# ジャズ研の夏


純「ぜぇー…はぁー…」

 夏休み――炎天下のなか、ジャズ研究会は校庭でランニングをしていた。

純「ぜぇぜぇ…な、なんでこんな朝っぱらから走らなきゃいけないんですか…」

先輩B「はぁはぁ…そんなの、私が知るかっ…」

先輩C「十時にはソフトボール部がグラウンドを使う。私たちが使えるのは今の時間だけだ」

先輩B「使わなくていいよそんなの~…はぁはぁ」

純「はっ、ひっ…」

先輩C「情けないぞお前たち。そんなことでジャズ研究会を生き残れると思っているのか」

先輩B「私、たちは…はぁっ…、軍隊じゃ、ないんだぞ…この、体力バカ」

純「ひぃひぃ…」

先輩C「ふっ、お前たちが体力なさすぎなだけだ。私は先に行くぞ」

先輩「みんなー、あと十週で終わりだから頑張ってー」

先輩B「し、死ぬ…殺される…」

先輩A「ほら頑張って」

純「おえ…」

先輩2「しっかりしなさい」


ランニング終了


先輩B「あ゛ー…」

純「…なんで走んなきゃいけないんですかぁ~」

先輩「演奏には体力も必要なの。吹奏楽部だってどこだってやってるわよ」

純「えー…」

純(軽音部はやってるのかなぁ…)

先輩B「頑張って走るのなんて無意味だよ~…バイクで走ったほうが速いんだし」

先輩「それじゃ体力つかないでしょ。グダグダ言ってないで、次は筋トレよ」

先輩「まず二人一組になって」

純・先輩B「うぇ~~…」

先輩A「はい、一緒にやりましょ」

先輩B「筋トレやだぁ~…」

純(せ、先輩とやるんだったら頑張れるかも…)

先輩C「鈴木、お前は私とだ」

純「えぇっ!?」

先輩C「鍛えてやる、来い」

純(な、なんで~!?)

先輩B「あいつ体育会系だから…すっごい厳しいぞ~。ご愁傷様」

純(なんでこんな時にあいつ[同級生]はいないのよー!!)

先輩C「鈴木! 早く来い!!」

純「は、はい~!!」

純(入部するとこ間違えたかも…)

先輩C「鈴木、聞くところによるとお前は部内で一、二を争うほど体力がないらしいな」

純「すみません…」

先輩C「いいか? 一年のうちにしっかりと鍛えておかないと来年レギュラーは取れないぞ」

純「はい…」

純(これじゃあ完全に野球部かなんかだよ…)

先輩C「そのためのトレーニングだ。意識してやれ」

先輩C「まずは腹筋、私が足をおさえてやる」

純「はぁぁ…」

先輩C「早くしろ!」

純「は、はい!」

純「いっち…に…」

先輩C「もっと上げるんだ、それと背中は地面につけるな」

純「さんっ……し…ぃ……」

純「ぐはぁーっ…もうだめ」

先輩C「まだ十回もやってないぞ!!」

純「だ、だってランニングで疲れて…」

先輩C「はぁ…じゃあ私が先にやるからお前は足をおさえてくれ」

純「は~い」

先輩C「いっち、にっ…」

純「すご…どんな腹筋してるんですか」

先輩C「毎日っ、やってるからなっ…」

純「へぇ~…ちょっとお腹触ってみてもいいですか?」ツン

先輩C「きゃあっ!?」ビクッ

純「!」

純(い、今のかわいい声先輩の…?)

