憂「お姉ちゃん。こたつで寝ちゃダメだよ」

憂「おーきーてー」

唯「ふぇ……」

って……ああ!

肩に涎が垂れています。ちょっぴり生暖かい感触。
後で拭いておきましょう。

唯「んん……!よく寝たー!!」

大きく背伸びをして
大きなあくびもしてお姉ちゃんは元気ハツラツ状態です。
元気いっぱいなのはいいことです。
元気なお姉ちゃんが一番です。

唯「さて、いつの間にかこんな時間」

憂「寝すぎだよ」

唯「中途半端な時間だからご飯食べるわけにもいかず、さてどうしたものか」

憂「お姉ちゃん……私お姉ちゃんがギター弾いてるところ見たい!」

唯「おお!ギー太の出番ですか。いいよ!まってて!!」

やった!と思いました。
お姉ちゃんのギターを弾く姿を見るのは学園祭のライブ以来です。

しかもあの時とは違って今回は間近で見れます。
ギターの弾くお姉ちゃんは可愛い――よりも格好いい!です。
可愛くもあるんですけどね。

こころときめいて、ぴょんぴょんと小躍りしたくなります。

そんな思いでお姉ちゃんが来るのを心待ちにしていました。

暫くするとどたどたと階段を駆け下り
ギー太を抱えたお姉ちゃんが登場しました。

唯「じゃーん!」

憂「わっ、お姉ちゃん格好いい!!」

唯「いやあテレるねえ」

ちょっと頬を赤くして笑っています。
そんなお姉ちゃんを、お姉ちゃんがっばって!と応援しました。

唯「よーっし。憂のためにやっちゃうよー」

憂「わーい」

大きな拍手でお姉ちゃんを迎えます。

唯「どーもどーも」

唯「じゃあ最初はやっぱりふわふわ時間!」

聞きなれたイントロから始まり痛快なメロディが流れます。
私も拍手で合いの手を入れました。

そして澪さんが書いた歌詞を歌っていきます。
とてもメルヘンチックでちょっと恥ずかしいけど
お姉ちゃんはとても楽しそうに歌います。

楽しそうに歌うお姉ちゃんの声はとても心地よいものでした。
歌っている本人が楽しそうだから聴く方も楽しくなって仕方ないのです。

歌ってる笑顔が、声が、もう全身から楽しさが伝わってくるようでした。

そんなお姉ちゃんを間近で見れるのが嬉しくて嬉しくて
すこし、涙ぐんでしまいます。

でもお姉ちゃんに涙を見せるわけにはいきません。
心配かけるとギターを弾くどころじゃあありませんから。

それを誤魔化すように大きく拍手してお姉ちゃんを――この場を盛り上げました。

じゃーんと云う終わりの音が響きます。

お姉ちゃんは右手を大きく上に上げ、ポーズを決めていました。
顔もぎゅっと引き締まって俗に言う“ドヤ顔”ですね。
そんなお姉ちゃんも格好よく、可愛いです!

私は立ち上がってこれでもかと云うくらい拍手をしました。

憂「お姉ちゃん格好いい!!」

唯「ありがとうありがとう!」

テンションが高いのか先程のようなテレはありません。
そんなお姉ちゃんが大きく見えます。
とっても頼れるお姉ちゃんな気がしてなりません。

ついつい見惚れてしまいました。

唯「ふふん、惚れちゃいけないぜ!」

予想外の言葉にビックリと恥ずかしさを覚えました。
カーっと顔が熱くなってきます。

唯「あっ、うい顔あかーい」

憂「あ、赤くないよ!!」

両手で顔を覆い隠し、お姉ちゃんに言います。
自分の手が頬に触れると尋常じゃないくらい熱くなっていました。
自分の顔はどれくらい赤いのでしょう。
気になって仕方ありません。

トマトのように赤いのでしょうか。
そう思うと顔から火が出そうでした。

憂「お姉ちゃんが変なこと言うから……」

唯「えー。私別に変なこと言ってないのに」

憂「私のことはいいから、次のお願い。もっと聴きたいなあ」

唯「おっけーおっけー。まかせなさい」

憂「えへへ、ありがとう」

ふんすっと鼻息を荒げてお姉ちゃんは再び演奏をします。
そんなお姉ちゃんをずっと見続けました。
いっぱい歌っていっぱいギー太をしゃべらせ
いっぱい笑顔になっています。

