遊義皇第11話 - (2006/10/03 (火) 21:52:59) の最新版との変更点
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大阪府、デュエル課を新設。
現在交通事故よりも多いレアハンター被害に対して、従来の警察システムでは暴行傷害などが無ければ介入できなかったが、
本日より新設された希少物強行賭博対策課(通称デュエル課)によって対策が可能となった、
システムはデュエル課職員がレアハンターとデュエルを行なって、強要されたデュエルによって奪われたカードを取り戻す、といった物、
注意すべき点はデュエルを強要されたのではなく、断る事ができたと判断される状況でのアンティは対象外となる。
新部署の構成員は部長含め4人だが、部長はあの松猪四郎氏、ご存知の通り彼は星6ライセンスを取得しており、実力は保障付き。
以上、大波社発行、「デュエリストニュース」の2面記事より抜粋。
(クロック視点)
…く、どこだ、ここ?
「よう、クロック、丸一日気絶してたぞ、お前。」
ベッドから少し離れた位置に座った蕎祐(刃咲の下の名前)、そうか刃咲医院か、ここは。
「誰に殴られたんだ? そんな傷?」
「あぁー、これな、自分でやったんだ、二封気がこの村を離れるまで何も喋らない為にな。」
言葉選びもせずにツルツル喋る俺。
「…浅いが母さんが他人にやられた傷じゃないとは言ってたけど ……マジかよ、
てっきり俺は二封気が殴って逃げたのかと思ってたんだが・・・・・件の二封気はどこに行ったんだ?」
「それが言えないからあんなバカな事をしたんだろうが、言えねぇよ。」
「あんたが教えてくれないと困るんだ、福助の目標はその全力を出した二封気を倒す事だからな。」
この言葉…どこかで聞いたよな…どこだっけ?
「あぁー、それでも俺は自分の頭を殴ってでも喋らなかったんだぞ、言えねぇよ。」
少し考え込んでから口を開く蕎祐。
「…それなら賭けデュエルしようぜ、俺が勝ったらあんたが知ってる限りの二封気の情報を教える、
あんたが勝ったら俺は福助に『クロック・ジュフが二封気の情報を知っている』って事を言わない。」
…あ?
「あぁー? 別に言われたところで俺は困らんぞ?」
「いいや! 困る筈だ! フクはあんたが二封気の行き先を知っていると知れば、
あんたが毎年指の点検に来る毎に、指の点検にも為らないくらいに問い詰めるぞ!」
その光景をイメージしてみるが…困るな、これは。
「その点、俺に勝てば俺も一緒に『このダメ大人は何も知らない』って言ってやる! お買い得だぜ!」
「…あぁー、交渉するなら相手にちゃんとデメリットも伝えるのが筋だろ?
俺が負ければ、そもそも頭を殴ってまで黙ってた事が無駄になるだろうが。」
「デュエルを受ければどっちに転んでも福助に問い詰められる事は無くなる、
あんたは自分のイカサマに絶対の自信が有るんだろ? 俺みたいな小僧に負けると思ってるのか?」
挑発的な口調だが、表情に余裕は無い。
「…どうしてそこまで俺に喋らせたがる? お前にとっては二封気の全力なんてどうでも良いだろ?」
「あんたの全力は一度見る価値が有る、フクが二封気の情報を知りたがっているのをダシにデュエルだ、良い考えだろ?」
「あぁー、だからお前は考えを顔に出し過ぎるんだよ……恥ずかしい事じゃないぞ、仲間の為の戦いは。」
二封気が『他人の為にデュエルを挑んでくる奴は決着が見えても受けてやる』なんてバカな事を言ってたが…、
「……判った、受けてやるよ、俺が蕎祐に負けるなんざ100%有り得ないからな。」
俺も二封気並のバカだな、負けたらゴメンな、二封気。
(エビエス視点…彼らの喋っている言葉は全て英語と思いなせぇ。)
私はアメリカから新幹部候補のウォンビックとその部下一同代表の少女を引き連れ、
休む間も無くホーティック第3幹部の居る日本の大阪とか言う町まで来ていた。
「…ち! 〔押収〕を発動だ!」
「残念ですね……既にエクゾディアは完成しています。」
ウォンビックはホーティック第3幹部が1キルデッキ対策に不慣れな先攻を取ったまでは悪くなかったが、
第3幹部はそのウォンビックのターン中でエクゾディアを引ききり、先攻のウォンビックのターン中に勝利を確定させた。
「…あんたっ!そのデッキは卑怯よ! 普通のデッキならブラックマイン様が絶対に勝つのにッ! 」
腹心の少女はまるでウォンビックの『デッキ切れ狙いロック』が普通のデッキとでも言うように叫ぶ・・・・正気か、この小娘は。
「ホーティック第3幹部、トガさんの意見に賛成するわけでは有りませんが、1フェイズキルしては実力が分からないのでは? 」
「いえ、実力を測るためではないですよ、ウォンビックさんが強いのは知ってましたからね、
………ただ根性が有るか無しかが見たかっただけです。」
「それならなおさら普通のデッキで戦え! ×××××のやさおと…。」
私が黙らせるより早く、ウォンビックが手で制す・・・・私が言われたら小娘を踏み殺していると言うのに当の第3幹部は全く気にしていない。
「それでは第3幹部も彼の幹部入り容認ですか?」
「容認も何も大歓迎ですよ、壁役自体正念党は不足してますからね、
ヴァイソンダーヅのメンバーも全て引き抜きたいところですね。」
どうして私以外の幹部は壁役止まりの男が幹部まで飛躍する事に違和感を持たないんでしょうか?
