~金曜日朝・学校・2年昇降口~

カチャ

澪「…」

唯「あれ?どうしたの?澪ちゃん」

澪「い、いや…何でもないよ…」

紬「今日は少なかったから、ちょっとガッカリしたのよね?」ウフフ

澪「ム、ムギ!」

唯「あ、そっか!何時もお手紙一杯入ってるもんねっ」

律「まあ部屋には専用の収納ケースがある位だからな~」

唯「おお~、それは凄いね!」

澪「律!そんな事ばらすなよ!は、恥ずかしいだろ…」

律「良いじゃんかよ、それだけ人気があるって事なんだから」

紬「澪ちゃんは1年生の時からずっと大人気だものね」

紬「でも…そんなに沢山のお手紙を貰っても、お返事は書けないでしょ?」

唯「それだけで1日が終わっちゃいそうな量だもんね…」

澪「そうなんだ…全部読んではいるんだけどな」

律「でも澪は偉いんだぞ?最低でも1回は返事を書いてるからな」

澪「律!」

唯「お、それはちょっと興味があるお話ですな~」

紬「私も興味あるわ~」

澪「…」

澪「だって…手紙って読んで貰う為に書くものだろ?」

澪「ちゃんと読んでるって事は、相手に伝えてあげたいじゃないか」

澪「だから返事は毎回書けないかもしれないけど、必ず全部読ませて貰うから」

澪「それでも良ければまた書いて欲しいって返事を出してるんだ」

唯「へ~、澪ちゃん優しいね~」

紬「優しいわね♪」

澪「か、語り過ぎた…///」

律「そういう唯と紬にもファンは結構居るんじゃないのか?」

律「澪ほどじゃないが、たまに手紙も入ってたりするし…」

律「お、今日も1枚ずつ入ってるじゃんかよ」

唯「あ~、これはね澪ちゃん…のとは違うかもしれないな~」アハハ

律「何だ?いたずらか?」

唯「違うよ!いたずらなんかじゃないから!」プンプン

律「いや、その…悪かった」

律(まあ唯がこんなに怒るって事は憂ちゃんだろうな…)

紬「私も…そういうのとはちょっと違うの」

律「そうなのか?ムギは美人だから、憧れてる後輩とか結構居そうな感じだけどな~」

紬「褒めて貰えるのは嬉しいんだけど…そういう事は1度も無いわね」

律(何だ?ムギの場合はさっぱり分からんな)

律(手紙を貰った時は大抵部活に遅れて来るんだが…)

律(もしかして、何か悪い事に巻き込まれてるんじゃないのか?)

紬「それに…私より、りっちゃんの方が美人さんだと思うわよ?」

律「…え!?」

律「お、おい!そんな真顔で冗談言うなよ!///」

紬「冗談なんて言ってないのに…りっちゃんは照れ屋さんね」ウフフ

唯「照れてますなぁ~」ムフフ

律「照れてない!」

(チャイムの音)

唯「あ、予鈴鳴っちゃったね、そろそろ行こ!」

律「あ、ああ…そうだな!」

紬「あれ?澪ちゃんは?」

澪「…///」

律「まだ固まってたのかよ…」

梓「皆さんお揃いなんですね、おはようございます」

梓「もう予鈴も鳴ってるんですから、急がないと遅刻しますよ?」

唯「あずにゃん、おはよ~」

紬「おはよう、梓ちゃん」

律「おはよ~、梓、丁度良かったよ」

律「澪を教室まで連れて行ってくれないか?」

梓「え?澪先輩をですか?」

梓「…」

梓「見事に固まってますね…また何かしたんですか?」

唯「そうなんだよ、りっちゃんがね~」

律「違うだろ!唯とムギがだな…」

梓「どっちでも良いですから…早く行って下さい」

梓「2組は2階なんですから、急いだ方が良いですよ?」

梓「澪先輩は私が連れて行きますから」

律「そうか、じゃあ頼むな!」

紬「澪ちゃんの事、お願いね」

梓「はい」

唯「あずにゃん、ありがとね~」

梓「分かりましたから、さっさと行って下さい」

律「急ぐぞ!」

唯「ほいほ~い」


梓「朝から本当に騒がしいですね…」

梓「さて」

梓「澪先輩!しっかりして下さい!何時までボ~っとしてるんですか!」

澪「…」

澪「…はっ!」

梓「澪先輩、早く行かないと遅刻しますよ?」

澪「あ、梓か…おはよう」

梓「おはようございます、挨拶は良いですから行きますよ」ギュッ

澪「え?あ、ああ…」

梓(何時も振り回されてばかりの澪先輩…)

梓(最初は迷惑してるんだと思ってた)

梓(どうして此処に…軽音部に居るんだろうって)

梓(でも…違うんだよね、澪先輩はこう見えても凄く楽しんでる)

梓(軽音部は何時もみんな仲良し…)

