私の名前より私を信用してくれる、かぁ
ずっと私を支えてくれた憂の由来
でも、きっと私を支えてくれてるのは由来だけじゃない
みんなの温かい心が私を守ろうとしている
澪「なぁ憂ちゃん」
澪「私は当然唯やこの二人ほど憂ちゃんの事は知らない」
澪「だから私なんかが言ってもあんまりピンと来ないかもしれないけどさ」
唯「澪ちゃん?」
澪「憂ちゃんの言う『優』に見せる為に自分を偽ってきたってのはやっぱり違うと思うぞ」
憂「澪さん…」
澪「クリスマスや大晦日、憂ちゃんには私達もお世話になってるから分かる」
澪「少なくとも君の優しさに触れた事のある人なら皆分かると思う」
純「さっすが澪先輩! よく分かってらっしゃる!」
律「みーおっ! そんな積極的なんてらしくないじゃん!」
澪「なっ、なんだよ律ぅ! 茶化すな!」
律「まぁ、さ」
律「お姉ちゃんに言った言葉と同じで申し訳ないんだけど」
律「みーんな、憂ちゃんの事大好きだよ」
憂「律さん…」
律「へへっ」
紬「うんっ、二人の言うとおり!」
紬「本当に作り物の性格だったらね、こんなに皆に愛されないもの」
紬「それに憂ちゃんが例え自分を偽っても今日みたいにすぐにバレちゃうんじゃない?」
紬「憂ちゃんの事に関しては世界の誰よりも鋭いお姉ちゃんに、ねっ♪」
唯「だねっ♪」
憂「紬さんも…」
澪さん、律さん、紬さん
友達の妹相手でもこんなに親身になって話してくれる素敵な人達
お姉ちゃんの友達になってくださって本当にありがとうございます
純「本当にいい先輩達だね、梓」
梓「でしょ? へへ、羨ましい?」
純「さすがにもう強がれないよ! 羨ましいぃぃ私も軽音部入るううぅぅ!!」
梓「うわっ、今度は曝け出しすぎ……」
ふふっ、相変わらず仲の良いこの二人もそうだね
私の為にこんなに真剣になってくれるなんて
二人とも、私の友達になってくれて本当にありがとね
憂「……皆さん本当にありがとうございます」
憂「私、自分の名前を気にしてこだわりすぎてました」
純「うんうんっ」
憂「でも、由来よりもっと大切なものを見つけられたような気がします」
憂「名前に理由が無くてもこれが私の性格なんだって信じてみようと思います!」
澪「うん、きっと周りの人達がそれを証明してくれるはずだよ」
憂「はいっ」
一生変わらないのはなにも名前だけじゃない
私の周りにはこんなにも思いやりのある人達がいる
名前にこだわらず自分のやりたいように生きてみよう
それでも私を変わらず愛してくれる人達がいるなら
きっと私は『優』じゃなく『優しい憂』になれているんだと思うから
憂「あ、でも…」
梓「どうしたの?」
憂「由来とか聞かれたらやっぱり困っちゃうかも…」
純「あ、そっか…」
うーん
由来にこだわらないとなるとやっぱり自分の名前は好きになれない
理由が無いならただの悪いイメージだけが残るから
憂「うん、憂って名前はやっぱり印象よくないから…」
紬「確かに憂ちゃんの事知らない人だと変に捉えられちゃうかも…」
律「あ~そうかもしんないな~」
唯「憂、自分の名前嫌い?」
憂「うーん…やっぱり優の方が良かったかな」
梓「由来が無いなら、まぁそうなるよね」
唯「ちゃんと由来があればどう?」
憂「うーーーん……」
唯「私の考えた『憂』の由来を言っても良い?」
憂「……えっ?」
唯「私が考えた理由なら憂も信じてくれる?」
律「おっ、なんだよ唯! あるなら言っちゃえ言っちゃえ」
純「気になります!」
唯「お父さんもお母さんもどう考えてるかは分からないけど……」
唯「私が憂と一緒に生きてきて、憂を見て考えたんだ」
唯「だからちゃんと憂の性格通りの由来だよ」
お姉ちゃんから飛び出した意外な言葉
お姉ちゃんの考える私の名前の由来…?
