛成」

律「ちょ、待ってよ!合唱部もジャズ研も吹奏楽部も部室があるだろ!?」

合唱部部長「あるけど、音楽室ほど広くないし思いっきり練習できないわ。講堂を借りて練習
      はするけど、他のクラブも借りてるから毎日できるわけじゃないの。
      それに比べて音楽室を毎日使えるのはとっても魅力的なのよ。」

律「う・・・」

合唱部長「軽音部は音楽室に相応しくないんじゃないですか?生徒会さん?」

和「・・・少々お待ちください」

――――――――――――――――――――――――――――――――――


律「それで結局、生徒会規約やら何やらで、音楽室の利用権を軽音部、ジャズ研、合唱部、
  吹奏楽部のどこに与えるべきかの投票を2週間後に行うことになった。」

澪「投票って・・・どこがするんだ?」

律「今言った音楽系4クラブを除いたすべての文化系クラブ。」

梓「大変なことになりましたね・・・」

唯「音楽室使えなくなっちゃうの?」

紬「ティーセットを持ち帰らなくちゃ・・・」

律「何言ってんだよ!まだ結果は決まってないだろ?」

澪「でも、かなり不利だろ?実績がないのは本当なんだし」

唯「えー!ムギちゃんのお菓子食べられなくなるの嫌だよ!」

梓「そういうこと言ってるから実績がないんですよ!」

律「まあ落ち着け。会議が終わった後、和に聞いたんだ。どうしようって。」


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律「うー・・・。音楽室使えなくなったらどうすりゃいいんだよ」

和「律。生徒会の私がこんなこと言うのは良くないかもしれないんだけど、
  あきらめちゃダメ。チャンスはまだあるわ。」

律「チャンス・・?でも、今更実績なんて作れないし・・・」

和「確かにここままだとみんな軽音部には投票しないでしょうね。
  一番実績がない部には普通投票しない。」

律「うん・・・」シュン

和「だけど、いまから出来ることだってある」

律「え、なにをすればいいんだ?」

和「政治の世界で重要なのは、人脈と根回し。これに尽きるわ。」

律「えっと、どういうこと?(政治の世界?)」

和「そうね・・・例えば、今私はあなたにアドバイスしてるけど、なんでだと思う?」

律「それは・・・友達だから?」

和「その通り。私が軽音部と何の面識もなかったらここまで協力するはずがない。
あなた達は、私と親しいから生徒会の情報や、他の部活の情報も得やすい。これは他のクラブが簡単には得られない特権よ。つまり軽音部はすでに生徒会に人脈を持っているということになるわね。」

律「すげえ・・・!これが人脈の力か・・・!」

和「簡単にいえばそういうことね。」

律「つまり、他の部と仲良くなればいいってことか?」

和「それが出来ればいいんだけど、人脈はすぐに構築できるものではないわ。
  他の部には、今ある人脈を使いつつ根回しをしていくべきね」

律「根回しって?」

和「要するに、軽音部に投票してくださいって事前にお願いすることね」

律「お願いすれば入れてくれるのか?」


和「それだけではもちろん入れてくれないでしょうね。だから、頼み方が重要なの。
  最も効果的かつ単純な根回し方法は、対価を用意すること。」

律「・・・買収ってこと?」

和「そういう手段もあるけど、お金を渡したり物をあげたりとかは生徒会規約に反してるから
  ダメよ。」

律「じゃあどうすればいいんだ?」

和「それは部によっていろいろ。たとえば演劇部。最近は部員が少なくなって役者不足らしい
  わ。だから投票してくれれば軽音部を劇で使っていいですよとか、ね。」

律「なるほどおー!ありがとう!和がいてくれて本当に助かるよ!」

――――――――――――――――――――――――――――――――――

律「・・・というわけだ」

唯「よくわからなかったけど和ちゃんすごいね!」

紬「ふふ、楽しそうね♪」

澪「ところで・・・副部長の件はどう関係あるんだ?」


律「ああ、それはね。普通クラブは部長だけじゃなくて副部長、
  会計とかも決めてるんだって。だからそういうのをちゃんと決めて
  から部の体制をきちんと示した方がいいって和が。」

澪「なるほど・・・。で、誰がやるんだ?(副部長やりたいけど・・・
  恥ずかしくて言えない)」

律「私が考えてみたんだけど、澪が副部長でムギが会計・・・でどうかな?」

紬「いいわよ♪」

澪「しょ、しょうがないな!(よっしゃああああああああ)」

律「よし!私が部長で澪が副部長、ムギが会計で、梓は書記だったよな!これで軽音部の臨戦
  態勢が整った!」

梓「そういえば私書記って言われましたね、前に」

唯「あれ?私は?」

律「ギク!あ、あれだ・・・唯はいてくれるだけでみんな幸せなんだよ!」

唯「そうなんだ~えへへ!」

律「(唯に細かい仕事は怖くて任せられないからな・・・)」

澪「(お前が言うな)」

律「というわけで!これから2週間後の投票までに各クラブに根回しを行っていく。
  方法はこれから考えよう。これが文化系クラブのリストだ!」ピラッ



アニメ研究部
映画研究部
英語研究部
園芸部
演劇部
オカルト研究部
科学部
合唱部         投票権なし
華道部
軽音楽部        投票権なし
コンピューター研究部
茶道部
写真部
ジャス研究部
珠算部
書道部
新聞部
吹奏楽部        投票権なし
ジャス研究部      投票権なし
天文部
美術部
文芸部
放送部
漫画研究部
料理部




