通学路
唯「あずにゃん、おてて繋いで行こうね!」

梓「うん!」ニコニコ

唯「あ、あずにゃん、肩車してあげようか?」

梓「わーい!」

唯「ほっ…とっ…体は高校生のままだから…流石にきつい…」

梓「たかーい!!」キャッキャ

唯「ぬおおおお!!!」フンスフンス

澪「なにやってんだ…」
唯「み…澪ちゃん…また会ったね…」

律「なんて滑稽な絵面だ」

紬「だがそれがいい」


到着
律「というわけで部室だ」

澪「さてこれから練習だ…といきたいとこだが梓がこれだからな…」

唯「あずにゃん…」

梓「ぶしつ…」キョロキョロ

紬「とりあえず、お茶にしましょうか」

紬「急だったから間に合わせのお菓子しかなかったの、ごめんなさい」

澪「いいよいいよ、いつもお世話になってるんだし」

梓「…」ヒョイパク
梓「…おいし!」

唯「あずにゃーん、こっちこっち」ポンポン
梓「ゆいー」トテトテストン

律「唯の膝の上の梓…」
紬「写真撮っとこうかしら」

澪「やめろ、元に戻った梓が見たら卒倒する」


梓「ゆいー」スリスリ

唯澪律紬「!!」

唯「ふ、ふおおおおお!!!!」
紬「唯ちゃんいいなぁ…」

梓「」トテトテストン
梓「ムギー」スリスリ
紬「この世の春がきたぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
律「誰だお前」
澪「妙に人なつっこくなったな、今の梓は」
唯「かわいいから万事OK!!」

梓「みおー」トテトテストン
律「お、軽く怖がってた澪のとこにも来たぞ」
澪「う、うむ」
唯「澪ちゃん、キャラ変わってるよ」
梓「んむー」スリスリ
澪「テイクアウトで」
律「おい」

梓「りつー…プッ」
律「このガキ…どこまで私をおちょくれば…」
唯「まあまあ」
澪「まあまあ」
紬「まあまあ」
律「お前ら…まぁこの梓じゃ怒る気にもならんな、むしろかわいく思えてきた」

紬「目覚めね」
律「私は7時には起きたわ」

唯「あずにゃんあずにゃん、これわかる?私のギー太だよ?」

梓「ぎーた…」

澪「お、反応があるな。じゃ私のエリザベスはどうだ?」

梓「えりざべす…」

紬「そういえば昨日むったん部室に置いてきたわね」
律「梓ー、お前のむったんだぞー、忘れたとは言わせんぞー」

梓「むったん…わたしの…むったん…」

澪「これは…」
唯「元に戻りそう!?」

律「ムギ!ありったけのHTTの思い出の品を集めるんだ!」
紬「がってん!!」


写真とかDVDとか
唯「これが私たちが一年のときのライブで…」
律「澪ちゃんの高校デビューのときだな」
澪「そんなもの見せるな!」


唯「これが新歓ライブだね」
紬「梓ちゃんも来てくれたわねー」
律「お前が不覚にも感動したライブだ、覚えてないか?」

ああ。

唯「これがあずにゃんが初めて来た合宿!」
澪「梓真っ黒になってたな…あれは笑った」
律「フジツボ…」
澪「ひいいいぃぃぃ!!」
紬「あらあら」

そうだ。

唯「そしてこれがあずにゃん加入後の初ライブ!」
澪「あのときは焦ったな…」
律「梓なんて最後の最後まで唯のこと心配してたもんな」
唯「えへへ…」

これが、私たちの積み上げた、

唯「最後に…」

大切な思い出たち。


唯「ついこないだのライブの写真だね」
紬「あのときは梓ちゃんにみっともないとこ見せちゃったわねー」テレ
律「まぁムギだけじゃなく全員だけどな」
澪「でも…いいライブだったよな」


唯「そう、私たちで作った、最高のライブ」


梓「…」フルフル

紬「梓ちゃん?」
澪「もう少しっぽいな…」
唯「あと一息…」

律「よぅっし!やっぱり私たちは演奏するしかないでしょ!」

唯「そうだね!」
紬「はい、梓ちゃんはここに座って聞いててね」
澪「曲はどうする?」
律「ホッチキスがいいんじゃないか?梓にとって一番思い出深いだろうし」

唯「よーっし…みんな準備はいい?」



『私の恋は、ホッチキス』


律のドラム。唯のギター。
イントロが流れた瞬間、梓は糸が切れたようにその場に倒れた。
4人は慌てて駆け寄る。

紬「梓ちゃん!?」
澪「ど…どうしたんだ…!?なにかまずいことしたのか…?」
律「そんなことより保健室だ!澪、先生を呼んできてくれ!」
唯「あずにゃん!!あずにゃあん!!」


梓は消えた意識の中でも、その4人の声は聞こえていた。しかし、その小さな動かぬ手足では、何もできなかった。
そして、梓は闇に包まれた。


真っ暗な闇の中。梓は、ふわふわとそこに浮かんでいた。

梓(ここは…)

周りを見回してみても、目に入ってくるものは何もない。

梓(わからない…でも)

そのどこから来たかもわからない衝動に突き動かされ、

梓(進んでみよう)