「他のダーヅのメンバーも手に職が出来るなら俺にとっても不満はない、礼を言おう。」
「あたしはブラックマイン様がこんな×××のピアスや、××××な優男と対等なんて納得行きません!」
静かに動いた私を今度はホーティック第3幹部が手で制す…命拾いしたな、小娘。
「あとはクロックさんですね、彼は細事は気にしませんからきっとOKしてくれますよ。」
細事ですか、幹部衆のメンバー決定が細事なんですか。
「クロック?……クロック・ジュフの事か? あいつまで幹部入りしてるのか? この組織は?」
ここにきて始めてウォンビックが驚きと不信に満ちた質問を吐いた。
「ご存知なんですか? 彼の事を?」
「何年か前にイカサマ使いとして裏世界に君臨していたが、
ある男に不正を見破られた際に、俺の目の前で代償として指を切り落とされ、
以降は変身できない仮面ライダーの様に戦えなくなった奴の名前が…確かクロックと言ったはずだ。」
「……ウォンビックさんはどうしてその事を知っているんですか?」
「俺もその場にいたからな、実際に見ている。」
「ほう…第3幹部やシャモン様と同じくあの場に…世界は狭いですね。」
私が故意的に悠長に喋る中、トガ氏に暴言を言われても憤怒を見せなかったホーティック第3幹部だが、今度は露骨に機嫌が崩れている。
「……幾つか訂正すべき点があります、1つは彼の指は奇跡的な手術で蘇生してる事、
2つはイカサマが見破られたのではなく、対戦相手がクロックさんの通り名を知っていて強引に切断されただけです。」
怒りをまだ消化し切れていない第3幹部、彼は人とは異なる怒りのツボを持った人種のようだ。
「イカサマ無しでも戦えるのか? そいつは?」
「まあ星5級のプロ程度ならば倒せるでしょうね。」
星5の正規ライセンス持ちは全世界で479人、登録するだけでも難易度が高く、
取得すれば所持レアカード・名前がKCのメインコンピューターに記録される事でレアハンターの目標になり、実力が保障されると言う資格。
「そんなのブラックマイン様やあたしなら絶対に倒せるよっ! 絶対!」
「クロックさんは引きを重視しないプレイヤーなので、ビギナーズラックのみでは勝てません、
あの人はウォンビックさん級の即幹部入りの人間にしか負けませんよ。」
「…それってあたしがあんた達より弱い、って意味!? ××××ッ!?」
じゃーじゃ、じゃーじゃ、じゃーじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃ
その時、ホーティック第3幹部のDVDパーツが搭載された奇形デュエルディスクから、「大きな古時計」の音程が流れ出した。
「噂をすれば影ですね、クロックさんがデュエルを開始しました。」
「? どういう事だ?」
「これは私のデュエルディスク『明(アキラ)』の特性でしてね、
一度でもデュエルした事の有る指定したディスクがデュエルを開始した場合、その内容を知る事が出来るんです。」
言って第3幹部は自分のデュエルディスクから伸びた二本のコードをテレビに差し込み、テレビの電源を付ける。
するとテレビにはインターネットのデュエル場の様に、正確にカードデータやライフ、手札枚数などが表示された。
「…と言う事はさっきのデュエルは実力確認ではなく…俺のディスクを登録するためか?」
「そうですね、神さん・シャモンさんとの戦いを2人のディスクを通して見てたので、実力は既に知ってましたし、
……あ、なんなら後でご覧になりますか? DVDに保存してあるのですぐに見れますよ。」
その態度にまたも頭に来たのか、トガが襲い掛かる…が、今度はウォンビックに頭を鷲掴みにして止められた。
「仲間になるなら情報収集を兼ねて盗撮するのも悪くないだろう、裏切りの防止にもなる、
それよりも今はデュエルを見ていろトガ、クロック・ジュフも相手も悪くない。」
クロック第4幹部が戦っているのは昆虫族系デッキ、考え込む時間がかなり長い事から慎重なプレイヤー、と言う事は分かる。
……ホーティック第3幹部はそこで始めて怒りが収まった、この昆虫使いに見覚えでも有るのか?
(刃咲視点)
俺とクロックは刃咲医院の玄関口、ちょうど太陽が真横から差し込み、イカサマを看破する条件としては悪くない。
『デュエル!』(新エキスパートルール、LP8000、初期手札5)
「行くぜクロック!(手札1枚)俺はモンスターを1枚とリバースをセットして終了!(手札4・伏せ1)」
っへ…攻撃して来い、クロック!
「あぁー(手札6)……ところで蕎祐、唐突で悪いがお前は俺と自分との力を何対何と見てる?」
「……シャレ抜きで7対3であんたの優勢ってところだろうが、勝てない数字じゃねぇ、気合で勝たせてもらうぜ!」
「大体そんな物だろうが、実際に戦えば……」
カードに手を掛け、そのまま自前の黒いデュエルディスクにカードを配置する。
「デュエルテクニック以外の差で9対1ぐらいで俺が勝つことに為る……、〔閃光の追放者〕を召喚して、攻撃!」
もみじ色の翼を持った上半身のみのロボットが、俺の場のモンスターを腹部の口で捕食する……ッく!
〔閃光の追放者〕(攻撃力1600)VS(守備力1300)〔共鳴虫〕→共鳴虫、破壊→ゲームから除外。
閃光の追放者 攻撃力1600 守備力0 星3 光属性 天使族
このカードがフィールド上に存在する限り、墓地へ送られるカードは墓地へ送られず、ゲームから除外される。
共鳴虫 攻撃力1200 守備力1300 星3 地属性 昆虫族
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、デッキから攻撃力1500以下の昆虫族モンスター1体をフィールド上に特殊召喚することができる。
「実力以外の差の1つ目、デッキタイプによる優劣。」
自分の有利を語っているはずなのに、クロックの表情に笑みは無い。
「お前の使っている昆虫族デッキは自然内での生命循環の様に「墓地」に関連したカードが多い、
〔ドラゴンフライ〕、〔共鳴虫〕、〔魔導雑貨商人〕、〔デビル・ドーザー〕、〔黒きハイエルフの森〕とかな、
そして俺の主力モンスター〔追放者〕ならばそれらをコンボすら必要とせずに無力化できる…。」
俺が反論するより早く、クロックは言葉を続けた。
「現に今の〔共鳴虫〕、今の発動が成功していればモンスター除去能力を持つ〔スカラベ〕辺りを呼び出し、
〔共鳴虫〕を倒した俺のアタッカーを除去できた・・後は勘だが、その〔スカラベ〕を生贄に上級召喚も出来ただろ?」
うあ、こいつカン冴え過ぎ。
「それは見てのお楽しみ、見たいなら攻撃すんな。」
「あぁー、それなら遠慮しとくぜ、1枚伏せてターン・エンド。(手札4・伏せ1)」
これは勝てないかもしれねぇ…実力の差も有りデッキタイプまで劣ってるなんて……って、んなわけ有るかァッ!
「っは、そんな福助の身長より小さいことなんざぁ、目にも入らねぇ!
ドローフェイズ!(手札5)、俺は手札から〔黒きハイエルフの森〕を発動し、手札から〔ドラゴンフライ〕を召喚するぜ!」
黒きハイエルフの森 フィールド魔法(オリカ)
フィールド上に存在する昆虫族モンスターの攻撃力・守備力が300ポイントアップする。
昆虫族モンスターが破壊された時、そのカードのコントローラーのライフを1000ポイント回復する。
ドラゴンフライ 攻撃力1400 守備力900 星4 風属性 昆虫族
このカードが戦闘によって墓地へ送られた時、デッキから攻撃力1500以下の風属性モンスター1体を自分のフィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
ドラゴンフライ攻撃力1400・守備力900→攻撃力1700・守備力1200
「これで〔閃光の追放者〕の攻撃力を超えたぜ! 攻撃!」
「あぁー、倒されるな……だがここで〔マクロコスモス〕を発動しとくぜ。」
マクロコスモス 永続罠
自分の手札またはデッキから「原始太陽ヘリオス」1体を特殊召喚する事ができる。
また、このカードがフィールド上に存在する限り、墓地へ送られるカードは墓地へは行かずゲームから除外される。
〔ドラゴンフライ〕(攻撃力1700)VS(攻撃力1600)〔閃光の追放者〕→閃光の追放者、破壊、ゲームから除外。クロックLP8000→LP7900
戦闘力では勝る追放者とはいえ、不慣れな領域でその世界の住人に勝る道理は無ぇ!