律「これが桜高文化系クラブ一覧だ。全25のクラブがある」

澪「音楽クラブ除いて21か・・・」

唯「たくさんあるね~」

梓「ここを全部回らなきゃいけないんですか・・」

律「でもがんばるんだ!」

紬「あの~」

澪「どうしたんだ?」

紬「無理に21クラブ全部に根回しする必要はないんじゃ?」

律「ん?どゆこと?」

紬「1クラブ一票なら、過半数の11クラブが投票してくれれば確実に勝てるでしょ?」

澪「そうだな。11クラブだけに根回しするのは不安にしても、ある程度は絞っていいかも」

唯「ムギちゃん頭いい!」

紬「ふふ♪ありがとう」

律「まあその辺の複雑な計算はお前らに任せるよ」

澪「複雑でもないと思うけど」

律「よーし!いける気がしてきたぞ!」

梓「でも・・・合唱部やその他もそういう根回しはしてくるんじゃないでしょうか・・・」

律「あ・・・でも、頑張るしかない!」

澪「敵と仲のいいクラブとかには根回ししても無意味かもな」

紬「その辺の関係がわかればいいけど・・・」

唯「じゃあ私、和ちゃんに聞いてみるよ」

律「サンキュー。あと、みんな知り合いにどっかに入ってる子とかいないかな?」

梓「あの・・・投票権のあるクラブじゃないんですが、
  ジャズ研に入ってる友達ならいるんですけど」

律「おお!」

澪「それなら、その子を通してジャズ研の動きを調べられるかな?」

梓「はい、やってみます」

唯「さすがあずにゃんだね!」

梓「ちょ、ちょっと、くっつかないでください!」


澪「でも油断するなよ。その子も同じ目的で梓に接触してくるかも」

梓「気をつけます」

紬「あとは・・・さわ子先生の動向ね」

澪「うん。私も思ってた・・・」

唯「え?さわちゃんがどうかしたの?」

律「いや、さわちゃんって吹奏楽部の顧問でもあるだろ?」

唯「あ~。そういえばそうだっけ」

澪「さわ子先生をこちら側につけられれば、
  吹奏楽部に対して相当なアドバンテージを得られる。でも逆にあっちに付いたら・・・」

唯「さわちゃんはきっと大丈夫だよ~。うちのティータイムいつも楽しみにしてるし」

律「そうだな。依存してると言っていいかも・・・でも顧問歴は吹奏楽部の方が長いし、
  油断はできないな」

澪「うん。さわ子先生はしばらく様子見した方がいいかも」

律「あれ・・・もうこんな時間か」

澪「結局練習できなかったな」

律「練習どころじゃないだろ?今は」

梓「まあそうですけど・・・」

唯「音楽室をまもらないとね!」

紬「みんな、頑張りましょう♪」

律「今日はそろそろ帰ろう。みんな、家でいい作戦とか思いついたら明日教えてくれよ!
  じゃあ明日からは戦いだ!しっかり休むんだぞ!解散!」



 投票まで あと13日




梓宅・夜

梓「ふう、大変なことになってきたな・・・」

梓「これから2週間忙しくなりそう」

梓「でも、律先輩はちょっと不安だな・・・」

梓「今日は解散なんて・・・甘いよ。この戦いで時間がどれほど大切か・・・」

ヴーヴー

梓「メール・・・純からだ。」

梓「ジャズ研も動き出したみたいだね」



紬宅

紬「この書斎に来るのも久しぶりね。斎藤。」

斎藤「はい。お嬢様。急にどうされたんですか?」

紬「ちょっとね、“投票”に関する社会学とか心理学について詳しく調べたくて」

斎藤「すぐにお探しします」



澪宅

澪「根回しか・・・」

澪「他人を説得するなんて、想像しただけで・・・私には無理だ」

澪「そういうのは社交性のある律とかに任せればいいよな・・・」

澪「そういえば、新歓の時期に文芸部のビラもらって、
  その時に文芸部の人と少し話したんだよね」

澪「知り合いってことになるのかな・・・
  私が率先して文芸部を説得するべきなのかな・・・」

澪「でも・・・入部するようなそぶりを見せといて結局入らなくて、
  私のことどう思ってるんだろ。かえって反感買っちゃうのかな・・・」



律宅

律「ああ~、今日は疲れたなあ!」

律「明日からが本番だな!気合い入れてかないと!」

律「徹夜で作戦考えちゃおうかな!部長だもんね!」

律「よっしゃー!やるぞー!」


聡「姉ちゃんやけにテンション高いな・・・こっちの部屋まで聞こえてくる・・・」



唯宅

唯「うい~アイスう~」ゴロゴロ

憂「ご飯食べてからって言ってるでしょ?それにもう冬だよ?」

唯「うい~そろそろコタツだそうよ~」ゴロゴロ

憂「もう、お姉ちゃんったら・・・」



翌朝

唯「りっちゃんムギちゃんおはよ~」

律「おーっす・・・」

紬「・・・ぉはよぅ」

唯「あれ、どうしたの?二人とも」

律「昨日例の作戦考えててさ、ほとんど寝てないんだよ・・・ふあああ」

紬「私も・・・本読んでたら寝れなくなっちゃって」


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最終更新:2010年01月25日 22:13