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ガクッ。

想像の何歩も上を行かれた発言に、頭がガクンと落ちた。期待した私がバカだった。

紬「う~ん、おいしい~。」

ムギが幸せそうにソフトクリームを口にする。私のさっきまでの緊張はなんだったんだ…

澪「で、澪ちゃん。さっきの話だけどね~」

先ほどとは全く違う軽い口調で、今度は話し始める。

紬「私にはわからないわ。」

ああ…やっぱりそうか。期待なんてするもんじゃないな、と私は思う。

紬「でもね、澪ちゃん。」

澪「ん?」

紬「とりあえずちょっと肩の力抜いて、自分のしたいことをしてみたらどうかな?」

澪「…したいこと。」

それがいまひとつわからないから悩んでるんだが……

紬「そう。それも、何か大仰なことじゃなくて。小さいことでも。」

澪「小さいこと?」

紬「そう!例えば……」

ムギは手にしていた残りわずかなソフトクリームを一気に口の中に放り込んだ。
そして、口に残ったそれをかみ締めるような仕草を見せる。

紬「私は今、ソフトクリームを食べた。食べたくなったから。」

澪「うん。」

紬「それだけ。」

澪「うん…て、え?」

小さい!小さすぎる!!
流石にそんなことで私の悩みが一気に吹き飛ぶとは思えないんだが。

紬「今、小さいって思ったでしょ?」

澪「…うん。」

紬「でも、何も見えない状況じゃいきなり大きな目標は見えないものよ。
  だから、小さいことからコツコツと、てのもアリだと思うの。」

澪「小さいこと、か。」

まあ、確かに最近は結構決まりきった日々だからなあ。言い換えれば、安定はしている。
その安定を、いきなり大きく崩すのも抵抗があるし……

紬「そう!そうすれば、また違った何かが見えてくるかもしれないわ!」

澪「うん…あ、ところでムギ。」

紬「何?」

澪「例えばだけど。今ソフトクリーム食べて…何か変わった?」

普通に考えれば、何か変わるなんてことはないだろうけど、私は何故かムギの言葉に
得体の知れない期待を持っていた。何か、答えてくれるはずだと。

紬「そうね。食堂のソフトクリームは美味しい、てことがわかったわ。」

澪「うん。」

紬「これって…日々の楽しみの一つになるかもしれないでしょ?」

澪「…うん。」

紬「その程度のことだけど…私にとっては意義のある、新しいことよ。」

澪「……うん。」

紬「以上!でも、こういうの人それぞれだから。澪ちゃんも頑張って見つけてね!」

昼休みも終わりかけの頃合、私はムギと別れた。今日は一緒の講義はない。
私は、カバンの中から手帳を取りだし眺める。何か新しいことか……

…ふと私は思いついた。今の自分を少し変えるようなことを。

……帰ろう。三限と四限をさぼって。今日は、帰ろう。


「サボっちゃったよ私。律に言いくるめられたわけでもないのに。」

帰りの駅のホームにて、私は何か言い知れないような気分だった。初めてのことだった。
自分で言うのも何だけど、私は真面目なほうだ。どんな楽な講義もサボったことがない。
それを今…

「…でも、結局やることはないんだよな。」

サボるまでは良かった。しかし、その先が何も思いつかない。
折角時間はあるんだ。ゆっくり考えようか。

ふと、空を見上げる。

晴れ渡る青い空に、流れる雲。上空は風が強いのか、その速さに少し驚く。

「そういえば、もうすっかり秋なんだよなあ。」

季節は流れている。でも、私の心は高校時代の楽しさに囚われたまま。
卒業した頃に、心だけ置いていかれている。そんな気がする。


イチバンセン デンシャ ハッシャシマス


ガラガラの車内。私は適当な席に腰を掛ける。

「日々は過ぎていく。体は年を取り、私は心だけ成長しないまま、て感じかな。」

自分の現状を、悲観的な言葉にして呟く。


ガタン ゴトン


……


ガタン ゴトン


……空しい。


「…降りよう、か。」

私は家の最寄り駅の一つ前の駅で下車することにした。ここからだと、歩いて帰るにも
距離は長くないし、何より繁華街を通ることが出来る。暇つぶしには最適だ。


繁華街は平日昼ということあって、いつも通るときよりは盛り上がりに欠ける。

「新しい発見かあ…何か面白そうなこと、ないかな?」

思えば、ここに繰り出すときはいつも誰かと一緒だった。家族であったり、律であったり
また別の仲間であったり。

「でも、ここも歩ききった感があるよなあ…ん、あれは……。」

ふと、変わったものが目に入る。雑貨屋さんだろうか、何かちょっと不気味な感じの
飾りつけを施そうとしている。

「オレンジと紫のライト、それにカボチャ…あ、ハロウィンか。」

一人、私は納得する。今彼は、まさにハロウィンに向けた飾りつけを行っているのだ。
なんか、やるには既に遅めな気もするけど。

「…そういえば、この繁華街もクリスマスなんかになると派手な飾り付けが増えるんだよな。」

子どもの頃、クリスマス近くになると親におねだりしてよくここに買い物に連れてきてもら
った。中学生・高校生になってからはよく律を買い物にいった。

「去年は行けなかったから、今年はまた来れるかな。」

子どもの頃から自分の心を捉えて離さなかった、この通りのイルミネーション。
今年はまた見よう。年末の楽しみの一つだな。

クリスマスと言えばロマンチックな雰囲気、愛しい人と二人で…て。
そう言えば私もいい年だよな。か、彼氏とかそろそろ……
うーん、やっぱまだ無理!恋愛への憧れはあるんだけど、なんだかなー。

それはそのうち、かな。いつになるかなるかわからないけど。

早いもので、気が付くと繁華街の端に来ていた。随分すんなり歩ききった。

「これで、本格的にやることはないな。」

帰ろう。私は、帰途に着くことにした。

帰っても時間余るし、なんかDVDでも借りていこうかな。
最近、映画とか見てなかったし。そうだ、とりあえず見たいものを見よう。

私は、また空を見上げる。
いつの間にか雲は遠くに流されたのか。そこには、青空が広がっていた。


<夜>

Prrrrrr…
携帯電話の音が鳴り響く。メールが来たみたいだ。律からだ。


From 律  10/19 23:48
 今日、何か面白いことあった?


…何かまるで、私の心を見透かしたようなメールだな。
私は即座に返事を返す。


To 律
 別に。何も無い退屈な一日だったよ。
 明日は学校に来いよ。


退屈な一日……朝寝坊から始まって、電車での失態。ムギと話して、講義をサボる。
適当に町を練り歩き、家に帰ってからは昼寝したり、借りてきたDVDなんかを見たり。


これだけあっても、結局退屈な一日か…何か少し自分が嫌になるな。

でも、ほんの少しだけど自分の中で何かが変わった。いや、変わったような気がする。
ほんのちょっとでも、明るい予感を持ってみようかなと思えるようになった、気がする。

つまらない一日。退屈な日々。そうかもしれない
でも、今日胸にした一つの思いを持って、願ってみたいと思う。

明日は。明日が駄目なら、その次の日でもいい。それで駄目なら、その次の日にでも。

「何かいいこと、ありますように。」

私は携帯電話を放り投げ、布団に潜り込んだ。



終わり



最終更新:2010年11月14日 23:22