律「そういう言い方を覚えたのも、あたしの影響なのか?」

紬「もちろん他のみんなの影響もあるけど…でも」

紬「りっちゃんには一番感謝してるわ、ええ」

律「感謝って…それは良い事なのかよ」

紬「もちろんよ!」

律「まあどっちなのかは分からないけどな…でも、1つだけ言える事がある」

紬「何かしら?」

律「みんなも多分そう思ってる」

律「昔の…初めて会った頃のムギよりも、今のムギの方がずっと楽しそうだ」

律「そんなムギが…あたしは好きだよ」

紬「まあ、愛の告白ね!」

律「違うだろ!」

紬「違うの?」ショボーン

律「いや、違うっていうのは言い過ぎなのか…」

紬「まあ、やっぱりそうなのね!」

律「…」

律「ムギ、さっきからあたしの反応で遊んでないか?」

紬「さあ、何の事かしら?」クスクス

律「まあ、それでムギが楽しんでくれるなら良いけどよ」


~車の中~

憂「本当にありがとうございます」

憂「お姉ちゃんを車に運ぶのも手伝って頂いて…」

運転手「いえいえ、たまにはこの様な事も刺激があって面白いものです」

運転手「何しろ、学校の中へ部外者が入るのは不法侵入ですからな」

憂「あ!そ、そうでした…ごめんなさい、そういう事にも気が付かなくて…」

運転手「良いのですよ、紬お嬢様たってのお願いですから」

運転手「こんな事は滅多にありませんので、むしろ喜ばしい事です」

憂「え?そうなんですか?」

運転手「お嬢様は幼少の頃から非常に手のかからないお子様でしたから」

運転手「私共も少しは仕事をさせて頂きませんと立場が無いというものです」

憂(へえ~、確かに紬さんってそういう感じがするな…)

運転手「もっとも、最近は少しわがままが増えた様に旦那様も仰っておりましたが…」

運転手「決まってそれはご学友、お友達の方に関する事とか」

憂(う…今日は正にそんな感じだよ…)

