ある日の音楽準備室
律「軽音部でライブに行くぞ!」バンッ
唯「ライブ?」
律「ああ。チケットがちょうど5枚とれたんだ」
紬「誰のライブなの?」
澪「ワマナベ。当然知ってるよな?」
律「中学から大好きなんだよなー! ずっとライブ行きたかったんだ!」
紬「その人なら私も知ってるわ! すごく有名な人じゃない!」
わいわい…
梓「……」プルプル
唯「あずにゃん?」チラ
梓「唯先輩……」チラ
唯「わまなべって……知ってる?」
梓「一応、名前くらいは。でも、歌を聞いたことはないです」
唯「私は完全に初耳なんだけど……」
律「おーいゆいあず、なにコソコソしてんのー?」
唯「べつにっ!」ビクッ
梓「な、なんでもないですよ!」
律「んー……? まあいっか。ライブは1週間後だけど、来れる?」
唯「うんっ、うん。大丈夫だよ」
梓「あっ……もう。はい、私も平気です」
澪「じゃあ、今日は解散にするか」
律「へ? なんでだ?」
澪「良い時間だしさ。……ちょっと律、耳貸して。……ひそひそ」
紬「……あー、唯ちゃんたちに気を遣ったのね」
澪「……なんでムギに聞こえてるんだ?」
――――
帰り道
唯「じゃあムギちゃん、また明日学校で」
紬「うん、またね」
梓「さようなら、ムギ先輩」ペコ
てくてく
唯「……」
梓「……あの、唯先輩」
唯「……こうしちゃいらんないね」
唯「あずにゃん。いますぐツタヤに行くよ」
梓「わまなべ……でしたね。せっかくライブ行くなら、勉強しておきたいですもんね」
唯「ちがうよ、わまなべは世界的なアーティストなんだよ? 知らないなんて恥ずかしいじゃん!」
梓「そこまでは言ってなかったような……」
唯「とにかく、このことは誰にも内緒にしないと」
唯「憂にだってばれないようにしなきゃだめなんだ」
梓「唯先輩……? あの、なんだか雲行きが良くない気が」
唯「ふふ……」ニヤッ
唯「あずにゃん家しか、ないよね?」
梓「……」
唯「断るっていうなら、あずにゃんがワマナベ大嫌いなことりっちゃん達に言ってもいいんだよ?」
梓「なっ、だからそんなことは言ってないです!」
唯「ほんとかどうかなんて関係ないのだよ、少女あずさ」サワッ
梓「なんですかそれ……別に、CDを聴くぐらいいいですけど」
唯「やった!」
梓「……それじゃ、ツタヤまで寄り道しましょう。大通りに出たところにあったはずです」
唯「あずにゃん家にはワマナベのCDないの?」
梓「どうでしょう……もしかしたら親が買ってるかもしれませんけど」
梓「無かった場合を考えると、先にツタヤに寄りたいですね」
唯「そーだね。あずにゃん家から出るのやだもん」
梓「居着く気ですか!?」
唯「……だめ?」
梓「だめじゃないですけど……」
梓「ってダメ! ダメに決まってるじゃないですか!」
唯「くう、もうちょっとだったのに!」パチン
梓「あっ、唯先輩指パッチン! できるようになったんですね!」
唯「憂にコツを教えてもらったのです」パチパチン パチパチン
梓「スゴイ、両手! それは私もできないです!」パチン パチン
唯「ほれーほれー」パチンパチンパチン
梓「くっ、つっ! 左手っ……!」スカッスカッ
唯「あずにゃん、ツタヤいくよー?」
梓「ちょっと、待ってくださ……ああっ」グイッ
唯「練習ならあずにゃん家に帰ってからやろ、ね?」
梓「ハ……イ。すみません」
唯「夢中になっちゃって可愛いなーあずにゃん」
梓「……」プイ
唯「へへぇ」
――――
TSUTAYA
梓「ま、ま……あれ?」
唯「あずにゃん、何してるの?」
梓「マワナベ、置いてなくないですか?」
唯「ま……?」
唯「……あずにゃん。わたしたちはワマナベを探しに来たんだよ」
梓「へ? ですからマ行の棚を……」
唯「あずにゃん、ワ・マ・ナ・ベ」
梓「……わかってますよ! ワ行ですよね! あーここだここだあった!」
唯「今日のあずにゃんテンション高いねー。どしたの?」
梓「べ、別に何でもないです! その……」
