どっかの女子大学、軽音部部室

女1「でさー」

澪「・・・」

女2「マジでー?ありえねー」

澪「・・・」

女3「ウケるー」

澪「・・・」

女共「アハハハハ」

澪「ねえ、みんな」

女1「あ?」

澪「そ、そろそろ真面目に練習しない?」

女共「・・・」

女共「はああああああああああああああ?」


女1「嫌だし。今から合コン行くし」

澪「でも・・・」

女2「汗かきたくないよねー」

澪「だからって・・・」

女3「ウケるー」

澪「・・・」

澪「今日は練習するの!絶対の絶対!」

女1「練習とかいらんて。高校生じゃあるまいし」

澪「だってもう3ヶ月も演奏してないじゃないか!私達は軽音部じゃないのか!?」

女2「軽音部の部活内容は合コンでーす」

澪「そんなの認められるか!」

女3「ウケるー」


女1「ちょっと澪マジうっさい。空気読んで」

女2「澪には無理じゃね?たぶん高校の時もこんな感じで嫌われてたんだと思うよ」

澪「嫌われてない!私が練習しようって言ったらみんなちゃんとやってくれたぞ!」

女1「そんなん知らんて・・・マジうぜ」

女3「ウケるー」ジャキ

澪「え・・・?ノコギリ・・・?」

女3は澪の愛用ベースFENDER JAPAN JB62/LH/3TS Jazz Bassを真ん中から切り始めた。

女3「ギコギコターアイ♪ギコギコターアイ♪」ギコギコ

澪「ああああああああ!!!私のFENDER JAPAN JB62/LH/3TS Jazz Bassがあああああ!!」

女1「マジウケるし」

女2「澪のベース切り終わったら合コン行こうぜー」

女3「ノコギリのち合コン」

FENDER JAPAN JB62/LH/3TS Jazz Bassは女3の蛮行によって真っ二つとなる。

澪「こんなことって・・・いくらなんでもひどすぎるよ・・・」ポロポロ

女1「自分のゴミなんだから自分で片付けておいてね」

女2「なあ、あのベース高かったんじゃないの?高校の時からの愛用みたいだったし」

女3「知るかよ。早く合コン行くぞ、野郎共」

女1、2「ヘイ!」

部室にはひとつ増えた自分のベースを抱きしめながら泣きじゃくる澪だけが残された。


澪は涙を流しながら昔のことを思い出していた。

楽しかった部活。
おいしかったお菓子。
文化祭、新歓ライブ。

そして最高の仲間達。

今の澪はその全てを失っていた。

大学生になった彼女に残されたものと言えば、
申し訳程度に付き合っているサークル仲間だけである。


澪「もう嫌だ・・・こんなサークル辞めたい・・・」

澪「でも・・・」

このサークルを辞めればいよいよ澪はひとりぼっちになってしまう。

澪「学科に友だちなんて一人もいないもんな・・・ハハ、高校の時よりひどいよ・・・」ポロポロ

澪「高校のときは部活をするのがあんなに楽しかったのに、いつから音楽が嫌いになっちゃったんだろうな」

澪「唯、律、むぎ、梓、やっぱり私お前らと一緒じゃないとダメだよ・・・」ポロポロ

澪「死のう」

澪は決意した。

澪「どうせ私が死んでも悲しむのは家族だけだ」

澪「律達とも最近はまったく連絡とってないしな」

澪「あいつら今何してんだろ・・・?」

澪「まあ、今から死ぬ私には関係ないか」

澪「最後に律と話がしたかったなあ」

口ではそんなことを言いながらも、この後どうやって死ぬか、
澪はそれしか考えていなかった。


澪は夜の繁華街をトボトボと歩いていた。

自殺用のロープは買った。
首吊りが無理だった時のために包丁も買ってある。
死ぬ準備は万端だ。

今の澪には街のネオンサインは明るすぎる。
仲良く歩くカップルも、これから飲み行くであろう大学生も、
澪にとっては憎悪の対象でしかなかった。

なぜ自分だけがこんなに苦しまなければならないのか?
そう考えた1秒後、馬鹿らしくなって考えるのをやめた。

澪「今から死ぬんだからどうでもいいだろこんなこと・・・」

虚ろな目をあげると一軒の寿司屋が目に入った。
明るい繁華街には不釣合いの、
お世辞にも綺麗とは言えない外装である。

澪「寿司・・・か。死ぬ前にうまいものを食べるのもいいかもな」

何気なく入ったこの寿司屋。
この寿司屋が彼女の運命を大きく変えることになろうとは、
今の澪には知る由もなかった。


ガララ

「いらっしゃいませー。一名様ですか?」

澪(一名様で悪かったよ)

