律「じつはものすんごく荒れてたとかそういうのはないの?」
唯「ないよー、和ちゃんだよ?」
澪「まぁそうだよな」

梓「……」

唯「じゃあ私今日は和ちゃんと一緒に帰るから先行くね」

――

律「こう言っちゃアレだが……和って何で唯と仲良いんだろな」

澪「ほんとアレだなおい……」
紬「母性本能的なアレじゃないかしら」

梓「……」

律「?さっきからどした、梓」

梓「……憂から聞いたんですけどね、和先輩の中学時代の話」
澪「あぁ」


梓「一言で言うと……『抜き身の刀』だそうですよ」

律「……へ?」
澪「か、刀?」
紬(剥き身の魚?)

梓「超の付く有名人だったそうです。あんまり良くない方の意味で」

律「……いや、ないだろ」
澪「……和だぞ?」

梓「私だって信じられませんよ。……それと、」

律「まだあんのか」

梓「なぜか唯先輩の前でだけは大人しかったそうです。
そのせいか、「本当は平沢唯の方が上なんじゃないか」なんて馬鹿な噂もあったって言ってました」


――

唯「和ちゃん、勉強教えて」

和「……馬鹿でしょ?」


唯「ば、馬鹿だから教えてって言ってるの!」

和「そうじゃなくて、授業ロクに出てない私に勉強教えろなんて言うその発想が馬鹿だって言ってんの」


唯「じゃあ授業出ようよ。面白いよ、内容はさっぱりだけど」

和「嫌」


唯「じゃあ授業出なくてもいいから勉強教えて!」

和「……また振り出しかよ」



――

和「おはよう」

律「お、おう、おはよ!」
澪「おはよ和」

澪「(お前動揺しすぎだろ!)」
律「(だって刀だぞ!?詳しく聞きたいでも聞けない……)」

紬「和ちゃんっていつから眼鏡してるの?」

和「中3からだけど。どうしたの?」

紬「ううん、ちょっと気になっただけ」


澪(中3……)
律(なるほど、中3に何かあって優等生にクラスチェンジしたんだな)



……

和「……すぅ~はぁ~」
煙草なんてもう吸わないって決めてたんだけどなぁ……私が生徒会の一員だなんて中学の知り合いが知ったらどんな顔するかしらね
ふふっそういや唯も驚いてたっけ、私が生徒会に入るって言った時は

和「卒業しちゃうのよね、曽我部先輩」
彼女は私の憧れの人、初めて彼女にあったのは私がまだ中学生で普通の子だった時……


男『なぁちょっとだけだからさ!ちょっとご飯食べるだけだって』グイグイ

和『い、いや!やめてください』
今もそうだけど男の子とあまりしゃべる機会のない私にとっては恐怖でしかなかったっけ

曽我部『うぜぇよオッサン何小学生ナンパしてんだよ』

和『私、中学生なんですけど』ムス

----これが私と曽我部先輩との出会いだった----

曽我部『あらーごめんね?お姉さん小学生にしか見えなかったわー』
初めて先輩にあった時の第一印象は最悪、とても助けに来てくれた正義の味方には見えないし私を小学生と間違えるし

和『……助けていただいてありがとうございましたおばさん』
当時の私ならこんな事を言う子ではなかった、社交的で要領もよくてとても喧嘩を売るような事をする人間ではなかった

