梓「任せてください! と言うわけで、私の中ではこんな感じです!」

バッ!


お父さん:ミオ先輩

お母さん:ムギ先輩

長女:梓

次女:律先輩

三女:唯先輩


唯澪律紬「「「「……あ~……」」」」

梓「なんですかその反応!」

律「いや、梓らしいなと思って」

梓「私らしいって何ですか!」

唯「いや、お姉ちゃんぶりたいのかなって……」

梓「ぶりたいってなんですか! 現に私は唯先輩や律先輩よりしっかりしてます!」

澪「……まぁ、末っ子は上の子になりたいって憧れを持つって言うし」

梓「澪先輩まで!?」

紬「梓ちゃん、私のことお母さんって呼んで良いのよ~♪」

梓「一人に至っては自己完結最終結論までぶっ飛んでる!?」

律「まぁ、この家族構成も梓の立場なら分かるんだけどな。
  澪はしっかりしてるし、ムギは母性的だし、そんで私と唯は頼りなくてダラダラしたりはしゃいだりばかりしてるから、
  しっかりしてる自分が長女となって引っ張っていかないと、ってところか」

梓「どうして分かるんですか!?」

唯「あずにゃんのことならなんでもわかるよ~」

梓「くっ……! さぁ練習! 話も終わりましたし練習しましょう!」

律「顔を真っ赤にして。梓ちゃんは可愛いなぁ~」

梓「うるさいです! いいから無駄話はここまでです!」

紬「無駄っ!?」ガーン

梓「い、いえ! 言葉のアヤです! 本心じゃありません! 無駄じゃありませんでした!! ただそろそろ練習したいなと思いまして!!」

律「ま、末っ子のお願いなら聞いてやるか」

唯「違うよ~、りっちゃん。あずにゃん的にはりっちゃんは妹なんだから~……」

律「あっ、そっかそっか。
  ……え~っと……ごめんなさ~い、梓おねえちゃ~ん♪」

梓「黙っててください!」


~~~~~

梓「全く……今日は散々です!」

紬「ごめんね梓ちゃん……私があんなこと提案したばっかりに……」

梓「い、いえそんな! ムギ先輩のせいじゃありません!」

紬「でもこうやってティーカップの片づけを手伝うことになったのだって、私のせいだし……」

梓「そんなことありません! それに私だって、ちゃんとお手伝いしたいと毎日思ってましたし!
  むしろコレはいい機会でした! これだけは唯先輩と律先輩に感謝しないといけません!」

紬「そう……? そう言ってくれると嬉しいわ、ありがとう」

梓「い、いえ……気にしないで下さい」

梓(うわぁ~……こんな近くで微笑まれると、照れちゃう……)



――回想――

律「さて、練習も終わったし、帰るか」

梓「今日もほとんど練習できませんでした……」

紬「まあまあ」

唯「気にしたら負けだよ、あずにゃん!」

梓「文化祭前なのに練習時間が短いことの方が負けです!
  と言うか結局曲順も決めてませんしっ!」

律「そりゃまぁ、梓が練習したいって言うから」

梓「うっ……」

紬「ふふっ、それじゃあ私、ティーカップ洗うから、先に降りててもいいわよ?」

澪「そうか? いつもすまないな、ムギ」

紬「良いのよ。私が好きでやってることなんだから」

律「…………」

律「そうだ梓。お前ムギお母さんの手伝いして行けよ」

梓「まだその話を引っ張りますか!」

律「いやいや、でもお母さんを手伝うのは長女の仕事だぞ?
  私たち次女と三女はダラしがないし遊んでばっかだし」

澪「それなら私も――」

律「澪はお父さんだろ? だったらまだ仕事中じゃないか」

澪「何の仕事なんだよ!」

律「ともかく、そういう訳で私たち三人は先に降りてるから、
  梓はちゃんとムギを手伝って来るんだぞ?」

梓「えっ……あ、はい」

律「うん、良い返事だ。それじゃあまた後で!」

澪「ちょっ、待てよ律!」

唯「いつもごめんね~、ムギちゃん。それとありがとう。それじゃ、また後で」

ガチャ

パタン

――回想終わり――

梓(う~……あの時は咄嗟に返事しちゃったけど、今思ったらこうして手伝ってるのっておかしくない?
  いや、そりゃムギ先輩にいつもまかせっきりの方がおかしいんだけど……)

紬「……ねえ、梓ちゃん」

梓「はい!?」

紬「? どうしたの?」

梓「い、いえ……なんでもありません」

紬「そう?」

梓「それよりも、ムギ先輩はどうしたんですか?」

紬「……ありがとう」

梓「え?」

紬「私のこと、軽音部の中でのお母さんだなんて思ってくれて」

梓「いえ、そんな……当たり前のことです」

紬「それでも嬉しい。ありがとう」

梓「ど、どういたしまして……。
  ……というかムギ先輩だって、私のことすぐ下の妹だって思ってくれてるんですよね?
  なら、私もありがとうございます」

紬「……私にとって軽音部は、放課後ティータイムは、大切なものだから……
  もちろん梓ちゃんも、唯ちゃんも、澪ちゃんも、りっちゃんも……皆大切だから……
  だから、当たり前のことなの。
  だから、お礼なんて良いのよ」

梓「……それなら、私だってお礼は良いですよ」

