――――

梓「……」

唯「3枚目……」

 カチャッ パチッコトン

唯「あずにゃん、ちゃんと曲聞いてる?」

梓「……」ぼー

唯「……あずさ。お姉ちゃんって呼ぶだけで良いんだよ?」

 カチッ

 ~♪

梓「……」

唯「あーずーさっ」

梓「……いやです」

唯「ふむ、強情な」

梓「……」

 ~♪


唯「もう12時だねぇ」

梓「でも、聴きませんと」

唯「あずにゃん真面目……ふあぁ……」

梓「……先に寝ててもいいですよ?」

唯「いいかな? 正直もうどうでもいいんだよね……ぁく」

唯「ベッドかりまーす……」

 ごそっ ごそごそ

 ぼすんっ

梓「……」

梓「……きれいな歌」

唯「すうぅ……くぅ、すうぅ……くぅ」

梓「……」

 カチッ

 しーん…

梓「でも……やっぱり唯先輩のほうが」

 そっ

 と と…

梓「……好きです、唯先輩……」

梓「今なら、私の好きにできますよね」

唯「すうぅ……くぅ、すうぅ……くぅ」

梓「……」

 ゴクッ

梓「……こんなの、いけないかもしれませんけど」

梓「でも、唯先輩のほうが、よっぽど……」

梓「……いきますよ」

 すっ

梓「ふぅ、ふぅっ……」

梓「ん……」

唯「うるさいよ、あずにゃん」ぐい

梓「むべるぷえうふぁお!?」

 どどっどたんっ

唯「……お姉ちゃんの寝込みを襲うのは良いけど、先輩はだめだよ、あずにゃん」

梓「ぷぇ……ゆ、ゆいせんぱぁい!」

唯「……わかんない子だね」

梓「わかってますよ! それでも嫌なんです!」

梓「唯先輩が私を後輩として見るのを嫌がるのと同じで……私も唯先輩を姉のように見たくないんです!」

梓「……ふつうの恋人がいいんです」

唯「……寝込みを襲って普通の恋人になれると思った?」

梓「それはその……すみません」

唯「ごめんね。もう眠いから寝かせて、あずにゃん」

梓「……」

梓「わたし、よその部屋で寝ます……」

唯「……我慢できないから?」

梓「……そうですよっ。そういうのは言わないでください」

唯「ごめんごめん。おやすみ」

梓「はい、おやすみなさい」

 とと…

 ガチャ バタン

梓「……」

梓「は、ぁ……」

 ふらふら…

梓「唯先輩のことしか考えらんない……」

梓「なのに……唯先輩は、お姉ちゃんっていうスタンスなんだよなぁ」

梓「もう、妹でも……いっかも」

梓「ていうか、妹でだめなことなんてないよね……唯先輩、たぶんそれならさせてくれるだろうし」

梓「……」

 ガチャッ

梓「……だめだよね、姉妹でなんて」

梓「唯先輩が良くても、私が許さないもん、そんなの」

梓「そう言ったら……あずにゃん真面目ーって……言ってくれるのかな」フラッ

 トサッ

梓「唯先輩……憂……」

梓「すぅ……」


――――

唯「あずにゃん、あずにゃん。起きて」

梓「……ぅ」

唯「学校遅れちゃうよ。朝ご飯食べないと」

梓「ゆい……せんぱい?」

唯「おはよ、あずにゃん」ニコ

梓「あ、あの……」

梓「……おはよう、ございます」

 ぐいっ

唯「ほらほら、急がないと!」

唯「早くご飯食べて、CD返して、学校行こう?」

梓「……はい」

梓「……」

唯「じゃあ私、下に行ってるよ。早く目さましておいで」

梓「はい……あの、昨日はすみませんでした」

唯「……」

唯「お姉ちゃんは、いつでもいいんだよ?」

 がちゃっ ぱたん

梓「唯先輩……」

梓「CD……プレーヤーの中に入れっぱなしだ」

 ととっ

梓「よしっ、起きなきゃ」パシン

梓「マワナベの勉強はまた今度したらいいや」

梓「……返しに行こう」

梓「……」

梓「着替えよ」


――――

 TSUTAYA

唯「まだ開いてないね」

梓「そうですね、この時間は……」

 ぎゅうっ

唯「あずにゃん?」

梓「……」

唯「そこの返却ポストに入れたらいいんだよ?」

梓「……ん」

唯「ん?」

梓「まだ、聴き終えてません。CD……」

唯「……そうだね。でも、いいんじゃない? いっぺん聴いたくらいじゃ覚え切れないし」

唯「ちゃんと返さないといけないよ? あずにゃん」

梓「そうなんですが……その、ライブまではまだ期間がありますし」

梓「もう少し、借りていたいです……」

唯「……ねぇ、あずさ」

唯「そんな曲、覚える必要ある? ライブに行って生の音聴けたら、それでよくない?」

梓「それは……でも、知っておいたほうがいいと思います」

唯「ほんとにそう思ってる? ……ほんとに、それだけのためにレンタル延長したいって思ってる?」

唯「そんなにわかに勉強したってさ、ライブをより楽しめるようにはならないと思うんだけど」

梓「う……で、でもっ」

唯「素直になろうよ、あずさ。お姉ちゃんは、いつでもレンタルOKだよ?」

梓「……」

梓「……いりませんっ」トコトコ

 がこんっ

唯「ありゃ……」

梓「学校行きますよ、『唯先輩』っ!」


――――

梓「……もしもし、律先輩ですか?」

梓「その、あの」

梓「今日は……部活、休ませて下さい」

梓「えっと、それとは違うんですけど」

梓「……だから男じゃないですってば」

梓「え……あ、はい。ありがとうございます」

