ガタガタ…
唯「風、すごいねぇ」
憂「うん、台風だもん」
唯「戦後最大の?」
憂「らしいね。台風19号」
唯「ふぅん……」
ビュオオオ…
唯「……ねぇ、風すごいよ?」
憂「そうだね。雨も」
唯「豪雨だよ、豪雨」
憂「台風だからね」
唯「……うん」
ガタッ…ガタガタン
唯「学校どうなってるかなぁ」
憂「誰もいないと思うよ。行ってもお休みだし」
唯「せっかくのお休みだし、誰かと遊びたいなぁ?」
憂「だめだよ。危ないもん」
ザアアァ…
唯「……」パカ カチカチ
唯「……ふふっ」
カシャッ!
憂「? なに撮ってるのお姉ちゃん?」
唯「あ、ううん、何でも。……あっれぇ?」
ビョオオオ…ガタタタン!
憂「ひゃあ!」
唯「!」
憂「今の風、すごかったねぇ……」
唯「だね。……うい、私ちょっとトイレ」
憂「へっ? う、うん。行ってらっしゃい」
ヒュオオオ…
唯「……」トットッ ガチャ
唯「あったあった」
唯「お父さん、ちょっとだけカメラお借りします」ペコ
唯「……」
唯「これは壊れてないよね……」ポチ
ビカッ!
唯「うわあ!」
唯「……」
唯「うん、よし」バタン ヒョコヒョコ
唯「服の下に隠して、と」ゴソ
唯「ただいまー、憂」ガチャ
パタン
憂「あ、お姉ちゃん……」
唯「ごめんね。憂はトイレ平気?」
憂「だ、大丈夫だよ!」
唯「そっかぁ、そうかい……」
憂「……?」
ピュウウウ…
唯「……」
憂「風、少し弱くなってきたかな」
唯「うん……」
憂「……」
唯「……」
ザアアアア…
憂「雨は強いまんまだね」
唯「そうだね。洪水とかになっちゃわないかな」
憂「洪水はならないよ。水害対策すごいもん」
唯「むー……街中が海みたいになったら面白いと思うよ?」
憂「ポニョ?」
カタ…ガタガタ…
唯「ポニョ?」
憂「最後、街が水びたしになって凄かったじゃん」
唯「……」
憂「忘れちゃったの?」
唯「ちがくて……あのシーン、怖かったから」
ビュウウ…ヒュオオゥ…
憂「あー……」
唯「想像してみてよ。夜のうちに家が水に浸かってきてさ」
唯「起きるころには部屋中水びたしで、水圧で窓も開かない」
唯「水かさはどんどん上がってきて、空気もなくなってきて……」
唯「ひゃー!」
ガタガタ…ガタンッ
憂「こ、怖いね……」
唯「ね。……憂、風もまた強くなってきたよぉ?」
憂「……夜には台風通りすぎてるもん」
唯「ほんとにそうかな?」
憂「わからないけど……洪水なんて起きないよ!」
ビュウウ! ガタタンッ!
憂「や、や……」
唯「……♪」ゴソ
ビカッ!
唯「……どーん!」
憂「きゃあああっ!!」
ヨタヨタッ
憂「お姉ちゃん、かみなりぃっ!」ガバッ
唯「わわっ」
憂「どーんって、どーんって……」
憂「……お姉ちゃんが言ったぁ」ギュウ
唯「うーむ……ばっちり引っかかったね」
……
憂「もう。ひどいよ」
唯「ごめんごめん。……ちょっと泣いちゃってるね」
憂「うぅー……」
唯「憂ってずっと雷苦手だよねぇ。どうして?」ゴシゴシ
憂「あんなおっきい音がするの、誰だって怖いよ……」
……
唯「……かっわいいなぁ!」ギュウ
憂「うぎゅ」
唯「ごめんね、怖がらせて。もう大丈夫だから」ナデナデ
憂「うん……」
唯「……台風も離れてきたかな」
ビュオオゥ!
憂「ひゃ!」ギュッ
唯「うおおう……まだみたいだねぇ」
憂「そ、そうだね……」
唯「……」
憂「……」
カタカタ…
唯「うい、風がやんだら一緒に晩ご飯のお買いもの行こうね」
憂「うん。一緒にお買いもの久しぶりだね」
唯「台風のおかげかな?」
憂「ほんとだね。お姉ちゃん、軽音部で忙しいから」
唯「うぅ……ごめんなさい」
……
憂「ううん、怒ってないよ」
憂「こうやって、たまに一緒にいられる日はちゃんと私を見てくれるから」
唯「……えへへ」
唯「最初、憂がそっけなくて……見捨てられたかと思っちゃったよ」
憂「そんなはずないよ。……でも、ちょっと意地悪しちゃったかな?」
……
唯「……どーん!」
憂「ひゃ!」ギュッ
憂「……」
唯「……しばらくこのままでいさせて」
憂「うん……ごめんね」
……
唯「……」
唯「雨の音しないね」
憂「風もやんだかな」
唯「……お買いもの行こっか、憂!」
憂「……うん、行こう!」
夕涼みの街は、雨の匂いがくすぐったく感じられました。
お姉ちゃんと手をつないで、すぐ近くのスーパーまで。
1キロに満たない道のりを、とても大切に、幸せに歩きました。
夏の終わりにやってきた、激しい台風の日のことでした。
おしまい
最終更新:2010年12月13日 21:27