「俺は墓地なんか利用しなくとも戦えるんだよ! 一枚伏せてエンド!(手札2・伏せ2)。」
「それでも相性が悪いのは事実だろうが、ドロー(手札5)、今引いた〔サイクロン〕で伏せカードを破壊する。」
サイクロン 速攻魔法
フィールド上の魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。
「どっちをだ?」
俺は自分のデュエルディスクに差し込まれた2枚のカードを確認し、ぶらぶらと振ってやる。
「あぁー?…ミスった、伏せカード1枚じゃねぇのかよ………左。」
「ぃよっしゃぁ! 伏せ罠発動!〔強欲な瓶〕っ!」
強欲な瓶 通常罠
自分のデッキからカードを1枚ドローする。
サイクロン→無効、除外
刃咲手札2→手札3
「あぁー、やっちまた、しゃあねぇから〔強欲な壺〕でカード引いて、〔天使の施し〕発動だ。」
天使の施し 通常魔法
デッキからカードを3枚ドローし、その後手札からカードを2枚捨てる。
強欲な壺 通常魔法
自分のデッキからカードを2枚ドローする。
天使の施し・強欲な壺・他2枚→除外。
クロック手札3→手札5
「…〔サイクロン〕がこのターンのドロー、っつったよな?
……なら前のターンから有った〔強欲な壺〕を何で使わなかった?」
「あぁー、実力以外の差その2、お前はタイイチで俺のイカサマを見抜けない・・・・、
お前はカードのソリッドビジョンが出現するとビジョンに注意が行くクセが有るだろ?
俺が〔サイクロン〕打った時に、数秒間注意が散漫に為ったからこれが使えた。」
気付かなかった、注意してたはずなのに……。
「今のはイカサマをした自白、と取って良いのか?」
「バカ言うなよ、ただ俺はお前の注意が甘かったのを指摘しただけだ、
ちなみに隙を指摘された瞬間も注意が揺らいだぞ、今引いた「2枚」の〔カオス・グリード〕を発動する。」
カオス・グリード 通常魔法
自分のカードが4枚以上ゲームから除外されており、自分の墓地にカードが存在しない場合に発動する事ができる。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。
クロック手札4→手札6→手札7
「…もう、驚いても目は逸らさねーからな。」
「3度目は流石にマヌケだからな、〔異次元の生還者〕を召喚して〔ドラゴンフライ〕へ攻撃だ。」
異次元の生還者 攻撃力1800 守備力200 星4 闇属性 戦士族
自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードがゲームから除外された場合、このカードはエンドフェイズ時にフィールド上に特殊召喚される。
〔異次元の生還者〕(攻撃力1800)VS(1700)〔ドラゴンフライ〕→異次元の生還者、破壊、ゲームから除外。刃咲LP8000→LP7900
「気にしないッ! 逸らさない!」
「あぁー、そういう姿勢は無駄だが悪くないぞ、セットして終了。(手札5・伏せ1・発動中1)」
俺はクロックを見据えたままデッキを見ずに引き……何を引いたのかが分からねぇええ!
「どうした? カードの内容も見ずにプレイする気か?」
マズイ、かなりマズイ…手札を見ずにプレイは不可能、かと言って目を離したら手札増強される……あ、コレで行くか。
「手札から〔カゲロウの一生〕を発動する!」
カゲロウの一生 速攻魔法(オリカ)
手札の昆虫族モンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚する。
この効果で特殊召喚されたモンスターが相手に与える戦闘ダメージは0になり、は発動ターンのエンドフェイズに破壊される。
「この効果で手札の〔アルティメット・インセクト LV5〕を特・殊・召・喚!」
「あぁー? 言っておくが俺の〔異次元の生還者〕は〔マクロコスモス〕が有る限り、
倒されても復活するし〔カゲロウ〕の効果で戦闘ダメージも発生しない……〔アルティメット・インセクト〕は犬死だぞ。」
アルティメット・インセクト LV5 攻撃力2300 守備力900 星5 風属性 昆虫族
「アルティメット・インセクト LV3」の効果で特殊召喚されたこのカードがフィールド上に存在する限り、全ての相手モンスターの攻撃力は500ポイントダウンする。
自分のターンのスタンバイフェイズ時、表側表示のこのカードを墓地に送る事で「アルティメット・インセクトLV7」1体を手札またはデッキから特殊召喚する。
(召喚・特殊召喚・リバースしたターンを除く)
アルティメット・インセクト LV5 攻撃力2300・守備力900→攻撃力2600・守備力1200
「そうかな?…〔アルティメット・インセクト〕ッ! 究極害病砲LV5!」
剣状の足を折り重ねてエネルギーを蓄積し、開放すべく足を広げ……。
「広げるな! まだ溜めろ〔インセクト〕ッ!」
例えるなら下痢腹抱えてやっとのこと探し当てたトイレに既に人が入っていたような表情のまま固まるインセクト。
「溜めろよ、まだだぞ、待て、お預け、ストップ、タンマ、ダルマさんが転んだ、お前はやれば出来る子だぞ!」
「あぁー……溜めても数値的には変わらないんだから撃ってやれよ、
…それにこれだけデカイやつなら音も大きくなって朝っぱらからご近所迷惑だろうが。」
分かってるからこうしてるんだろうが!
「耳塞げよクロック! 究極害病砲LV5オーヴァーパワー……発射ッ!」
ぎぃいいいいぃいいぃぃしゃああああああっっっっ!
〔アルティメット・インセクト LV5〕(攻撃力2600)VS(攻撃力1800)〔異次元の生還者〕→異次元の生還者、破壊、ゲームから除外。
毒素を含んだ紫色に輝く軌道…その延長線に居た生還者は跡形もな……うるせぇ!
「あぁー……鼓膜破れるかと思った……耳がキンキンする。」
「え? 何? なんて言った? 聞こえねえぞ。」
一応耳を塞いだ俺やクロックでも耳が使えないような騒音の中、ご近所さんに聞こえていないわけが無い。
「うるさいぞ! 何時だと思ってるんだ!…オオ、デュエル中か!」
「ちょっとォ! うちの子が起きちゃったじゃな……あ、デュエル中なの?」
「おぎゃぁああああ! おぎゃああ!……でぅえる…でぅえる…。」
「クロックさん起きたんですか、よかったですね……ずるいよ刃咲くん! 内緒でデュエルするなんて!」
「今のは刃咲の究極虫の効果音よね? 対戦相手は誰?・・・・・クロック?」
壱華や福助も含む苦情目的やらなにやらで集まってきたギャラリーの面々、成功だ!
「ごめんなさい、すいません、本当にごめんなさい、朝から騒いでごめんなさい。」
…なんだ、謝れたのかこのダメ大人。
耳復活まで待って5分後。
「さぁて、ダメ大人2号よ、俺だけじゃなくこれからも集まってくるデュエルバカ全員の目を誤魔化して…イカサマが出来るか?」
「あぁー、…なるほどな、俺の手札入れ替え封じにあれだけの騒音を…性根が意外とセコイな、おまえ。」
「イカサマ使いに性根云々言われる筋合いは無いっ!」
「おぉー、あの兄ちゃんイカサマ使いだってよ!」
「よし、あたしが見極めてあげるわ!」
今もなお増加する苦情を言いに来てそのままギャラリーへと転じる村人、全員がイカサマを見る為に眼を光らせている…完璧!
