翌日

澪パパ「澪おはよう」

澪「……」

澪パパ「あれれー?」

澪パパ「……そんな……まさか……ママぁ!?」

澪ママ「パパ、仕方ないのよ。父親はこうなる運命……」

澪パパ「そ、そんな……」

――――――――

梓「澪先輩、何かあったんですか?」

澪「え?」

梓「なんだか暗い顔してますけど」

澪「そ、そうかな?」

律「朝からなんかおかしいんだよなー」

さわ子「そういえばホームルームもそんな感じだったわね。悩み事?」

澪「……別に」

さわ子「……?」


澪(パパの顔も先生の顔も見れないよ)

澪(話もしたくない)

澪(でももし本当に不倫とかしてたらこの先どうなるの?)

澪(最悪離婚とか……)

澪(そんな……そんなのやだ……)

澪「やだよう……」

澪(こうなったら)

澪(こうなったら私が何とかするしかない……!)



割烹前

澪(……いた)

澪(パパとさわ子先生)

澪(怖い……けど、このまま見過ごすわけには!)

ガララッ

澪「パパ! 先生!」

澪パパ「へっ澪?」

さわ子「澪ちゃん?」

澪「ふ……」

澪「不倫なんてやめてよっ!!」

澪パパ「……」

さわ子「……」

澪「……」

女将「……」

客「……」

澪パパ「不倫してないんですけど……」

さわ子「同じく……」

澪「……へっ?」

澪パパ「いやね、せっかくだからお酒を飲みながら澪の進路とか学校での様子を聞いたりしていたんだけど」

さわ子「ほら、澪ちゃん推薦にするか試験を受けるか悩んでたでしょ?」

澪「……」

澪「……へぇあ?」

澪パパ「もしかしてこの間から無視してたのはそういう事?」

澪「う……でもこの前抱き合って……!」

澪パパ「もしかして先生が酔ってふらついた時の話?」

澪「え……」

さわ子「澪ちゃんて変なところで突っ走るわよね」

澪「だって……」

澪(恥かしい……)

澪(私の事をこんなに気にかけてくれてる人たちを疑った自分が恥かしい)

さわ子「せっかくだから澪ちゃんも食べていきなさいよ」

澪「はい……」

さわ子「それでお父さんにも言ったんだけどね」

さわ子「私は推薦を蹴って受験を受けてもいいと思うわ」

澪「でも……」

さわ子「どの大学へ行くかは人それぞれの理由があるわ。別に推薦がいいって訳でもないし」

さわ子「それに大学へ入るのに合わせて独り立ちしなければいけないなんて事もないの」

さわ子「澪ちゃんには澪ちゃんのペースがあるんだから。N女子大へ行く事は悪い事じゃないわよ」

澪「先生……」

さわ子「まあいつでも相談に乗るから」

澪「……いえ、決めました」

さわ子「そう」

澪「はい」

澪パパ「そうか。それじゃあほら、澪も鍋食べるだろ」

澪「……うんっ」



澪「はあーすっきりした」

澪パパ「それはよかった」

澪「あ、でも……」

さわ子「まだ悩み事?」

澪「そういう訳じゃないんですけど……先生がどうしてアルバイトしてるのかが気になって……あ、言いたくなければいいんです」

さわ子「言いたくはないけど気にしてるみたいだから言っちゃうわね」

さわ子「ほら、この前の学園祭でTシャツいっぱい作ったでしょ?」

澪「ええ。もしかして……」

さわ子「そ、ちょーっと素材にこだわったのと数が多かったから」

澪「そうだったんですか……あの時はありがとうございました」

さわ子「いいのよ~」

澪「でもそしたらなおさら……私もバイトを」

さわ子「だからいいってば。そうなるから秘密にしてたかったの。ていうか学校にばれたらヤバいし」

澪パパ「いい先生が担任でよかったな」

澪「うんっ」

さわ子「いえそんな……生徒のためですもの……うふ」

澪「あれ、でも前にギターを売ったお金がいっぱいあったような……」

さわ子「いやーあぶく銭は身にならないというか……ついつい使い込んじゃって……」

澪「……」

さわ子「あいや! 少しは実家に入れたのよ?」

澪(いい先生だって事には変わりない……変わりないけど……)



あれ以来、私はちょくちょく例の割烹へ行くようになった。
今度はちゃんとご飯を食べるために。
私もパパもいつの間にかこの割烹が気に入ったみたい。
さわ子先生が辞めた後も私は利用し続けた。

ちなみに私を含めた軽音部の四人はめでたくN女子大に合格。
これも先生のお蔭……なのかな?

受験が終わってからは時間が出来たのでアルバイトを始める事にしたんだ。
それも例の割烹で。
自分から接客業をするなんてちょっと前までは考えられなかったな。
仕事に慣れた頃には看板娘になっていたとかいないとか。


大学に入ってからかな?
いつの間にか例の割烹は私達軽音部の行きつけの店になっていた。
成人してからはよくお酒を飲みに来ている。
いつのも軽音部のメンバーに和やさわ子先生が混じることがあって、その時はプチ同窓会気分で美味しい鍋をつついている。

律「そういえばさー」

澪「ん?」

律「この店ってどうやって見つけたんだっけ?」

澪「私が……いや、私は知ってたけどみんなに教えた記憶がないな」

梓「……」

律「梓はー?」

梓「ど、どうでしたっけ?」

律「……んふー」

梓「な、なんですか」

律「私は梓に教えてもらったような気がするなあ?」

律「確か梓が勘違いして……なんだっけ、澪が? お金に困って? 梓の親と不倫?」

梓「わーーっ! わーーっ!」


――――――――

梓「お父さーんこの辺なんにもないよ。やっぱりさっきのお店にしようよ」

梓父「じゃあそうするか……お?」

梓父「梓、あそこに割烹があるぞ。あそこはどうだ?」

梓「お腹空いたからもうそこでいいよ」

梓父「ほいほい。鍋とか食べたいなあ」

ガラガラ

澪「いらっしゃいませー……ん?」

梓「……へぇあ?」

澪「おおー梓!」

梓「あ……え……」

梓「澪先輩が場末の割烹で働いてる……」



END



最終更新:2010年12月16日 00:54