「ごちそうさまでしたー!」

「私、お風呂入れてくるね」

さて、食器を洗いたいと思います。

いっちょいいところを見せてあげま……。

ガラガラ、ガチャン。

「あっ……あーあ、やっちゃいましたね立花先輩」

平沢家の食器が粉々になってしまいました。

黒猫クンがまるで水を得た魚です。

「こりゃ、ただじゃすみませんね。唯先輩、悲しむだろうなーあ」

……はは。


……考えてみたら、私っていいとこないですよね。

勝手に勘違いして暴走するし、失敗ばかりだし。

進路もいまだに決まってないですし。

こんな私、唯には相応しくないですね。

黒猫クン、あとは任せたよ。

「……わーわー、立花先輩!ごめんなさいごめんなさい!もう泣かないでください!」

泣いてなんかないもん。心の冷や汗だもん。

「私もいっしょに唯先輩に謝りますから!ほら、いっしょに片付けましょう!」

黒猫クンが私の目元を布巾で拭ってくれます。

ありがとう、キミっていいとこあるね。でも布巾は止めて。

「ありゃりゃ、大変」

唯が戻ってきました。

ごめんなさい、私がやりました。本当にごめんなさい。

「あの……すみませんでした!」

「いいのいいの~。二人とも怪我はなかった?」

唯は怒りませんでした。私の心配をしてくれました。

「姫にゃん、意外に泣き虫さんなんだよね~」

泣いてないってば。

「私もよく失敗するんだ~。今もお風呂の栓閉め忘れたままお湯入れちゃってるし」

いや早く閉めてこようよ。

紆余曲折ありましたが、入浴タイムです。

黒猫クン、先に入りたまえ。私と唯で後から入るから。

「ダメですよ!私と唯先輩で入りますから、立花先輩がお先にどうぞ」

「一人ずつじゃ、ダメなのかなぁ?」

これは珍しい、唯のツッコミです。


結局三人で入ることにしました。

おや?キミたち、バスタオルは?

「ほえ?なんで?」

「バスタオル巻いて入浴なんて、おかしいでしょう?」

え?……ええええぇー!?

いやいやいや、バスタオル巻いて入浴なんて当たり前でしょ?

だって小学校の林間学校では、みんなそうしてたよ?

見えちゃうでしょ?見えちゃうから!

見えちゃうから目の前で脱がないで!ああああ、一糸まとわぬ唯が目の前に、無理無理無理!

ていうか私も脱ぐの?ごめんなさい無理です、心の準備が!うあああ唯止めて、せかさないで!うわあああ……。

「……姫にゃん、どうして壁の方を向いてるのかな」

「ほっときましょう。そういう年頃なんですよ」

聞けば軽音部の合宿でも、みんな無防備に入浴しているのだとか。

キミたち、汚れてるよ。フケツだよ。

若者の性は乱れてるよぅ……。

「あずにゃん、お背中流したげる~」

「どうもです」

なんてうらやましい。いやちっともうらやましくない!

「後で姫にゃんのお背中も、流してあげるね」

にゃあああああんっ!?

……私にはソフトボールで鍛えた足がある。大丈夫、きっとうまくいくさ。

「はい、終わったよ~。次は姫にゃん!」

逃げろっ!

「あ、こら!あずにゃん捕まえて!」

わ、こら何をするんだ黒猫クン!止めろ、止めるんだ!お願い止めて、許して!いやあああぁぁぁ……。

「姫にゃんったら、照れ屋さんなんだから」

モウ、オヨメニイケナイ……。

「子供なんですよ」

幼児体型のキミには言われたくないよ。

「はい、コーヒー入れたよ」

「姫にゃん、砂糖とミルクは?」

いらない。

「ブラックかぁ~。大人だねぇ~」

「無理してるだけじゃないですか」

うるさいな、子猫のキミはミルクでも飲んでなさい。

ねえ、唯。

「んー?」

唯は進路どうすんの?

