唯「え?」

律「なんだよ急に。どうしたんだ梓」

梓「私はプロになりたいんです。もうお遊びで音楽をやる気はないので軽音部はやめます」

唯「どうしちゃったの?今の軽音部じゃ不満?」

梓「不満…しかないです。まともに練習しようともせず遊んでいる「部活」なんかに」

澪「なんだ、何かあったのか?」

梓「いえ、以前から考えていたことです。それでは失礼します」

突然のあずにゃんの退部宣言に私たちは鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしてしまった。

律「なんだ、あれ」

紬「どうしたのかしら」

澪「冗談、にしては顔がマジだったような…」

唯「まぁ、明日になればきっとひょっこり顔出すよ~」

しかしその日以来あずにゃんが軽音部に顔を出すことはなくなった。

憂によると学校にも来ていないらしい。

そして退部宣言から一週間、あずにゃんが軽音部の部室に現れた。

梓「失礼します」

唯「あずにゃん!心配したよ~部活やめるのやめるって言いにきたんでしょ?」


梓「違います。正式に退部届を出してきました。最後の挨拶です」

律「おい、お前なんか悩みでもあるのか?」

紬「相談に乗るわよ?」

梓「前言いましたよね。私はプロになりたいんです。」

唯「あずにゃん…」

梓「1年間お世話になりました。ありがとうございました。」

ガラガラ

澪「なんだよあの気持ちのこもってない挨拶!」


紬「何かあったのかしら…」

律「知るかあんな奴!」


あずにゃん…どうしたんだろう

そしてその夜、私は衝撃の事実を知ることになる

憂「お姉ちゃん、梓ちゃん。学校やめるかもしれないんだって」

唯「え!?あずにゃんが!?なんで!?」

憂「お姉ちゃん、何か知らないの?」

唯「知らない…軽音部もやめて変だと思ってたんだよね」


憂「最近全然学校も来てなかったし」

唯「あずにゃん…本当にどうしちゃったの…?」

翌日の土曜日、軽音部のみんなにそのことを話し、あずにゃんの家に行くことになった。


インターホンを押すとあずにゃんのお母さんが出てきて

あずにゃんが昨日の夜から家出していることを知らされた。

そして、私たち4人はあずにゃんを探すことにした。


あずにゃんが行きそうなところには一通り行ってみた。

あずにゃんと仲のいい友達全員に連絡を取ったが誰ひとり行方を知ってる人はいなかった。

律「ったく、あいつどこ行ったんだよ」

澪「となると、学校か?」

紬「とりあえず行ってみましょう」

いつの間にか日が傾いて夕方になっていた。

まずは軽音部の部室、

次はあずにゃんのクラスに行ってみる。

部屋の隅々まで確認したが、いない。


律「いないな」

唯「体育館…」

律「どうした唯?」

唯「体育館だよ!」

走る4人。

きっと私たちの部活に入るきっかけになった

思い出の体育館にいるに違いない。

土曜日の夕方、人のいない体育館はやけに静かだ。

その中心に体育座りをしてうずくまっているあずにゃんがいた。

澪「梓、探したぞ」

紬「どうしたの?お母さんと喧嘩でもしたの?」

梓「…」


あずにゃんは顔あげようとしない。

律「聞いてんのかよ」

梓「私…」

唯「ん?」

梓「私…東京行こうと思ってます」

唯「それはプロになるため?」

梓「はい、東京で音楽やりたいんです」

唯「…それで学校もやめようとして、お母さんと喧嘩したの?」

梓「はい、自分たちだってやってたくせに私には猛反対したから。だから喧嘩したんです」


律「お前なぁ!」

紬「りっちゃんちょっと黙って!唯ちゃん。私たちは部室にいるわね」

唯「うん…わかった」

澪ちゃん、ムギちゃん、りっちゃんが体育館を後にする。

りっちゃんはちょっと不服そうだ。


・・・
・・・

沈黙がやけに静かな体育館に流れる

唯「なんで今東京に行きたいと思ったの?」


梓「先輩、歌手のAYANAって知ってますか?」

唯「えっと…最近デビューした現役高校生のシンガーソングライターだよね」

梓「そうです、その彩奈は私の幼馴染で昔から一緒に音楽やってたんです」

唯「うん」

梓「高校に上がる時、彩奈はお父さんの転勤で東京に引っ越しました。

  それで別れるときに約束したんです。また一緒に音楽やろうって」


梓「で、彩奈は音楽の才能を見いだされてデビューした。そういうことです」


唯「彩奈ちゃんがデビューしたからって焦って東京に行きたくなったの?」

梓「そういう訳じゃありません。私は遅かれ早かれ東京に行くつもりだったんです。

  それが…彩奈のデビューで早まっただけです。思い立ったが吉日なんです。」

唯「お母さんにはなんて言ったの?」


梓「高校やめて、東京に行きたいって言ったんです、

  そしたら絶対ダメだって……何もわかってくれないんです」

唯「私がお母さんでも絶対反対だな」

梓「何でですか!東京に行って音楽をやることは私の夢なんです!

  私は…その夢をお母さんに応援してもらいたかっただけです!」


唯「目の前のこと全部ほっぽり出して

  夢追いかけるような人のことなんか

  誰も応援したいと思わないよ」

梓「…」

唯「あずにゃんがやめたら軽音部はまた廃部だよ?それでもいいの?」

梓「それは…」

唯「もしあずにゃんが高校をやめて東京に行ったとしても私は応援できない」

梓「…」

唯「でも!来年の軽音部の部長としてきちんと役割果たして

  それで東京に行くなら応援する!誰よりも!」

唯「それでもお母さんが反対したら私も説得する」


梓「唯先輩…」

唯「私たちは卒業しちゃうけど、もう一年頑張ろう?」

梓「わかりました…唯先輩…ずるいです…」

唯「へへへ」

梓「うわぁぁぁぁん…」

そしてあずにゃんはその場で私に抱きついて5分以上泣き続けた

私はそんなあずにゃんを抱きしめながらいい子いい子してあげた

そしてあずにゃんが泣きやんだ後、二人で部室へ向かった。

3人は心配そうにしていたがあずにゃんの笑顔を見てほっとしたようだ。

梓「ごめんなさい!私…まだ軽音部にいさせてください!」

律「何があったかは聞かないよ。ほら、これさわちゃんからもらってきた」

梓「あっ…」

それは退部届と書かれた封筒だ

律「これはもういらないな」

その封筒をビリビリに破るりっちゃん


梓「律先輩…ありがとう…ございます…」

あずにゃんはその場でりっちゃんに抱きついてまた泣き出した。

律「泣くな泣くな!でも退部届破るなんてあたしもちょっと臭かったかな?」

澪「ドラマの見すぎなんだよ、お前は」


律「あっはっは!まぁ何にしてもよかったじゃんか!梓が戻ってきてさ!」

紬「これで元の鞘ね」

律「よっしゃー!放課後ティータイム、第二期のはじまりだー!!」

「おー!!!」




そして5年後――

私はりっちゃんとあるコンビニにいた


律「唯、いつまでその本立ち読みしてんだよ」

唯「うん」

律「おっ、AYANAまたCDランキング1位か~知ってた?AYANAってここら辺の出身らしいぜ?」

唯「そうなんだ、知らなかった」

律「早くしろよ、あたし弁当選んでくるから」

でも、私が見ていたのはそこのページじゃなかった


週間CDランキング、インディーズ部門10位 中野梓



そのページをいつまでも眺めていた


fin




最終更新:2009年12月18日 03:17