朝6時に起きてお姉ちゃんの朝飯を作り、朝7時になったらお姉ちゃんを起こして一緒にご飯を食べる。

ご飯を食べ終わったら制服に着替えて歯磨きをし髪を整えてお姉ちゃんと一緒に学校へ行く。

これが私の日課だった。
毎日、これを繰り返していた。

だけど、お姉ちゃんが大学へ行き一人暮らしを始めた今、私はただ退屈な毎日を過ごしていた。

そう、本当に退屈な毎日を私は過ごしている。

お姉ちゃんが一人暮らしを始め、一人残された私の生活はあまり良い生活とは言えなくなっている。

朝飯はパンだけになっているし、昼飯のお弁当もコンビニのお弁当。

夜飯のご飯は手の込んだ料理は作らずに、簡単な物ばかり。

両親は主張でいない。
一人で生活するには広過ぎる家に私は一人ぼっち。

お姉ちゃんがいない家。
寂しさを紛らす為に付けているテレビの音だけが聞こえる家。

お姉ちゃんが居た時は何だかもっと騒がしかった気がする。

お姉ちゃんの部屋から聞こえるギターの音。

お風呂で鼻歌を歌っているお姉ちゃん。
気持ち良いぐらいに騒がしかった。

それに、お姉ちゃんの笑顔を見る為にはどんな事をしてあげよう?お姉ちゃんがいた時はこの事ばかりずっと考えていた。

例えば、夕食はお姉ちゃんの笑顔を見る為にお姉ちゃんが好きな物ばかりを作っていた。

お弁当を可愛く盛り付けたり、デザートやケーキを作ったりもしていた。

それに、私がお姉ちゃん?って呼ぶとお姉ちゃんはすぐに振り返ってくれて、えへへと笑い何時でも笑顔を見せてくれた。

だけど、今はそれが全く無い。

ただ、お姉ちゃんが一人暮らしを始めた。と言う現実が私の心にポッカリと穴を開け私はその穴を埋められずにいる。

お姉ちゃんが私の側からいなくなる事なんて考えた事も無かった。

だから、いきなりお姉ちゃんが一人暮らしを始めると聞いた時は凄くショックだった。

本当にショックだった。

憂「はぁ……」

今はいないお姉ちゃんの部屋を見るのもツライ。

シーンと静まるお姉ちゃんの部屋はまるでお姉ちゃんの部屋じゃ無いみたいだった。

人形や漫画、お姉ちゃんが使っていた化粧道具。
洋服やヘアピン、ギター色々な物が無い、ただの部屋。

まるで別の人の部屋みたい。

ピンポーン。
インターホンが鳴ると私はお姉ちゃんの部屋を後にして玄関へと向かった。

唯「憂ー!来たよー」

憂「お姉ちゃん!?」

唯「おおうっ!」

思わず玄関を勢いよく開けてしまい、お姉ちゃんを驚かせてしまった。

憂「ど、どうしたの?」

唯「遊びに来たよ~」

憂「遊びに来た……って大学は?」

唯「終わったばかりだよ~憂の顔が見たくなって来ちゃった!」

憂「私も、私もお姉ちゃんの顔が見たかったよ!」

お姉ちゃんの柔らかい体に抱き付く、少しだけ大人っぽい香りがした。

憂「お姉ちゃん何だか大人っぽい匂いがするね」

唯「そうでしょ~?ムギちゃんから香水貰ったんだぁ~」

憂「えへへ~そっかぁ!お姉ちゃん良い匂いだね」

唯「ありがと~あ、家に入りたいからそろそろ離して~」

憂「うん!」

お姉ちゃんの体から離れ今度はお姉ちゃんの顔を見詰める。

唯「どうしたの~?」

憂「ううん!ちょっと見ない間にお姉ちゃん変わったなぁ~って思ったの」

唯「そうかなぁ?大人っぽくなった?」

憂「少しだけ大人っぽいかなぁ」

唯「これからどんどん大人っぽくなって行くよ~お姉ちゃんをよろしくね!憂!」

憂「うん!」

唯「じゃあ家の中入ろっかぁ~ちょっと寒いし」

憂「そうだね。お姉ちゃんご飯は食べた?」

唯「食べたけど憂の料理久しぶりに食べたいからご飯食べる!」

憂「うん、わかった!昨日のカレーが余ってるから沢山食べてね!」

唯「憂のカレー!食べたい!」

憂「うん、すぐ支度するからお姉ちゃん待っててね」

唯「はぁ~い!」

お姉ちゃんと一緒にリビングへ行き、私は台所へカレーを温めに、お姉ちゃんは椅子に座った。

唯「楽しみだなぁ~」

憂「お姉ちゃん何か飲む?」