「これで安心して手札が見えるぜ…うお、すげぇ、
このターンのドローフェイズで引いた〔レベルアップ!〕を使って〔LV7〕に昇華し、ターンエンド!(手札1・伏せ1)」
レベルアップ! 通常魔法
フィールド上に表側表示で存在する「LV」を持つモンスター1体を墓地へ送り発動する。
そのカードに記されているモンスターを、召喚条件を無視して手札またはデッキから特殊召喚する。
アルティメット・インセクト LV7 攻撃力2600 守備力1200 星7 風属性 昆虫族
「アルティメット・インセクト LV5」の効果で特殊召喚した場合、このカードが自分フィールド上に存在する限り、全ての相手モンスターの攻撃力・守備力は700ポイントダウンする。
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&html(<table border="1" bgcolor="#D7F2F2" width="1200"><tr><td><font size="2"><center>)
[[前へ戻る。>http://www11.atwiki.jp/84gzatu/134.html]] [[次へ進む。>http://www11.atwiki.jp/84gzatu/54.html]] [[遊義皇トップへ>http://www12.atwiki.jp/wahamuda84g/12.html]] [[小説置き場に戻る>http://www12.atwiki.jp/wahamuda84g/5.html]]
&html(<Table Border Bordercolor="#1e332c" Cellspacing="10" cellpadding="5"><Td BgColor="#b2a5cc">天辺探索隊、突如姿を消す。<BR>天辺博士はエジプト史を研究し、氏は自身が発見した砂の底に埋まった逆ピラミッド型の建造物内部の調査に当たっていた。<BR>しかし、探索隊は一ヶ月経っても帰って来ず、救助隊が救助に向かったが発見できなかった。<BR>現地の警察は、氏は隠し部屋で行動不能となり死亡したと判断、調査は打ち切られ、逆ピラミッドは現在、立ち入り禁止になっている。<BR>以上、鉄筋社発行、7年前の日東新聞2面記事より抜粋。 </Td></Table>)
「…なんだ!?」
もうもうと立ち込める砂煙、中でキラキラと金色に光る金属片。
そこには顔に黄金色のピアスを付けまくり、人種も性別も年齢も表情も、何一つ読み取れない人物が立っていた。
その男(?)はウォンビックたちの姿を確認すると、神次郎に歩み寄った。
「どうやら敗北したようですね、神第5幹部。」
「負けたんじゃない、勝たないでやっただけだ。 エビエス。」
エビエス、さきほど神が挙げていた七人衆の一角の名前ではないか。
ヴァイソンダーヅの2人は警戒の色を強める。
「勝たない戦いは、次からは自分で責任の取れるデュエルでだけやってください。」
無感動な言葉に、今度はウォンビックたちの方を向き直る。
「今、我らの第1幹部もこちらに向かっています。ブラックマイン様、ホアン様、少々お待ちを。」
名乗っても居ないのに、2人を苗字で呼ぶピアス。
ウォンビック・ブラックマインとトガ・ホアンが空を振り仰ぐと、太陽と重なって見え難いが、確かにもう一人落ちてきている。
数十秒後、ゆったりとパラシュートを活用して降りてきたのは、ウォンビックの身長の半分あるかなしかの、小さな子供。
「ゴメンねー、オレ、エビエスみたいに早く降りられないからさー。」
カードゲームを商売道具にするレアハンターには、未成年者も多い。
しかし、それを差し引いてもシャモンの声は幼すぎるし、小さすぎる。
ウォンビックとトガは、その姿に驚きを隠せなかった。
「んな……あたしより年下じゃないの!? あんた!」
「8歳から……11歳くらいか?」
「ん、オレは今年で10歳だよ。
あなたがウォンビック・ブラックマインくんだよね、すぐにデュエルの準備するからタンマね。
エビエス、オレのデュエルディスクを出してよ。」
エビエスは懐からゴソっと円盤状のデュエルディスクを取り出すが、それを渡さずに口を開いた。
「シャモン様、デュエルの前にアンティ確認が必要です。
神第5幹部が敗北している以上、そちらのアンティも確認しなければなりません。」
屋上隅っこで、マイペースにデッキ調整をしている神次郎に、エビエスは冷静に大声を出す。
「神第5幹部ーっ、あなたのデュエル、何を賭けたんですかーっ!」
「私は知らん! ウォンビックに聞け!」
成り行きだけでデュエルしていた神次郎が、そんな細かい事を知っているはずがない。
「……ではブラックマインさん、お聞かせ願えますか?」
やむを得ず、敵に質問する、エビエス。
「俺が賭けたのはヴァイソンダーヅの解散だ。
正念党の連中が賭けたのは所持しているデッキ・スーツ諸々全て、だ。」
首を梟のようにぐるりと回し、エビエスは屋上の隅でノビている神次郎の部下たちに視線を配った。
「全く……独断で正念党の機密スーツや〔無限の力〕のコピーカードの入ったデッキを賭けるとは。
しかも負ける……あとで七人衆裁判にかけ、罰しなければ。」
技師さえ居れば、コピーカードはコピーからでも作れる。
そのため、どんなに強力なカードでも組織の全員が3枚積みする程度の事は容易にできる。
しかし、レアリティの高いカード、特に世界に一枚の〔サイクロン・ブレイク〕・〔無限の力〕はそうはいかない。
これらを持ったデュエリストが一度でも敗北し、コピーカードを奪われれば敵組織全員が使えることになるのだから。
そのため、常勝でき、かつ組織への忠誠を誓ったレアハンターにしか所持させられない。
故に何をするか予想できない七人衆のクロックと神次郎は、階級に合わず自前のカードだけで戦っている。
「それじゃあ賭ける内容はオレ達が勝ったら、さっきのアンティの無効とそっちの解散。
ウォンビックくんが勝ったら正念党が解散して、オリジナルの〔サイクロン・ブレイク〕の入ったデッキを渡す。
これで良いかな?」
「レアハンターたる物、挑まれた勝負は受けよう、謹んで、な。」
各々デュエルの準備をするが、何時の間にかシャモンは奇妙な円盤を腕に装着している。
本来ならば、デュエルディスクを装備すべき位置のはずなのだが。
ウォンビックが疑問を口にする前に、シャモンが察して円盤を指差す。
「これはオレの自慢のデュエルディスク『星』。
オレの一番大事な人が作ってくれたディスクなんだ~♪」
そのディスクはデッキホルダーを中心に、五角形を描く形でカードのソリッドビジョンが配置されている。
ウォンビックの特注デュエルディスク、『BATTLE・AX(戦斧)』もかなりの異型だが、『星』ほどではない。
「猩々鬼は凄いんだよ~。
投げるタイプのソリッドビジョンシステムをオレが投げられないって言ったら、
軽量化と改造をたった一晩でしてくれて、オマケで別の機能を3つも……。」
「シャモン様、不要な情報を教える必要は有りません。」
あんなノロケ話みたいな内容を『情報』として活用できる人間が居たら、それは魔法使いかなにかだろうが。
「それではルールはダーヅの『ドッグ&マン』を採用するが、ルールは知っているな?」
「ええ、格闘とデュエルを行い二本の戦いに勝利した者が勝者、イーブンだった場合はノーゲーム、ですよね?」
頷くウォンビックに、2人は適当な距離を置いてから、叫んだ。
『デュエル!』
「俺のターン(手札6)。
俺は〔おジャマジック〕と〔おジャマトリオ〕を公開し、手札から〔おジャマ・シスターズ〕を発動する。」
