秋山澪はお腹が痛かった
彼女は胃痛持ちなのだ

しかし彼女の場合は特殊で、胃の痛みによるストレスが彼女の精神を蝕み、
彼女の胃を痛めつけている

さらにその痛みがストレスとなり、彼女の胃痛を強化し続けるのだ

澪「…痛い」

律「大丈夫か?澪」

そんな彼女の良き理解者であるカチューシャの女子高生、
所謂田井中律という人物はまた始まったのか、と心の中では思っていた
しかし、それを口にすることで澪に致命的な胃痛を与えてしまうことも知っていた

そんな律のことをよく知る澪は、律を心配させてしまったことと、
自身が内心良く思われてはいないのではないかという不安感からさらに胃痛を強めてしまうのだった


しかし、この新たな胃痛の原因は元はと言えば自分が痛いと呟いてしまったことにある
その後悔がさらに彼女を苦しめるのであった

律「本当に大丈夫か?保健室…」

澪「…ヤダ」

彼女が保健室へ行くのを断った理由はいくつかある

単純に彼女が保健室が嫌いなこと
保健室へ行くのが恥ずかしいこと
幼馴染に迷惑をかけたくないということ

しかし、休むことを我慢してしまった彼女に更なるストレスが舞い込んできてしまったのは言うまでもない

律「無理だけはするなよ」

澪「ああ、すまん…」

律「謝んなよー」


放課後、この時間は澪にとってストレスをリセットできるチャンスであった
高級なお茶やお菓子は女子高生を癒すには十分すぎる薬なのである

澪「はぁ~、お茶はおいしいなぁ…」ホッコリ

紬「どんどんおかわりしてね♪」

唯「おかわり!」

紬「あらあら♪」

このようなやりとりも、彼女を癒す元となるのだ

唯「なんかゲームしようよ」

澪「いや、練習をすべきだろ」

彼女は反対意見を言っているが、内心はみんなと遊びたいのだ
もちろんこの日も練習より遊びが優先された

澪「あ、練習!」

部活動が可能な時間も大分遊びに費やしてしまってから、澪は気付いてしまった

梓「ちょっとでも練習しましょう!」

唯「十分遊んだし私はいいよ~」

律「唯が乗り気なんて珍しいじゃねーか」

紬「うふふ♪」

しかし、みんなが練習をする気であったため、澪はこの日は救われた

帰り道、彼女と律はいつも一緒に帰っていた
もちろんこの日も例外ではなかった

律「…でさ」

澪「何?」

律「今日は何で胃が痛かったんだ?」

澪「…聞くな、胃が痛くなるだろ」

律「ごめんごめん、でももし澪がいいならいつでも聞いてやるよ」

澪「…いつも心配かけてごめんな」ボソッ

律「ん?今なんてった?」

澪「…何でもないよ!」

律は彼女の良い理解者だ
この時は不思議と律の優しさが腹部に衝撃を与えることはなかった

律「んじゃ、また明日な」

澪「ん、また明日」

律は彼女に色々な方法で胃痛を解消させようとしてくれていた

初めは小学生の時、彼女は全校生徒に作文を発表しなければならなかったのだが
そのせいで彼女は胃を痛めてしまった

そんなとき律は

律「みんなパイナップルだと思えばいいんだよ!ほら、パイナップル!」

と言ってパイナップルのマネをし、彼女を助けてくれた

その他にも、語尾に「だぜ」と付けると胃が痛くなくなる等も彼女の提案であった

そんなことを思い出しながら彼女はボーッと過ごしていた

澪「…もうこんな時間、こんなにボーッとしてたらまるで唯だな」

母親の「お風呂沸いたわよ」の声にハッとして、彼女は我に返った

お風呂も彼女にとっては癒しの時間
