姫「そういえばさ、いつ私の事好きになったの?」
放課後。
少し先を歩いている唯の背中に聞いた。
唯「突然、どうしたの姫子ちゃん?」
唯は振り向く。
姫「唯って、なんだか捕らえどころないからさ、ちょっとね。聞きたくて」
唯「う~ん」
考え込む唯。
唯と出会ったのはちょうど、三年二組の教室で席替えで同じ席になってから。
あの頃は、自分がこうなるなんて考えもしなかった。
唯「隣だね!姫子ちゃん」
そうだ。
この天然娘は最初から私の事を名前で、ちゃん付けで呼んでいた。
私はこの桜高でも、トップクラスで目立っている、軽音部の
平沢唯を知っていた。
一年の時の学園祭も、二年の時も、それなりに話題になったから。
でも、私のことは、なんで知ってたんだろう。
唯「よろしくね♪」
そう言って、唯は桜の花びらを私に渡した。
姫「なに?これ?」
唯「1ダースたまったから!」
姫「花びら?」
唯「うん!」
姫「ありがと」
よく分からない子。それが第一印象だった。
平沢さんは、どうも人懐っこいらしい。
女子校のクラスなんて、だいたいすぐグループができて、話す相手は固定してしまう。
なのに平沢さんは、なんで?と不思議になる交友関係を築いていた。
どうやら、その一人に私も入っているらしい。
唯「姫子ちゃん、すみませんのー教科書を見せてごせぇ」
姫「また忘れたの?」
唯「えへへへ///」
姫「仕方ないな。ほら」
唯「ありがとー」
よしみ(地味子ちゃんの事です)「最近、仲いいね」
姫「誰と?」
よしみ「唯ちゃん」
姫「そうかな」
仲がいいというより、懐かれてるというほうが正しいと思う。
よしみ「珍しいよね、姫子とこんなに早く打ち解けるの」
姫「そう?」
よしみ「そうだよ。私だって、最初怖かったもん」
姫「ははは。そっかー」
確かに、自覚はしている。
私は中学の時と変わらないスタイルでこの学校に来たけれど。
桜高とはあまりあわないみたいだ。
昔、桜高でメタルがブームだった時代もあるらしいけど。
よしみ「面白いよね、唯ちゃん」
姫「そ、そうだね」
正直わからない。
私の周りにはいなかったタイプだし、何を考えているのかもわからない。
幸せそうに、へらりと笑っている子。
放課後。
律「おでこビーム!」
唯「なにおー!」
鏡で日光をおでこに当てている律。
澪「うるさい!」ごつん
ムギ「私もやりたーいー!」
今日も軽音部は騒がしい。
唯の席の周りでわいわいがやがや。
私はそれを頬杖を付いて、横目で見ていた。
律「よーし、それじゃあ、部活行くか!」
澪「そうだな。いい加減練習しないと・・・・・」
ムギ「そうね~♪」
軽音部はそのまま教室を出て行こうとする。
だけど。
なぜか唯だけは席に座ったままだった。
律「唯ー練習!」
唯「・・・・・・」
唯はなぜか、窓の外を見ていた。
ムギ「どうしたの?唯ちゃん?」
唯「ちょっと先に行っててー」
唯は、ふらふらーと教室を出て行ってしまった。
律「ちょ、唯、どこ行くんだよー」
唯「すぐ部室いくからー」
澪「まったくしょうがないな。先に行ってるか」
ムギ「そうね」
律「じゃあなー姫子」
ムギ「それじゃあね、立花さん」
澪「さ、さようなら」
姫「うん、さようなら」
軽音部は部室に行ってしまい、さっきまで騒がしかった教室は、急に静かになる。
気が付けば、クラスメイトはあらかた帰ってしまい、ぽつんと教室の隅に取り残されていた。
姫「おもわず、ずっと見てたのか」
どうやら私は、軽音部がじゃれているのをずーと見ていたらしい。
姫「今日は部活ないし、バイトもないし、帰ろう」
教室を出て。
廊下を歩いていると。
唯が、講堂にいく渡し廊下にいるのが見えた。
姫「唯」
唯「あ、姫子ちゃん」
唯はジーと直立不動で、廊下に立って見上げていた。
姫「何してるの?」
唯「これ!」
唯が指差す先には、散り終えそうな桜の木。
姫「これがどうしたの?」
唯「早いなと思ってー」
姫「散るのが?」
唯「うん」
ぱっと手を出して、もう散る桜の花びらをキャッチ。
姫「そうだねー」
散り際の、さして綺麗でもない桜に、なんの関心があるんだろう。
姫「そうだねー確かに、もっと長く咲いてればいいのにね」
なんて、あいづちめいた返事をした。
唯「うん。ずーと咲いてればいいのにねー」
姫「それじゃあ、行くね」
私は、唯に背を向けて歩く。
唯「でもね」
姫「なに?」
唯は、ジーと桜の木を見上げていた。背伸びするみたいに、つま先立ちしてから、こちらを見た。
唯「桜が綺麗なのはさ、散っちゃうからだよ」
姫「・・・・・」
唯「やっぱり、桜は散らなくちゃいけないんだよ。だって桜だもん」
あんなにふわふわしていた唯は、どことなくさびしそうで。
姫「唯」
唯「へへへ///だから、最後まで楽しまなくちゃね!散り終わるまで♪」
そういって、唯は、地面に敷き詰められた、少し色あせた桜の花びらに向かってダイブした。
姫「ちょ、唯!」
唯「姫子ちゃんも来てみなよ~楽しいよ~」
姫「ま、いっか」
私も唯のそばまで行って、花びらを唯の頭に降り注いでみる。
唯「あははは♪やったなー!」
唯が地面の花びらを両手ですくって、撒き散らして、私は桜まみれになった。
姫「やったな、この!」
唯「えへへへへ~んだ!」
結局、日が暮れるまで、私と唯はそこにいて。
最後にお互いの制服についた花びらを取ってから、帰路についた。
姫「ただいまー」
家に帰る。
靴を脱いで。
自分の部屋に行く。
姫「とりあえず着替えよう」
私はルーズソックスに手をかける。
はら。
白のルーズソックスから、一枚だけ。
花びらが舞った。
姫「これ」
私は、前に唯に貰った桜の花びら――どうしたらいいかわからなくて、とりあえず本に挟んでいた花びらを取り出した。
姫「押し花、かな」
ルーズソックスについてきた花びらを隣に乗せて。
ぎゅっと本に閉じた。
唯「えへへ///なんだか恥ずかしい!」
姫「多分、あれが最初のきっかけ・・・・って!私が唯に質問したのに、なんで私がしゃべってんの?!」
唯「ちっちっち!ぼくちゃん、私の話術にかかったね!」
姫「と、ところでさ、唯は?」
唯「えー言うの?」
姫「私だって話したんだからさ」
唯「う~ん、ん――――は~」
姫「どうしたの、唯」
唯「わかんない」
姫「え?」
唯「どうだったかな~ほんとわかんないです!」ふんす
姫「なにそれ?」
唯「だって、ほんとにさー」
姫「アハハ、でも唯らしいかも」
唯「あ!」
唯はポンと手を叩いた。
姫「なに、唯?」
唯は、満面の笑みを浮かべて。
唯「えっとね~」
唯「―――はじめから!!」
おわり
最終更新:2010年11月03日 01:53