唯「『人』という文字が『憂』にくっつくと『優』になる」
唯「だから憂は人が隣に来たら優しくなれるって思ってたんだよね」
憂「う、うん…」
唯「でも私は反対だと思う!」
憂「……?」
唯「『憂』が隣に来たから『人』が『優』になれるんだと思うよっ!」
憂「私の隣の『人』が…『優』に……?」
紬「……なるほど!」
唯「もし、憂が『優』って名前だったら隣にいても『人』は『優』になれないよね?」
純「あ、本当だ…」
唯「憂は『憂』だから『人』が優しくなれるんだよ」
唯「誰よりも綺麗な心を持ってる憂と触れ合えば誰でも優しい気持ちになれる」
唯「『人』を優しい気持ちにさせる事が出来るから『憂』」
唯「これが私の考えてる憂の名前の由来だよ!」
唯「憂は今まで皆に愛されて生きてきた、それが証拠だよっ」
澪「それだ、唯! それなら一番納得できる!!」
唯「えへへ、『憂』って本当に素敵な名前だよ?」
憂「お姉ちゃん…」
お姉ちゃんが教えてくれた由来、ものすごく納得できる
私の事を一番知ってるお姉ちゃんが教えてくれたからってのもあるけど
何より私はずっと友達に恵まれてた
みんなきっと私なんかいなくたって良い子だよね
でも私が今感じてる、この溢れそうな気持ち
皆に分けてあげられてるんだとしたらすごく嬉しい
そうやって分けた優しさに、私は今支えられている
だったら私は『憂』でありたい!
純「あっ、私実はこの高校偏差値足りてなかったんですよ」
純「でも憂に勉強見てもらって合格することが出来たんです」
律「てーことは純ちゃんは…」
純「はいっ」
律さんと純ちゃんが同じようにニヤリと笑う
お姉ちゃんも楽しそうにその様子を眺めている
純「憂のおかげでちょっと優秀になれたんです」
唯「憂が純ちゃんを『優』にしてあげたんだね」
唯「さっきも言ったけど憂はもともと『優』なんだよ」
唯「でもそれを『人』に分けてあげたくて『憂』になったんだと思う」
澪「ああ、それは『憂』ちゃんじゃないと出来ないな」
唯「うん、だから憂は人の幸せを本気で喜べる優しい子なんだよね」
律「おお~っ!!」
紬「パーフェクトだわ唯ちゃん!」
純「それなら『優』より『憂』の方がはるかに憂らしいです!」
梓「唯先輩すごい…尊敬します……」
唯「すごくないよ~だって私がそうだもん」
唯「愛されて優しくなれて、優しくなるからまた憂が愛してくれて…」
唯「どこまででも優しくなれるからどこまででも愛してもらえる」
唯「憂のおかげで私が『優』になれてるんだよ」
右手で頬をポリポリ掻きながら照れた様に笑うお姉ちゃん
私の心の中が穏やかな気持ちで一杯になる
これぞ、あったかあったか♪だね
唯「だから笑って、憂」
唯「憂の笑顔は皆を笑顔にするんだよ」
憂「お姉ちゃん…ありがとう…」
唯「ううん、私の方こそ」
唯「優しさをありがとね、憂」
お姉ちゃんが見せてくれる最高の笑顔、優しさ
私のおかげだって、そう言ってくれる
長い間ちょっとだけ好きだった私の名前
さっきまで信じられなくなってた私の名前
なのに今はこんなに誇らしくて、大好きな私の名前
あれ、おかしいな
あったかくなりすぎて目の奥が熱くなってきちゃった
律「よーっし! 一件落着って事で皆でファミレスでも行くかぁー!」
澪「うぉい律ぅ! 良い雰囲気が丸潰れだろ!」
紬「まあまあまあまあまあまあ」
澪「でも…そうだな、行こうか」
澪「憂ちゃん、言っておくけど私達も憂ちゃんの笑顔好きだぞ」
律「そうそう! あとでちゃーんと笑顔見せてね、憂ちゃん」
憂「……はいっ…」
律「っとと! さっさと行くぞー」
紬「ほら、梓ちゃんも純ちゃんも行こう?」
純「やっぱりかっこいいよ、憂の名前」
憂「純ちゃん…」
純「ちぇー、にしてもやっぱり唯先輩には敵わないなぁ」
梓「純、しょうがないよ」
純「てゆーか、だったら憂とずっと一緒にいる唯先輩って世界一幸せじゃない?」
純「だってさ、大好きな相手にどこまででも愛してもらえるんだよ?」
梓「んー、でも私は一人だけ唯先輩より幸せな子知ってるかも」