運転手「軽音部でしたか?そちらに所属されてる方々の事」

運転手「お嬢様は常日頃から良くお話になっておりますな」

憂「あの、お姉ちゃん…じゃなかった」

憂「平沢唯の事は何か言ってましたか?」

運転手「唯様の事ですか…とても楽しい方だと」

運転手「用意したお菓子を一番沢山食べてくれるので嬉しいと仰っております」

憂「あ、あははは…」

運転手「後は…憂様とはとても仲の良いご姉妹だと伺っております」

憂「え?私の事も話しているんですか?」

運転手「ええ、非常に良く出来たお方だとお話になっていますよ」

憂「いえ、そんな…」

運転手「憂様の様な妹が是非欲しい…」

運転手「もしご本人様に承諾頂けるのでしたら養子縁組をとも…」

憂「え?紬さんがお姉ちゃんになるって事?」

憂「…」

憂「そ、そんなの嫌です!絶対に嫌です!」

憂「私のお姉ちゃんはお姉ちゃんだけなんですから!」ギュッ

運転手「…」

憂「あ、ち、違うんです!」

憂「お姉ちゃんの事が大好きだからそういう風に言っちゃっただけで」

憂「紬さんの事が嫌いとかそういう事ではなくてですね」アセアセ

運転手「いえ、とんだご無礼を申し上げました」

運転手「お嬢様は常日頃からその様な事を仰っておりますので」

運転手「既にお話になっているものと…」

憂「え?私、初めて聞きましたけど」

運転手「左様でしたか、これは軽率でございました」

運転手「この事はどうかお嬢様には…」

憂「大丈夫ですよ運転手さん、紬さんには言いませんから」

憂「私、分かります」

憂「紬さんはそういう事で嘘は絶対に言わない人です」

憂「だから本当にそう思ってるんですね…それは凄く嬉しいです」

憂「でも、それを言ったら私が困る事も知ってるから…紬さんは言わなかった」

憂「その紬さんの気持ちが少しでも報われる様に…」

憂「運転手さんはそれを全部知って欲しかったんですよね」

憂「分かってますから…紬さんには言いませんよ」

運転手「お気遣い…感謝致します」

運転手「今のお話を伺って、お嬢様のお気持ちも良く分かりました」

運転手「申し遅れましたが…私、琴吹家に仕えております執事の斉藤と申します」

憂「斉藤さんですね、今日はどうもありがとうございました」

憂「ところで、家には何時になったら着くんでしょうか?」

憂「同じ所を何度も通ってる気がするんですけど…」

斉藤「それは…気のせいでございましょう」



~体育館裏~

紬「もう真っ暗ね…」

紬「私達もそろそろ帰りましょ?」

律「ああ…そうだな」

律「でもその前に…」

紬「りっちゃん、今日の事は全部忘れましょ?」

紬「ううん、全部忘れちゃ駄目よね」

紬「りっちゃんとこんなに長い時間お話が出来て凄く楽しかった」

紬「それだけで良いじゃない」

律「ムギ…」

律「いや、言わせてくれ」

律「どうしてあの手紙があたしからだって分かった?」

律「字も分からない様に書いたはずなのに、最初から分かってたなんて…」

律「それにどうして…どうして、ムギは怒らないんだ?」

律「あたしはムギを此処に呼び出しておいて…」

律「ムギが来ているのを知ってて、それでも帰ろうとしたんだぞ?」

律「折角ムギが引き止めてくれたのに、でもあたしには話し出す勇気が無くて…」

律「ムギはあたしの事を色々と褒めてくれたけど…でも、違うだろ?」

律「今日のあたしは最低じゃんかよ…」

律「こんな最低の奴に、優しくするなよ?怒ってくれよ?」

律「どうして、どうして怒らないだよ…どうして怒らないんだよ!」

紬「りっちゃん…」

紬「そうね、確かに今日のりっちゃんには良くなかった事もあると思う」

律「…そうだろうよ、いや、もっと悪く言ってくれても良いんだぞ?」

紬「でもね、それは私も一緒なの…ううん、私の方がもっと悪いわ、最低よ」

律「…は?」

紬「どうして分かったのかって聞いたわよね」

紬「そんなの、凄く簡単な事よ」

紬「だって、私はずっとみんなの事を見てるから…」

紬「りっちゃんの事も、何時も見ているわ」

律「え?手紙を入れる所、見られてたのか?」

紬「ううん、そういう意味じゃないの」

紬「私はね、何時もみんなの事を見てるから…」

紬「考えてる事が何となく分かるの」

紬「昨日の事を見て、りっちゃんは思ったわ」

紬「自分も澪ちゃんの事を相談してみたいって」

紬「でも、時間が経って…途中で気が付いたのね」

紬「それは単に雰囲気に当てられただけ」

紬「りっちゃんにとっての1番は澪ちゃんだけど…」

紬「特別な意味で好きって言えるのかどうかは自信が無いの」

紬「だから途中でどう言って良いのか分からなくなっちゃった」

紬「りっちゃんは意外と恥ずかしがり屋さんだものね」

律「…」

律「何でそこまで、分かるんだ?」

紬「最初に言ったわよ」

