紬「……」

唯「でもね?ムギちゃん」

唯「楽しい事とやり遂げたい事が一緒だったら、それはきっと凄い事なんだと思う」

唯「だって楽しい事してると一緒に自分も大人になれるんだよ?」

唯「それって一石二鳥じゃないのかな?」

唯「私の場合はギターだけど、ムギちゃんの場合はバイトで大人への一歩を進めるかもしれない」

唯「少しでも楽しいって思うのだったら、きっと今日の失敗はムギちゃんが乗り越えなきゃいけない壁なんだよ」

紬「私の…壁」

唯「そう!だからこのくらいで挫けちゃダメ!」

唯「千里の道も一歩からなんだよ!ムギちゃん!」

唯「諦めたらそこで試合終了なんだよ!ムギちゃん!」

唯「明日過去になった今日の今が奇跡なんだよ!ムギちゃん!」








紬「プッ…クスクス」

唯「あれ?」

紬「あははっ!あはははっ…うん、そうだね」

紬「私に課せられた試練なら、乗り越えなきゃいけないわよね」

唯「う?うぅん…うんっ!そうだよ!ムギちゃん」

紬「あははっ…ありがとう、唯ちゃん」

紬「私、もうちょっとバイト、頑張ってみるよ」

唯「うん!頑張ってねムギちゃん!」

紬「ありがとう、唯ちゃん」ニコッ

紬「今度、とってもおいしいショートムース持ってくるから、楽しみにしててね?」

唯「ほんと!?わーいムギちゃん大好き~!」ギュー

紬「あらあらまぁまぁ」

唯「今度お店に皆で食べに行くからね!私ムギちゃんが働いてる所見てみたい!」

紬「うんっ、歓迎するわね」

唯「うんっ!じゃあムギちゃん!また明日ねーっ!」

紬「ばいば~い唯ちゃん!」

紬「……」


ピッ


紬「もしもしお父様?はい、私です」

紬「…えぇ、はい。その事なんですけど…」

紬「私、やっぱり大学はココで受けたいと思ってます」

紬「…いえ、そういう訳ではありません」

紬「ただ…」









       ココ
「私、まだまだ日本で学ぶべき事がたくさんありますから…」



―――――――――――――――――

PM:4:30


唯「ふんふ~ん♪」

唯「あっ、もうこんな時間だ…」

唯「今日はずっと外で過ごしちゃったなぁ~」

唯「今日は帰ってアイスたーべよっと」

唯「るるるーるるりら~♪」

唯「…ん?」










澪「……」

唯「あれは…澪ちゃんかな?」


澪「…はぁ」

唯「みーおーちゃん!」ピトッ

澪「ひゃあ!?ゆ、唯!?どうしてここにいるんだよ!?」

唯「えっ?ずっと散歩してたからそろそろ帰ろうって思って…」

澪「思って?」

唯「澪ちゃん見かけたからかじかんだ手をほっぺにあててあげようと思いました!」

澪「そんな事するなよっ!」

唯「えへへ…つい出来心で…」

澪「もうっ…せっかく歌詞が浮かんできたと思ったのに…」

唯「歌詞?澪ちゃん何してたの?」

澪「見ての通り、今度の学際の作曲だよ。明日から本格的に練習に入りたいから今日のうちに完成させないと…」

唯「な、なるほど…ちなみに今どのくらい出来てるの?」

澪「あっ…えっと…その…」

澪「まだ…全然…全く…」

唯「あ、そ、そうなんだ…あははー…」

唯「あれ?でもこのノート、色んな詩がいっぱい書いてあるけど?」

澪「わぁ!バカッ!勝手に見るな!」

唯「…あれ、ペンで塗りつぶされてて読めない…」

澪「……」

唯「澪ちゃん?」

澪「それは…全部失敗作だ」

唯「えっ?失敗作?」

澪「あぁ」

澪「何の中身もない…ただ妄想を綴っただけの下らない歌詞だよ」

唯「で、でもこれの歌詞とかすっごくいいと思うよ?」

唯「ほら、『私のハートに火をつけて、そして気を付けて』なんてすっごく上手いと思う!」

澪「…あぁ、それもダメだ」

唯「ど、どうして…」

澪「そんな薄っぺらい架空の恋愛感情じゃあ、人は全然のめり込む事はできないよ」

唯「み、澪ちゃん…」

澪「他のページも見てみろよ。全部同じような内容ばっかりだよ」

澪「愛してるだの、恋しているだの、誰で思いつく様な文字だらけ…」

澪「結局最後も会いたい、愛してるなんてフレーズばっかり。もう嫌になっちゃうよ」

澪「こんなにも自分が稚拙で面白味の無い人間だったなんて…」









澪「ははっ、そりゃそうだよな」

澪「恋愛もしたことない高校生が、恋とか愛とか言っても説得力ある訳ないか」

澪「でもそれしか思いつかないんだよ…」

澪「何故だか分からないけど…気がついたら恋や愛って字をノートに書いてたよ」

澪「何なんだろうな…これ」

澪「本当に…何なんだろう…」

澪「あぁ、もしかして私、愛を知りたいんじゃないのだろうか?」

澪「恋愛がしたいから、その意思表示として歌詞がいつもこんな事になるんだよ」

澪「この時期に思春期…いや、発情期か。」

澪「はは…私は盛って気がハイになってる犬かよ…」








唯「澪ちゃん」

澪「何だ?唯」

唯「ちょっと目を瞑ってみて?」

澪「目を?何で?」

唯「いいからいいから」

澪「?ほら、瞑ったぞ?…おい、唯?」

唯「…でりぁあああああああああああああああああああ!!」バシンッ!!

澪「はいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!???」ズドンッ!!


ザッバーンッ!!!



澪「ブクブクブクブク…」ガボガボ

唯「とうっ」ザブーンッ!!