私はお姉ちゃんに負けずに笑顔で応えます。
笑顔を貰ってばかりじゃいけないもんね。
おかえしをしないと、そう思うばかりです。

ふわふわ時間から始まり、新曲のいちごパフェが止まらない
ごはんはおかず、冬の日、天使にふれたよ!
そしてもちろん――U&Iも歌ってくれました。

お姉ちゃん自らが書いた歌詞です。
素敵な歌詞だと思います。キミ――と言うのは私のことだよね。

初めて目にした時は心があたたまりただ笑顔になるだけでした。

お姉ちゃんの声は私の心をあたためてくれる魔法の声です。
いつまでも聴いていたい。そんな声なのです。

そして再び終わりのポーズを決め、演奏は止まります。
ギターの音が響き、私は余韻に浸っていました。

唯「ういー?」

憂「あっ!凄すぎて意識が飛んじゃいそうだった!」

唯「またまた大げさな」

くすくす笑うお姉ちゃん。
大げさじゃないよと私も笑って答えます。

本当に良い音楽をありがとうと言いたくなる演奏でした。

そう思うと初めてギターをさわっている時を思い出します。

高校一年生の時に買ってきたギターは
ちょっとばかりお姉ちゃんには大きく見えました。

初めはコードも知らないみたいでただ弦を弾いてたり
服着せてたりしているだけでした。

でも、ちょっとずつちょっとずつさわる時間は増え
いつの間にか難しいコードも弾けるようになり
リビングで楽しそうにしているお姉ちゃんを私は見てきました。

お姉ちゃんはがんばれば出来るのです!
そう思わせる出来事でした。

それからどんどん上手になり、校内ではファンの子もいっぱい居るそうです。
自分のことじゃないけど、何故か嬉しくなります。

唯「ういー。そろそろおなか空いたよー」

そう力なく言いました。
そうですね、もうお夕飯の時間です。
いっぱい演奏したお姉ちゃんにはいっぱいご飯を食べて力をつけてもらいましょう。

憂「あ、そうだね。直ぐ作るよ」

唯「ほーい。ちかれたー」

ギー太を部屋に置いて、戻ってきたお姉ちゃんはソファーに倒れこみます。
沢山演奏したからね、疲れているんだよね。

それなら今日のご飯はお姉ちゃんの好きなカレーかな。

かーれーちょっぴりらいすたぁっぷり!なんてね。

カレーのちライスを鼻歌で歌いながら調理していきました。

一時間ほどで完成し、テーブルへカレーを運びます。
ちょっぴり甘めのカレー。
ぱくぱく食べれてお姉ちゃんは大好物です。
私は辛いのもいけるけど、甘いのもそれなりに好きかな。

お姉ちゃんを呼ぶと、待ってましたと言わんばかりの勢いでテーブルに着きました。

子どものようにはしゃぐお姉ちゃんに笑いながら
二人で手を合わせていただきます。

お昼は食べてなかったのでいつも以上においしく感じました。
胃にカレーが沁み込んでる感じです。

お姉ちゃんもおいしいおいしいと言っています。
まあ、空腹に勝る調味料は無いといいますからこれはこれでよかったのでしょう。

おいしく食べれて良かったね。お姉ちゃん。

いつもの1.5倍は食べたお姉ちゃん。
おなかを苦しそうに抱えています。

憂「だから食べすぎって言ったのに~」

唯「だって……おいしかったもん」

ちょっと涙目で床に寝そべりながら言いました。

憂「はい、いっぱい食べてくれてありがとう」

憂「次は八分目にしとこうね~」

唯「わかったよー」

うーんうーんと唸りながら床を転がっています。
ちょっとかわいそうですけど、私にはどうすることもできません。

お皿の片付けも終わり、お姉ちゃんの方へ目をやると相変わらず寝転がっています。
ウシになるんじゃないかな――と思いながら声を掛けます。

憂「お風呂沸いてるけど入る?」

唯「ういが先入っていいよー」

憂「そう?じゃあ先入っちゃうよ」

唯「うんーどうぞー」

――カポーン

湯船に浸かっていると色色と考えることができます。
学校のこと友達のこと嫌なこと楽しいこと。

今日は――お姉ちゃんのことだらけ。

おやすみだから、いつも以上に一緒に居られて楽しかったもんね。

頭の中で今日の出来事が廻ります。
朝起きてからご飯食べて、一緒にまた寝て
ギター演奏してくれて、またご飯食べて
いっぱい笑ったなあ。

残り少ない高校生活をお姉ちゃんと楽しもう。
そう思うばかりです。

卒業したら一緒に居られる時間はより減るのかもしれないですから。

お風呂を出て、リビングへ戻ると
こたつに突っ伏しているお姉ちゃんが見えました。

こんな所で寝ちゃダメだよと言うもなかなか起きてくれません。
そうとうお疲れのようです。

仕方ありません。今日はここで寝かせましょう。
上に運ぶ力は私には残っていません。
というか流石に大変です。

けどお姉ちゃんをこんな広いリビングで一人で寝かせるのも忍びないので
私も一緒に寝ることにしました。

こたつの電源を切って、お姉ちゃんに毛布を掛けます。

今日最初に見たお姉ちゃんは寝顔のお姉ちゃん。
今日最後に見るお姉ちゃんも寝顔のお姉ちゃん。

――いつみても可愛い!

今朝みたいに頭を撫でてほっぺたつっついたり
色色とイタズラします。

唯「ん……んん」

憂「あ……っと。あぶないあぶない」

今日はちょっぴり早いけど
お姉ちゃんと一緒に寝ることにしましょう。

リビングの電気を消して
お姉ちゃんにピッタリとコアラのようにくっつきます。

お姉ちゃんがあたたかいから離れることはできません。

憂「お姉ちゃんおやすみ」

真っ暗闇の中、お姉ちゃんを見ながらそうささやきました。



                        おしまい



最終更新:2010年11月25日 07:00