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突然、おかしな衝動に襲われた。

すぐそこにある長くてきれいな黒髪に。
白くて柔らかなその肌に。
濡れた赤い唇に。

触れたい。

伸ばしかけた手を、自分の中に残っている理性を総動員して止める。

まただ。
澪と一緒に過ごす夜は、必ずこんなふうになってしまう。

どれだけ必死に自分を保とうとしたって。

「りつ……?」

名前を呼ばれて。

「したいの?」

寝起きのぼんやりした表情で。

「良いよ」

そう言って微笑まれたら。
私は澪に手を伸ばさざるを得なくなる。

同性に、澪に欲情していた。
澪の身体に触れることが好きだった。
澪も私を拒まないでいてくれた。

だけどお互い、こんなことおかしいんだってわかってた。

「いつから友達じゃなくなったんだろう……」

事が終わると、私は必ずそう言って澪に背中を向けた。
澪はただ、「わかんない」と答え、私の背中をその長い指でなぞってゆく。

「ただ……」

澪が何を言おうとしてるのか、わかっていた。

もう終わりにしよっか、こんな関係。

澪がそう言えば、私はそうだなと頷ける。
頷いて、友達に戻ろうと言えばいい。

だけどいつも澪は、「ただ……」と声を発したきり、何も言わない。
弱虫でへタレな私は、だから何も言えない。


澪が私の背中に寄り添うようにして、そのまま、夜がふけていく。
好きだとか、そんな愛のコトバなんて、何もない。
ただ私たちは、無言で重なり合うだけ。

初めはそれだけで満足だった。
今だって満足だと思ってる。

だけど、こんな関係になってしまってから、心にぽっかり空いた穴は、
いくら澪と行為を繰り返したって塞がらない。

私は何を求めているんだろう。

最初はただ、悪戯のつもりで始めた。
いつのまにかお互い本気でその行為をするようになった。
何度も何度もそれを繰り返すうちに、澪の身体を求めるようになった。

煙草や薬の依存性と同じなんだと思う。

私は、澪の身体に依存している。
たぶん、澪だってそう。

澪だって、私の身体に依存している。

だから私たちは行為を繰り返す。

身体は満足していた。
なのに心はまだ満たされなかった。

満たすどころか、もっともっとと求めるようになった。

人間の欲求はいつまでも続くと聞いたことがある。
まさにその通りだった。

私は今、澪の身体が欲しいんじゃなく、澪の心が欲しい。
澪に触れたいんじゃなく、澪の心に触れたい。

もっともっと、求められたい。

だけど私たちは、きっともう、戻れないから、私は何も言わない。
澪もきっと、そうなんだと思う。

私たちは戻れない。
澪の、私の心が在る場所へ、戻ることなんて出来ない。

ただ、快感という名の海で、私たちは溺れるしかない。
何も気付かない振りをして、溺れ続けるしかない。

朝の光が、後ろで眠ってしまったらしい澪を照らした。
私は寝返りを打つと、澪を見た。澪が微かに身動ぎした。

その幸せそうな顔を見て、何となく澪で弄んでみたくなった。
まだこんな関係じゃなかった頃、二人でじゃれ合っていたときのように。

だから私は、「おはよう」の代わりに、「愛してる」と囁いてみる。
ゆっくりと目を開けた澪は、居心地悪そうに「バカ律」と小さな声で言うと、
私に朝の口付けを寄越してくれた。

終わる。



最終更新:2010年11月14日 00:00