梓(私も澪先輩とは…)

澪「なあ、梓」

和「何ですか?澪先輩」

澪「1人で歩けるからさ…その…何も手を繋ぐ事は無いんじゃないかと…」

梓「…」

梓「あ!ごめんなさい、つい…」

澪「いや、別に良いんだけど…」



~放課後・部室~

律「さて諸君、本日集まって頂いたのは他でも無い」

律「現在行方不明になっている紬隊員についてだが…たった今所在が判明した」

律「教室から密かに抜け出し、体育館裏へ向かって徒歩にて移動中」

律「その直前には今朝回収された機密文章を熟読していた…」

律「間違い無いな?唯隊員」

唯「間違いありません!りっちゃん隊長!」

律「標的と思われる相手は既に現場へ到着していると思われる…」

律「時間との勝負になるな、すぐに現場を押さえに行くぞ!」

唯「了解っ!」

梓「…」

梓「はぁ…」

律「梓、どうした?ノリが悪いぞ?」

梓「いや、別に先輩方がどういう遊びをしてても良いんですけど」

梓「部活の時間位は真面目にやって下さいよ…」

律「何だ、梓は興味が無いのか?」

梓「いや、興味があるとか無いとかそういう問題では無くてですね」

梓「そもそも何の話なのかさっぱり分からないんですけど…」

唯「ムギちゃんがね、今朝貰ったラブレターの話だよ?」

梓「え!?」

律「まあ正確にはそれっぽいものの話だな」

梓「それっぽいものって何ですか…」

律「澪が良くファンレターを貰ってるよな?」

律「ムギもたまに貰ってるんだが、それとはちょっと違うって言ってたんだ」

律「でも放課後に体育館裏に呼び出されるって事は、むしろそれ以上って事だろ?」

梓「なるほど…それはちょっと興味があるかもです」

律「そうだろ?梓も一緒に見に行こうぜ」

梓「で、でも!そんなの良くないですよ!」

梓「そういうのは、その…誰にも邪魔されたくないんじゃ…ないかと…///」

律「…なあ、梓」

律「実はな、それ以外にもう1つの可能性があるんだ」

梓「…何ですか?」

律「体育館裏へ呼び出すと言えば…そう、いじめだな」

梓「え?いじめですか?」

律「ムギは外見が目立つからな」

律「青い瞳はカラコン、髪の毛は脱色してる様にも見えるだろ?」

律「そういう所に目を付ける先輩が居ないとも限らない」

梓「確かに…そうですね」

律「軽音部の仲間の一大事かもしれないんだぞ?」

律「それを見過ごす事が梓には出来るのか?」

梓「仲間の…ムギ先輩の一大事…」

梓「そ、そんなの見過ごせる訳が無いじゃないですか!」

梓「早く行きましょう!ムギ先輩が!」

律「よしっ、では隠密に接近する為の作戦を…」

梓「何を言ってるんですか!もう、先に行ってますからね!」

ガチャッ…タッタッタッタッタッ…

律「…説明する前に行っちゃったな」

唯「りっちゃん、やり過ぎだよ」

唯「それに、私はやっぱりラブレターだと思うけどな~」

唯「名前は見えなかったんだけど、学年はちらっと見えたんだよね」

唯「1年2組って書いてあったもん」

律「まあでも、後輩だからって分からんだろ?」

律「何か悪い事に巻き込まれてるかもしれない」

律「それを確かめておくのも悪い事じゃ無いって思うぞ」

唯「お、実はそれが目的だったとか?」ムフフ

律「そ、そんな訳無いだろ!あたしは純粋に興味があるから行くんだ!」

律「ほら、早く行くぞ!」

唯「りっちゃん、待ってよ~」

唯(素直に心配だから見に行きたいって言えば良いのに…)



~体育館裏~

律「お、柱の陰に梓発見」

梓「…」

律「どうだ?相手はもう来てるのか?」

梓「…」

唯「どしたの?あずにゃん」

梓「驚かないで下さいよ?」

梓「ムギ先輩と一緒に居るのって…憂なんですけど…」

律「何!ほんとか?」

唯「憂が!?」

梓「し~っ、声が大きいです」

梓「私はちょっとしゃがみますから、お2人は上から覗いて下さい」

唯「うん、分かった…」

唯「ほ、ほんとだ…」

唯「ムギちゃんと…憂が居る」

律「どれどれ…あ、ほんとだな」

梓「でも、どうして憂が…ムギ先輩と…」

律「それはもちろん…なあ?」

梓「憂がムギ先輩の話をしてた事はありますけど…」

梓「でも、そんなそぶりは全く無かったですよ?」

律「まあ相手が相手だからな、秘密にしたいと思うんだろうけど…」

律「向かい合ったままで何も喋らないんじゃ良く分からんな」

梓「さっきからずっとあのままですよ」

梓「ガチガチに緊張してるっぽいですね」

唯「…」

唯(憂…)

紬「そろそろ落ち着いたかしら?」

憂「は、はい…」

憂「緊張しちゃって…何も喋れなくなっちゃって…」

紬「ゆっくりで良いのよ?」

憂「いえ、もう大丈夫です」

憂「あの、突然こんな所に呼び出してしまって…ご、ごめんなさい!」

紬「ううん、構わないわよ」

紬「私とお話したい事って…何かしら?」

憂「あの…紬さん…す…好き…」

唯律梓(!!!)

