唯「憂は私のことどう思う?」
そんな突然の一言から始まった。
憂は夕飯の準備で少し忙しそうにしていた手を止め
目が点になりながらこちらを振り向いた。
憂「どう……て、どうなのかな」
唯「うーん、私は憂のこと好きだよ」
憂「わ、私もだよ。お姉ちゃん」
唯「そっかあ、よかった」
分かりきっていた答えだ。
一々確認するまでもない。
だけど不安だった。
周りから仲の良い姉妹と言われ続けていたが
私の中の感情はただの仲の良い姉妹どころじゃなかった。
明らかな恋心。
胸が熱く痛かった。
料理中の憂の後ろへ、そーっと移動する。
憂は包丁を持ってリズムよく野菜を切っている。
そこへそーっと抱きついてみた。
憂「きゃっ。……ってお姉ちゃん、危ないよ!」
怒られた。
いや、当たり前である。
包丁を持った人に抱きつけばそう言われるのは当然だ。
でも抱きつきたかった。
見ているだけだと寂しかったから。
ごめんね、と舌を出して誤る。
気をつけてね、と苦笑いで言われた。
そのまま料理をする憂を眺め続けた。
忙しそうにしている憂だった。
唯「うい、手伝うよ」
憂「えっ。そんないいのに。もう直ぐできるし」
唯「あう……。何か出来ることないかな」
憂「うーん、お皿だしお願いできるかな」
憂「あ、お茶碗にご飯よそうのもお願いできるかな」
唯「ガッテン承知!」
憂のお手伝いが出来たのが嬉しかった。
いつもいつも出来るといいんだけど、たまに忘れてしまう。
家に居るとついつい憂に甘えてしまうから。
憂はお姉ちゃん可愛いね、と言いながら笑顔を向けてくれる。
そんな憂も物凄く可愛いから。
私は憂が好きになってしまった。
憂は私のことどう思っているんだろう。
冒頭の問いを頭で繰り返す。
好きと言われたが――どういう好き?
ライクだろうか?ラブだろうか?
私は断然――ラブだ。
唯「あちゃっ!」
考え事しながらご飯をよそっていたらうっかり蒸気に触れてしまった。
熱く、少しヒリヒリしてきた。
憂「お姉ちゃん?大丈夫?!」
唯「うん、ちょっと触れちゃっただけだよ」
憂「ダメっ。すぐ冷やさないと。こっち来て」
ぐいっと引っ張られ流しの水で冷やしてくれた。
憂「もー気をつけないといけないよ」
唯「えへへ、ごめんね」
憂「念のために手当てしとくね」
ちょっと大げさだなぁと思いつつも
手当てをしてくれる憂の手は暖かく気持ちよかった。
だから触ってみたかった。
ぎゅっと触れる憂の手を。
気持ち良い憂の手に触れていたかった。
憂「ん?」
唯「ういの手はあったかいねぇ」
憂「私もお姉ちゃんの手、あったかく感じるよ!」
唯「もっと強く握ってみて」
憂「うーん、いたくないかな」
唯「平気だよーー」
憂はそれじゃあ、と言い手に力を込める。
ぎゅっと憂の温かい心が、手に凝縮されていくようだった。
ますます温かくなる私の手と心。
胸の内から温かくなって心が充たされた。
唯「ありがとう、うい」
憂「ん?うん」
憂「あっ、ご飯食べなきゃ」
唯「そうだね、ういの美味しいご飯冷めちゃうよ」
今日も相変わらず両親は居ない。
でももうなれた。憂と二人っきりの食事、生活。
最初は不安でも、いつしか楽しいものとなり
一時期は親なんか居なければいいと思ったほどだ。
でも両親が居ないと私も憂も生まれてこなかったし感謝しないとね。
そしてこんな風に二人っきりで過ごせる時間をくれる両親に感謝?