&html(<Table Border BorderColor="#0f9926" Border="2"><Tr><Td>おジャマシスターズ</Td><Td>通常魔法</Td></Tr><Td ColSpan="4">手札にある「おジャマ・シスターズ」以外の「おジャマ」と名の付くカード2枚を相手に見せて発動する。<BR>カードを2枚ドローする。<BR>相手フィールド上に「おジャマバイオレットトークン」(攻撃力0・守備力2000・光属性・獣族・星3)と<BR>「おジャマライトブルートークン」(攻撃力1500・守備力500・光属性・獣族・星3)を1体ずつ特殊召喚する。(オリカ)</Td></Table>)
シャモンの場に降り立った青と赤のおジャマ人的美少女2人。
2人はどこぞのアイドルよろしくシャモンの場で歌い、踊り始めた。
この光景を見たプレイヤーはあまりの苛立ちに早く除去しようとし、プレイングミスを犯しやすくなるというオマケ付き。
――私達~おジャマの心のおーんなぁ~の~こ~♪
――赤と青ぉの~、プリンセス~♪
――2人で~あなたの世界にお~ジャマ~♪
――うぉんチュ~ッ♪
おジャマトリオのような独特すぎるジャガイモ顔の女の子2体が、ブラジャーにフリルのパンティのセクシーな服装。
肌のお手入れにメイクにも余念が無く、それが尚の事キモい。
おジャマバイオレットトークン:シャモンのフィールド
おジャマライトブルートークン:シャモンのフィールド
ウォンビック:手札5→手札7
「うア、カワイイ!」
「ブラックマイン、お前の美的センスは賞賛に値するな。」
そんなモンスターを、シャモンと神次郎がノリノリで褒める。
どうやらこの2人、常人とは色々とセンスのレベルが天才的に異なっているらしい。
「うわぁ~~。
アリガトね、こんなにカワイイモンスター!」
「……俺はカードを3枚セットし、モンスターもセット、ターン終了だ(手札2・伏せ3)。
……さあ、お前のターンだ、シャモン。」
無邪気で無防備、闘争心さえ見えないシャモンに、ウォンビックは警戒を薄める事が出来なかった。
あの神次郎と同じく七人衆に名を連ね、その上、その神次郎を倒したデュエリストがただの子供であるはずがない。
「オレのターンだね(手札6)、オレは手札から――」
「貴様がドローした瞬間に〔おジャマトリオ〕を発動する。」
&html(<Table Border BorderColor="#b21162" Border="2"><Tr><Td>おジャマトリオ</Td><Td>通常罠</Td></Tr><Td ColSpan="4">相手フィールド上に「おジャマトークン」(攻撃力0・守備力1000・地属性・獣族・星2)を3体守備表示で特殊召喚する。<BR>このトークンは生贄にできず、破壊された時、トークンのコントローラーは1体につき300ポイントダメージを受ける。 </Td></Table>)
発動宣言に続いて出現した黄・黒・緑の3体のトークンが横に並ぶと同時に、青・赤のおジャマ歌姫の歌う曲目が変わった。
――HAァァアア! おゥジャマソオオァルァ~っ!
――デェエエッセ、ジュッツカァハァアアー~ン!
先ほどのローテンポのアニメソングから、メタリカを思わせる破壊力抜群の騒音的な楽曲に変更された。
加わった黄・黒・緑も各自カスタネット・リコーダー・ハーモニカで五重奏と……いや、ヘビメタってそういう楽器で成立するの?
「喜んでいられる状況ではありませんよ、これは!」
緊迫感に懸けた仲間に、エビエスはキレ気味に忠告した。
場にモンスターが5体居れば新たなモンスターは召喚できず、ズルズルとターンが流されてしまう。
それこそがウォンビックの狙い。 時間を潰すことに特化した彼の戦術なのだ。
「んー、じゃあ、可愛そうだけどこれを使うよ。
〔サイクロン・ブレイク〕、対象は緑色の子。」
&html(<Table Border BorderColor="#0f9926" Border="2"><Tr><Td>サイクロン・ブレイク</Td><Td>速攻魔法</Td></Tr><Td ColSpan="4">フィールド上のカード1枚を破壊する。(オリカ)</Td></Table>)
ソリッドビジョンで雷鳴と突風が同時に表現される。
通常、魔法や罠カードを破壊するカードには『風』を表すカードが多いが、このカードは雷鳴を用いてモンスターの除去もできる超レアカード。
自分のフィールドに居座っているトークンを除去すれば、その部分に起死回生のモンスターを召喚できる、というわけだ。
――う、うああわあォォォ! た、助けてくれー! ウォンビックゥーッ!
「来ると分かっているカードなら……防ぐのはそう難しいことではないな。
手札の〔おジャマジック〕を捨て、伏せカード〔封魔の呪印〕を発動する。」
&html(<Table Border BorderColor="#b21162" Border="2"><Tr><Td>封魔の呪印</Td><Td>カウンター罠</Td></Tr><Td ColSpan="4">手札から魔法カードを1枚捨てる。<BR>魔法カードの発動と効果を無効にし、それを破壊する。<BR>相手はこのデュエル中、この効果で破壊された魔法カード及び同名カードを発動する事ができない。 </Td></Table>)
ウォンビックの敷いた魔法陣は、力ずくで雷鳴と豪風を押えつけ、そのまま消失させた。
――ナイスディフェンス! さすが俺たちのボスだぜぇ~~!
喋るソリッドビジョンは無視し、ウォンビックは淡々と処理を続ける。
「更に、今捨てた〔おジャマジック〕の効果でデッキから、3体のおジャマモンスターを手札に加える。」
&html(<Table Border BorderColor="#0f9926" Border="2"><Tr><Td>おジャマジック</Td><Td>通常魔法</Td></Tr><Td ColSpan="4">このカードが手札またはフィールド上から墓地へ送られた時、<BR>自分のデッキから「おジャマ・グリーン」「おジャマ・イエロー」「おジャマ・ブラック」を1体ずつ手札に加える。 </Td></Table>)
おジャマ・イエロー:デッキ→ウォンビックの手札
おジャマ・グリーン:デッキ→ウォンビックの手札
おジャマ・ブラック:デッキ→ウォンビックの手札
無駄がない――それが観戦専門のピアス男、エビエスの率直な感想だった。
おジャマロックを維持するだけでなく、〔封魔の呪印〕の追加効果で最大の脅威である2枚目以降の〔サイクロン・ブレイク〕も封じる。
さらにコストに〔おジャマジック〕を捨てることで手札も増強……豪快そうな容姿とは裏腹に、緻密な戦術である。
「うん、じゃあこっちでいいや。
手札から〔ナチュラル・チェーン〕を赤の子に使うよ。」
&html(<Table Border BorderColor="#0f9926" Border="2"><Tr><Td>ナチュラル・チューン</Td><Td>通常魔法</Td></Tr><Td ColSpan="4">自分フィールド上に表側表示で存在するレベル4以下の通常モンスター1体を選択して発動する。<BR>選択したモンスターはフィールド上に表側表示で存在する限りチューナーとして扱う。</Td></Table>)
「……何?」
「これで赤の子はチューナーになったよ。
……赤の子に青の子をチューニングして、〔ゴヨウ・ガーディアン〕だよン。」
――ンキャああああぁァ!?
