―卒業式の帰り道―

スタスタ

唯「なんかトイレ行きたくなっちゃった」

和「お茶の飲みすぎよ」

唯「ごめんちょっと行ってくるね!かばんとギー太お願い!」タタッ

和「あ……もう」

公園のトイレに駆けていく唯

トスッ

公園のベンチに腰をかけて唯を待つ和

公園をなんとなく見渡す

和(幼稚園と小学生の頃は、ここでよく唯と遊んだっけ)

和(子供の頃はあんなに大きく感じてたのに、今は狭く感じるわね)

唯「和ちゃーん!お待たせー!」タタタッ

和「おかえり」

唯「スッキリしたー」

濡れた手をパタパタさせる唯

和「ハンカチないの?」

唯「アイロンまではかけたんだけど忘れちゃったんだよね、あはは」

和「唯らしい。はいハンカチ」

唯「ありがとー」ふきふき

ふきふき

唯「洗って返すねー」

和「いいわよ」

唯「ダメだよ、今日洗えば明日には返せるから」

和「明日はもう学校ないけど?」

唯「あ、そうだったね」

和「……」

唯「和ちゃん?」

和「卒業したのよね、私達」

唯「うん」

和「唯と一緒に帰るのもこれで最後ね」

唯「そうなるね」

和「……」


唯「もう少しここにいよっか」

和「うん……」


(♪あの日の夢)

―公園の砂場―

唯母「唯そろそろおうちに帰るわよー」

唯「えーまだのどたたんとあそぶー」

唯母「だーめ。もう夕方よ、また明日にしなさい」

唯「えー」

唯「のどたたんももっとあそびたいよね?」

和「……」

唯「ねっ?ねっ?」

和「う、うん……」

唯母「こーら、和ちゃんを困らせないの。和ちゃんにバイバイして」

唯「うー……」

唯母「ほーら」

唯「のどたたん、バイバイっ!」

和「ゆいちゃんばいばい」

唯「またあしたね!」

和「うん、またあした」

唯母「さようならー」

和母「さようならー」


……

唯「……ぼけーっ」

和「……そろそろ帰らない?」

唯「そだね」

荷物を持ってベンチから立ち上がる2人

公園から出る

和「じゃあここで」

唯「うん」


和「ばいばい唯」

唯「また明日ね!」

和「ふふっ。もう卒業したから明日は会わないわよ」

唯「あ、そっかー。えへへ」

唯「じゃあなんて言えばいいのかな」

和「……また今度?」

唯「なるほど」

唯「和ちゃんばいばーい」

和「ばいばい唯」

唯「また今度ねー」

和「うん、また今度」

背を向けて遠ざかる2人




唯「…和ちゃん!」

和の家の前、唯が息をきらせて走って来た

和「ど、どうしたの唯っ」

振り返った和の目には涙が浮かんでいた

唯は思いきり和を抱き寄せた

唯「…ずっと、ずっと親友だよ?」

和「…あたり前じゃない、ばか」

そう口にした瞬間、涙が流れた。

和「寂しくなんかっ…ないよ…」

唯の胸に顔を埋めて、和は途切れ途切れに、声にもならない声でそう言った。

唯がやさしく和の頭を撫でる

唯「もっと甘えたっていいんだよ?」

和は顔を上げて涙をハンカチで涙を拭った

和「…ばか」

唯の声や表情、唯の匂いがとてもやさしく感じられて

和は自分が唯よりずっと幼くて弱いような気がした

唯「…そうだ、和ちゃん今日ウチに泊まりに来なよ!」

和「え、急にそんな…」

唯「いいじゃん、憂だって喜ぶよぉ」

全然、“最後”なんかじゃない。

「バイバイ」なんて口にしても

あたしと唯はいつでもいっしょなんだ

いつまでも親友だから

いつでも、いつまでも


和が一泊分の着替えや洗面具を用意するまで、唯は待っていてくれた

和「おまたせ」

唯は何も言わずに和に手を差し出した

和がその手をそっと握ると、唯はやさしく握り返した

(おしまい)



最終更新:2010年10月29日 21:42