梓「てぃ、ティーポイントもらっちゃいますから!」
唯「おぉー、たっぷりいただいていきなさい」
梓「……じゃ私、借りてきますね!」
唯「うん、よろしくねあずにゃん」
とてて…
唯「ふぅ」
唯「……1泊レンタルかぁ」
――――
中野家のマイルーム
唯「さあ、ではあずにゃん」
梓「はい! よろしくおねがいします!」
唯「ほい。まずこう指をぴんと伸ばしてくっつけるんだよ」
梓「こうですか?」
唯「そうそ。ほら見て、右手でやるときも、こうやって指曲がってないでしょ?」
梓「あ、ほんとですね。じゃあ左手でもこうしたら……」パシュ
梓「……れ?」パスッ スカ
唯「ほらほらあずにゃん、こうだよー」パチパチパチン
梓「……ゆいせんぱぁい」シュカ シュカ
唯「泣いちゃだめだよあずにゃん。指が濡れたらパッチン鳴らなくなる」
梓「……泣いてはいませんけど」グス
唯「……じゃ、CD聴いてみよっか」
梓「あ、はい。じゃあファーストアルバムからかけてみましょう」
唯「からって……あずにゃん、一体何枚借りてきたの?」
梓「とりあえずアルバム3枚と、新曲があったのでそれも」
唯「……」
唯「1泊、だよね?」
梓「あ」
唯「……あずにゃん」
梓「ご、ごめんなさい……」
梓「その、どうします?」
唯「しょうがないね……憂に電話してくるよ」
梓「へ?」
唯「このアルバム、かなり曲数入ってるみたいだし。泊まってかなきゃ聴ききれないよ」
梓「へ?」
梓「とっとと、泊まるんですかっ?」
唯「あはは、あずにゃん声うらがえってるー」
梓「あははーじゃなくてぇ!」
唯「……あずにゃん家、だめ?」
梓「……親に訊いてきますっ!」
唯「いまってあずにゃんのご両親、九州にいるんじゃないの?」
梓「あっと……そうでした。ですから……」
唯「いいよね、あずにゃん?」
梓「……ハイ。どうぞ泊まっていって下さい」
唯「えっへへー! あずにゃんとお泊りー!」ダキッ
梓「ひゃっ!?」
唯「にゃあだってー」ギュウギュウ
梓「言ってません! い、いいから憂に電話してきて下さい!」
唯「うんうん、すぐ言ってくるよ」パッ
梓「あっ……」
すたた…
ガチャ バタン
梓「なんでわざわざ部屋の外に……」
梓「……」そっ
梓「……」ぴた
唯『うん……だから』
唯『だ、だいじょうぶだよ。あんまりたくさんで押しかけたら悪いし』
梓「……」
唯『あ、着替え……うん。それは助かるけど』
唯『ほんとに? ……うん、うん』
唯『うん。ありがと憂……ごめんね』
がちゃっ
梓「ひゃっ!」ドタン
唯「わ、あずにゃん!?」
唯「大丈夫? もー、そんなとこにいたらぶつけちゃうよ」
梓「す、すみません。……それで、どうでしたか?」
唯「あ、泊まっていいみたい。着替え持ってきてくれるって」
梓「え? それじゃあ、憂は」
唯「憂は学校あるからいいって。なに、3人がよかった?」
梓「……ま、まあ3人のほうがおもしろいかもしれませんけど」
梓「無理だって言うならしょうがないですね」
唯「……そっか。ひとまずさ、CDの前にごはんにしようよ」
梓「そうですね。もう7時ですし」
唯「憂のぶんも作ってあげよう!」
――――
キッチン
梓「唯先輩、料理できるんですか?」
唯「そりゃ、少しはね。憂みたいにおいしくは作れないけど」
梓「へぇ……意外です」
唯「あんまり意外そうじゃないね」
梓「えと、まぁ、合宿の時とかきちんと包丁あつかえてましたし」
唯「よく見てるねぇ」
梓「あ、危なっかしいからです! ……でも、料理は大丈夫みたいですね」
唯「そゆこと。えへへ、まぁ任せて」
唯「あずにゃんは休んでていいよ。……あ、お風呂の準備しといてほしいかな」
梓「あ、はい。……てきぱきしてますね」
唯「だてに16年もお姉ちゃんしてないってことですよ」
梓「お姉ちゃん……」
唯「へ!?」
梓「え? いや、あの、違いますよ!? お姉ちゃんって呼んだ訳じゃ」
唯「あ、あずにゃん……」
