好きって言えたら、どれだけ楽だろう。
先輩を好きになってしまった。
ただの先輩じゃない。
同じけいおん部で今までずっと共に練習に励んできた大切な先輩。
だから、この気持ちは心に秘めておく事に決めた。
…はずなのに。
好きな気持ちは日に日に大きくなり
溢れ出しそうなのを必死に止めてるような、そんな日々だった。
部活中でも無意識に目で追っている事がある。
見ないでおこうと意識すればする程に追いかけてしまう。
楽器を弾いている彼女の姿を見つめてしまう。
モヤモヤと胸の中に渦巻く感情。
好きって言えたら、楽になるのに……
ある日、梓は一大決心をした。
『バレンタイン』
この日にチョコレートを作って渡す。
その位なら自分にも出来るはずだ。
そして相手に少しでも気持ちが伝われば……
前日に憂の家に行き一緒にチョコを作った。
準備は万端。
梓「でも、どうやって渡せば良いんだろ…」
頭を抱える梓の鞄の中にはけいおん部のみんなに渡すチョコレートケーキとは別にもう1つチョコレートが入っていた。
思いを寄せるあの人の為に用意したチョコレート。
しかしいつ、どのタイミングで渡せば良いのだろうか…
このまま渡さない方が良いのかも、そんな考えが頭をよぎった時
机の上に影が落ちる。
顔を上げるとそこには、純が立っていた。
純「おはよう」
梓「おはよ」
純の挨拶に、低めのテンションで返事する。
純「どうしたの?元気ないみたいだけど」
梓「ちょっと考え事を…」
梓は明後日の方向を向きながら応えた。
が、すぐに視線を純へ戻す。
梓「チョコレート渡すのって、どうすればいいと思う?」
純「チョコ?誰に渡すの?」
梓「い、いや、その、いつもお世話になってるから、それであげるだけだよ…」
純「けいおん部のみなさんに?」
梓「…うん、それと……」
純「へ?誰か他に上げる人いるの?」
梓「う、うん///」
純の言葉に梓は顔を赤くし、頷いた。
そんな梓を見た純は
純「そんな意識しなくても、普段のお礼って感じで渡せば良いんじゃない?」
梓「そうかな…」
純「バレンタインとかそんなの関係無しにね」
梓「……そうだよね」
純の言葉に梓の抱えていた気持ちは少し楽になった様な気がした。
梓「変に意識しない方が良いよね」
その様子を見た純はうんうんと頷く。
純「頑張ってね」
梓「ありがとう」
自然に渡すのが1番だと思いつつも
それを実行するのにはもの凄く勇気がいる事。
口で言うのは簡単なんだけどな…
そんな事を思いながら、あの人に渡す姿を思い浮かべる。
やっぱり渡せる姿が想像出来ない…
結局午前中には思いの人にチョコレートを渡す事は出来なかった。
昼休みになり、いつもの如く憂と純が私の所にやってきて3人で昼食を食べる。
純がひたすら喋っていたが、梓の頭には全然入ってこない。
頭にあるのはチョコレートをいつ、どうやって渡すかという事。
憂「梓ちゃん?」
梓「にゃっ?!」
気付くと憂の顔が近くにあり、梓は思わず変な声を上げた。
梓「な、何?」
憂「さっきから黙り込んでどうかしたのかなって」
憂に指摘され、ようやく自分が黙ったままである事を気付かされた。
梓「ご免、ちょっと考え事してて…」
憂「考え事?」
純「あれ?もしかしてまだ渡せてないの?」
梓「実は」
憂「あっ澪先輩にチョコ作ったんだよね」
梓「うん」
純「ええええ?梓のチョコ渡したい相手って澪先輩だったの?」
素っ頓狂な声を上げる純
梓「う、うん」
純「実は私、澪先輩に朝チョコ渡したんだけど」
梓「ええええ?」
今度は梓が素っ頓狂な声を上げる。
梓「ど、どうやって渡したの?」
純「どうやってって……」
~純回想
純「あ、澪先輩だ。丁度良かった」
澪「え?」
律「あ、純ちゃんだ」
純「澪先輩の為にチョコ作ってきたんですけど受け取ってくれますか?」
純に見つめられ、澪は思わず後ずさりする。
純「ダメ、ですか?」
澪「いや、その…」
差し出された箱をじっと見つめ、思わず頬を赤らめる澪。
澪「あ、ありがとう…」
澪は純の手から箱を受け取る。
純「良かったです、受け取ってもらえて」
律(……………)
律(私もチョコ作って持ってきたんだけどな……)
律(チョコ作るなんて私のガラじゃないよな)
律(私がチョコ渡したらどんな顔するかな?)