紬「でも、嬉しかったから」

梓「私だって嬉しかったから、お礼を言ったんです」

紬「そっか……ありがとう、梓ちゃん」

梓「またお礼……もう、ムギ先輩は。いらないって言ったのに」クスッ

梓「それじゃ食器も洗い終えましたし、皆さんの後を追いかけましょうか」

紬「そうね。……あっ、そうだ梓ちゃん」

梓「はい?」

紬「良かったら、梓ちゃんの家の住所、教えてくれない?」

梓「え?」

紬「ほら、もう少しで私たち、卒業でしょ?」

梓「あっ……」

梓(もしかして……だから軽音部が何なのか、考えちゃったのかな……)

紬「だから、お茶の葉とかお菓子とか、卒業しても梓ちゃんの家に送ろうと思って」

梓「べ、別にそこまでしなくても……」

紬「ううん。私がしたいの。
  だって放課後ティータイムは、ティータイムがないといけないもの」

紬「練習時間が短くなるのは、確かに梓ちゃんにとってはイヤなことなのかもしれない。
  でも私は、この放課後ティータイムのある種の伝統を、梓ちゃんにも続けて欲しいの」

梓「…………」

紬「だから、これは私の我侭。
  だから、これぐらいさせて欲しい。
  お茶の葉は分けてもらえるものだし、お菓子だって余らせてしまうものだから、私は全然構わな――」

梓「いりませんよ」

紬「――……え?」

梓「だから、いりませんよ。紅茶の葉も、お菓子も」

紬「梓ちゃん……」

梓「…………」

紬「……そうよね。私たちがいなくなったら、サボることなく練習できるものね。
  それだったらお茶の葉とかお菓子とか迷惑なだけで――」

梓「違います」


梓「私はただ、お母さんに、これ以上負担をかけさせるわけにはいかないから、
  いらないって言ってるだけです」

梓「手を離れる子供に対して、不安になるのも分かります。
  お母さんなら当然のことだと思います。
  でも、私のことを、信じてください。
  子供を、見守ってください。
  それもまた親として必要なことです。
  私だってもう、放課後ティータイムのティータイムがなくなるのは、イヤなんです。
  だから絶対、この伝統は絶やしません。続けてみせます」

紬「でも、それじゃあ梓ちゃんに負担が……」

梓「構いません。何とかします。してみせます。
  お母さんに心配かけないように、頼れる長女がなんとかしてみせます」

紬「梓ちゃん……」

梓「だからムギ先輩……いえ、紬お母さんは、他の皆さんと、仲良く前に進み続けてください。
  その背中にまた、追いついて見せますから。
  その家族の輪の中にまた、戻って見せますから。
  だって……軽音部は、放課後ティータイムは、私にとっても、大事で、大切な、家族ですから」

紬「梓ちゃん……ありがとう」

梓「だから、お礼はおかしいですよ、ムギ先輩」

紬「だって……嬉しいから……!」ポロポロ

梓「もう……そんな泣くほどですか?」

紬「だって……私の中での梓ちゃんは、まだまだ後輩だったから……!
  でも……こんなに強い子になってて……それが嬉しくて、安心して……!」グスグス

梓「……ありがとうございます、ムギ先輩。
  私のこと、そんなに考えてくれて」ギュッ

紬「っ……! ごめん……ごめんね、梓ちゃん……!」ギュッ

梓「今度は何を謝ってるんですか?」

紬「本当は、私が梓ちゃんを抱きしめるべきなのに……ごめんね……!」

梓「なんだそんなこと……気にしないで下さい。
  家族って言うのは、支えあうものですよ?
  だから、良いんです。
  たまにはこうして、後輩の、子供の私に支えてもらったって」

紬「ありがとう……ありがとう、梓ちゃん……!」

紬「……落ち着いたわ。本当にありがとう、梓ちゃん」

梓「いえ、落ち着いてよかったです」

紬「みっともないとこ見せちゃったわね」///

梓「そんなことないですよ」

紬「……ねぇ、もう一度お母さんって、呼んでみてくれない?」

梓「イヤです。恥ずかしい」///

紬「そう……」シュン

梓「うっ……そんな目で見てもダメです!
  そもそも、一歳しか違わないのにお母さんって呼ばれたら、逆に恥ずかしくないですか!?」

紬「私はそうでもないけど……」

梓「と言うより、呼ぶ方が恥ずかしいです!」

紬「そんな!」

梓「ともかくほら、早く皆さんのところに行きましょう!
  もう結構待たせてしまってます!」

紬「あっ、そうね! うん! 早く行きましょうっ!」

紬「……あ、そうだ梓ちゃん」

梓「まだ何かあるんですか? 戸締りもちゃんとしたでしょう?」

紬「そうじゃなくて……その、お茶の葉とかお菓子はいらないんだろうけど……
  でも、来年の合宿の場所ぐらい、提供させてくれない?」

梓「え?」

紬「もちろん、私たち四人も行くから!」

梓「……旧放課後ティータイムと、新放課後ティータイムが合同合宿って訳ですか」

紬「そう!」

梓「それなら……むしろこちらからお願いします」

紬「うん! 分かったわ!」


梓「……ありがとう、紬お母さん」ボソッ