もしかすると彼女は癒される天才なのかもしれない

ザバー

澪「♪」

彼女はこの時は更なるストレスを覚えるとは思ってもみなかった


翌日、彼女は胃が痛かった

澪「…」

唯「おはよー澪ちゃん」

澪「ああ、おはよ…」

唯「どうしたの?元気ないよ?」

澪「…なんでもないよ」

唯にはこの悩みは分かってもらえないのだろう
そう考えると彼女はさらに胃が痛くなってきてしまった

澪「…」

唯「大丈夫?澪ちゃん、お腹痛いの?」

律「おっす!って澪、大丈夫か?」

澪「…ああ、大丈夫だ」

律「あんまり無理すんなよ~」

澪「…うん」

唯「りっちゃん、澪ちゃん大丈夫かな?」

律「ああ、ほっといてやれ」

唯「ほっとくの?」

律「…まぁ、そうするしかないよ」

律は天然の唯ならば彼女の胃を抉りだしてしまうだろうと思い、
唯に彼女の心配をあまりさせないようにした

紬「おはようみんな」

紬の乱入により彼女の胃痛から話題は逸れ、彼女は少し救われた

この日はその後も彼女の胃を痛めるものはなかった

放課後までは

紬「お茶淹れたわよ~♪」

彼女は胃が痛かった

唯「澪ちゃん、ケーキ食べないの?」

食欲と容姿への思いの葛藤が、彼女の胃をどんどん痛めつける

律「もしかして…太った?」

澪「~~~!」ポカン

律「いったい!…へへ、ごめんごめん」

その通り、彼女は体重が増えていて胃が痛かったのだ

そのせいで癒しの空間であるはずのティータイムが、彼女にとって苦痛となっていた

律「で、結局のところどうなんだよ」

澪「あ…合ってる…」

律「じゃあ何か方法を考えないとな」

唯「みんなでダイエットしようよ!」

澪「ダイエット…」

唯「みんなでダイエットすれば頑張れるよ!」

紬「じゃあ暫くケーキは抜きね」

唯「あ~…そっか~…じゃあやめ…」

澪「やろう!みんなでダイエット!」

唯「えぇ…」

律「そうと決まれば早速…今日だけは食べていいんじゃないか?」

梓「…いいんですか?」

律「これから減るんだし、大体折角持ってきてくれたケーキがもったいないじゃん」

澪「うん!今日はケーキを食べる!そして明日から痩せる!」

彼女の胃痛はいつの間にか消えていた


次の日、まずは律がダイエットの方法を考えた

律「ダイエットと言えば走りこみだ!演奏の体力をつけるって意味もあるしな!」

唯「えー、走るのヤダよー」

梓「言いだしっぺがそんなこと言わないでください!」

彼女たちは早速ジャージに着替えて外へ出た

律「コースはとりあえず校舎の周りを3周な」

紬「頑張るわ!」

梓「やってやるです!」

唯「ガンバルゾー…」

澪「…」

開始するにあたってそれぞれが走る前の意気込みを言ったり言わなかったりした

律「よーい、ドン!」

澪「え?よーいドンで走るの!?」

律「お先にぃっ!」ダダダ

唯「一緒に走ろうよりっちゃーん!」タッタッ

梓「そういうことなら…全力疾走です!」ダダダ

紬「負けないわよ!」ダダダ

走りこみは彼女の予想とは違い、全力疾走のレースになった

澪「み、みんな…待って…」タッタッ

そんなに足が遅いわけではない、むしろこのメンバーの中では早いほうである澪だが
全員の急な加速に付いていけず、遅れを取っていた

唯「私がいるから大丈夫だよー」タッタッ

さらに唯がいるせいで前方3人組に合流するために加速する事もままならなかった

澪(ジャージで走ってると通行人の視線が痛い…)

