憂は私より物知りだし、頭もいいから――。
言っても大丈夫。
聞いても大丈夫。
唯「ういもさー、練習してたんだよね?」
唯「ヘタを口だけで結ぶのを」
押し黙る憂を見て
憂が何をしてたのか、何をしたいのか解りました。
憂「えっと……」
唯「ううん、隠さなくてもいいんだよー」
私はニッコリ笑顔で言います。
憂「う、うん。練習……してた」
そうだ、憂だって練習を――。
なら私が引っ張ってあげなきゃ。
リードしてあげなきゃ。
――私がお姉ちゃんだもん。
ゆっくり憂の隣へ座り、身を乗り出して近づきます。
端整な顔立ち。
ちょっと紅いほっぺた。
くりくりできらきらした垂れ目。
そしてぷるっとした唇。
それらが目と鼻の先に在りました。
どことなく扇情的で鼓動が高鳴ります。
ドキドキと鳴る心臓を押さえ込み、憂に言います。
唯「じゃあさ、一緒に練習、してみる……?」
憂「練習……?」
唯「うん練習。ムギちゃんが教えてくれたやり方――」
――言っちゃった。
憂はどんな反応するんだろう。
嫌われる?拒絶される?
でも、言わなきゃ。
憂のことが好きだから、先に進まないと。
身体が熱いです、顔も上気しているでしょう。
脇の下から汗が下へ伝っている感触です。
匂わないか不安です……。
憂「お姉ちゃん……それって、キ――」
言い終わる前に憂の唇へ人差し指を当てました。
ムギちゃんが私にやったみたいに優しく。
唯「したいの?したくないの?」
ちょっと強気になって言いました。
憂「し……たい……」
この言葉が聞けてよかった。
大丈夫だよ私。上手く出来るよ。
こたつ上のさくらんぼを一つ掴み口へ。
自分と、少し震えている憂を落ち着かせるために
これ以上ないってくらいの笑顔を見せました。
憂のおでこには
薄っすらと汗が出ていて髪が少し張り付いています。
憂も緊張しているんだよね。
そんな憂の髪の毛を掻き分け
私のおでことごっちんこ。
さっきより一層憂の顔に近づきました。
潤んだ憂の瞳が私を見詰めています。
憂の肩に置いた手から震えが伝わってきます。
思わず手に力が入ってしまいました。
――大丈夫だよ、怖がらなくても。
――私に任せて。憂を安心させてあげるから。
でも、唇が触れるか触れないかのところから先に進めません。
私もまた、怖がっているからでしょうか。
焦らしているわけではないけど
唇が触れそうで触れないギリギリ感が
私の――多分憂も情欲をそそったと思います。
そんな中、憂が目を閉じました。
頬は過去に見たこと無いくらいに紅くなっています。
ごめんね、私から行かなきゃいけないのに。
今行くよ。
口の中に溜まった唾を飲み一呼吸入れました。
目を瞑って、暗闇の中に居る憂は
怖がっているのかもしれません。
でも大丈夫。私が力いっぱい抱きしめてあげる。
私はここに居るから。離さないから――。
そして、意を決して私は憂の頬に手を添え
憂と私の唇が一つに重なりました。
唇が軽く触れ合いくすぐったい感触。
軽い口付けでも判る弾力性。
それらが互いの身体を感じさせ、震えさせました。
しばらくの間、ただ唇が軽く触れ合うだけの口付けを交わします。
――憂とキスしちゃった。
口付けを交わした直後は
頭の中がいっぱいで考え付かなかったのですが
これが私のファーストキスでした。
――とっても甘い気がします。
パフェを食べてたから?
アイスを食べてたから?
それとも憂の唇だから?
でも、難しいこと考えたくありません。
世界で一番好きな人――愛している人とキスが出来た。
ただ、その事実が私を得も言わぬ幸福感に浸らしてくれます。
そうだ“練習”しないと。
一度憂の唇をついばみ
舌を使って憂の口の中へさくらんぼを入れました。
そして後を追うように私の舌も入れます。
憂「んっ……」
入れて直ぐに憂の舌と私のそれが触れ合いました。
ゾクゾクと背中を駆け巡る快感。
それがどことなくクセになりそうでした。
絡み合う舌がくちゅっと云う水音を奏で
私達はくぐもった声を出します。
憂の唇を甘くついばみ、舌を絡め、甘噛みをただただするだけです。
憂「あっ、はぁ……ちゅ……んん」
ふいに私の口の中に暖かいさくらんぼが入ってきました。
私もそれを返すように押し付けました。
薄く開いた口から艶かしい音が響き
憂と私の口を行き来するたびに唾液が漏れます。
それは顎を伝い首筋を流れ、私達の襟元を濡らしました。
制服に沁み込んだ分だけ憂との関係が深まる気がします。
それから憂は手をだらんとさせ、身体がふらつきそうになりました。
――離さない!