でもたまには帰ってきて欲しいなぁ、そう思った。
私も、憂も、お父さん達が居ないと寂しいからね。
二人っきりのリビングで食事を取る私達。
対面して食べている。このほうが話しやすくなるから。
隣で食べると近い分憂を感じられるけど、今はこれでいいかな。
憂の顔を見ながらご飯を食べる。
笑顔でいっぱいの憂だ。
表情もコロコロ変わり私を楽しませてくれる。
憂「お姉ちゃんご飯粒ほっぺたにくっついてる」
そう言いながら人差し指でご飯粒と取ってくれた。
そしてパクっと食べた。
憂「おいしーー」
ニコっと満面の笑顔だった。
ああ、天使が居る。目の前に天使が。
その光景に目を奪われ、心も奪われる感じだった。
唯「うい……」
憂「ん?」
唯「可愛すぎ」
憂「…………」
口をあんぐりと開け固まってしまった。
唯「?」
暫く反応がない。
憂の目の前で手を振ってみた。
憂「はっ!」
気付いた憂は私に目をやり、また固まる。
そして次第に顔が、頬が紅くなっていった。
目の前で凄く紅くなっていく様は私の胸を高鳴らせた。
可愛い、と云う思いでいっぱいになった。
憂「何を……いきなり言うのかな……お姉ちゃんは」
唯「だって可愛いもん」
憂「もうーお姉ちゃん早く食べちゃって」
唯「えー、まだ憂の顔見ていたいのに」
憂「早く早く!」
憂にせかされて急ぎ足でご飯を平らげた。
お皿を片付けようとしたら
お風呂先に入っていいよと言われ、リビングから追い出されてしまった。
あんなに真っ赤になっちゃって、言いすぎたのかな。
でも事実だから仕方ない。
一日一回は言わないと気がすまなかった。
さあお風呂入っちゃおう。
お風呂は良い。気分が一新される。
身も心もキレイになれる時間だ。
歌を歌うのにも打って付けだった。
惜しむのはここに憂が居ないということだけだった。
今呼んでも確実に一緒に入ってくれないだろう。
一緒に入りたかった。
入って背中を洗いっこして、一緒に笑いあいたかった。
ここ暫く一緒に入っていないことが苦痛だった。
明日は一緒に入りたいなぁ。そう思った。
ただぼんやりしながら過ごした後、お風呂から出た。
適当に髪の毛を乾かし、リビングでゴロゴロした。
私と替わりにお風呂に入った憂が待ち遠しい。
一人だとすることがない。
あ、ギー太とおしゃべりがあるけど、今日も沢山したからいいよね。
だから今日は憂といっぱい喋るんだ。
早く憂出てきてください。
そう思いながらゴロゴロ転がった。
憂「ふー良いお湯だった。気持ち良い」
そう言いながら憂は出てきた。
髪が濡れ、火照ったような顔。
うん、色っぽい。
唯「うい、うい。こっちおいで」
ちょいちょいと手招きをした。
憂はちょっと首をかしげこちらに向かう。
唯「さあ、ここに座って。髪の毛拭いてあげる」
憂「わっ、ありがとう」
ゆっくり座る憂からはシャンプーの甘い匂いと
ボディソープの柔らかい匂いがした。
無意識のうちに抱きついてしまっていた。
憂「あう、お、お姉ちゃん?」
唯「はっ!あ、何でもないよ、違うよー」
何もしていません、と両手を広げてテレながらアピールした。
憂はもーっといつもの様な苦笑いだった。
唯「あつくなーい?」
憂「ぜーんぜん。気持ちいいよぉ」
唯「ホント?よかったぁ」
唯「ういはいつも私にやってくれるからね、今日はお返し」
憂「お姉ちゃん……今日はいつもと違うかも」
いつもと違う私。憂にはそう見えているみたいだ。
私自身はそんなに変わっていないと思うけど
私のことを一番見ている憂だから些細な変化に気付いたんだろうか。
どっちがいいかな。聞いてみよう。
