梓「すっかり遅くなっちゃいましたね」

唯「疲れた~!今日はがんばったね!」

梓「ええ、おかげでだいぶ方向が固まってきましたね」

唯「うん、家でもう少し練習してくるね」

梓「はい。でも唯先輩?まずは受験勉強ですよ?」

唯「うっ!?そうだった…」

梓「はあ…。受験大丈夫ですか?」

唯「とりあえず、明日は一日勉強するよ」

梓「そうですね。また息抜きが必要になったら連絡してください」

唯「了解!じゃあ、あずにゃん、バイバ~イ!」

梓「お疲れ様です!」


梓(…)

梓(帰って練習しよう)

梓(唯先輩、結構細かいところまでさらってあった)

梓(受験勉強で忙しいはずなのに)

梓(…私が唯先輩を引っ張ってあげないと!)

梓(唯先輩のためにできることをしないと)


――――――

―――――――――――――


キーンコーンカーンコーン

梓「ねえ、憂?」

憂「あ、梓ちゃん、どうしたの?」

梓「私にお茶の入れ方を、教えてくれない…?」

憂「え?お茶を?」

梓「うん…。ムギ先輩みたいにお茶を入れられるようになりたいんだ」

憂「そうなんだ。うん、いいよ!それじゃあ、今日うち来る?」

梓「そうだね、でも、今日は家で晩ごはん食べるって言ってるからなあ…。じゃあ、ごはん食べた後に行くね」

憂「そう?明日休みだし、うちに泊まってく?」

梓「う~ん、とりあえず、準備だけはしておくね」

憂「わかった。じゃあ、うちで待ってるね!」

梓(よし、これでお茶を入れられるようになるんだ!そして唯先輩に…)

梓(がんばるぞ!)


――――――

―――――――――――――


梓「こんばんは~」

憂「あ、梓ちゃん!待ってたよ~!」

梓「あれ、これ唯先輩の靴…?」

憂「うん、お姉ちゃんなら部屋で勉強してるよ」

梓(あああ!!憂の家には唯先輩がいるんだった!!だめじゃん!!)

憂「大丈夫だよ。ほら、ちょっと来て」

梓「え?」

ガチャ

憂「ほら、お姉ちゃんしっかり勉強してるでしょ?」ボソ

梓「ホントだ…」ボソ

唯「…」

梓(真剣な表情…。ホントにちゃんと勉強してるんだ…)

憂「だから台所に居ても気づかれないよ?」

梓「うん…」


憂「じゃあ、早速やってみようか。ティーセット出すから少し待っててね」


梓「うん、手伝うよ」

憂「ありがとう。よし、それじゃあ、まず基本から行くね」

憂「まずお湯を用意するんだけど…」

梓「はい!」

梓(…唯先輩のためにがんばるんだから)


梓「ふう…」

憂「梓ちゃん、お疲れ様!初めてにしては上出来だよ!」

梓「ううん、憂のおかげだよ」

憂「梓ちゃんが一生懸命やってたからだと思うよ?さあ、飲んでみよう?」

梓「あ、おいしい!」

憂「でしょでしょ?自分で入れるとすっごくおいしく感じるよね!」

梓(これなら…、唯先輩も満足してもらえるかな?)

