ある日の音楽準備室

唯「とおーい!!」ドバーン

澪律紬「っ!?」ビクッ

唯「おはようみんな! 言ってももう3時半だけどね!」

澪「ゆ、ゆい?」

唯「イェイ、澪ちゃーん!」ダキッ

澪「うわあぁあ!?」

 ワシッ

唯「うーん、やわらか……」モミシモミシ

澪「ちょ……っ!!」

 ドゴスン

唯「はぷすっ」

唯「いててぇ……えへへ」サスサス

澪「……まったくぅ」

律「唯ー……なにしとんじゃい」

唯「りっちゃあん、澪ちゃんにぶたれた!」ヒシッ

律「だぁーっ、くっつくな!」

紬「今日の唯ちゃんは元気ねぇ」

律「元気すぎる!」グイグイ

唯「うおー、離すものかー!」ギュウー

律「あーもう……いいや」

唯「へへぇ」ムギュ

唯「ん? ……」クンクン

律「どこ嗅いでんだ」ペチン

唯「いい匂いするよ?」

律「しないわ!」

紬「りっちゃん良い匂いするの?」ガタンッ

律「ええい、くーるーなー!」

紬「えぇー?」

澪「唯もいいかげん離れてやれ」ガシッ

唯「ぐっ……力では澪ちゃんには勝てないっ!」ズルズル

唯「ならば」ポフン

澪「……頭をうずめるな」

律「ふぅー。いやぁ、もうね……」

律「唯、どうした……?」

唯「極楽ぅ」

律「聞けよ」

唯「りっちゃん。今は、今だけを見つめていようよ」

律「……いや、いきなり決め台詞みたいなこと言われても」

律「というか! その今が問題で……」

唯「ムギちゃーん!」スルリ

 たたっ

律「……まぁいいか」

唯「ムギちゃん抱っこー」

紬「どんと来いです!」

唯「わーい!」ピョン

 ギュッ

澪「子供みたいだな」

律「うーむ……」

唯「えへへぇ、ムギちゃんもいい匂いー」

紬「そうかしら? 唯ちゃんもあったかいわよー」

唯「おほほほぉ」

澪「……」

紬「うふふふふふ」グルグル

唯「あははははは」グルグル

律「……まわりだしたな」

澪「あぁ。まわってるな」

律「……」

澪「……」

 ぐるぐるぐる……

律「……」

澪「……まわってる」

律「……うん」

澪「……」

律「……」

――――

律(そんなこんなで部活の終わる時間になりました)

律「さて、そろそろ帰るぞ」

唯「えーっ?」グルングルン

 グルン… ストッ

唯「もっと……わ、ととっ」

紬「ゆ、唯ちゃ」ガシッ

紬「ふわぁららら」フラフラ

 ドターン!

澪「目も当てられないな」

唯「うおおおおぉぉ……」ピクピク

紬「う……くぅ」

律「まったく。今更つっこむのもなんだけど……なーにやってんだよ」

律「ほれ、唯。しょってってやるから」

唯「ああう……すまないねぇ」ギュッ

律「澪はムギをしょってやれ」

澪「あぁ。ムギ、肩につかまれ」

紬「澪っぺさん……ありがとう」ギュ

澪「誰? ……よっこらせっと」

律「ほーら。カバンぐらいは自分で持て」

律(ギターはしょうがないよな。さすがにそこまで面倒みきれん)

唯「ギー太をおぉ」

律「……わ、わーったよ」

律(重てえええぇぇ)グギギ

澪「……」チラ

律「うおおおし、帰るぞおお……」


 下駄箱

紬「ありがとう澪ちゃん、もう大丈夫よ」

澪「あ、そうか?」

 スルッ スト

澪「そしたら私、ベースを取ってくるよ。少し待ってて」

律「はやくしろよー」

澪「ああ、急ぐよ」

紬「りっちゃん。ギター持つわよ」

律「おお、サンキュ。……唯」ユサ

唯「んお?」

律「唯はまだ歩けないか?」

唯「りっちゃんは……わたしをなめてるね」

律「じゃあもう降りろよ」

唯「あ」ストッ

唯「と、ちょ、はふんっ」バタリ

律「……」

紬「りっちゃん」

律「すまん……」グイ

唯「お世話をかけます、りっちゃん隊長……」ギュ

律「さて、と」

澪「ごめん、待たせたな」

律「いや。行こうか」

 テクテク…

澪「律、平気か?」

律「大丈夫大丈夫。いくらでも歩けそうだ」

澪「ならいいけど……」

 テクテク…

律「……」

 スンッ スンスン

律「……ん?」

唯「んー♪」スリスリ

律「……おい、唯」

唯「あのねぇ、りっちゃん」

律「……なんだよ?」

唯「ムギちゃんも澪ちゃんもいい匂いするけど……私はりっちゃんの匂いが一番好きだよ!」

澪「ぶふっ!」

紬「唯ちゃんてば……」

律(こんな道の真ん中でおぶさったまんま、よくこんな事言えるなぁ、こいつ)