澪「はい」

「じゃあこちらに・・・って澪先輩!?」

澪「へ?」

梓「私ですよ!中野梓です!あなた澪先輩ですよね!?」

澪「ええ!?梓!?全然分からなかったよ」

無理も無かった。
梓は高校時代と比べて、色々なところが少し大きくなっている。
そして化粧効果だろうか、すごく大人びて見えた。
俺が言うのも何だが超かわいー。
マジプリチー。

梓「もう~、私はすぐにわかりましたよ!」

澪「ごめんごめん。ところで梓は大学生だったよな?ここでバイトでもしてるのか?」


梓「そうですよ。澪先輩も大学生ですよね?もちろん音楽は続けていますよね?」

澪「う・・・」

梓はキラキラした目で澪を見つめる。

音楽・・・続けている・・・と言えるのだろうか。
ここ3ヶ月、メンバーと合わせて演奏などしていない。
ずっと自主練習のみである。

澪「まあ、一応ね・・・梓は?音楽系サークルに入ってるのか?」

梓「音楽サークルはやってないです」

澪「えっ、そうなんだ。意外だな」

梓「見学はしたんですけど、サークルみたいな緩い雰囲気があんまり合わなかったんです…」

澪「へ~」

澪(高校時代の方が緩いだろ…明らかに…)

梓「その代わり外バン組んでるんです!今度ライブやるんですよ!」

澪「あ、あ~そうなんだぁ」

澪は、輝いている梓を恨めしく思った。

澪(なんかこんなに充実した大学生活を送ってる梓を見ると、余計に死にたくなるな…)

澪「梓、それより席に…」

梓「あっごめんなさい。食事ですよね。案内しますね」



「テメエ何度言やわかるんだこのグズ!」

澪「!?」

「へ、ヘイ…すいやせん…」


オヤジ「もうテメエは裏で皿洗ってろ!」

律「はい…」

澪「ええ!?り、律!?」

律「え…?み、澪!?」

澪「ビックリしたぁ!一体何をしてんだよ!?」

律「何って見ればわかるだろ。おやっさんに弟子入りしたんだよ」

澪「弟子?は?お前大学生じゃなかったの?」

梓「律先輩は大学辞めてここに住み込みで働いてるんですよ」

澪「大学を辞めた…?何か色々聞きたいことはあるんだけど…」

澪(律、あんなに怒られて涙目になってる…こんな律を見たのは初めてだ)

澪は律の目を見つめる。

律「あっ、べ別に怒られて悔しいなんて思ってないからな!勘違いすんなよ!」

律は必死に涙を拭うと厨房に消えていった。

梓「いつものことなんですよ。私と違って律先輩は寿司職人ですからね。オヤジさんも厳しくしてるんです」

澪「それにつけても女の子にあんな辛く当たらなくても…」

客「オヤジ、おあいそ」

オヤジ「あいよ!梓ちゃん、3番テーブルおあいそね」

梓「はーい、ありがとうございまーす」トテトテ

澪「こ、これはひどい…!律に対するイジメじゃないのか…」


オヤジ「なんでぃ、嬢ちゃん律の知り合いかい」

澪「はい。まあ…そうです」

オヤジ「そうか、おい律!皿洗いは後でいい!お客さんに茶出してやんな!」

律「え!は、はい!」



梓(ふふ、オヤジさん素直じゃないんだから)

梓「上1人前1700円になりまーす。レジにどうぞー」トテトテ

客「は、はい…フヒヒ…あずにゃんかわええ」

律「よっ、ほらアガリ」

澪「おお、サンキューな」

律「まさかこんなところでバッタリなんてな。ビックリしたよ」

澪「それはこっちのセリフだって…まさか律が寿司職人なんて…大学が嫌になったのか?」

律「ん…大学が嫌になったっつうか…私ってこのままでいいのかなぁって思ってさ」

澪「え?」

律「あのままダラダラ過ごしていいのかなって思って。大学4年間を適当に過ごして何か得られるものはあんのかな~って考えたら、大学行くのが急に馬鹿らしくなってさ」

律「んでさ、悩んでる時たまたまここを通りかかったんだよ」

澪(私と同じ…)

