憂「果報は寝て待て、という言葉があります。素晴らしい言葉ですね」
憂「このお姉ちゃんは、不真面目のおかげで幸せになれました」
憂「なんでも真面目にやればいいというわけではない、賢く生きろということです」
憂「つまり普段からゴロゴロ寝てばかりのお姉ちゃんは偉いということですね」
憂「さて。今日はこれぐらいにして…」コツッ
憂「おや?こんなところに児童書が」ペラ
憂「あ、やっぱりこの本にも、同じようなことが書いてありますね」
憂「そしてその裏に隠れた教訓も。子供に読ませる話だからって、侮れませんよ?」
あるところに、『かわいいもの好きの平沢唯』とよばれるわか者がおりました。
唯ちゃんは、たった一人であちらこちらと旅をしていました。
ある日の夕方。唯ちゃんはやどを探していました。
「一ばんとめてくださいな!」
「あいにく※、今日は部屋があいておりません。
もっとも、あなたが、こわいことを知らないお方なら、りっぱなお城にご案内いたしましょう」
そのお城は、やど屋の主人によると、お城へ行った人は、
だれひとり生きて帰れない、おそろしい所なのだそうです。
「お化けやしきっ!?行ってみたーい!」
かわいいお化けと出会えると思った唯ちゃんは、
明かりと、アイスと、ギターのギー太を持って、お城に出かけていきました。
※あいにく――つごうのわるいさま。
お城についた時は、もうすっかり夜になっていて、お城の中もまっくらでした。
唯ちゃんが、くらいろうかをずんずんおくへ進んでいくと、
目の前に、がっしりとしたとびらがあらわれました。
とびらを開けて中に入ると、広い部屋でした。
正面には、大きなソファーと、かべ一面のレコードがありました。
「今夜はここでねよっと。早くお化け出てこないかなあ」
すると、いきなりソファーのかげから、
「出るぞ!」という声がしました。
「出て来ーい!」
と、唯ちゃんが返すと、白くてきれいな足が片一方、ソファーに引っかけられました。
唯ちゃんはアイスを食べながら、足をよくかんさつしました。
するとまた、ソファーのかげから、
「出るぞ!」
という声。
「バッチコーイ!」
唯ちゃんが答えると、ぴょこっと、もう一方の足が出てきました。
唯ちゃんはその足をおかずにしてもうひとつアイスを平らげました。
それからも、唯ちゃんが答えるたびに、
細くやわらかそうなうでや、緑のくろかみ、そして大きなひとみのととのった顔が出てきて、
「あっ」と思う間に、唯ちゃんの前には、かわいらしい女の子がすっくと立っていたのです。
唯ちゃんは、たくさんつみかさなった空のカップを、高くかかげました。
「今日からあなたはあずにゃんだね!」
すると、あずにゃんが、かわいい声で、
「その明かりを持って、こっちに来い!」
と、言いました。
唯ちゃんは言われた通り、明かりを手に持ち、あずにゃんにぴたりとよりそいました。
「もうちょっと、はなれて」
とあずにゃんが、今度はてれくさそうに言ったので、唯ちゃんは、しぶしぶ離れました。
唯ちゃんは、あずにゃんの後について、部屋から部屋を通りぬけていきました。
すると、二人の前に、おもおもしい鉄のとびらがあらわれました。
「あけろ!」
「あずにゃんあけて~」
あずにゃんは、小さなかたで、ガンととびらをおしましたが、
とびらはあかなかったので遠回りすることにしました。
やがて唯ちゃんとあずにゃんは、しめっぽい石のへやに出ました。
あずにゃんは、ゆかの大きなしき石をさして言いました。
「持ち上げろ!」
「あんな大きいの持ち上げられないよお」
けっきょく二人でがんばっても持ち上げられなかったので、あきらめてソファーのあるへやにもどって来ました。
二人でソファーにこしかけると、あずにゃんが言いました。
「これで、城の中のたんけんは終わった」
しかし、唯ちゃんは、
「まだたんけんは終わってないよ」
と言うと、あずにゃんをソファーにおしたおし、
「ここのたんけんがね」
と笑いました。かわいいものを目の前にした唯ちゃんのむらむらは、もうがまんのげんかいでした。
「あずにゃん分ほきゅう※完りょう!かわいかったよ、あずにゃん」
唯ちゃんがあずにゃんをひととおりたんけん※し終わるころには、
あずにゃんはすっかりじゅうじゅんになっていました。
「おまえは一度も私をこわがらなかった!ああ、とうとう私のまほうはやぶれた!」
と、あずにゃんはくやしそうに言うと、こんどは、ほほえみながら言いました。
「そして、あなたのまほうにかかってしまった」
そのことばがおわると、あずにゃんはうでも足も力をぬいて、唯ちゃんに体をあずけました。
「私は、いつまでもあなたのものです。あなたをずっと待っていました、ご主人さま」
唯ちゃんは、朝までじっくりとあずにゃんをかわいがり※ました。
※あずにゃん分ほきゅう――せい的な意味で。
※たんけん――せい的な意味で。
※かわいがり――せい的な意味で。
さて、東の空が明るくなると、
「ふわふわ時間♪ふわふわ時間♪」
という、歌声が聞こえてきました。
唯ちゃんを引き取りに来た、そうぎやの連中でした。ところが、どうでしょう。
「かわいいいあずにゃんをみんなが見に来てくれたよ。自己しょうかいしようね」
「はっはひぃっ!ご主人さまの、しょゆう物のぉっひぃ!あずにゃんですうう!」
「お上手お上手。ほら、もっとないて」
「ああんっ!みなさん、ご主人さまにお○んこいじられてイっちゃういやらしい私を見てえへぇぇっ!!」
「……なんだこれ」
死んだはずの唯ちゃんは、まどにこしかけて、あずにゃんとまぐわっている※ではありませんか。
こうして、『かわいいもの好きの平沢唯』と平沢あずにゃんは、
この大きなお城に住んで、しあわせにくらすことになりました。
ところが――
※まぐわっている――セックスしているさま。
ある日のこと。
「あーずにゃん!エッチなことしよ?」
「あんっ…ダメですよお…ごはん、つくれないじゃないですか…」
後ろからだきついて来た唯ちゃんにふり向いた、はだかエプロンのあずにゃんは、
そこに、おそろしいすがたを見たのです。
「やっ、だれだ!あっちへ行け!あーっ!」
あずにゃんは、唯ちゃんのかげになりすましていた憂せん手におどろいて、死んでしまいました。
おしまい
最終更新:2010年10月24日 00:12