澪「っぷはっ!おい唯!お前何するんだよ!」

唯「あははっ!澪ちゃん髪がびしょびしょだ~!」

澪「そういう唯だってびしょ濡れじゃないか!」

澪「ああもうっ!制服までびしょびしょじゃないかぁ!どうしてくれるんだよぉ…」

唯「あははっ!澪ちゃんの制服が濡れてブラジャーが透け透けだぁ~」

澪「へっ?…きゃあ!?み、見るなよ!?絶対見るなぁ!」

唯「くすくす…澪ちゃん、少しは頭冷えた?」

澪「頭!?頭だって濡れ濡れでっ…!えっ?」

唯「うん、さっきよりちょっと顔が緩んでるね」

澪「ゆ、唯…まさか、お前…」

唯「うん。澪ちゃん、さっきまでちょっと怖い顔してたから」

澪「だ、だからってこんな…」

唯「ねぇねぇ澪ちゃん、さっき河に落ちた時、どんな気持ちだった?」

澪「そ、そんなの覚えてないよ…必死だったんだから」

唯「そっかぁ、必死だったんだね」

唯「じゃあ澪ちゃん、その必死だった時の事を思い出して歌詞を書いてみたらどうかな?」

澪「…えっ?」

唯「ほら、さっき澪ちゃんの顔、私達が見たことの無い顔だったからね」

唯「きっと今までに体験したことのない出来事だったと思うんだ」

澪「あ、当たり前だろ…あんなの、初めてだよ…」

唯「きっとね、澪ちゃんが愛とか恋とか書いちゃうのは、いろんな事を経験してないからだと思う」

澪「…私が?」

唯「うん」

唯「人間って、自分が体験した事がないものにはどうしても想像で補っちゃうよね?」

唯「だから現実味がなくて、中身のない薄っぺらなものができてしまうんだと思うの」

澪「……」

唯「だからね澪ちゃん?そんな自分が嫌なら、もっと色んな事に挑戦してみたらいいと思うよ」

唯「澪ちゃんって何でも完璧にこなすから、きっと何でも出来ちゃう筈だよ!」

澪「そ、そんなこと…」

唯「ううん。例え完璧にできなくても、それに挑戦してみたって事に意味があるんだよ」

唯「そうする事できっと、澪ちゃんはとても良い歌詞が書けると思うな~」

澪「色んな事を経験…か」

唯「あれ?何かついさっきも同じ事言ったような…まいっか」

唯「澪ちゃん、今自分がやってみたいなぁって事、ある?」

澪「それは…いっぱい」

唯「そうなんだ!よかったね!」

澪「それ全部に挑戦したら…もっと良い歌詞ができるかな?」

唯「うん!澪ちゃんなら絶対できる!」

唯「だから澪ちゃん、自分の殻なんかに閉じこまないで、もっと自分から積極的に進んでみてよ」

唯「そしたらきっと、知らなかった世界がいっぱい見えるようになるよ?」

澪「…くすっ、おいおい、自分の殻だなんて…」

澪「それじゃあ私がニートみたいじゃないか」

唯「はわっ!?そ、そんなつもりで言った訳じゃあ…」

澪「うん、分かってる」

澪「ありがとう唯。おかげで少し元気が出たよ」

唯「そ、そっか。よかった~」

澪「何事も経験…か」

唯「な、何?また私何かおかしい事言ったかな?」

澪「いや、言ってないよ」

澪「ただ…」

唯「ただ?」

澪「色んな事を詰め込んで、一つの物語になる歌なんてのも面白そうだなって」

澪「そう思ってた所だよ」ニコッ

唯「澪ちゃん…」


―――――――――――――――――

PM6:30


唯「ぶえっくしっ!」

澪「ほら、早くしないと風邪引くぞ?」

唯「う、うん…なんで澪ちゃん替えの服もってたの~」

澪「当たり前だろ。制服から着替えてたんだから…」