律(目の前であんなの見せられちゃったら渡すに渡せないよ…)
…
純「って感じ、変に意識しなくて良いと思うよ」
梓「そうだね」
純「あ、ちなみに本命とかって訳じゃないから安心して」
梓「べ、別に私だって///」
純「はいはい」
憂「ちょっと練習してみれば?」
純「そうだね、じゃあ私を澪先輩だと思って渡してみて」
梓「分かった」
梓「べ、別に澪先輩だけ特別って訳じゃ無いんですからね」
純「何でツンデレ?」
憂「もっと自然に、『チョコ作ったんですけど受け取って下さい』って」
純「そうだよ」
梓「う、うん」
梓「ちょ、チョコ、ちょこったんですけど受け取って下さい」
憂&純「噛みすぎ……」
梓「あー駄目だ。渡す所想像すると頭が真っ白になる」
~その頃澪は
佐々木さん「あの、秋山さん、これ受け取って下さい」
澪「あ、ああ、ありがとう」
律「しかし凄いな澪、さっきも純ちゃんからチョコ貰ってたし……」
澪「へ?何か言いたそうだな律」
律「何でもないよ……」
澪「?」
もうすぐ授業が終わり、放課後になる。
部活が始まってしまえば、二人きりで渡すチャンスは無くなってしまうだろう。
部活後に渡しそびれてしまえばそれまで。
言わばコレがラストチャンス。
授業が終わると梓は、一目散に3年の教室を目指した。
教室の廊下に澪の姿を見つける。
梓「あっ澪せんぱ…」
そこにチョコと思われる箱を持った生徒が群がる。
生徒「
秋山澪FCに入ってます。チョコ受け取って下さい」
澪「あ、ありがとう」
その光景を見た梓はまた少しだけ渡そうと決めた気持ちが挫けそうになる。
でも、このまま渡さない訳にはいかない。
覚悟を決めた梓は小さく息を吸い込んだ。
梓「み、澪先輩」
澪「あ、梓丁度良かった、チョコ持ちきれなくて部室まで運ぶの手伝ってくれるか?」
梓「は、はい…」
澪に言われるままチョコの入った紙袋を持ち、歩く梓。
澪「ムギも唯も日直だから困ってたんだ」
梓「律先輩は?」
澪「何か用事があるから先に行ってて良いってさ」
梓「へー」
梓「こんなに貰うなんて凄いですね澪先輩は」
澪「こんなに食べきれないよ……」
梓「み、澪先輩は甘い物って嫌いですか?」
澪「嫌いじゃないけど?ムギが持ってきてくれるお菓子好きだし」
澪「でも、太るから食べ過ぎはな」
梓「そ、そうですか…」
梓は何とか気持ちを落ち着かせ、もう1度澪に目を向ける。
梓「澪先輩」
澪「うん?」
梓の目が再び澪を捕らえる。既に部室のドアの前まで来ていた。
ようやく決心をした梓が少し大きめの声を上げる。
梓「あ、あの実は私も澪先輩にチョコ作ってきたんです。」
そして鞄に入れていた小さな箱を差し出した。
梓「良かったら受け取って下さい」
澪「ありがとう梓」
渡す時に澪に手が触れ、梓の身体が熱くなる。
梓「こ、これは、その普段お世話になってるからで」
澪とまともに目を合わせる事が出来なくて視線を逸らす。
澪「梓がくれるものだったら何でも嬉しいよ」
にっこりと笑いながら澪は言う。
梓は固まってしまう。
~やりとりを覗き見してた律憂純
純「梓、無事渡せたみたいだね」
憂「心配で見に来ちゃったけど、良かった良かった」
律(梓も渡したのか……)
律(……私も勇気を出して)
ごそごそと鞄を漁る律。
そして愛しい人の前に行く。
律「こ、これを」
律の手に握られていたのは小さな箱。
その箱が純の目の前に差し出される。
純「…これは?」
律「チョ、チョコレートだよ///」
純はその言葉に律の顔を見直す。
律「きょ、今日はバレンタインだろ?だから受け取って欲しいんだ」
純「へ?私に?」
律「うん、朝から渡そうと思ってたけど中々渡せ無くって///」
梓「アレは律先輩と純?」
澪「梓、部室入ろ」
梓「あ、ハイ」
バタンと部室のドアが閉められる。
梓が鞄と紙袋を椅子の上に置いてると
澪「梓、これはちょっと早いけどお返し」
囁くように言って、梓の唇にチュッと口付けする。
梓「え?!」
梓「澪先輩、いきなりそんな///」
澪「本命チョコだったんだろ?」
梓「な、何で本命チョコだって分かったんですか?」
澪「昼休み憂ちゃんが私の所にきてな」
梓「憂が?」
澪「梓が一生懸命チョコ作ってたから、渡しに来たら受け取って欲しいって」
梓「じゃあ最初から本命ってバレて……」
自分の言動を思い出し真っ赤になる梓
澪「嬉しかったよ、梓が私の事を思ってくれてるなんて」
梓を抱きしめて頭を撫でる澪。
梓「澪先輩も私の事を…」
澪は梓に合わせて屈み…梓は澪の肩に手を掛ける。
澪は梓の頬に両手を添え、相手の唇をいたわるように、優しくキスをする。
梓は、優しいキスを受け止める。
澪と梓の顔には幸せそうな笑みが浮かんでいた。
~その頃律と純は
純「顔真っ赤ですよ?照れてるんですか?律先輩らしくない」
律「へ!?」
律は図星を突かれて、素っ頓狂な声を上げてしまう。
笑う純を見つめ、思わず抱きつき、スリーパーホールドをかける。
純「ひゃっ!」
律「ううう、うるさい、うるさーい///」
お終い
最終更新:2010年12月11日 03:21