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「合宿とは状況が違いすぎます! 少しは考えてから行動して下さい!」

「あずにゃん……」

 肩を落として、しんみりと熟考する唯先輩。
 私だって、一緒にお風呂に入ることは別に嫌じゃない。
 だけど、私の矜持が一線を外れないよう保たれていた。
 たぶん、ここが私にとってのゼロ距離だった。
 ここを超えると、たぶん、戻ってこられない。

「解ってくれましたか……唯先輩」

「……うん、大丈夫、私も貧乳だから……うぅ」

 なんの話ぃ!?

「そういう問題ではありません! 大体なんですか! 私『も』って!」

「え? あずにゃん、コンプレックスがあるから一緒に入りたくなかったんでしょ?
 私とあずにゃん、ほら大差ない……し」

「自分で言って、勝手に傷つかないで下さい! いくら唯先輩でも失礼すぎます!」

「……じゃあなんであずにゃん一緒に入らないの?」

「そ、それは、恥ずかしいから、です……。
 でも、これはコンプレックスとかじゃなくて、別次元の話です」

「……よくわからない」

「もぅ、いいです! 一緒に入りましょう! 唯先輩の背中流してあげますから!」

「……っふっふっふっふ、覚悟しなせぇ、あずにゃん殿ぉ」

 何口調? 
 すごく前言撤回したい。
 唯先輩には後ろを向いて貰って、着ていた服を全部脱ぐ。
 バスタオルで鎖骨から下、ふともも辺りまでを隠す。
 下着は、上着で包んで隠しておく。
 と、代えの下着がないことに気づく。

「……あの、唯先輩」

「どーしたのかな? あずにゃん」

「その、代えの下着は……ないのでしょうか?」

 質問を投げかけるのと同時に、ガラガラっと脱衣所のドアが開いた。

「あれ? まだ入ってなかったの? はい、これ梓ちゃんの下着」

 新品の白ショーツが一枚。ありがたい配慮だった。
 でも、憂の手にはもう一枚、しましまのパンツがあった。

「ありがとう、憂……ってなんで憂も脱いでるの?!」

「どうせなら、皆で一緒に入っちゃおうよ」

「そだねー、憂も入っちゃおうー」

「重く考えてたのは私だけだったのかな……」

 こうして、なし崩しに三人での入浴が始まるのであった。

 全員が身体にバスタオルを巻いて、浴室に突入。

「さ、さささささ寒い……」

 浴室は見事に冷え切っていた。

 お風呂は沸いていたけれど、室内を温める効果は薄かったようだ。

 三人で抱きしめあい、体温を上げていく。

 浴室は、三人で使うにはやや狭かった。

 結局、私、唯先輩、憂の順に並んでシャワーを浴びていく。

 お風呂場はシャワーと湯気により、段々と室温を高くしていった。

「ふぃー、やっと身体がポカポカしてきたよー」

 私が真ん中に入り、目の前に唯先輩、後ろに憂で浴槽に浸かる。

 でも身体の一部にどうしても伝わってくる感触が、私を苛んだ。

「憂、おっぱいが背中に……」

 私にはない、ふくよかなおっぱいが押し付けられていた。

「ごめんね、浴槽が狭くって……」

「憂ばっかり成長してずるいです」

「そうだー、憂ばっかり成長してるなんて不公平だよ!」

「ええっ!?」

「……その細い身体を維持できる唯先輩も充分に恵まれてます」

「そうだよ、お姉ちゃん、私より細い……」

「あずにゃんは可愛いじゃん、こうやって、ぎゅーってしたくなるよー」

 こんな密室空間で密着されると心臓のバクバクしてる音が伝わりそう。

 あったかいし、まあいいか……。

「あずにゃん、髪の毛しっとりつやつやだね」

「本当だ、いつ見ても綺麗なストレートだよねー」

「私なんてくせッ毛だからいつもセットが大変なのにー」

「お姉ちゃんは、雨の日はいつも格闘してるもんね」

 二人の会話をBGMにしてしまい、
 だんだんと、頭がボーっとしてくる。
 髪の毛を弄られているのも気持ちいい。
 憂のおっぱいを枕代わりにして寄りかかってしまう。

「……梓ちゃん? 梓ちゃん?」

「ここで寝たら溺れ死んじゃうよーあずにゃーん」

 このまま湯船に浸かって、眠りながら死ぬのも悪くない、なんて思ってしまった。

 でも、もっともっと、唯先輩、憂、純、けいおん部のメンバーで楽しいことがしたい。

 うん、やっぱりダメだ、ずっと一緒にいたい。

 目を見開き、意識を覚醒させる。

「そろそろ、出ましょうか……このままだと、本当に寝てしまいそうです」

 立ち上がると、ザバーっとお湯が排水溝に流れた。

「あずにゃん、つるつるだね♪」

 唯先輩は、私の目の前にいた。

 私は、何も身に着けていなかった。

 つまり、今の発言は……。

「唯先輩の、バカァァァァァ!」


 ―――――――

 これから、私と憂は二年生、唯先輩は三年生になる。
 したいこと、やりたいことを唯先輩の部屋で語り合った。
 目指すのは、最高に楽しい高校生活。
 そう、私にはある予感がした。
 人生の中で、おそらく次の一年が一番充実したものになるんだと。
 でも、楽しくて、楽しすぎて、家に帰って一人になったとき、
 不意に涙が零れたりもするかもしれない。
 不安がないわけではない。
 だけど、

「おやすみ、あずにゃん」

「おやすみなさい、唯先輩」

 この顔が、この声が、この関係が、私の不安を払拭してくれる。
 私は、大丈夫。
 一人になっても独りじゃない、そう思える仲間がいるから。
 好きな人がいるから。大切な友達が、いっぱいいるから。

「唯先輩、好きです……」

 照明の点いてない部屋の中、

 私は、唯先輩のベッドの上で一人でに呟いた。

 好き、という言葉を口にするたび、胸が温かくなる。

 左の手のひらを唯先輩の右手と繋ぐ。

 今の私には心地よい、何も考えたくない、このまま海の底に沈んで眠ってしまいたい。

 今日あった出来事は、私に答えをくれたのだ。嬉しさが溢れ続ける。

 十秒……三十秒………百秒…………千秒、時間が虚しく経過していく。

 ――気がつけば、午前二時の深夜。

「唯先輩、好きです……大好き、です」

 私は繰り返し、自認させるかのように呟き、意識を闇に沈めていく。

 眠りにつく前、私は寝ている唯先輩の頬に、軽いキスをした。

 それは、本当に何気ない日常の一コマに過ぎず、

 それは、冷静な私が見過ごせる程度のことで、

 それは、唯先輩からしたら只のお遊びでしかない。

 でも、私は受け入れることが出来た。

 優しい笑顔も、ふんわりとした高い声も、温かい身体も、

 全部が――もっと好きになっていった。

 その感情は恋ではない。

 この感情は憎しみでもない。

 あの感情は焦燥に近い。

 ひとつだけハッキリしていることは、好き、大好きだってことだ。


 そう、この感情は――愛。

 笑っても、泣いても、怒っても、全てがこの感情に繋がっている。

 人生に張りを与えてくれる、私の、ガールズライフの源だった。

 今日を過ごした明日は、昨日よりも笑顔に満ちている。

 そんな予感がするのを、私はひしひしと感じたのであった。


 END







最終更新:2010年12月12日 01:22