唯「もっと言ってそれ! お姉ちゃんて!」
梓「い、いやですよ! そういうのは……」
唯「お願いあずにゃん!」
梓「……」
唯「あずにゃん?」
梓「……その、あずにゃんっていうのをやめてくれたら、いいですよ」
唯「……」
唯「じゃあ、そしたら……あずさちゃん?」
梓「はい、」
唯「いや待って! 違う……」
梓「へ? ちょっとあの、変なあだ名とか開発しないでくださいよ?」
唯「あずにゃんは私をお姉ちゃんって呼ぶんでしょ?」
梓「えっ……はい、まぁ」
唯「だったら……あずさだよ」
梓「!」キュウ
唯「私、ういのことはういって呼ぶし。だから、あずさ!」
梓「……な、なんか、新鮮ですね?」
唯「ほら、あずさ、あずさ!」
梓「えっ? ななんですか唯先輩」
唯「だからぁ、お姉ちゃんって呼んでよ!」
梓「へ……えっと……」
梓「お、お風呂沸かしてきますー!」ピュー
唯「あぁっ、逃げたなあずさー!」
――――
浴室
梓「はぁっ、はぁ……」
梓「あぁもう……」ゴシゴシ
梓「お姉ちゃん、か……」
梓「お姉ちゃんにするなら、澪先輩とかかなあって思ってたけど」ゴシ…
梓「……唯お姉ちゃんかぁ」
きゅ きゅ
ザアアアー…
梓「お姉ちゃんっていうよりは……やっぱり、唯先輩とは」
梓「……す、すきです、唯先輩」
ザアアアァァ
梓「何言ってんだろ。……ばかな私」
梓「ぽちっと」ぴっ
ジャバババ…
梓「ふぅ……」
梓「唯先輩の妹かぁ」
梓「部活の後輩より……近づけたのかな」
梓「ふつうの、親密さでいうなら……そうなんだろうけど」
梓「……」
梓「わたしは憂の立場じゃないだけマシなのかも」
梓「わかってるけど……やっぱり憂がうらやましいな」
梓「今晩だけ……今晩だけだ。唯先輩の妹になってあげよう」
梓「お姉ちゃん、お姉ちゃん……うん、よし」
梓「……憂だって、一晩くらいなら許してくれるよね」
梓「……」
――――
リビングルーム
梓「おね」ガチャッ
梓「……ゥゲフン、ゲフン!」
憂「あ、梓ちゃん。勝手に上がっちゃってごめんね」
梓「ううん、良いよ。来るっていうのは聞いてたし」
憂「お姉ちゃんとCD聴くんだって?」
梓「うん。1泊なのにレンタルしすぎちゃって。ていうか結局話したんですね、唯先輩」
唯『へ? なーにあずにゃん?』
梓「憂にはマワナベ知らないこと内緒にしておくんじゃなかったんですか?」
唯『いやぁー、言い訳思いつかないしさ、憂ぐらいにはいいかなって』
唯『あと、ワマナベだよあずにゃん? そこしっかりしないとりっちゃん達に笑われるよー?』
梓「う……気をつけます」
憂「ふふっ」
梓「なに……」
憂「意外とお姉ちゃんに頭上がらないんだね、梓ちゃんって」
梓「ち、違うもん! いつもはこんなじゃない!」
憂「そうかな。お姉ちゃんもなんか慣れてる感じだよ?」
唯『んー、なんか今日あずにゃん、やたらテンション上がってるから扱いやすいんだよね』
梓「ひどいですっ、唯先輩まで!」
憂「あれ? 梓ちゃんにとって私よりお姉ちゃんが下なの?」
唯『あずにゃん傷つくー』
梓「な、なんなんですかもうっ! そんなわけないじゃないですか!」
憂「えへへ、冗談冗談……お泊りって楽しいもんね」
梓「……まあ、そうだね。成り行きだけど、たまにはいいかな」
憂「お姉ちゃんだったらいつでも貸したげるよ?」
唯『ういー、私の意志はー?』
憂「ごめんごめん……でも、いいでしょ?」
唯『……ふんだ!』
梓「……」
憂「怒っちゃった」
梓「私に言われても……」
憂「じゃあ梓ちゃん、お姉ちゃんをよろしくね」
梓「もう帰っちゃうの? 唯先輩、憂のごはんも用意してくれるって言ってたよ」
憂「うん、使っちゃわないといけない野菜があるから……」
梓「そう……じゃあまた明日ね」
憂「うん、バイバイ。お姉ちゃーん、私帰るねー?」
唯『おーう、じゃーねー』
とんとん ばたん
梓「……」
梓「……お姉ちゃん?」
最終更新:2010年12月23日 03:03