~~~~~

ガチャ

パタン

澪「おい、本当に先に帰ってよかったのか?」

律「むしろ、先に帰らないとダメだろ」

澪「え?」

唯「今日ずっと、ムギちゃんの様子がおかしかったもんね」

澪「え??」

律「分かってなかったのは澪だけか……」

唯「なんて言うのかなぁ……ずっと何かを言いたそうだったよね」

律「ああ。それが梓に対してだってのは、ついさっきになってようやく分かったんだけど」

澪「……なんで分かるんだよ。そういうの」

律「分かるよ。唯やムギや澪や梓のことだったら、見てるだけで分かる」

唯「おお~! さすがお父さん!」

律「いやいや~……でも私としちゃ、お姉ちゃんの唯も中々だと思うぞ?」

澪「え???」

律「ずっと場を盛り上げてたのって、何か言い出し辛そうだったムギのことを気遣ってだろ?
  悩んでるなら悩みを忘れるぐらい、答えが出てるのなら答えを実行できるように、ってな」

唯「そんなぁ~……買いかぶりすぎだよ~。
  私は何も考えないで、ただあずにゃん達と盛り上がってただけだって」

律「ま、そう答えるのは唯っぽいよな。
  たぶんあの場で一番最初に、ムギが何か言いたそうにしてるのを気付いたのは唯なんだろうけど」

澪「と言うか、私は何も気付けなかったんだけど……?」

唯「ま、澪ちゃんは仕方が無いよ」

澪「なんだそれは!?」

律「たぶん、澪も同じ事で悩んでんだろ。同じ色に染まってたら、分からないものさ」

澪「???」

律「ま、ムギもまた卒業に対して不安なんだよ。色々とな」

澪「あ……」

唯「それでたぶん、あずにゃんに何かを伝えたかったんだと思う」

律「それでたぶん、今は梓にそのことを伝えてる」

澪「だから私たちは、離れていないといけなかった……」

唯律「「正解♪」」

律「ま、軽音部が何か、って言い出してたから……きっと、梓に残せるものが何か、ムギなりに見つけられたんだろ」

唯「家族って言葉と、その絆の再確認、ってところかな」

律「おっ、さすが唯。もうその辺りまで分かってるのか~」

唯「え~? りっちゃんだって分かってたでしょ?」

律「分かって無かったよ。
  私の場合、そういう気持ちとか言葉じゃなくて、形に残るものだって思ってたからな。
  そういう発想が出来る唯はさすがだよ」

澪「何も分からなかった私って……」

唯「まあまあ澪ちゃん」

律「そうだぞ~。ムギに言わせれば私たちは家族なんだし、そんな気にするな」

澪「でも……」

律「互いの欠点を支えあえてこそ家族、だろ?」

律「ま、それでも私たちは梓の先輩だ。
  本当の家族じゃない。
  だから目に見えない絆を信じきることは出来ない。
  だから、梓に何かを残さないといけない。
  目に見えない絆を信じさせる、何かを」

唯「あずにゃんが、寂しさで潰れないためにもね」

澪「ムギにとってはそれが、家族という言葉で……あの時の会話」

律「そういうことだ」

唯「だから澪ちゃんは、澪ちゃんなりに軽音部について考えれば良いんだよ」

澪「私なりに、軽音部について……」

律「ああ。梓に、何を残せるかをな」

唯「おっ、噂をしてれば! あずにゃん達が来たよ!」

律「お、ホントだ。それじゃ、皆で帰るか」

唯「そうだね!」

澪「……ああ!」

澪(……でも、こんな時間も、残り僅か……か……)

澪「私にとっての軽音部とは……なんなんだ?」

澪(私が梓に残せるものって……なんなんだ?)



終わり



最終更新:2010年11月03日 21:29