番外編


「あのさ、憂って好きな人とかいる?」

ある日の朝早く。偶然会った純ちゃんと一緒に廊下を歩いていると、突然純ちゃんは
思いつめた顔で言いました。

「え?」

初め、その意味がわからなくて私は聞き返しました。純ちゃんはもう一度言います。
私に、「好きな人はいるのか」って。
私は考える間もなく「いるよ」って答えました。だって、本当のことだから。
純ちゃんに隠す理由なんて何もないし、純ちゃんは私の大切な親友だから。

「そ、そうなんだ」
「うん、なんで?」
「えっと、その……憂ってさ、好きな人が女の子、とかじゃない、よね?」
「へ?私の好きな人は女の人だよ」

「え?」

純ちゃんが立ち止まったので、私もつられて立ち止まりました。私たちの間に
微妙な空気が流れて、私は「あの……」と取り繕うように何か言おうとしました。
やっぱり純ちゃんにこの手の話題はだめだったかな?私が女の人と付き合ってるなんて
言ったら変だって思うよね。

「あ、そう、なんだ」

けど純ちゃんはそういう素振は見せずに、また歩き出しました。私は「うん」と
頷くと純ちゃんの後を追いかけます。

「ちなみに、その、誰って、聞いていい?」
「うん、いいよ。お姉ちゃんだよ」
「……あ、……?」
「ん?」

純ちゃんが再び立ち止まりました。そして、「……、そうなんだ」と言うと、突然私の手を
握ってきました。

「もう何でもいいや!ってことは別に私が女の子を好きでもおかしくないんだよね!?」
「……う、うん?」
「良かったー!私ずっと一人で悩んでたんだよねー!」

急にテンションの高くなった純ちゃん。私は「う、うん」と頷きながらもしかして、と
思いました。

「ねえ、純ちゃん」
「なに?」
「純ちゃんってもしかして、梓ちゃんのことが好き?」

ほんと、わかりやすいなあ、純ちゃんは。
私が梓ちゃんの名前を出した途端、ぴょんぴょん飛び跳ねていた純ちゃんの動きが
止まってしまいました。

「そ、そうだけど……、やっぱり敵わないなあ、憂には」
「えへへ」

お互い笑い合うと、純ちゃんは周りを気にするように見回してから、私の手を
引っ張って廊下の端に連れて行きました。そして、手を合わせて純ちゃんは言いました。
「……で、あのさ、もし良かったら……、協力してほしいんだけど」と。



「ってことなんだけど、どうすればいいと思う?」

私は台所に立ってお姉ちゃんのためにリンゴを剥きながら訊ねました。お姉ちゃんは
居間でごろごろしながら「んー」と考えてるのか考えてないのか微妙な声を出しました。
剥いたリンゴをお姉ちゃんにはいっと手渡すと「食べさせて」と甘えた声で言います。

「仕方無いなあ」

私は笑うと、リンゴを自分の口にくわえてお姉ちゃんの口許に持って行きました。
お姉ちゃんは「ポッキーゲーム?」と言いながらもう一つのリンゴの端をくわえます。
そしてそのままカリカリとハムスターみたいに齧っていきます。
リンゴがほとんど無くなってしまったとき、私とおねえちゃんの唇が触れ合いました。

名残惜しげに離れると、えへへ、と笑い合います。


「ういー、もーいっかい!」
「だーめ」
「えぇー」
「ちゃんと考えてくれたらしてあげる」

そう言うとお姉ちゃんは「ふんすっ」とだらけていた身体を正して私に向き直りました。
ふふふ、可愛いなあ。

「で、えっと、なんだっけ?」
「もう、ちゃんと話聞いてたんじゃないのー?」

もう一回話してあげると、お姉ちゃんはうーんと唸り声をあげながら考えてくれます。
私もその隣で一緒に純ちゃんと梓ちゃんのために考えました。

でも結局――

「二人に任せるしかないんじゃない?」
「うん、そうだよね」

丸投げみたいになっちゃいましたが(因みにあの作戦を考えたのは紬さんだったりします)
私たちは頷きあいました。
お姉ちゃんがお皿からリンゴを取って口にくわえると「ん」と私を誘います。

「もう、仕方無いなあ」

私はもう一度言うと、お姉ちゃんのくわえるリンゴに齧りつきました。

終わり。



最終更新:2010年11月02日 23:04