唯「あれ?そういえば何で?制服なんて着てたの?」

澪「あっ、それはその…アレだよ」

唯「アレ?」

澪「ほら…河川敷に夕日をバックに制服姿で青春する女子高生の風景を醸し出そうと…」

唯「…うわぁ」

澪「なっ!何だよ!悪いか!?」

唯「いや、悪くはないけど…ねぇ?」

澪「うぅ…言うんじゃなかった」

唯「うぅ…私寒いからもう帰るね」

澪「あぁ、分かった」

唯「作詞、頑張ってね澪ちゃん」

澪「ありがとう。唯のおかげで色んな歌詞が浮かびそうだよ」

唯「あははっ、どういたしまして!」

唯「じゃあ、また学校で会おうね!ばいば~い!」

澪「うん、また明日な」













澪「フンフン……」

澪「目を開くと…そこは…白い世界…フンフン…」


――――――――――――――――――

PM07:00


唯「うーいーただいま~」

憂「お帰りお姉ちゃ…どうしたの!?何で服濡れてるの!?」

唯「あはは…ちょっとはしゃぎすぎちゃって…」

憂「もう、お風呂沸いてるからすぐに入ってね。風邪引いちゃうよ」

唯「ありがと~」

憂「今日はお姉ちゃんの大好きなエビフライだよ。早く上がってきてね」

唯「ホント!?わーいっ!」ダッダッダッダ

憂「あっお姉ちゃん!」

憂「…んもう、いつまで経っても子供なんだから…」

憂「でも、そこが可愛いんだけどね」

唯「うーいー!」

憂「はいはーい!なーにーおねーちゃーん!」

――――――――――――――――――

PM10:00

唯「はぁ~今日は疲れたなぁ~」

唯「ちょっと散歩するつもりが一日中歩き続けてたよ…」

唯「……」

唯「でも、楽しかったなぁ」

唯「ふわぁ~あ」



パチッ




唯「おやすみなさーい」

唯「zzz........」

――――――――――――――――――

pipipipipipipi.....



唯「ぐー…カー…スゴー…」

唯「ん…んんっ…」

唯「…っは!?」


ガバッ


唯「今、何時!?」

唯「ああっ!大変!遅刻しちゃう!」

唯「支度しなきゃ支度!」

唯「…あっ」

シャーッ


唯「…今日も天気がいいなぁ」



「おねーちゃーん!早くしないと遅刻しちゃうよー!」



唯「はーい!今行くよー!」

唯「あっ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




唯「…うんっ」


唯「それでは、行って来ます!」



ガチャ…バタンッ




__
    ̄ ̄ ̄二二ニ=-
'''''""" ̄ ̄
           -=ニニニニ=-


                                _,,-''"
                               ,-''";  ;,
                           _,,-''"'; ', :' ;; ;,'
                       '''", ;,; ' ; ;;  ':  ,'
                   _,,-','", ;: ' ; :, ': ,:    :'  ┼ヽ  -|r‐、. レ |
                _,,-','", ;: ' ; :, ': ,:    :'     d⌒) ./| _ノ  __ノ



最終更新:2011年10月20日 22:15