純「えぇっ!? 誰!?」
梓「うわっ、純本当にわかんないの?うわあ~」
純「ちょっと何その態度!」
梓「あっ、なに、やる気!?」
律「おまえらホントに楽しそうだなー」
紬「シャランラシャランラ~♪」
梓「あっ、ムギ先輩そんな猫みたいな掴み方やめてください!」
純「わ、私は猫じゃないのにぃ」
澪「おぉムギ2人同時か、相変わらず力持ちだな」
律「って事で、唯! 先に行ってるからな~」
唯「ほーい、ありがとね~」
今音楽室には私とお姉ちゃんの二人だけ
やっぱり私は周りの人に恵まれてるなぁ
唯「えへへ、皆気を使ってくれたね」
憂「…うんっ……」
唯「今、二人きりだよ」
憂「…そう……っだね………」
唯「……憂、おいで」
両手を広げて微笑むお姉ちゃん
きっと誰より大きな愛情で私を包み込んでくれる
せっかくの機会だし今は我慢しないで思いっきり甘えよう
だってもう、緩みきった涙腺を押さえられそうにないっ
唯「おっとと…えへへ、いい子いい子♪」
唯「ふぃ~満腹満腹~」
憂「おいしかったね~」
唯「憂の料理のほうが何百倍もおいしいよ」
憂「そんなことないよぉ」
唯「憂のご飯よりおいしいものは食べた事ないよ~」
ファミレスからの帰り道
満足そうにお腹をさするお姉ちゃん
その姿を見てるとまた幸せな気持ちが膨らんでくる
憂「お姉ちゃん、えっとね、今日は……」
唯「ふふん、いつでも頼っていいんだよ~?」
憂「……うんっ! 頼りにしてるからね!」
唯「おっ、憂はやっぱり笑顔が一番だね!」
憂「えへへ、私もお姉ちゃんの笑顔大好き」
隣同士、笑顔の私とお姉ちゃん
実はお姉ちゃんが教えてくれた名前の由来ね
ひとつだけ違うところがあったんだよ
憂「あのね、私やっぱり一人だと優しくなれないと思う」
唯「え~、絶対憂は最初から優しいよ?」
憂「ううん、正確には分からない……かな?」
唯「ほぇ?」
憂「だってね、私には生まれた瞬間から……」
憂「いつも隣にいてくれる『人』がいるんだもん」
唯「あ、それって……」
憂「今なら人が隣にいる時優しくなれるって由来も信じられるよ」
憂「私も愛されて優しくなれて、また愛されて…もっともっと優しくなれてるから……」
憂「きっと隣にいてくれる『人』も私も……一緒に優しい気持ちになれるから『憂』なんだよね」
唯「おぉ…!」
憂「『憂』の本当の意味、やっと見つけたよ」
ポン、と手を叩き納得した様子のお姉ちゃん
その仕草がかわいらしくて私はクスクスと笑ってしまう
あれ、ちょっと目を離した隙に隣にいたお姉ちゃんが消えている
慌てて振り返るとお姉ちゃんは立ち止まって私を見つめていた
それにどうしてかな?
私を見つめるお姉ちゃんの表情、ちょっとだけ硬いかも
憂「……お姉ちゃん?」
唯「だ、だったらさ……」
……やっぱりちょっと緊張してる
安心したくて、安心させてあげたくて
私は右手を差し出す
唯「憂……えへへ~」
憂「ふふっ♪」
ギュッと手を握って私のとっておきの場所に案内する
お姉ちゃんはいつもの笑顔
私の心もポカポカとあったかい
やっぱり一番隣にいてほしいのはお姉ちゃん
唯「憂の手あったかいね~」
憂「お姉ちゃんの手もだよ~」
唯「……よーしっ!」
お姉ちゃんは立ち止まってコホン!と咳払いをする
手を握ったまま私達は向き合い、お互いを見つめる
嬉しいんだけどなんだかちょっと恥ずかしい…
唯「憂、さっきの続き言うね」
唯「これからも、ずっと……優しい憂のままでいてくれる?」
優しくてあったかくて、でもどこか真剣なお姉ちゃんの表情
だから、私の答えも決まってる
憂「……うんっ」
憂「こちらこそ、ずっと優しいお姉ちゃんでいてほしいな」
隣に『人』がいる時、私が優しくなれて
隣に私がいる時、『人』が優しくなれる
隣にいたい『人』と一緒に優しくなれるから『憂』
それが私の名前
唯「ずっとずっとずぅーっとだよ?」
憂「うん、いつまでもずっと……約束っ!」
唯「えへへ、約束だよっ!」
世界で一番幸せになれる私の名前
おわりです
最終更新:2010年11月08日 21:02