「私は進学にする。N女子大に決めた」

……そっか、唯も進学するんだ。

大学で何を勉強するの?将来は何?

「んー、決めてないや」

……何それ。

「私、軽音部のみんなとずっといっしょにいたいんだ。だからみんなで同じ大学を進路ににしたの」

ふぅーん、いいなあ。……ニガっ。

それからいっぱいおしゃべりしました。

気がついたら夜中の一時。そろそろ寝ないと。

居間に布団が三つ。今日は唯もいっしょに寝るようです。

……って黒猫クン。何で唯の隣の布団を取ってるんだ。

「悪いですか?唯先輩のボディガードです」

そんなおいしいポジションを、キミに譲るわけにはいかないな。

「あなたは何をするかわかりませんから」

お忘れのようだが、私はキミの先輩だよ?

「こんな時ばかり先輩風吹かせないでください!」

「あーもー、私が真ん中の布団にするからケンカしないの!」


草木も眠る丑三つ時。

眠れません。

ブラックコーヒーが予想外に効きました。

隣の唯を見ると、もうすやすや寝息をたてています。

やっぱり寝顔、可愛いなぁ。写真撮っちゃおうかなぁ。

おや?

よく見ると、黒猫クンが唯の背中に抱きついているではありませんか。

寝ぼけたフリしてるけどバレバレ。バッチリ起きてます。

負けてたまるか。私は正面からガバッと、

「……むにゃ、あーいーすぅー……」

ふおおー!?

なんと唯が自ら抱きついてきました。こら、私はアイスじゃないよ。

てか顔近いって。ちょっと唯、ダメだよ。

ヤバいって。これ以上はヤバいって!まだ心の準備ができてないのに!唇が、唇がああぁぁあ!



私の意識は、そこで途切れた。



翌朝。とってもいいお天気です。

なんだか素晴らしい夢を見た気がします。

黒猫クン、おはよう。爽やかな朝だね。

おや、目が真っ赤に腫れてるよ。どうしたんだい?

「……知りません。もう知らない……」

ほえ?

「唯先輩のばかあぁー!フケツです、最低です!」

何を言ってるんだ、この子は。

「みんな大嫌いだああぁぁあ!わああぁぁああん!」

やれやれ、年頃の女の子はこれだから困る。

楽しい一日はあっという間に終わります。

気がつけばもう帰る時間。

ちなみに黒猫クンは、泣きながら先に帰ってしまいました。

「またいつでも遊びに来てね、姫にゃん!」

ありがとう、とても楽しかったよ。

「お姉ちゃん、ただいま!」

へえ、あなたが憂ちゃんか。本当に唯にそっくり。可愛いなあ、はじめまして。

「あら……あなたがお姉ちゃんの言ってた立花姫子さんだったんですか……」

ざわり。

何故でしょう。一瞬、凄まじい寒気と恐怖に襲われました。


……

私のお気に入りの時間。

音楽室まで全力疾走。そして邪魔なカバンをスラムダンク。

「姫にゃん、いらっしゃい!」

歓迎の言葉と共に唯の強烈なハグ。うむ、至福至福。

あのね、唯。今日はキミにお知らせがあるんだ。

「何かな、姫にゃん?」

あのね……私も目指すことにしたんだ、N女子大。

「ほんと?やった!これでみんないっしょだね!」

それでね、もしいっしょに入学したら、……HTTに入れてほしいの。サックスとかどうかな?

「もちろん、大歓迎だよ!今から楽しみになってきたよ!」

「盗らぬ狸の皮算用ですよ、二人とも。まずはしっかり勉強しないと」

わかってるよ、黒猫クン。これでも唯よりは勉強してるから大丈夫さ。

「むむ、負けないよ!」

「さて、そろそろ練習しますよ」

待って、もう一つ。

一瞬、澪さんと目が合う。小さくうなずいてくれた。

ねえ唯、完成したよ。

私の思いを込めた詞。

受け止めてくれるよね。

溢れんばかりのこの気持ち。



終わり



最終更新:2010年10月26日 21:12