<澪梓サイド>
梓「それじゃあ、送ってくださってありがとうございました」
梓は家の前に着くと、門の前で澪と向き合ってぺこっと頭を下げた。
ずっと繋いでいたままの手を離すと、その途端に突然雨が降ってきて、
二人は顔を見合わせた。
梓「あの、お姉さま。良かったら雨宿り、していきますか?」
澪が「傘あったっけ」とカバンの中を探すのを見て、梓は思わずそう声を
掛けていた。
澪「え、けど……出来れば、傘だけ貸してもらえたら。迷惑だろうし」
梓「大丈夫ですよ、家、今誰もいませんし、せっかく送って貰ったんですし……」
澪「……、梓がいいんならお邪魔させてもらうよ」
梓「は、はい!どうぞどうぞ!」
澪は梓の表情がなんとなく寂しそうに見えて、そう言った。
梓はパッと顔を輝かすと、澪を家へと招き入れた。
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澪「お邪魔します……。綺麗な家だなあ」
梓の家へ足を踏み入れてすぐ、思わず澪は呟いていた。
黒で統一された家は、その中も同じで、通されたリビングはシンプルに
纏められていた。
梓「そんなことないですよ。あ、ここ、座っててください。何か持ってきますね」
澪「別にいいよ?雨止んだらすぐに帰るし……」
梓「けど、ちょっと雨に濡れましたし、身体冷えちゃいます」
そう言うと、梓は一旦リビングを出て行ってすぐにタオルを抱えて持ってくると、
それを澪に渡してからキッチンでコーヒーを淹れた。
梓「インスタントなんですけど……」
澪「ううん、ありがとう」
梓の淹れてくれたコーヒーを一口飲むと、澪は猫舌なのかコーヒーを冷ましている梓を
見て言った。
澪「梓」
梓「はい?」
澪「ちょっと来て」
澪に言われ、梓は一旦コーヒーの入っているマグカップをテーブルに置くと、
澪が座っているソファーの前まで近付いた。
すると、澪は梓を自分の前に座らせると、まだ残っていた乾いたタオルで梓の髪を
拭き始めた。
澪「梓だってすごい濡れてたのに……。このままにしてたら風邪引いちゃうよ」
梓「……、す、すみません」
梓(ど、ど、どうしよう!?何かすごい緊張してきちゃったよ!?)
澪の手が梓の髪の上を滑っていく度に、梓の心臓はどくどくと音を立てた。
梓(あぁ、これが唯先輩ならこんなに緊張しなくたって……)
梓はそこまで考えて、何でこんなときまで唯先輩のことを思い出すんだと
自分に呆れて苦笑を浮かべた。
澪「……よし、これで一応大丈夫かな」
梓「あ、ありがとうございます」
澪の手が止まり、離れると梓はほっと息を吐いた。
ずっと憧れていた人と二人きりでも嬉しいのに、まさかこんなことまでしてもらえるなんて。
梓(今の、本当の姉妹、みたいだったなあ)
澪「あ、雨止んできた」
ふと外を見た澪が、呟いた。
梓も同じようにして外を見ると、確かに雨は止んでいる。
梓「夕立、だったのかな……」
澪「かもな。それじゃあ、私は帰るよ。そろそろ暗くなる頃だし」
梓「あ……」
立ち上がった澪の手を、梓は思わず掴んだ。
澪「梓?どうしたの?」
梓「あ!……いえ、すみません」
梓(今私は何を言おうとしてたんだろう。……もう少しいてくれませんか、なんて)
慌てて手を離し、俯いてしまった梓を見て、澪は首を傾げると、すぐに梓の家に今、
誰も居ないことを思い出して、梓の頭に手をおいて撫でた。
澪「梓、もし良かったら、もう少しここにいていいか?私も兄弟とかいないし、
実はこういうのに憧れてたんだ。だから、コーヒー飲めるまでの間だけでも」
梓「澪先輩……」
澪「ん?お姉さま、だろ、梓」
梓「……はい、お姉さま!」
意外な澪の言葉に、梓は驚きながらも頷いた。家で誰かが自分の傍にいてくれることは
あまりなかったから、誰かがいてくれるのが梓は凄く嬉しかった。
<唯律サイド>
唯「うわ、雨降ってきちゃった!」
律の家へと歩き出してすぐ、突然振り出してきた雨に、二人はまたしても
足を止めた。
唯「律、傘ある!?」
律「わ、悪い、見当たらん!そうだ、唯、あそこで雨宿りしよーぜ!」
唯「唯じゃない、お姉さまでしょ!」
律「今はそんなこと気にしてる場合じゃねーの!」
そう言うと、律は先に立って雨宿りが出来そうな公園の大きな木の下に走った。
唯もその後を追いかけた。
唯「うわー、びちょびちょになっちゃったよ……」
未完
最終更新:2010年11月12日 00:45