憂「…ねえ、梓ちゃん」

梓「うん?」

憂「どうして急にお茶の入れ方なんて覚えようと思ったの?」

梓「え?い、いや、来年はムギ先輩もいないし、私もお茶の入れ方ぐらい知ってないと先生が困るかなと思って…」

憂「そうなんだ…。昨日お姉ちゃん部室行ったんだよね?なにかあった?」

梓「別に…、ちょっと二人で話して、練習して…それだけ」

憂「そっか…。そうだ、梓ちゃん、お姉ちゃんにお茶もって行ってあげたらどうかな?」

梓「え?私が?」

憂「そう。いつもこのぐらいの時間に私がお夜食もって行ってあげてるんだけど、今日はせっかく梓ちゃんががんばってお茶入れてくれたんだし」

梓「い、いや、私は…、うん、そうだね、わかった…」

憂「うん!お姉ちゃんもきっとよろこぶよ!」


――――――

―――――――――――――


唯「…」カリカリ

唯「…」カリカリ

唯「…」ゴシゴシ

唯「…」カリカリ

コンコン

唯「うい~?」

ガチャ

梓「唯先輩」

唯「え?」

梓「お疲れ様です…。あの、お茶を入れました」

唯「え?え?なんであずにゃんが??」

梓「今度から私がお茶を入れるって、言ったじゃないですか…」

唯「………あ、あずにゃん」

梓「ちゃんと勉強してるんですね。私、感心しました。お茶、ここに置きますね」

唯「あずにゃん」

ダキッ

梓「…ゆ、唯先輩、また補給です…か」

唯「勉強疲れたよ…あずにゃん」

梓「んっ、唯先輩…」

スリスリ

梓「お、お茶が冷めちゃいます」

唯「…もしかして、あずにゃんが入れてくれたの?」

梓「は、はい」

唯「それじゃあ、冷めちゃったら悪いね。飲もう!」

スッ

唯「おいし~い!あずにゃん、すごいねえ!」

梓「い、いえ、憂に教えてもらったんで」

唯「正直者だねえ。でも、本当においしいよ。憂が入れてくれるのとなんだか違う気がする」

梓「やっぱり憂が入れた方がおいしいですか…?」

唯「おお!ヤキモチ!?かわいいこと言ってくれるねえ、あずにゃん!」

ダキッ

梓「ひゃあ!ま、またですか!」

唯「だってあずにゃんがあ~」

憂「お姉ちゃ~ん?梓ちゃ~ん?」

梓「あ、憂…」


憂「ふふふっ、お姉ちゃん、あったかいでしょ?」

梓「え?う、憂まで…」

憂「ねえ、梓ちゃん、もう時間遅いけどどうする?今日は泊まっていきなよ?」

梓「そうだね…」

唯「おお!じゃああずにゃん、一緒に寝よ~?」

梓「いえ、やめておきます」

唯「即答!?」

憂「お姉ちゃんの勉強の邪魔になるから、遠慮してるんだよね?」

梓「そうです!唯先輩は油断したらすぐ息抜きするんですから!」

唯「ええ~!?今日も一日部屋でずっと勉強してたのに!」

梓「じゅ、受験が終わるまでは油断大敵です!」

憂「まあまあ、梓ちゃん、今日は私の部屋で寝よ?」

梓「うん…。唯先輩、すみません」

唯「ぶー、まあ、仕方ないか~…」

梓「はい、それでは寝る支度をしてきますので…」

憂「うん。じゃあ、お姉ちゃん勉強がんばってね!」

唯「うん!あずにゃん、お茶ありがとうね」

梓「いえ、唯先輩のお口にあってよかったです」


梓「ごめんね、結局泊まらせてもらっちゃって」

憂「ううん、いいの。それより、お姉ちゃんと一緒の部屋じゃなくてもよかったの?」

梓「!!な、なに言ってるの、私が居たら唯先輩の勉強の邪魔でしょ」

憂「…そんなことはないと思うんだけどなあ」

梓「さあさあ!今日は疲れちゃった。もう寝よう?」

憂「え?まだ早い時間だけど、わかった。お布団出すから待ってってね」

梓「ありがとう」

憂「よいっしょっ…と。はい、準備できたよ~!じゃあ、電気消すね?」

梓「うん。おやすみ、憂」

憂「梓ちゃん、おやすみなさい」

カチッ

梓(…)

梓(…)

梓(唯先輩と二人きりなんて今までも良くあったことだけど)

梓(でも、一緒の部屋で二人きりで眠るとなると)

梓(なんでだろう、眠れない気がする)

梓(唯先輩、まだ勉強してるのかな…)

梓(…)

梓(zzz)


――――――

―――――――――――――


~♪♪

梓「…うん?」

梓「ヴァイオリンの音…?」

梓「唯先輩?」

ガバッ


唯「♪~♪~」

梓(唯先輩、こんな朝早くから…)