そう強く思い、瞬時に左手を背中へ
右手は憂の左手をぎゅっと力強く握っていました。
力強く握られる手が、私達をより一層硬く結んでいるようでした。
不意に頭によぎる練習のこと。
わけもなく憂の舌の上で結ぼうと試みます。
自分ので出来るわけもないのに、他人ので出来るわけないよね。
唯「うぃ……あ、んっ……」
憂「おねえ……んんっ……」
唯「うい……うい……あぁ……ちゅ」
憂「ふっ……だ……んん……あっ」
口を必要以上に開いてしまってたためか
ぽろりとさくらんぼが零れてしまいました。
零れたさくらんぼを見詰め、少し唇を離す私達。
唯「はあ……はあ……ゴクン」
憂「おねえちゃん……」
唯「うい……」
唇を通じて一つになった私達。
一旦唇から離れると寂しさを覚えました。
――まだ足りない。
憂をそのまま仰向けに寝かせます。
早くアレが欲しかった。
何も無しじゃ、やっぱり――こわい。
トロンとした目の憂から目が離せません。
消えてしまうわけではないのに。
離れてしまうわけではないのに。
ただ見詰めていたかったのです。
手探りでこたつ上のさくらんぼを掴みます。
ガチャンとお皿がひっくり返りますが気にしません。
そしてそのまま勢いよく口へ入れます。
幾つかまた零れますが構っていられませんでした。
口の中は新しい味で広がります。
早く、とせがむ自分を押さえつけ、ゆっくりと憂にまたがり
唇に引き寄せられるようにまた口付けをしました。
もう自分が自分じゃないみたいで
ただひたすらに憂を求め続けました。
頬に添えた手からは熱が伝わり
背中に回された憂の手からも熱が伝わります。
こうして一つになった私達は快楽に溶けていくようでした。
実を噛み砕くと、憂と私の唾液で交わり
私達の口の中を甘い甘い液で満たしてくれました
一生の思い出に残りそうな甘いファーストキスです。
あれからどれくらい時間が経ったのでしょうか。
いつの間にかさくらんぼも無くなっていました。
多分、憂が飲み込んでしまったのでしょう。
でもそんなこと無視して私達はひたすら唇を求め続けました。
リビングを艶かしい音でいっぱいにしています。
鼓動も高鳴りっぱなしで痛いくらいです。
本当に心臓が飛び出してきそうな、それくらい激しい鼓動でした。
そして満足したのか私はゆっくり顔を上げました。
憂と私の唇には透明な糸が引かれています。
憂の表情はなんともいえない艶っぽさが出ており
とても愛しく感じました。
そして興奮を落ち着かせるため
その糸を巻き込みもう一度口付けをします。
そのまま憂をぎゅっと優しく抱きしめました。
憂のぬくもりを腕に残すために。
私はゆっくり唇を離しました。
そして憂の頭を優しく撫でます。
小動物のように縮こまった憂は
とてもかわいく、愛でたくなります。
私が唾液だらけの口元を人差し指で拭いてあげると
憂に笑顔が戻りました。
憂「お姉ちゃん……」
唯「ういー。さくらんぼ無くなっちゃったね」
憂「うん……無くなっちゃったぁ」
そっと顔を近づけ耳元で優しくささやきました。
唯「明日も“練習”しようね」
憂「うん…………」
練習。うん練習だね。さくらんぼを使った練習。
今日はさくらんぼを介しての口付けだったけど
いつか普通に出来るかな。
いや、私達なら明日にでも……。
切っ掛けとなったさくらんぼにありがとう。
また頼っちゃうかもしれないけど
その時はよろしくね。雰囲気が出るから。
さあ、明日は何が起きるかな……。
本当に楽しみだね、憂。
おしまい
最終更新:2010年11月02日 23:19