紬「私は何時もみんなの事を、りっちゃんの事を見ているって」

紬「でもね…そこまで分かっていて何も言わなかった」

紬「最初に言ってあげればこんな事にはならなかったのに…」

紬「ずるいでしょ?私って」

紬「それを気付かれたくなかったから、今日の事は忘れましょうなんて…」

律「…」

律「ぷっ、ぷぷぷぷっ…」

紬「りっちゃん!どうして笑うの!」

律「だってよ、それを言わなきゃあたし1人が悪者になるのに」

律「わざわざ言っちゃうなんてな…やっぱり、ムギは優しいと思うよ」

紬「違うの!そういう風に言えば」

紬「りっちゃんは優しいから、私の事を悪く思わないんじゃないかって…」

律「なあ、ムギ…そういうのは止めにしようよ」

律「あたしも悪かった、ムギも悪かった、それで良いじゃないか」

紬「そうね、りっちゃんがそう言ってくれるなら…」

律「でも1つだけ聞きたいな、どうして最初に言ってくれなかったんだ?」


紬「最初はね、ちょっといじわるをしたかっただけなの」

紬「少しだけ待ってみて、実は私には分かってるのよって」

紬「でもね、急にそれが怖くなった」

律「怖くなった?」

紬「そう、私がそう言ったら多分りっちゃんは照れながら…」

律「すまん、勘違いでこんな事をしちまった」

律「…って言ってたかな」

紬「私は笑って、別に良いのよって言っておしまい」

紬「でもね、そうならないかもって思ったの」

紬「雰囲気に流され続けて、自分でも思っていない事…」

紬「全くの0じゃないけど、そんなに強くは思っていない事」

紬「それを言い出しちゃうかもしれない」

紬「言ってしまったら歯車が回りだしちゃうかもしれない」

紬「それを考えたらね、何だか凄く悔しいって思えたの」

紬「そうなって欲しくないって思えたの、怖いって思えたの」

紬「だから私にも何も言えなくなっちゃった…」

律「ムギはそういうのを応援したいんじゃ無かったのか?」

紬「そうね、そうだったわね」

紬「どうしてなのか…私にも分からなかった」

紬「その内にね、最初に思ってた事なんてどうでも良くなったの」

紬「りっちゃんと2人で居ると凄く楽しいなって、それだけになっちゃった」

律「そうか…ムギはみんなの事は分かるのに自分の事が分からないんだな…」

紬「…どういう事?」

律「…あたしにそれを言わせるのか?」

紬「…」

紬「私、りっちゃんの事が…好きなの?」

律「いや、あたしに聞かれてもな…」

紬「…」グスッ

律「な、何で泣くんだよ?」

紬「だって私、好きな人に酷い事をしちゃったの?って思ったら…」

律「ムギ…」

律「今日は凄く楽しかった、それで良いってあたしも思ってるからさ」

律「だから、そんな顔をするな」

律「ムギも楽しかったって言ってただろ?だったら、笑えよ」

紬「…無理よ」

紬「私、りっちゃんに嫌われちゃったもの…」

律「…」

ポカッ

紬「い、痛い…」

律「ムギ、人の話はちゃんと聞けよ?」

律「あたしも楽しかったって言ってるんだぞ」

紬「え?じゃあ私…嫌われてないの?」

律「当たり前だろ?」

律「あたしには難しい話は良く分からない」

律「ムギの言ってる事は…正直全部理解出来たわけじゃない」

律「でもな、ムギがそんなに一生懸命考えて色々やってたなんて…」

律「その相手があたしだったなんて、凄く嬉しいじゃないか」

律「ムギにはあたしの考えてる事が何となく分かるんだろ?」

律「だったらムギの事をどう思ってるのか、分かりそうなものじゃないか」

紬「…」

紬「嫌い?」

律「違うだろ」

紬「大嫌い?」

律「何でそっちに行くんだよ!」

紬「何とも思ってない?」

律「もう少し自分に自信を持てよ」

紬「じゃあ…ちょっとだけ好き?」

律「ちょっとじゃ無いな」

紬「…」

紬「大好き!」

律「…」

紬「…」ワクワク

律「それは…無いと思うぞ?」

紬「…」ガーン

律「まあ、そうガッカリするなよ」

律「いきなりそんな風には思わないだろ?」

紬「でも、りっちゃんが自信を持てなんて言うから…」

律「ムギの事は普通に好きだよ」

紬「澪ちゃんよりも?」

律「澪と比べたら…すまん、澪だと思う」

紬「やっぱり…私、泣いちゃうかも…」

律「澪とは付き合いが長いから、それは仕方が無いって」

律「でもな、ムギの事は前よりもずっと好きになったぞ」

紬「…ほんとに?」

律「ああ、それにな」

律「ムギの事、もっと好きになりたいって思った」

律「まだ1年以上、ムギとは一緒に居るんだから…」

紬「私、もっと好きになって貰える様に頑張る!」

律「ああ、そうだな…あたしが言うのも変だが、頑張れ」


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最終更新:2010年12月09日 00:05