唯「うん!お茶がいい!」

すぐにコップにお茶を注ぎお姉ちゃんに渡す。

唯「ありがとぉ~」

喉が渇いていたんだね。すぐにお姉ちゃんはお茶を飲み干した。

唯「美味し~い。憂のお茶は美味しいよ~」

憂「ありがとうお姉ちゃん。カレーもうすぐ温まると思わから待っててね」

唯「うん!ルー多めご飯少なめね!」

憂「わかってるよ~」

唯「カレーかぁ~久しぶりだよぉ~」

カレー小皿に少し入れ、味見をしてみる。

味は前より少し落ちてしまっているけど、お姉ちゃんが食べ易い熱さだ。

今度はご飯を盛ったお皿にカレーを入れる。

唯「いい匂いがして来たぁ~!」

憂「今、持って来るから待っててね~」

唯「うん!」

カレーをこぼさないように慎重に運びお姉ちゃんの目の前に置く。

唯「わぁ~美味しそ~」

憂「まだまだ、沢山あるからいっぱい食べていいよ!」

唯「ご飯食べて来たからそんなにいっぱいは食べれ無いけど、お腹いっぱいになるまで食べ続けるよ!だって憂のカレーだもん!」

憂「お姉ちゃん……」

目尻に熱い物が込み上がって来るのをジッと耐える。
泣いちゃったら……せっかくのカレーが美味しくなくなっちゃう。

唯「いただきまーす」

お姉ちゃんはスプーンを手に取って、カレーを口に含んだ。

この顔、私はお姉ちゃんのこの顔が見たかった。

美味しそうに食べ物を食べるお姉ちゃんの表情。
お姉ちゃん以上に食べ物を美味しそうに食べれる人っているの?そう思ってしまうぐらいの表情。

唯「美味しーぃ!」

憂「ありがとうお姉ちゃん!」

唯「やっぱり憂のカレーは世界一だよ!インドの人も憂のカレーを食べたらびっくりするよ!」

憂「お姉ちゃんありがとう。あ、カレーをタッパーに入れよっか?」

唯「え!いいの?」

憂「うん!」

唯「ありがとぉ~!嬉しいよ!」

憂「ううん。私もお姉ちゃんがカレーをこんなに美味しそうに食べてくれて嬉しいよ」

唯「えへへ~あ、憂は私がいなくなってから毎日、何をしてるの?」

憂「えっと、テレビ見たりとか……テレビ見たりとか!」

唯「テレビばっかり見てるんだね~」

憂「お姉ちゃんは何をしてるの?」

唯「私はゴロゴロしてるよ~」

ほがらかな表情でゴロゴロしてるお姉ちゃんの姿が頭に浮かんだ。

お姉ちゃんがゴロゴロしている姿は想像しやすい。

憂「何時もと変わらないんね~」

唯「変わるよ~凄く変わるよ~」

憂「変わるの?」

唯「うん!だって憂がいないもん!」

憂「お姉ちゃん……」

唯「憂がいるのといないのとじゃ全然違うよ~」

憂「お姉ちゃん……アイスあるから後でいっぱい食べていいよ!いっーぱい食べていいからね!」

唯「本当?やったぁ!」

憂「ガリガリ君とかスイカバーとかトラキチ君とかあるからいっーぱい!食べていいよ!」

唯「カレー食べ終わったら食べるよ~」

憂「うん!」

唯「あ、そう言えばね~サークル作るんだぁ~」

憂「サークル?何のサークルを作るの?」

唯「勿論!バンドのサークルだよ」

憂「じゃあ、またバンドやるんだね!」

唯「うん!今、りっちゃんが頑張ってサークル作ろうとしてるんだぁ~」

憂「サークル出来たらいいね」

唯「うん!憂は軽音部は楽しくやってる?」

憂「凄く楽しいよ!純ちゃんは大変そうだけど」

唯「そっかぁ~楽しそうで何よりだよ~」

憂「お姉ちゃんも大学生活楽しそうでよかったぁ」

唯「うん!楽しいよ~あ、カレーごちそうさまでした」

憂「もう、食べないの?」

唯「お腹いっぱいだもん!それより憂ー?」

憂「わかってるよ~アイス持って来るからね」

唯「違うよ!あのね。このカレー食べてて思ったんだぁ~私、憂がいなきゃ何も出来ないや」

憂「……え?」

唯「私、憂がいないと何も出来ないよ。一人暮らししてて思ったんだぁ~少し憂に頼り過ぎかなぁ?」

憂「私もお姉ちゃんがいないて何も出来ないよ……それにお姉ちゃんは全然私に頼り過ぎじゃないよ!」

唯「そうかなぁ?」