運動部ならまだしも軽音部は立派な文化部である
そのため彼女はジャージで外を走る経験は少なく、無意味な緊張感を強いられた

そしてとうとう彼女の胃は悲鳴をあげた

律「ふぅ~…走った走った!」

梓「走りこみも気持ちいいですね!」

紬「そうねぇ~♪」

唯「…私はもうダメだよ」

澪「…」

律「どうだった澪、走るとダイエットもできるし気分も晴れやかに…」

澪「ごめん…ダメだった…」

律「…そっか」

彼女はさらに律の期待に応えられなかったことに胃を痛めた


翌日、今度は後輩の梓の提案で謎の機械が部室にやってきた

梓「…昨日は屋外だと恥ずかしいということで、屋内でもできるものを用意しました」

この機械はベルトのような形になっていて、振動することで腹筋などを鍛えるものらしい

梓「ネットで買いました、やっぱりこれでしょう」

正直梓以外の全員がこの機械の効能を信じてはいなかった

律「それ、本当に効くのか?」

梓「そりゃあ効くと思いますよ、大々的に宣伝してるくらいなんですから」

唯「じゃあまずあずにゃんがやってみてよ」

梓「仕方ないですねー」

梓は早速購入したモノを装着する

梓「おおおおお…効いてるような…い、痛い痛い!」ブィィィィィィン

澪「…!」

彼女は残念なことに怖いものと痛いものは大の苦手であった
後輩の痛がる姿に、彼女は外界の情報をシャットアウトした

律「…お…みお…おーい」

澪「あ…私…」

唯「気絶しちゃってたんだよ」

澪「…」

梓「あはは…痛いっていっても全然…あのー…そ、そうでもないですよ」

紬「そうそう、ほら~…」ブィィィィィィン

澪「ムギは大丈夫かもしれないけど…私は…」

律「あー、やっぱり今回もダメだったか…」

機械への恐怖、後輩の期待を裏切ってしまったことに彼女の胃はもうすぐ限界に達しようとしていた

紬「じゃ、じゃあダイエットサプリなんてどうかしら?」

律「でもダイエットサプリって飲むだけじゃ効果ないんだろ?」

律「そうなるとやっぱ走りこみとかしないと…」

紬「うーん…」

唯「筋トレをすればいいんだよ!」

律「筋トレかー、腕立て腹筋とか?」

梓「それだったら部室でもできますしね」

紬「ダンベルとかも用意する?」

律「そこまでしなくていいだろー」

澪「みんな…」


そうだ、考えてみたらみんなは私のためにこんなに考えてくれているんだ

澪はそう考えると今までの自分を恥じ、ちょっと胃が痛くなったが
そこは我慢し、ただ胃痛を解消する未来を想像した

澪「やってみよう!」

律「よっしゃー!善は急げだ!」

ここに秋山澪ダイエット会が結成された

梓「腹筋は回数ではなく、ゆっくりやって筋肉を使うほうが効果があるんですよ」

律「そうなのか」フンッフンッ

梓「さらに背筋は腹筋の1.5倍ぐらいの量行うのが理想的らしいです」

唯「へぇ…そうなん…だ…」ギギ

梓「さらに…」

唯「ねぇ、あずにゃん…」バタン

梓「なんですか?」

唯「あずにゃんも筋トレしたら?」

梓「…説明し終わったらします」

みんなで行う筋トレは非常に楽しいものだった

澪「19…20!」

紬「澪ちゃん頑張って~」

律「ふっ…ふっ…ふっ…」

梓「律先輩、だから筋トレは回数じゃないんですって!」

唯「一旦休憩~…」

律「今度こそ、どうだった、澪」

澪「ありがとう、いい運動になったし、これなら体重も大丈夫そうだ!」

唯「…よ、よかったよかった…」ヨロ

梓「唯先輩、大丈夫ですか?」

唯「…うん、ケーキ分が足りないだけだから…」

紬「そう思って、カロリー控えめのシュークリームよ♪」

唯「わーい!シュークリーム分補充!」

律「澪」

澪「ん?何だ律」

律「今後もお腹痛くなったら相談しろよ」

律「こんな感じで解決してやっからさ」

澪「律…」

律「…なんてな、かっこつけたらお前は簡単に惚れちゃうから私がかっこつけんのはここまで」

律「…シュークリーム食いすぎんなよ!澪ちゅわん!」

澪「…バカ律」


翌日、秋山澪はお腹が痛かった

澪「…痛い」

律「大丈夫か?澪」

澪「大丈夫…」

唯「悩みなら聞いてあげるよ」

澪「そんなんじゃないんだ…」

紬「もしかして…」

澪「腹筋が痛い…」

おわり



最終更新:2010年10月29日 01:17