――なんだかあたし達、チョーイイカンジっ!
――ゼッコーチョーッ!
おジャマ・バイオレットトークン:フィールド→消滅
おジャマ・ライトブルートークン:フィールド→消滅
シュバっとおジャマシスターズは手を結び、光に包まれ……歌舞伎調の和風なモンスターが現れた。
&html(<Table Border BorderColor="#d3e589" Border="2"><Tr><Td>ゴヨウ・ガーディアン</Td><Td>地属性</Td><Td>戦士族</Td><Td>レベル6</Td><Td>ATK2800</Td><Td>DEF2000</Td></Tr><Td ColSpan="6">チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上:このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、<BR>そのモンスターを自分フィールド上に表側守備表示で特殊召喚する事ができる。</Td></Table>)
「シンクロ主体のデッキ……か。」
必殺のおジャマロックをあっさり突破された割には、ウォンビックは焦ってはいなかった。
むしろ得体の知れなかったシャモンのデッキが“シンクロ主体”というデッキタイプでわかっただけで収穫である。
「二週間前に発売したばっかりの新カードだよ、カッコイイでしょ!」
新発売だろうと、正念党レベルの組織力があれば揃えることは容易。
とはいうものの、それまで長年育ててきたエース・デッキから新発売されたカードを主軸としたデッキに移す、それはレアハンターとしては珍しい事だった。
レアハンターは常勝せねばならず、弱点や欠点もわかっていない新参のデッキを使うのはあまりにも無謀。
「……デッキが未調整だったから負けた、などという言い分は聞かんぞ?」
「心外だね
大丈夫だよ、オレはシンクロデッキは初めてだけどトチったりしないからさ。」
サラッと凄い事を言った気がするが、それで動じていたらデュエリストなんてやってられない。
カードゲームで生計を立てている人間に、一般常識というのを求めても大抵は無駄である。
「ならば……そのモンスターを出したのもミスではないんだな?」
「ん?」
「俺の場にモンスターはないぞ?
それならシスターズ2体とトリオ1体でレベル8にすれば……スターダストなりレッドデーモンズなりがあるだろう?」
&html(<Table Border BorderColor="#d3e589" Border="2"><Tr><Td>スターダスト・ドラゴン</Td><Td>風属性</Td><Td>ドラゴン族</Td><Td>レベル8</Td><Td>ATK2500</Td><Td>DEF1200</Td></Tr><Td ColSpan="6">チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上:「フィールド上のカードを破壊する効果」を持つ魔法・罠・効果モンスターの効果が発動した時、このカードをリリースする事でその発動を無効にし破壊する。<BR>この効果を適用したターンのエンドフェイズ時、この効果を発動するためにリリースされ墓地に存在するこのカードを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。</Td></Table>)
&html(<Table Border BorderColor="#d3e589" Border="2"><Tr><Td>レッド・デーモンズ・ドラゴン</Td><Td>闇属性</Td><Td>ドラゴン族</Td><Td>レベル8</Td><Td>ATK3000</Td><Td>DEF2000</Td></Tr><Td ColSpan="6">チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上:このカードが相手フィールド上に存在する守備表示モンスターを攻撃した場合、<BR>ダメージ計算後相手フィールド上に存在する守備表示モンスターを全て破壊する。<BR>このカードが自分のエンドフェイズ時に表側表示で存在する場合、<BR>このターン攻撃宣言をしていない自分フィールド上のこのカード以外のモンスターを全て破壊する。</Td></Table>)
今、シャモンが召喚した〔ゴヨウ・ガーディアン〕は最強クラスのモンスターではある。
しかし、それは特殊召喚された状況に左右されやすく、デュエリストが読み違えれば他のカードと同じく真価を発揮することはできない。
〔ゴヨウ〕はその高い攻撃力と特殊能力を生かしたモンスター同士の殴り合いこそが真骨頂。
ウォンビックの場にモンスターが居ない上、生け贄ならばウォンビックの押し付けたおジャマトークンが有ったのだ。 そちらの方が優位に思える。
「ああ、オレのエクストラデッキってレベル8とか入ってないんだ。」
「……正念党七人衆、なるほど。 まともなデュエリストはいないようだ。」
シンクロ主体ならば、召喚候補は大いに越した事はない……。
公開情報であるシャモンのデッキ枚数は新ルールの上限15枚、一体何を入れていることやら。
「じゃあ、いっくよォっ!
〔ゴヨウ・ガーディアン〕、ゴヨウナックル!」
ナックルというわりに、十手を繰り出して攻撃する。
……どうやらシャモンは、この攻撃ムービーを見るのは初めてらしい。
「〔くず鉄のかかし〕発動、。」
&html(<Table Border BorderColor="#b21162" Border="2"><Tr><Td>くず鉄のかかし</Td><Td>通常罠</Td></Tr><Td ColSpan="4">相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。相手モンスター1体の攻撃を無効にする。<BR>発動後このカードは墓地に送らず、そのままセットする。</Td></Table>)
枯れ木のように立ち上がったボロクズの人形は、投げつけられた十手を受け止めて砕け散った。
しかし、元がボロクズだけに壊れても大したことはなく、そのまま伏せ状態に戻った。
くず鉄のかかし:伏せ
「んー、惜しい! カードを1枚セット、ターン終了だよ。(手札3・伏せ1)」
「ドロー。(手札5) 俺は〔エア・サーキュレーター〕を召喚し、
手札の〔おジャマ・グリーン〕と〔おジャマ・ブラック〕を戻し、2枚ドロー…。
〔封印の黄金櫃〕で〔覇者の一括〕を除外する。」
&html(<Table Border BorderColor="#0f9926" Border="2"><Tr><Td>封印の黄金櫃</Td><Td>通常魔法</Td></Tr><Td ColSpan="4">自分のデッキからカードを1枚選択し、ゲームから除外する。<BR>発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時にそのカードを手札に加える。 </Td></Table>)
&html(<Table Border BorderColor="#b21162" Border="2"><Tr><Td>覇者の一括</Td><Td>通常罠</Td></Tr><Td ColSpan="4">相手スタンバイフェイズで発動可能。<BR>発動ターン相手はバトルフェイズを行う事ができない。</Td></Table>)
またもや妙だ。
〔覇者の一括〕をサーチするぐらいなら、類似カードである〔和睦の使者〕などの上位カードも有ったはずだ。
プレイングミスとしてはお粗末すぎる。 この男は何かを仕掛けている。
「〔レベル制限B地区〕を発動し、ターンエンドだ。(手札2・伏せ1・発動中1)」
&html(<Table Border BorderColor="#0f9926" Border="2"><Tr><Td>レベル制限B地区</Td><Td>永続魔法</Td></Tr><Td ColSpan="4">フィールド上に表側表示で存在するレベル4以上のモンスターは全て守備表示になる。</Td></Table>)
発動の瞬間、〔ゴヨウ・ガーディアン〕が崩折れ、守備耐性を取る。
神次郎とのデュエルでも登場した『ロック』という言葉の代名詞的な意味合いを持つカードである。
〔覇者の一括〕をサーチするまでの繋ぎ、といったところか。
「ドロー(手札4)……あ、ゴメン、ウォンビックくん。」
「…ん?」
「オレの勝ちだよ。」
は?