梓(…)

梓(バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ、第三番ホ長調のプレリュード…)

梓(…)

梓(すごい、朝日が金色のヴェールをまとって空気にまとわりついているよう)

梓(なんだかいつもの唯先輩らしくない、優しい音)

梓(やっぱりホ長調のヴァイオリン曲はすばらしい)

梓(楽譜見てないけど…、CDの音を覚えているんだろうな)

梓(澪先輩が貸したCDはシェリングかな)

梓(いけいけのハイフェッツやミルシュタインもいいけど、シェリングもやっぱりいいなあ)

梓(つくづくバッハの奥深さを感じる)

梓(…それにしても、音のなかに唯先輩の音が混じって…)

梓(…こんな唯先輩もいいなあ)




憂「あ、おはよう、梓ちゃん!」

梓「あ、憂、おはよう」

憂「ごめんね~、お姉ちゃん、最近朝はああやって練習してるんだ。起こしちゃった?」

梓「ううん、いつもこのくらいに起きてるから…」


憂「そうなんだ。朝こうやってヴァイオリン聴いてるのって、なんかいいよね~!」

梓「うん、そうだね…」

憂「お姉ちゃんの演奏、どう?」

梓「うん、とってもいい…」

憂「」ニヤニヤ

梓「はっ!い、いや、ちょっとまだ荒っぽいかな!」

憂「ガーン!ううっ…」

梓「じょ、冗談だよ!…正直ちょっと聴き入っちゃった」

憂「そう?えへへ!あ、朝ごはんできたからお姉ちゃん呼んできてくれない?」

梓「わかった」

唯「~♪」

梓「唯先輩」

唯「♪~」チラッ

梓(ううっ、なんか唯先輩の演奏姿がまぶしい…!いつも見ていたのに…)

梓(弾いたままこっち向かれるとなんかドキッとする…)

梓「ご、ごはんできたそうですよ?」

唯「そうなんだ、すぐ行くよ~!片付けるからちょっと待ってて~」

梓「はい」

憂「今日の朝ごはんはハムエッグだよ~」

唯「おお!ハムエッグ~!!」

梓「私の分まで作ってもらってごめんね」

憂「お客様なんだから当然だよ~」

唯「」モグモグ

憂「あ、お姉ちゃんいただきます言った?」

唯「いただきまふ!!」

梓「ふふっ!いただきます」

唯「えへへ、食卓にあずにゃんがいるなんて、不思議な気分だね~」

梓「そ、そうですね」

憂「梓ちゃん、今日はどうするの?」

梓「うーん、特に予定はないけど…」

唯「あずにゃん、それなら一緒に練習しようよ!」

梓「え…?勉強は大丈夫なんですか?」

唯「昨日ずっとやってたからね!」

梓「ええ~、ホントに大丈夫ですか~?」

憂「うん、今日ぐらい大丈夫なんじゃないかな?お姉ちゃん、赤本もほとんど終わってるもんね」

梓「すごい…、そうなんですか?」

唯「エッヘン!」フンス

梓「それじゃあ…、でも少しだけですよ?」

唯「ホント!?やったあ!!」

憂「お姉ちゃん、よかったね!」

梓「とりあえず、楽器取りに一度家に帰りますね。それからまた来ます。お昼ごはん食べてから来ますので、それまでは勉強しててください!」

唯「うひ~、あずにゃん、厳しい~」

憂「お姉ちゃん、がんばってね!」

唯「あ~う~、憂まで…」

憂梓「ふふっ!!」

アハハハハハハハ


――――――

―――――――――――――


梓「さて、それじゃあこの前の続きからやりましょうか」

唯「うん!お願いします!」フンス

梓「憂はスコア見て気づいたところを言ってね」

憂「これを見てればいいんだね。わかった」

唯「よし、やろう!」

梓「はい!…行きます!」

梓「…」

梓「…スゥ」

~♪


梓「♪~」チラッ

唯「…」コクリ

唯「♪」

~♪♪~

憂「…」

――――――

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4
最終更新:2010年12月14日 23:52