憂「好きな人が居るんですけど…私、どうして良いのか分からなくて…」

唯律梓(…)

唯律梓(…え?)

憂「言いたいんですけど…でも、どういう風に言ったら良いのか…」

紬「好きな人って…その人は女の子?」

憂「は、はい!そうなんです!」

紬「そう…でも、どうしてそれを私に?」

憂「琴吹先輩はそういう事に詳しいって友達の間では噂になってますし…」

憂「それに私も何度かお会いして」

憂「紬さんになら話しても、大丈夫じゃないかなって思ったんです」

紬(憂ちゃん…ゴールは目の前にあるのに)

紬(どうして遠回りをするのかしら)

紬(私に話しても、近道にはならないのに…)

紬(でも…そうね、分かるかもしれない)

紬(例え目の前にあったとしても、遠くにあったとしても…)

紬(最初の1歩を踏み出さない限り、ゴールには辿り着けない)

紬(それは同じ事よね)

紬(そのきっかけが欲しいのは、憂ちゃんでも同じ事)

紬(だったら、私は何時もの様に…ゆっくりと後押ししてあげたい)

紬(憂ちゃんは、私にその資格があるって思ってくれるのかしら?)

紬(あるって思ってくれると…嬉しいわ)

憂「あの…やっぱりこういうお話はご迷惑でしたか?」

紬「ううん、そんな事はないわよ?」

紬「黙ったままでいて、ごめんなさい」

紬「憂ちゃん、嘘は言わないから良く聞いてね」

憂「は、はい!」

紬「良く誤解されるんだけど…」

紬「私はね、特に女の子の方が好きって訳じゃないの」

憂「え?そ、そうなんですか!?」

紬「憂ちゃんにも、やっぱりそう見えるの?」

憂「はい…ずっと誤解してました…」

憂「…」

憂「じゃあ私の事も、凄く変な子だって…」

紬「思ってないわよ」

憂「え?」

紬「女の子同士の恋愛が良いなって思ってる事は本当」

紬「憂ちゃんの事も変だなんて思ってないわ」

憂「よ、良かったです…それだけでもほっとしました」

紬「ごめんなさい、ちょっと不安にさせちゃったわね」

紬「私はね、こういう事では嘘を付きたくないの」

紬「女の子同士の恋愛は応援してあげたいってずっと思ってるから…」

紬「何も言わずに相談に乗ってあげる事だって出来るわ」

紬「でもね、私自身は女の子を好きになった事はないから」

紬「その気持ちを…憂ちゃんの気持ちを…」

紬「同じ立場から理解してあげる事は出来ないかもしれない」

紬「それは絶対に言っておきたかったの」

紬「そんな私でも良ければお話を聞いてあげたい、精一杯応援してあげたい」

紬「それが今の…私の気持ちよ?」

憂「紬さん…」

憂「あの…私、紬さんに相談して良かったです!」

紬「あら?まだ何も聞いてないのに、そんな事を言って良いのかしら?」ウフフ

憂「ごめんなさい…私、誤解してました」

憂「紬さんなら無条件で賛成してくれるんじゃないかなって…」

憂「そんなに真剣に聞いて貰えるだなんて…思ってませんでした」

憂「だから…凄く嬉しいです!」

紬「嬉しいのは私も同じよ?」

紬「私も憂ちゃんの想い、後押ししたいって思ってるから」

紬「でも…」チラッ

紬(憂ちゃんなら…気付いてくれるわよね)

憂(時計?あ、部活に行く時間を気にしてるんだね…)

憂(でもそれを言っちゃうと、紬さんは私に気を使わせたって思っちゃう…)

憂「紬さんごめんなさい、私…ちょっと寒くなってきちゃいました」

憂「今日は紬さんにお話を聞いて貰えるって分かっただけでも十分ですから」

憂「続きはまた今度、時間のある時にお願いします」

紬(憂ちゃん、何て優しい子…唯ちゃんが本当に羨ましいわ)

紬(明日って言っても、憂ちゃんは部活の事を気にしちゃうだろうから…)

紬「そうね、此処はお話をするにはちょっと寒過ぎるわよね」

紬「明日の放課後も部活だから…明後日の日曜日」

紬「お昼から何処か別の場所でどうかしら?」

憂「はい!お願いします!」


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最終更新:2010年12月08日 23:57