唯を形容する際にみんな口をそろえて言う言葉がある。
「かわいい」だ。
でも、私はちゃんとかっこいい唯も知ってる。
もちろん、それを言いふらしたりしない。自分だけが知っている『特別』にしたかった。

2年のとき澪と同じクラスになって、多くの時間を二人で過ごした。
会話の内容は大半が唯の話だった。
その中で知る。澪もかっこいい唯に気付いていたことに。

「1年の合宿のときに打ち上げ花火をたくさん仕掛けてさ、
 その中心で唯がギターを弾いて歌ってたんだ。
 キラキラのカラフルの光の中で凄く楽しそうに。
 あれはかっこよかったなあ。和にも見せてあげたかったよ」

言葉だけでどれほど素晴らしい光景だったかが想像できた。
同時に私の知らないところで成長していく唯が居ることを思い知らされるようで、
胸が締め付けられる。


最近の私は変だ。

私たちの距離はずっと決まっていて、それが当たり前で心地よくて、
お互いに干渉しないけど大切に思っている。
それで満足だった。
言葉を交わさなくても、どこで何をしているか見ていなくても、
なんとなく繋がっている感覚は他の友人とも家族との距離とも違う。
唯一無二の信頼関係。
必要以上にひっついたりしないことが、逆に心を近づけている。

そう思っていた。

なのに、不意に唯を独占したくてたまらなくなる。
ギー太や軽音部の話題ばかりがつむぎだされる甘い声。
どうしたら、その話題を私の存在で上書きすることが出来るのだろう。
そんなことばかり考えるようになってきている。
そのくせ、ギー太に夢中になっていたり、ライブのことを楽しそうに話す
唯のことが何より好きだなんて、一体私はどうすればいいのか。


こんな気持ちは異常だと分かっている。

私じゃ唯の心を満たせない。唯は自由でなくては唯じゃない。
矛盾した心が淀む。
好きだと言う気持ちはとても良い感情なのに、
何故こんなにも自分の醜い部分を浮き彫りにするのだろうか。
唯以外に興味が持てなくなっている。

この気持ちの正体を私は知っている。
勉強ばかりしていても、そのくらいは分かるし認めることも出来ている。
気の迷いかもしれない。そう思い込んでいるだけかもしれない。
でもこの胸を焦がす熱は確かにここにある。

私は親友のままで良い。多くを望めば、多くを失う。物事には対価が必要なのだから。

でも言ってしまいそうになる。

「ごめんね。私、唯のこと好きなの」

誰にも聞かれることのない呟きが白い息とともに冬の空気に溶かされていく。
伝えたところで、今の関係以上のものが築けるとは思えない。

きっと私はずっとこのままだ。
眩暈がするほど微熱に浮かされて、唯との距離を保つことに必死になって
幼馴染の特権や親友というポジションを誰にも譲らない。
そうすることでしか自分を納得させることが出来ない。

恋人にはなれなくても、一番近い他人で居ることが出来るのならそれでいい。
少なくとも今はそう思う。
なにより、言葉に出した瞬間にこのなんとも形容しがたい恋の存在が
どこかに消えてしまいそうで怖いのだ。

教室について暫くすると、廊下の奥から私の頭を悩ませている元凶の
楽しそうな声が聞こえてくる。
扉が開くと何も知らない唯は私を見つけ、いつものように柔らかく笑い掛け朝の挨拶をくれた。


「和ちゃん、おはよー」
「おはよう、唯」


そうして私は今日も言えない思いを押し殺して甘い胸の痛みを楽しむ。



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最終更新:2010年11月07日 02:19