「手札から〔ワイルド・シンクロン〕を召喚するよ。」
&html(<Table Border BorderColor="#cc7a28" Border="2"><Tr><Td>ワイルド・シンクロン</Td><Td>地属性</Td><Td>獣戦士族</Td><Td>レベル3</Td><Td>ATK1400</Td><Td>DEF1000</Td></Tr><Td ColSpan="6">チューナー:このカードは「ワイルド・ウォリアー」以外のレベル6以下のシンクロモンスターのシンクロ召喚に使用できない。 <BR>1000ライフポイント払うことで、このカードのレベルを2つまで下げることができる。(オリカ) </Td></Table>)
現れたのは隻眼全裸のウェアウルフ、服が無いのにウェアとはこれいかに。
「〔ワイルド・シンクロン〕の効果を発動……レベルを1にするよ。」
シャモン:LP8000→LP7000
ワイルド・シンクロン:レベル3→レベル1
「……〔ブラック・ローズ・ドラゴン〕か?」
シャモンのフィールドには、チューナーたる〔ワイルドシンクロン(☆)〕。
他にも〔ゴヨウ・ガーディアン(☆☆☆☆☆☆)〕や〔おジャマ・トークン(☆☆)〕×3で、計5体。
レベル6のゴヨウにレベル1になったワイルドシンクロンを合わせれば、フィールドリセット効果を持っている〔ブラック・ローズ・ドラゴン〕を呼べる。
&html(<Table Border BorderColor="#d3e589" Border="2"><Tr><Td>ブラック・ローズ・ドラゴン</Td><Td>炎属性</Td><Td>ドラゴン族</Td><Td>レベル7</Td><Td>ATK2400</Td><Td>DEF1800</Td></Tr><Td ColSpan="6">チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上:このカードがシンクロ召喚に成功した時、フィールド上に存在するカードを全て破壊する事ができる。<BR>1ターンに1度、自分の墓地に存在する植物族モンスター1体をゲームから除外する事で、<BR>相手フィールド上に存在する守備表示モンスター1体を攻撃表示にし、このターンのエンドフェイズ時までその攻撃力を0にする。</Td></Table>)
「あ、ゴメ、〔ブラック・ローズ〕もエクストラデッキに入れてないよ、オレ。」
「そうか。」
ちなみに、これを執筆している時の環境(2009/05/17)的に言うと、
〔ブラック・ローズ・ドラゴン〕に、先述した〔スターダスト・ドラゴン〕と〔ゴヨウ・ガーディアン〕の3枚を用意しておけば、中々強力なシンクロデッキといえる。
逆に言えば、シンクロ主体で〔ブラック・ローズ〕や〔スターダスト〕が入っていないというのは、常識的にはありえない。
「んじゃ、〔ゴヨウ・ガーディアン〕に〔ワイルド・シンクロン〕をチューニング、〔人造合成神 ゲブヌト〕だ。」
「ゲブヌト…?」
ゴヨウ・ガーディアン:フィールド→墓地へ。
ワイルド・シンクロン:フィールド→墓地へ。
人造合成神 ゲブヌト:フィールド→墓地へ。
人造合成神 ゲブヌト:攻撃表示→守備表示(レベル制限B地区の効果)
&html(<Table Border BorderColor="#d3e589" Border="2"><Tr><Td>人造合成神 ゲブヌト</Td><Td>風属性</Td><Td>天使族</Td><Td>レベル7</Td><Td>ATK2500</Td><Td>DEF1000</Td></Tr><Td ColSpan="6">チューナー+シンクロモンスター1体以上<BR>このカードの属性は「地」としても扱い、シンクロ召喚でしか特殊召喚できない。<BR>エクストラデッキからこのカードの同名モンスター1枚を墓地に送る事で、<BR>フィールド上のカード1枚を破壊し、そのカードをこのカードのコントローラーの手札に加える。<BR>自分の墓地に「人造合成神」と名の付くカードが2枚以上存在する場合、このカードは戦闘によって破壊されない。</Td></Table>)
エジプトの石人形、ウシャブティを思わせる装飾と土造りの皮膚。
皮膚に走ったひび割れの内側には、青空のような空間が覗いている。
……これで岩石族ではなく天使族なのだから、このカードゲームの種族指定はよくわからない。
「エクストラデッキから〔人造合成神 ゲブヌト〕を2枚墓地に送り、〔レベル制限B地区〕と〔くず鉄のかかし〕を破壊。」
石造りの天使の放った光弾は、いとも容易くウォンビックの守りを打ち砕いた。
しかし、砕け散ったカードはウォンビックの墓地に送られず、敵であるはずのシャモンの手札に収まった。
レベル制限B地区:フィールド→シャモンの手札
くず鉄のかかし(伏せ):フィールド→シャモンの手札
「これが効果で、ね。
破壊したカードをオレの手札に加える事ができるんだよ、便利便利。」
無限シンクロ、その言葉がウォンビックの脳内を過ぎったのは、この時だった。
「〔レベル制限B地区〕と〔サイクロン・ブレイク〕を捨てて、〔魔法石の採掘〕を発動。
墓地から〔ナチュラル・チューン〕を手札に戻すよ。」
レベル制限B地区:手札→墓地へ。
サイクロン・ブレイク:手札→墓地へ。
ナチュラル:チューン:墓地→シャモンの手札
&html(<Table Border BorderColor="#0f9926" Border="2"><Tr><Td>魔法石の採掘</Td><Td>通常魔法</Td></Tr><Td ColSpan="4">。手札を2枚捨てて発動する。自分の墓地に存在する魔法カード1枚を手札に加える。</Td></Table>)
&html(<Table Border BorderColor="#0f9926" Border="2"><Tr><Td>ナチュラル・チューン</Td><Td>通常魔法</Td></Tr><Td ColSpan="4">自分フィールド上に表側表示で存在するレベル4以下の通常モンスター1体を選択して発動する。<BR>選択したモンスターはフィールド上に表側表示で存在する限りチューナーとして扱う。</Td></Table>)
「〔ナチュラル・チューン〕を緑の子に使って、〔ゲブヌト〕とチューニング。」
おジャマ・トークン(緑):フィールド→消滅
人造合成神 ゲブヌト:フィールド→墓地
「〔人造合成神 テフ・シュ〕、召喚。」
&html(<Table Border BorderColor="#d3e589" Border="2"><Tr><Td>人造合成神 テフ・シュ</Td><Td>炎属性</Td><Td>天使族</Td><Td>レベル9</Td><Td>ATK3200</Td><Td>DEF2000</Td></Tr><Td ColSpan="6">チューナー+人造合成神 ゲブヌト1体以上<BR>このカードの属性は「水」としても扱う。<BR>エクストラデッキからこのカードの同名モンスター1体を墓地に送る事で、相手のライフに2000ポイントのダメージを与える。<BR>自分の墓地に「人造合成神」と名の付くカードが存在しない場合、このカードを破壊する。<BR>自分の墓地に「人造合成神」と名の付くカードが2枚以上存在する場合、このカードはモンスターカードの効果で破壊されない。</Td></Table>)