唯「あれぇー、なにぃ? りっちゃん怒ってるの?」

律「別に」ムス

唯「んふふー」スリン

律「……」

 テクテク…

澪「律?」

律「へ?」

澪「そのまま唯を送ってくのか?」

律「ん? あ、もうここまで来たのか」

律「どうする、唯?」

紬「なんだったら、私がおぶっていってもいいけれど」

唯「りっちゃんの背中が良いの!」

紬「ふ……」

澪「すっかり懐かれたみたいだな」

律「言い方が拾った仔犬みたいだ」

律「ま、そういう訳で。しょうがないから送ることにするよ」

澪「わかった。また明日な」

律「じゃあな」

唯「ばいばい澪ちゃーん」

紬「またね、澪ちゃん」

 テクテク

律「……」ワシャ

律(ん? なんかうなじがやけに涼しい……)

唯「むふ……」ペロ

律「わっひゃあ!」

紬「りっちゃん!?」

唯「んんうっ……急に動かないでよ。もう」ベロベロ

律「こっ、ばかぁ! やめろって、ひひひゃ!」ゾゾッ

紬「な、なにしてるのりっちゃん?」

律「ゆ、ひゅいがっ!」

紬「……唯ちゃんを回してる時の私もこんな風に見えてたのかしら」

唯「……」チュチュッ

律「おい、むぎぃ……何この世の終わりみたいな顔してるんだよ」

紬「いいえ、何も。それでは私、ここから電車ですので」

律「懐かしいな。初めて会った日に戻ったようだよ」

唯「ムギちゃんばいばーい」

律「……ま、じゃあな」

紬「はい、さようなら」シュタタタ

律「……」

律「唯、そろそろ降りれば?」

唯「ふふ。やっと二人きりになれたね、りっちゃん」

律「あのなぁ」

律(会話が成立しないよーもういやだよー)テクテク

唯「りっちゃん、聞いてる~?」

律「……」

唯「……まむっ」

律「だぁっ! 耳! 噛むない!」

唯「おっ、りっちゃん耳弱い?」

律「ちがわい!」

唯「えりゃっ」カプ

 ザラッ ジュチッ

律「だー! だー! やめろぉ気持ち悪いっ!」

唯「気持ち悪くないもん、気持ちいいもんっ!」

律「ぞわぞわいってる、耳がぞわぞわいってるから!!」バタバタ

律「……ったあーもう! さっさと帰るぞ馬鹿!」スタスタ

唯「おー、いこー!」

律「おーおー」

律(くそ、耳がつめてえ)

律(思いっきりツバつけて舐めてるじゃんか……)

律(耳を拭いてくれ、と言っても今の唯が応じるわけがないしな)

律(なるたけ早く唯を家に届けるしかないか)

 スタスタ

唯「ねえねえ、りっちゃん」

律「……どした?」

唯「今日はうちに泊まってくんだよね?」

律「……」

律「うん?」

律「いつからそんな話に?」

唯「え?」

律「いや、だからえっと……私、普通に帰るけど」

唯「もー、りっちゃん付き合い悪いなぁ! こんな楽しいのに帰ろうだなんて」

律「お前が一人でぶっ飛んでるだけだ!」

唯「えー!? りっちゃんだってノッてくれたじゃん」

律「乗ったんじゃなくて反応したって言うの」

唯「反応した? 反応しちゃったんじゃないの?」

律「あのな」ゴチン

律(自重しないなーこいつ)

唯「へへへ……というわけで、泊まってくよねりっちゃん?」

律「ううん、泊まってかないよ?」

唯「What?」

律「Whatじゃねえよ。明日も学校あるんだし、泊まってくわけにもいかないだろ」

唯「いやでも、うち今日両親いないよ?」

律「お前の中で泊まっていい条件はそれだけか!」

唯「うん。逆にこの状況で泊まっちゃいけない理由ってある? ないよね!」

律「いや、だから明日学校で」

唯「私も明日学校だよ?」

唯「なぁ、りつ……一緒に死のう?」

律「似てないぞ」

唯「そこはお世辞でも似てる似てるーとか言わないと盛り上がんないでしょ、もー!」ハムッ

律「耳ぃ!」

唯「りっちゃん、覚悟しなさい! 私の家に泊まるんだよ!」

律「……わかったよ。夜更かししないならな」

律(家の前で適当に急用ができたふりでもすれば大丈夫だよな)

唯「りっちゃーん、りんり~ん」ツンツン

律(正直、今日の唯にはついていけない)

律(まぁ、ひと晩一人で放置しておけば元に戻るだろ)

 スタスタ…

律「うし、着いたぞ。降りなさい」

唯「はーい」ストッ

唯「さぁりっちゃん、入って入って」ガチャ

律「あぁ。ん、ちょっと待って」

唯「どしたの?」

律(携帯携帯っと)

律「母さんだ。どうしたんだろ」ポチッ

律「うん。……うん、えっ何?」

律「は……なに? なに言って……」

律「……わかった、すぐ行く。うん……じゃ」パタン

律「唯、スマン。急な用事が出来た」

唯「どうしたの?」

律「弟が事故に遭ったらしい。今病院に運ばれたそうだ」

唯「……大丈夫なの?」

律「分からない。今からそれを確かめに行く」

唯「……」

唯「そっか。弟さんならしょうがないね」

律「悪い。じゃーな」ダッ

唯「うん、バイバイ」

律(……案外あっさり解放してくれたな)タッタッ

律(きょうだいのことだからなぁ。唯にも身につまされるものがあるってことか)

律「……」ピタ

律(なんだ……胸騒ぎがする)

律「……そうだ、澪にも話を合わせてもらった方がいいか」


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最終更新:2010年12月10日 00:59