曽我部『誰がおばさんだ!あぁ?私だってまだ中学生だよ』

和『すみません目が悪いからてっきりもう年なのかと』

曽我部『てめーはどこをどう見れば私がおばさんに見えるんだ?それに私は制服だろうが』


~~

和「懐かしいなぁ……すぅ~はぁ~」

和ちゃーん 和ちゃーん

和「やば!誰か来た!?」
こんな所を見られたら停学か場合によっては退学になってしまう!早く煙草を隠さないと

唯「おーい!和ちゃーん」
なんだ唯だったの……まったくびっくりさせないでよ

唯「和ちゃ~…クンクンクンクン……和ちゃん煙草くさい」クンクン
当たり前でしょうねさっきまで吸ってたんだから

和「悪い?すぅ~はぁ~」
唯は昔の私を知ってる数少ない人間、だから唯の前では何も隠す必要はない




唯「和ちゃん、いいかげんタバコやめようよ 体に悪いよ」

和「そうね、卒業したら止めようかしら」

最近は値上がりもしてきたし、何より体力が落ちてきた

もう中学時代の7割程度しかない

和「あなたを守るって誓ったんだものね、唯・・・」

あれは中学1年目、中学の生活にも慣れてきたころ

私はあの曽我部恵に出会った

まだ弱い私を守ってくれた

今まで一直線だった私の人生という道に新しい道を作ってくれた

あの時から・・・・・・今でも感謝している

口に出すことはなかったけれど

恵「あなたね!変な男に絡まれてるから助けようとしたのにその口は何!?」

和「別に頼んでないんですけど」

恵「はぁ?何この小学生?だいたいねぇ・・・」

男「おい、俺ぁこの娘に話があるんだ オバサンは引っ込んでろよ」

恵「私こそこのガキに話があんだよ!てめぇは帰ってママのおっぱいでも吸ってろ!」

男「ってめぇ!ざけんな!」ブンッ

アホみたいなアホが先輩の挑発に乗って殴りかかってきた

先輩は男の拳を軽く受け流し、隙だらけの男の腹に蹴りをくれた

男が怯んだところで今度は顔をぶんなぐる

最後は倒れた男の顔と股間を気絶するまで蹴り続けた

あまりに綺麗な動き、私が抵抗するしかできなかった相手を楽に倒す力

その時私はこの人に好意を抱いた

恵「ふぅ 大丈夫かしら?」

和「・・・だから頼んでないって」

恵「くっ、本当にこのガキは・・・

  もういいわ、それじゃ私帰るから」

先輩は呆れたようで帰ろうとした

でも私は

恵「?」

先輩の服の袖をつかんだ

恵「何?ようやくお礼でも言ってくれるのかしら」

和「教えてよ、あの技」

先輩は振り向いて私の目をじっと見つめてきた

和「私は誰にも屈したくない、さっきのような男にも

  あなたのような女にも だから力が欲しい」

恵「それが人に頼みごとをする態度?」

和「・・・・・・おしえてください」

恵「ようやく素直になったわね それじゃあ」

先輩はバッグから紙とペンを出し、何かを書き始めた

恵「はい、これが私の携帯の番号とアドレスよ

  稽古をつけてほしい日に連絡をくれれば時間を作ってあげる

  まぁ学校や私用もあったりするから必ずってわけにはいかないけど」

それを聞いて、私は先輩から紙だけでなくペンも奪い取った

そして紙を裏返して自分の連絡先を書いて先輩に渡した

和「連絡してもできない日はいやだ、あなたが時間がある日にだけ連絡がほしい

  連絡があったら必ずあなたのところへ行く」

恵「いいの?」

和「どうせ部活もやってないし暇だから」

恵「じゃあそうするけど、稽古はとっても辛くなると思うけど大丈夫かしら

  やめるなら今のうちだけどどうする?」

和「ふふっ、上等よ」ニヤァ

私は初めて先輩に対して笑った

今までニコニコと笑った事はあった 声を出して笑った事もあった

でも、この目標を見つけた嬉しさからくるニヤつきはしたことがなかった

そして止めることもできなかった

恵「ならよし 最後に自己紹介ぐらいしてから帰りましょうか

  私は曽我部恵 駅前の中学の2年生 よろしくね」

和「私は真鍋和よ 商店街の先の中学の1年」

恵「本当に小学生じゃなかったのね

  それじゃこれからは私のことは先輩と呼ぶこと」

和「・・・わかりました、先輩」

その日はそれで別れた


それから私は連絡があった日には必ず先輩のところへ行った

先輩からはたくさんのことを教わった

小技も、大技も、テクニックも、人体の急所も、戦いに関する全てを

もちろん全て教科書で教えてもらったわけではない

私の体に叩き込まれた

足払いを受けては転ばされ、腹を蹴られては吹っ飛ばされ

フェイントに引っ掛かっては殴られ

目潰しもされた 寸止めだったけど

稽古はまさに地獄だった 帰るときには全身あざだらけ

夜、痛みで眠れずもうやめたいと泣いた事もあった

でもその度に男に何もできずにつれて行かれそうになったこと

先輩には一度も勝てていないこと

そして何より、自分で覚悟して始めたことをやめるということ

そのことを思うと、やめてしまったらもう自分には戻れない気がした

もう誰にも屈しないと誓ったあの自分は絶対に失ってはいけなかった


私は1年間、先輩から稽古を受け続けた

そして

唯「和ちゃん、一緒に帰ろう」

和「うん、ちょっと待ってね」

中学2年目の秋のこと

唯「和ちゃん最近何だかたくましくなったね」

和「そうかしら」

唯「去年とか毎日つらそうで私心配だったんだよ」

和「そうだったわね 心配してくれてありがとう、唯」

そういえば、去年の今頃は先輩からの稽古でボロボロだったっけ


最近は先輩から1発をもらう回数も減ってきた

相手の動きを見きる目、その動きから来る1発を避ける瞬発力

今では先輩から1本取ることもたまにはできる

私はもうすぐ先輩のレベルまで手が届きそうだった

稽古だけでなく、学校や街中で絡まれた時は積極的に戦いに持ち込んだ

自分の力を試したかったから

先輩に比べたら弱い相手ばかりだった

でも、潰したら後でまた復讐しにくる

倒しても倒しても終わらない

確かに私はだれにも屈することは無くなった

でも私が求めた強さってこういうものだったのかな?


その後、私は不良に絡まれている唯を助けた

そのことで唯に喧嘩をしていることがバレてしまった

唯とむやみに暴力を振るわないことを約束した

私は大切な人を守るためだけに力を使うことにした

ある日、不良に絡まれる憂を助けようとしたが不覚にも1発貰う

その時に、目を殴られたため視力が低下してしまった

そして3年からは眼鏡をかけた

中学を卒業した時、唯と憂から赤いアンダーリムのメガネを貰った

唯いわく、二人を助けたお礼だとか

そしてもう無駄に力を使わないでほしいと言われた

私は暴力を振るわない、その象徴としてそのメガネをかけ

真面目な真鍋和として生きることにした

唯「そんなこともあったねぇ」

和「何その後半の急な回想」



部屋の外

澪「おい、聞いたか」

律「ああ、まさかそんな過去があったとは」

紬「そんなにすごい人だったのね」

梓「でも唯先輩と憂を助けたなんてかっこいいですね」

澪「ああ、でももし和を怒らせたら・・・」ガクガク

律「これからは書類をちゃんと出すようにしよう・・・」

和「じゃあ唯、そろそろ帰りましょうか」

唯「そうだね もう暗くなってきたし」

ガチャ

和「! みんな!もしかして私たちの話を・・」

律「げ ばれた!逃げろー」

澪「おい律、おいて行くなよ~」

紬「ふふっ じゃあね和ちゃん」

梓「先輩がた、待ってください!」





2 ※作者別
最終更新:2010年12月16日 02:52