律「なんか知らないけど、惹き付けられたんだよなこの店に」

律「フラフラっと入って、適当に寿司頼んだらさ、それが旨いのなんのって。あの時、思わず泣いちゃったんだよな」

律「食べ物に感動するなんてアホな話だよ。でもさ、気付いたらおやっさんに弟子にしてくださいって頼んでたってわけ」

昔の話をする律の顔もまた輝いていた。

澪「でも辛くないのか…あんなにイジメられて」

律「イジメ?何の話?」

澪「いやホラ、さっきの…」

オヤジ「おい律、口ばっか動かしてねえで包丁でも磨いだらどうだ」

律「あ、はい」

律「よっせ、よっせ」シャッシャッ

澪(律…辛くないのか?もしかしてお前も死にたいと思ってるんじゃないのか?)

澪(律と一緒なら…)


梓「ありがとうございましたー」

梓「最後のお客さんも帰ったし、今日は終わりっと」

梓「澪先輩、せっかくですから軽く飲みに行きません?」

澪「えっああ…」

澪(死のうと思ってたんだけどな…まあ今度にするか)

澪「律も来るだろ?」

律「いや~私は無理。予定あるしな。二人で行っておいでよ」

梓「はい、律先輩頑張って下さいね。行きましょ澪先輩」

澪(予定ってまさか彼氏か!?)

澪(律に先を越されるとか…死にたい…)


飲み屋

梓「かんぱーい」

澪「かんぱい」

梓「ゴキュゴキュ、プッハー。やっぱり仕事の後の一杯は格別ですね!」

澪「チビチビ」

澪(梓、お酒強そうだな…)

澪「そ、そうだな」

澪(大学に入ってからバイトなんてしたことないよ。サークルと授業以外は外に出ることもないし)

澪(私と梓って何が違うんだろ。なんで梓はこんなに楽しそうなんだろ)

澪「なあ、それより律に彼氏でもできたのか?予定あるって言ってたけど」

梓「律先輩に彼氏?アハハ、そんなことあるわけないじゃないですか」

澪「じゃあ予定って何?」

梓「明日のネタの仕込みですよ」

澪「…」

澪(律はお笑いもやってるのか?)

梓「ちなみにお笑いのネタじゃないですからね。まあ、澪先輩がそんなつまらないギャグ考えるわけないか」

澪「あは…は、当たり前だろ」

澪(死にたい)


梓「ネタの仕込みはオヤジさんがやるから律先輩は関係ないんですけどね」

梓「律先輩、ずっとオヤジさんが魚を捌くところを見てるんです」

澪「見てる?それに何の意味が?」

梓「ホラ、オヤジさんてあんな性格じゃないですか。だから人に教えるってことをしないんですよ」

梓「律先輩はオヤジさんの技術を盗もうと毎日仕込みの見学をしてるんです。別にオヤジさんに言われたわけでもないのに自主的に」

澪「あの律が?練習をサボるのがアイデンティティーだった律が?嘘だろ?」

梓「本当ですよ。今の律先輩は昔とは比べ物にならないほど大人になりました」

梓「律先輩、あそこで働き出してから毎日2時間しか寝てないんですよ」

澪「どういうこと?」

梓「仕込みが23時に終わるんです。それですぐにお風呂に入って寝て、3時には起きてオヤジさんと河岸に行きますからね」

澪「河岸?」

梓「あ、えっと魚を買いに行くんです」

澪「何もそんな朝早く行くことないだろ。寝ないと体壊すぞ」

梓「えっとですね、まあ簡単に言えば朝早くないと新鮮な魚が買えないんです」

澪「ふーん…それよりその人本当に律か?ド田舎律とか言わないよな?」

梓「ド田舎?」

澪「いや、ごめんこっちの話」

澪(信じられない。律はニート体質だと思ってたのに)


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最終更新:2010年01月26日 04:44