憂「うん……だから、もっと頼っていいんだよ?」

唯「憂……えへへ。憂もお姉ちゃんをもっと頼りなさい!」

憂「うん!」

唯「憂、何時もありがとうね」

憂「うん、こっちこそ。ありがとうお姉ちゃん」

唯「えへへ~何だか少し照れるね!」

憂「うん……でもお姉ちゃんにありがとうって言えたからよかったよ」

唯「私も!」

憂「カレー、タッパーに入れて来るからお姉ちゃんアイス食べててね」

唯「わかったぁ!」

お姉ちゃんが久しぶりに家に来てくれた事で、私のポッカリと開いた穴が埋まったような気がした。

やっぱり私はお姉ちゃんがいなきゃダメだ。

お姉ちゃんがいるから色々、頑張れる。
隣にお姉ちゃんがいるから優しくなれる。

やっぱり側にお姉ちゃんがいてくれないと……でも、お姉ちゃんは一人暮らしをしている。

お姉ちゃんが私の側にいる。そう言う事があまり無くなって来ている。

だから……だから、何時も以上に大切にしよう。

憂「二人だけの時間を大切にしよう」

唯「ん~?憂、何か言った?」

憂「ううん。はい、カレー、タッパーに詰め終わったよだよ」

唯「ありがとー!」

憂「それと、冷蔵庫の中のアイスお姉ちゃんが来た時の為に取って置くからね!」

唯「持って帰っちゃダメなの~?」

憂「ダーメ!此処に帰って来る時はアイスの事を思い浮かべながら帰って来てね!」

唯「はぁ~い!もう、夜も遅いしそろそろ帰ろうかなぁ?」

憂「も、もう帰るの?」

唯「だってもう9時だよ~」

憂「そ、そっか……夜は危ないもんね」

唯「寂しいけどお別れだね」

憂「うん……あ!お姉ちゃん次は何時来てくれるの?」

唯「次は……日曜日!今週の日曜日にまた来るよ」

憂「日曜日……何か食べたい物とかある?」

唯「憂のきんぴらごぼうが食べたいなぁ~それにジャガ芋の味噌汁も食べたい!」

憂「わかった!いっぱい作って待ってるからね」

唯「うん!ありがとぉ~」

憂「アイスもあるからね!」

唯「うん!それじゃあ……」

憂「あ!デザートも作るよ!何がいい?」

唯「えーとぉ!チョコレート!」

憂「チョコレートだね!それと……それと……」

唯「憂?私に帰って欲しく無いの?」

憂「…………」

唯「憂?」

憂「帰って欲しく無いよぉ……」

唯「そっかぁ。でも、明日は大学があるから……帰らなきゃダメなんだ」

憂「嫌だよぉ……」

唯「……思い出しちゃうなぁ小学6年生の時の事」

憂「…………」

唯「私が修学旅行に行く時だったよね。憂が私の服の裾を掴んでさ、目に涙浮かべて、今の憂みたいな事言ってたよね!あの時の憂可愛いかっなぁ~」

憂「お姉ちゃん……」

唯「今日は泊まるよ憂、だって私お姉ちゃんだもん!妹が困ってる時は助けてあげなきゃ!」

憂「本当?泊まってくれるの?」

唯「うん!」

憂「本当の本当?」

唯「本当の本当だよ!」

憂「お姉ちゃん……お姉ちゃん!」

唯「えへへ~ぎゅっ!」

お姉ちゃんが私に抱き付いて頬を軽く撫でた。
柔らかな指が私の頬に沈む。


唯「今夜は寝かせないよ!憂!」

憂「うん!一緒に寝ようね!朝ご飯も食べて行ってね!それとね……それとね!」

唯「うん!今日はずっと私と一緒だからね!」

憂「お姉ちゃん……うん!」

お姉ちゃんの体に身を任せ、お姉ちゃんはもう一度私の頬を撫でる。

唯「えへへ~久しぶりに憂に抱き付いちゃったぁ~」

憂「本当に久しぶりだね……」

今度は私がお姉ちゃんの背中を撫でる。

憂「お姉ちゃん?今度から二人の時間……大事にしようね」

唯「うん!」

憂「何時も以上に大事にしようね……」

唯「そうだね!」

これから、お姉ちゃんが大人になって行くにつれて、私と一緒に居る時間が少なくなっていくと思う……だから、今度からは二人だけの時間を大事にしよう。

お姉ちゃんと二人でずっとずっーと二人だけの時間を大事にして行こう。





END



最終更新:2010年11月25日 06:29