梓「失礼します……」

 ぴっ

梓「……」

梓「さてと」ゴソッ

梓「また借りに行かないと」

――――

唯「もしもし、澪ちゃん?」

唯「ごめん、今日部活休んでいいかな?」

唯「あ、うん、そう! 頭痛くって」

唯「えぇと……りっちゃん達には先に行っててって言ったんだけど、やっぱ無理っぽくて」

唯「澪ちゃんから伝えてくれる? うん、ありがと」

唯「えへへ、ありがと。大丈夫……」

唯「明日ね~……」

 ぴっ

唯「……」

唯「さ、帰らないと」

唯「憂はお買い物してからだから、先回りできるよね」

唯「……ほんとに頭痛い気がしてきたよ」


 すたすた…

唯「……あ」

和「あら、唯じゃない。軽音部行かなくていいの?」

唯「そうなんだ。今日は頭痛くって」

和「大丈夫?」

唯「うん、だいじょぶ。楽器やるのはつらいかなってくらいで」

和「……とてもそうは見えないわよ?」

唯「……そうかな?」

和「少し待ってて、唯。これ職員室に持って行ったら帰れるから、一緒に帰るわよ」

唯「あぇ、あ、うん、ありがとう和ちゃん……でも」

和「でもじゃないわよ。唯、今にも倒れそうよ」

唯「そ、そんなことないよ……」

和「いいから、ここで待ってなさい」

唯「……わかったよう」

和「うん。それじゃね、すぐ戻ってくるから」

 たったっ…

唯「……そんなに顔に出てたかあ」ペタペタ

唯「でも、あずにゃんがいけないんだよね……お姉ちゃんなんて言うんだもん」

唯「……他人のくせに」

唯「もう、おさまりつかないじゃん……」

唯「……」

 とっとっ…

和「……唯、待たせたわね」

唯「……」

和「いきましょ。ほら、靴履き替えなさい」



――――

 てくてく…

和「唯と一緒に帰るのもひさしぶりね」

唯「うん、そうだね」

和「中学のころは、唯……遠くに行っちゃったからね」

唯「……」

和「私、唯ががんばって勉強して、高校から一緒に行けるって聞いた時は、すごく嬉しかったのよ」

唯「うん。私も、戻ってこれるのすごく嬉しかった」

和「実際はあんまり一緒にいれる機会はないかもしれないけど……」

和「あのころに比べたら、毎日すごく充実してるわ」

唯「……ごめんね」

和「いいじゃない。唯が悪かったんじゃないわ」

和「それに、きちんと悔いているんでしょ?」

唯「クイ?」

和「反省してるってこと」

唯「あぁ、うん……」

和「……あの時は、びっくりしたわよ」

唯「ごめん……」

和「唯が転校するってことも、一人暮らしさせられるってこともだけど」

和「唯が憂を……襲ったっていうのかしら。そのことも……」

唯「ちがうよ。私たちはちゃんと愛し合ってた」

和「……そういえば、あのときのこと、唯にちゃんと聞いたことがなかったわね」

和「唯は、何で……憂と」

唯「なんでって、そんなの……今になっちゃったらもう分かんない」

唯「ただね、でもね。……憂のことは今でも好きなんだ」

和「……」

唯「だめだって分かってるから……別の人に気持ちを向けるようにしてたんだけど」

唯「……やっぱり、私のほんとの気持ちは違ったみたい」

和「……」

唯「いや……どうなのかな。憂が好きっていうより……」

唯「妹が好き、なのかも」

和「……フェチズム?」

唯「んー……」

唯「そう、かな。……和ちゃん、ちょっと私にお姉ちゃんって言ってみて?」

和「? お姉ちゃん」

唯「棒読みじゃんー」

和「そうは言っても、私は唯の妹じゃないし」

唯「だよねぇ……そうなんだよ」

唯「私の妹は憂ひとりだけなんだよねぇ」


――――

 平沢家

和「それじゃ、しっかり休むのよ」

唯「うん、送ってくれてありがとう和ちゃん」

和「……」ひらっ

 すたすた…

唯「……」

 ガチャッ

唯「ただいまー」

唯「ういー?」

 とたとた

憂「おかえり。どうしたのお姉ちゃん?」

唯「……えへへ。ただいま憂」

憂「部活は……」

唯「休んできた。ちょっとだけ、頭が痛いからね」

憂「へ? だいじょうぶ、お姉ちゃん?」

唯「……うい」

憂「お姉ちゃん?」

唯「えへへ……ちょっと、部屋まで連れてってくれないかな」

憂「あっ、うん。ごめんね。カバンとギー太持つよ」

憂「よいしょ……っと。ひとりで歩ける?」

唯「うん、平気。ありがとね」

唯「さ、私の部屋行こっ」

 ぐいぐいっ

憂「う、うん……えっと、お姉ちゃん?」

憂「そんなに押したら歩きにくいよ……」

 ぐぐっ

唯「……うい」

憂「っとと……なに?」

 とん とん

唯「憂は……私の妹だよね」

憂「う、うん。お姉ちゃんの妹だよ」

唯「だよね……うふふっ」

憂「変なお姉ちゃん」

 とん とん

 がちゃっ

憂「よいしょー……うー、重たかった……」

唯「ごめんね、憂」

憂「ううん。いいよ、お姉ちゃ……」


 どんっ

憂「ひゃうっ!」

 ぼふん

憂「び、びっくりした……なに、お姉ちゃん?」

唯「……」

 ぎしっ

唯「いいんだよね、憂」

 ぎしぃっ…

憂「あ……」

憂「……うん。いいよ、お姉ちゃん」

唯「……」ニヤッ

唯「大好きだよ、憂……」


  終わり



最終更新:2010年12月23日 03:05