先輩C「す、鈴木ぃ~…っ!!」

純「ひっ!?」

先輩C「二百回だ! お前は腹筋二百回やれ!!」

純「えぇ~!?」

先輩B「あ~ぁ、かわいそうに」

先輩A「寝てないで、お腹上げる」

先輩B「あ~…なんでこんなこと…」

先輩A「体力づくりのためでしょ」

先輩B「若いから体力は大丈夫だよ~」

先輩A「ダイエットにもなるじゃない」

先輩B「太ってないから大丈夫」

先輩A「私なんて最近三キロ増えたのに…」ボソッ

先輩B「そういえば私は胸がおっきくなったんだよね~…Eカップになっちゃった」

先輩A「…自慢?」

先輩B「まさか、こんなの大きくても邪魔なだけだって…」

先輩B「あっ、先輩に胸が重くて腹筋できないって言えばやらなくてもいいかナ?」

先輩A「間違いなく却下されるわ。ていうか逆に怒らせると思う」



――数十分後


先輩「みんなお疲れ様。部室に戻って少し休憩したらパート別練習よ」

「「「はい!」」」

先輩B「疲れた…動けない…」

純「私も…」

先輩B「もう帰りたいな」

純「そうですね~…」

先輩「何をしてるの、戻るわよ」

純「あ、はい」

先輩B「おぶって~~」

先輩「甘えないの」

先輩B「全身動けませんよ~…」

姫子「あの…もういいでしょうか?」

先輩「あぁ、ごめんなさい。ほら邪魔だから行くわよ」

先輩B「うぇ~い……純、おぶって」

純「無理ですよ…」



――ジャズ研 部室


先輩B「あーたた…体痛い…」

純「もっと鍛えておけばよかった…」

先輩B「なんか楽して体力つく方法ないかな~」

純「…もし私がスーパーサイヤ人だったらトレーニングしなくてもすむんですけどね」

先輩B「じゃあ私は聖闘士にでもなろうかナ」

先輩「現実逃避してないで、しっかり休みなさい」

先輩A「はい、スポーツドリンク」

先輩B「ポカリ?」

先輩A「アクエリ」

先輩B「私はポカリ派なのに…」

先輩「水分補給はちゃんとしてね、熱中症になると困るから」

純「はいっ」

先輩2「…あんたも変わったわね」

先輩「なにが?」

先輩2「だって一年のときなんか――…」ヒソヒソ

先輩『もうやだ~走れない~!!』

先輩2『走ろうって言ったのはあんたでしょ』

先輩『だってぇ…』

先輩2『ほら、立って』

先輩『うぅ~…』

先輩2『もう…置いてっちゃうよ? 私先に行くから』

先輩『あっ!? 待ってよー!!』

先輩2『じゃあちょっとは頑張りなさい』

先輩『……』

先輩2『どうしたの?』

先輩『おぶって』

先輩2『…お先に』

先輩『ご、ごめん! 走る、走りますー!!』

先輩2『……』タタタッ

先輩『うわ~ん! 待って~!!』

先輩2「…――なんてこと」

先輩「わーーわーーーー!!」

純「!?」ビクッ

先輩「ちょっと! そういうこと言わないでよ!」ヒソヒソ

先輩2「ふふっ、ごめんごめん」

純「ど、どうしたんですか?」

先輩B「さぁね~。ほい、アクエリ」

純「あ、どうも」

先輩A「あの二人だけの素敵なエピソードでもあるんじゃない?」

先輩B「素敵なエピソードねぇ~…」

ガチャッ

同級生「すいません! 遅れました!」

先輩C「遅いぞ」

同級生「ごめんなさい…補習があって…」

先輩C「まったく、普段だらしないからそんなことになるんだ」

同級生「ひぃっ」

先輩B「お前もあんまり成績良くないけどな~」

先輩C「わ、私は補習を受けるほど低くはない!!」

先輩B「ギリギリのくせに」

純「なんの補習?」

同級生「数学…」

同級生「しかも明日は英語でしょ、それに古文も…」

純「……留年しても元気でね」

同級生「ま、まだそうとは決まってないよ! それに純だって勉強苦手でしょ?」

純「私は期末テストそこそこだったもん」

同級生「えぇ~? そうなんだ…」

純(直前で憂にノート見せてもらってよかった…)

先輩「全員揃ったことだし、そろそろパート練習始めましょうか」


 ・・・・・


先輩「初心者の子もいるし、もう一度基礎から教えるわよ」

先輩「ジャズベースっていうのは演奏では、4分音符を連ねたラインを演奏することによって…ウンタラカンタラ」

純「え、えっと…」

純(な、なにが…どうだか…)