梓は前へ進んだ。自分の中にある何かを、探すために。

しばらく進むと、前にぼんやりとした人影が見えた。

梓(あれは…)

その誰かに向かって梓は進む。
進むにつれて人影は近づくものの、その顔まではわからない。

「どうだった?」

そして、その人影にふと声をかけられる。
どこかで聞いたことのあるような、聞きすぎてむしろ気にもとめないような、そんな声だった。

梓「どうだった、って…」
わけもわからず返事を返す。

「子供になってみて。先輩たちの反応とか」

そのことか。それなら、梓「もみくちゃにされて疲れました」
正直な意見だ。

「そう」

人影が、笑った気がした。

「でも、悪くなかったでしょ?」

正直に返す。
「うん」

「普段のあなたじゃ、絶対あんなことできないもんね」

まったくだ。
ああいうことをするのは、唯先輩だけで十分。

「でも、」

うん。わかってる。

「たくさん、甘えられたでしょ?」

あれが、私の偽らざる本心。

梓「…うん」

「よかったね」
人影は、私に確かに笑いかける。

「今回のことは、あのときの…そうだね、ご褒美みたいなものかな?」

梓「あの時…?」

「そう」


「あのとき、あなたは泣かなかった」

それか。

「あなたは、先輩との最後のライブを終えて、満足していた。でも、そこには確かに喪失感があった」

当然だ。
あれが、最後だったんだから。

「先輩たちはみんな泣いていたよね。ムギ先輩なんか子供みたいに泣いちゃうし、律先輩も普段は涙なんか見せないのに」

うん。

「あのとき、あなたが一緒に泣いていたって誰も責めない。むしろ、泣いて当然だったのかも」

うん。だけど、

「でも、」

でも。

「笑って、先輩たちを送りたかったんだよね?」


そうだ。
私は、先輩たちに心配なんてかけたくなかった。

普段は頼りないけど、いざというときはしっかりしてて、一緒にいて、とても楽しい先輩たち。そんな彼女らの不安な顔なんて、見たくなかった。

「そして、あなたは立派だった。涙は見せず、ただ先輩たちと喜びや切なさを分かち合えた。」

もちろんあのとき、私は今にも泣いてしまいそうなほど、寂しかった。でも、我慢した。

「だから、これがご褒美。まあ、きっかけはあなたらしいドジなものだったけど」

むっとする。私らしいってなんだ。廊下で転ぶことがか。

「あなたは最後に、思いきり先輩たちに甘えられた。あとはもう、全てを受け入れるしかない」

わかってるけど。
もう少しだけ続かないかな、なんて不謹慎にも思った。

「それはダメ」

先輩たちの顔が浮かんでくる。

急に意識を失った私を心配する顔。顔。
唯先輩とムギ先輩なんて、涙で顔がぐしゃぐしゃになってる。

「あなたができることは、無事な顔を見せてあげること」

そうだ。そもそもあんな顔をさせないために、私は頑張ったんだから。

「だから、いってらっしゃい。あなたのいつも通りの日常に。やがて来る、別れに」

断固たる決意があるわけじゃない。でも、

「うん」

今私にできることは、わかっている。

「それじゃ、がんばってね」

梓「あ、あの」
最後に一つ、許しを乞う。

梓「卒業式くらい、泣いてもいいよね?」

人影は笑いながら答える。もうそれが誰かはわかっていた。

「自分に素直になってもいいときって、あると思うよ」


ありがとう、私。


目覚めた私は、病院のベッドの上にいた。

梓「ん…?」
周りには、4人の先輩がたが私を枕にして安らかに眠っていた。ホントに心配していたのだろうか。

梓「…もう」
私が子供になっていたときのことを思い出す。おぼろげではあるが、その…かなーり恥ずかしいことを、していた気がする。

できれば忘れさせてほしかった。いや、でも、それは本末転倒だし、もったいない気が…


とにかく、こうして私にとっての優しい異変は終わったのだった。


それからの日々は、もう筆舌に尽くしがたい、屈辱の日々だった。

唯先輩は「あずにゃん、また抱きついてきてよー!!」とか言ってるし、律先輩はことあるごとに「梓ちゃーんっ」って子供扱いしてくる。
澪先輩とムギ先輩は割といつも通りだったが、頭をなでたり手を繋いできたり妙にボディタッチが増えた気がする。何をしたんだ、子供の私!

まあ、でも。
やっぱりこれが私の日常。
4人の先輩たちと過ごす、かけがえのない時間。

律「梓ー、またもっと私たちに甘えてきていいんだぞー?」ニヤニヤ
唯「そうだよあずにゃん!いつでもウェルカムだよ!」

もう。またそんなこと言って。

でも、そんな日常を与えてくれる先輩たちに、ちょっと素直になってもいいかなって思う。

梓「もうこの前で、素直になり尽くしましたので」

先輩たちは顔を見合わせて私の言葉の意味を考える。

そして、頭の回転の早い唯先輩が、いち早く答えを出し、眩しいくらいの笑顔で抱きついてきた。

唯「あずにゃん大好きー!!」

私も大好きですよ、先輩方。


おしまい



最終更新:2010年11月02日 22:04