唯「ういはどっちのお姉ちゃんが好き?」
憂「んー難しい質問……どっちだろう。いつものお姉ちゃんもいいし……」
そう言うと俯いてぶつぶつ考えこんでしまった。
そんなに悩む質問だったのか。
それだけ私のこと想っていてくれている、そう考えればいいのだろうか。
なかなか答えを出さない憂にちょっと強く言ってみた。
唯「はい、後五秒で答えてね!」
唯「はい、いーち、にーい、さーん――」
憂「あ、わわわっ。んーーと、じゃあじゃあ」
憂「今日みたいなお姉ちゃん!」
唯「――しーい……」
憂「……えへ」
……そんな顔して、可愛いよ。凝視できないよ。
しかし今日みたいなお姉ちゃんか。
今日はご飯の準備手伝ったり、憂の髪の毛乾かすの手伝ったくらいだけど
アレだろうか、世間一般的な優しい頼れるお姉ちゃんなのだろうか。
普段私が甘えているから。
そうだたまには憂に思いっきり甘えさせてみよう。
憂はよく出来た子と言っても妹だもんね。
私より一つ年下だし。寂しいこともあるだろう。
そうだそうしよう。私はニヤッと笑って憂を見詰めた。
唯「ういー」
ちょいちょいと手招きをする。
そして少し近づいてきた憂に思いっきり抱きついた。
憂「わっ!」
唯「ういったら……可愛い!!」
再び力を込めて抱きつく。
憂は最初はだらんとさせてた手をゆっくり私の背中へ回してきた。
憂「もう……」
困った様な言い方だが、顔は困っていなかった。
紅潮させた頬はもうリンゴじゃないかと疑うくらいだ。
――食べたい。
別に直接的ではない。だから代わりにほっぺたにキスをした。
憂「!!??」
憂「あっ、ええ?な、なにをぉお??」
唯「うーいー!」
憂「んん??」
唯「もっと私に甘えてもいいんだよ」
憂「……」
唯「私は憂のお姉ちゃんだからね」
唯「ほら胸にどーんとぶつかっても大丈夫だよ」
そい言うと憂は私の胸に頭を押し付けた。
押し付けたままじっと固まる。そしてぐりぐりと頭を動かした。
そんな憂の頭を撫でた。これでもかというくらい撫でた。
憂「もう……お姉ちゃんはずるいよ。急にさ」
唯「そうかな」
憂「じゃあ……今日だけ甘えようかな……」
唯「今日と言わずに毎日でも」
憂「えへへ、考えとくね」
そんないつもと同じ様な可愛い笑顔を憂は見せてくれた。
ちょっぴり目に涙を溜めて。
唯「さあ、甘えん坊なういちゃんには私がベッドまで運んであげるね」
そう言い、憂を持ち上げる。お姫様だっこだ。
ちょっとキツイけど。頑張れ私。良いところを見せるんだ。
憂「わぁ、もう寝るの?まだ少し早いかな」
唯「ううん、お布団で寝ながらお喋りしよう」
唯「二人で寝ればあったかあったかだよ」
憂「そう……だよね、うん!」
そう言った憂の顔は今日一番輝いていた。
そんな憂に私も一番の笑顔で返す。
そしてベッドまで一緒に向かう。
落ちないように憂はぎゅっと私にすがりついていた。
お姉ちゃん大丈夫?そう憂は言った。
大丈夫だよ、これくらい。憂は私が支えてあげるから。
お布団の中では向かいあって寝た。
お互いの顔がよく見え、テレてしまう。
でも手をつないで一緒に寝よう。
お互いのぬくもりを感じながら寝よう。
ああ、憂と喋ってて思い出した。
冒頭の問い。真実が判明していなかった。
でもどっちでもいっかぁ。
今こうして一緒に居られて、楽しく過ごせて
笑いあっていけるから。憂と一緒に居られるから。
そんな私は憂の手を握りながら眠りへと落ちていった。
おやすみなさい。憂。
また明日も可愛い笑顔でね。
おしまい
最終更新:2010年11月17日 03:51