先輩「――純、今私が言ったことをもう一度説明してみて」

純「え!?」

先輩「教えたでしょ?」

純(そんなぁ~…全然わかんないよー)

先輩「ほら、早く」

純「え~っと…ジャズベースっていうのは――…」

純「弦が四本で…音が低くて…」

先輩「…それはみんな知ってるわよ」

 クスクス

純「ぁうっ…すいません…」


先輩「こういう基本的な知識ぐらいは頭の片隅にでも入れておくのよ?」

純「はい…」




先輩2「……」


先輩『……』カキカキ

先輩2『なにしてるの?』

先輩『ジャズの勉強』

先輩2『へぇ…わざわざそんなノートまでとって』

先輩『いつか後輩ができたら私が教える立場になるんだし、完璧に覚えておかないといけないでしょ?』

先輩2『後輩、ね。…できるのかしら』

先輩『で、できるわよ! 来年にはきっと…』

先輩『部室に入りきらないぐらいにね』

先輩2『…ふふっ、だといいね』


先輩2「…クスッ」




先輩「じゃあ…実際に弾きましょうか。みんな、準備して」

先輩「まずはランニングベースからやるわよ」


ボンッボンッボンッ♪


先輩「押さえる場所にすばやく指を動かせるように」

先輩「それと的確にね」

ボッ・・・

純「あ…」

先輩「焦らなくてもいいのよ、落ち着いて」

純「は、はい」

ボボッ・・・

純「あっ!?」

先輩「純、慌てなくていいから正確にやりましょ」

純「ご、ごめんなさい!」

純(はぁ~…面目ない)



――数時間後


先輩2「そろそろ休憩でいいんじゃない?」

先輩「そうね…ちょっと遅くなったけどお昼にしましょうか」


同級生「やったー! ようやくご飯だ~」

同級生「純、食べようよ」

純「はぁ…」

同級生「なに? 落ち込んでるね。魚肉ソーセージあげるから元気だして」

純「それがさぁ・・・」パクッ

純「練習上手くいかなくて……あ、これ意外と美味しい」モグモグ

同級生「私もだよー、二拍三連のリズムが取れなくて…」

同級生「タカクラケン、タカクラケン…」

純「高倉健? なにそれ」

同級生「えへへ、こうやって叩けばできるって教えてもらった」

同級生「タカクラケン、タカクラケン」

純「タカクラケン、タカクラケン……ホントだ、二拍三連になってる」

同級生「でしょ?」

先輩B「~♪」

先輩A「なにやってるの?」

先輩B「スケールの練習」

先輩A「ご飯の時間なのに…熱心ね」

先輩B「今弾きたいから弾いてるだけだヨ」

先輩C「練習もいいが栄養もとれ。倒れても知らないぞ」

先輩B「心配してくれてんの~? 優しいねぇ~」

先輩C「そ、そういうのじゃない!」

先輩B「ならついでに食べさせてくれない? 私はギター弾いてて手があいてないから~」

先輩C「私はお前の召使いか!」

先輩B「私はお前の召使いか!」

先輩C「くっ、人のマネをするな!!」

先輩B「くっ、人のマネをするな!!」

先輩C「やめろ! ふざけるなぁ!!」

先輩B「やめろ! ふざけるなぁ!!」

先輩C「………私はバカです」

先輩B「うん、知ってる~」

先輩C「お前ってやつはーーー!!」

先輩A「ほらほら、騒がないの」

先輩B「あ~~…遊んだらお腹すいた」

先輩C(くそっ…いつか目に物見せてやる…)

先輩「それにしても、暑いわね…」

先輩B「この部室クーラーないんですか?」

先輩2「残念ながら…来年つけてもらうしかないわね」

先輩B「今つけてもらわなきゃ意味ないよ~」

先輩2「アイス食べたいわぁ…」ボソッ

ガチャッ

顧問「チィーッす」

純「あ、先生」


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最終更新:2010年11月13日 01:04