ゲブヌトの時点で、一般的な天子像からは掛け離れた容姿だったが、こいつも大分スゴイ。
男性的で筋骨隆々の厚い胸板には女の乳房がぶら下がり、手足には男と女の四肢がワンセットずつ生えていてクモのように八本足、
それでいて、しかも頭は魔術師風のオッサンの首の横にライオンの首が構えている……怖い以前に、少々滑稽である。
「〔テフ・シュ〕の効果発ど~。
エクストラデッキから、2枚の〔テフ・シュ〕を射出するよ。」
放たれた2発のソリッドビジョンの光弾がウォンビックを叩き、膝を付かせるがそれはソリッドビジョンのせいではない。
確かにソリッドビジョンとは言っても光の塊であり、裸電球に素手で触るように当たり方が悪ければ火傷もする。
とはいえ、その程度の肉体的なダメージで倒れるほど弱くはない。
人造合成神 テフ・シュ:エクストラデッキ→墓地へ。
人造合成神 テフ・シュ:エクストラデッキ→墓地へ。
ウォンビック:LP8000→LP6000→LP4000
ライフダメージが深刻である。
同名カードは3枚までなので、これ以上のダメージはない……はずだが、ウォンビックの脳裏にこの状況で恐るべき破壊力を発揮するカードの名が浮かんでいた。
「〔貪欲な壺〕、発動!」
&html(<Table Border BorderColor="#0f9926" Border="2"><Tr><Td>貪欲な壺</Td><Td>通常魔法</Td></Tr><Td ColSpan="4">自分の墓地からモンスターカードを5枚選択し、デッキに加えてシャッフルする。<br>その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。 </Td></Table>)
人造合成神 テフ・シュ:墓地→エクストラデッキへ。
人造合成神 テフ・シュ:墓地→エクストラデッキへ。
人造合成神 ゲブヌト:墓地→エクストラデッキへ。
人造合成神 ゲブヌト:墓地→エクストラデッキへ。
ゴヨウ・ガーディアン:墓地→エクストラデッキへ。
シャモン:手札1→手札3
「弾丸装填、完了、だね。」
先ほどと同じように、2発の光弾がウォンビックを焼いた。
人造合成神 テフ・シュ:エクストラデッキ→墓地へ。
人造合成神 テフ・シュ:エクストラデッキ→墓地へ。
ウォンビック:LP4000→LP2000→LP0
「……え?」
あっけなかった。
あっけなさすぎた決着に、トガは付いていけなかった。
封魔の呪印でフォローしたにも関わらずおジャマロックは1ターンで破られ、しかもその次のターンではウォンビックがライフを失っていた。
「これがオレの無限シンクロ。
猩々鬼の無限融合に対抗して作ってんだ。」
「あんた、×××なんじゃないの!?
そんなバカみたいなカード使ってっ!」
トガがさらに言葉を続けようとしたが、ウォンビックは手で制す。
敗者が勝者に何を言おうとも、それは空しい雑音でしかないのだ。
「エクストラデッキは全部で15枚……。
〔ゲブヌト〕と〔テフ・シュ〕を3枚ずつ詰んだら詰んでも残りは9枚。
シンクロ主体のデッキは出せるモンスターの種類が多ければそれだけ戦術が広がる。
それを圧迫し、それでも召喚には何度もシンクロをしなければならない……決して楽な戦術ではないぞ、トガ。」
「でも、でもっ!」
敗北を認めきれないトガの横を通り、ピアス怪人ことエビエスがウォンビックを見下しているような雰囲気で見上げた。
「ダーヅのルール、ドッグ&マンではデュエルとストリートファイトを1戦ずつ行うはずでしたね?
シャモン様をお待たせしては問題です、準備をしてくれませんか?」
「……殴り合いも、そのシャモンがやるのか?」
「孤児院の院長さんは、子供を殴れませんか?」
聞き捨てならない言葉だった。
自分がカードハントで得た収益で、自身も出身である孤児院を経営している事など、部下たちにしか教えていないはずなのだ。
それが表沙汰になれば子供達が戦いに巻き込まれ、子供達は“自分たちのせいでウォンビックがレアハンターをしている”と思い込むだろう。
確かに孤児院もレアハンターたる理由のひとつではあるが、最大の理由はウォンビック自身が今日のような強敵に遭遇するべく、自らの意思でやっているにすぎないのだ。
「どこから仕入れた? その情報……?」
「誰も知らないからこそ情報の価値が有る……常識です。」
「……部下にやらせていることだ、俺は構わん。
だが、お前らが反対しないことが意外だっただけだ。」
「んじゃあ、やろうか、ウォンビックくん♪」
既にフードは脱ぎすて、デュエルディスク『星』を外している。
フードを取り、ウォンビックが始めてみたシャモンの表情には、星空散歩にでも誘うように輝く笑顔が浮かんでいる。
「ダーヅでのファイティングルールは、自分の所持している物・周囲の物問わず道具の使用は認める。
急所・禁じ手・時間制限は無し、勝敗はギブアップの宣言か意識を失った場合のみ、生死は問わない。」
現代の格闘技というのは、多くのルールによって成立している。
ボクシングにおいてグローブさえつけていなければ、両腕を上げてブロックなんぞしてもその間を拳はすり抜ける。
K1において武器の使用が認められていれば、全ての人間は怖くて相手にタックルなんてできやしない。
このヴァイソンダーヅのルールでは、急所攻撃、逃亡、凶器、不意打ち、全てが認められているのだ。
「開始の合図は、ルールの確認が終った時、つまり今っ?」
既にウォンビックの視界からシャモンの姿は消え、次の瞬間には小さな靴底が目に入り、口に入っていた。
&html(<font size="6">ごりゅあ、ふあぁっと、っどぎ!</font>)
カキ氷製造機のレバーを何周か回したような音がして、ウォンビックの意識は完全に暗転した。
ウォンビックは異常な息苦しで目を覚ました、鼻は痛みだけ出で呼吸できず、ノドにも何かが引っ掛かっている。
「ぐへっ、ぐふほぁ!」
起き上がり、ノドの異物感の根源を思いっきり吐き出すが、それは異物ではなくさっきまでウォンビックの歯茎に生えていた歯。
遊戯王で歯が飛ぶのは日常茶飯事だが、それでも奥歯8本だけ綺麗に残して他は全滅、ってのは珍しいかも知れない。
「お、起きたか。」
手に持ったウノのカードを地面に伏せて、ウォンビックへ向かっていく幹部3人。
「さて、対戦の結果は覚えてますよね。」
まだ頭がグラ付いているのか、かなりぎこちない動作で頭を下げる巨人。
「ブラックマイン様っ!?」
「日本では……こうやって誠意を示すと聞いた…。
組織は見逃してくれ、俺には…孤児院にはまだ金が必要なんだ…頼む…。」
突然の土下座にたじろぎながらも、トガは同じく頭を下げた。
しかしながら、神次郎はウォンビックの晒された後頭部を右足で踏みつけ、残る左足をトガの頭の上に乗せる。
「知らないようだから教えてやろう、アメリカの単血人種。
頭を下げると言う行為は、私の様に高貴な人間がするからこそ効果も意味もある。
貴様の様な暴力団にも為れない半端者の土下座なんぞ芥の価値も無いわァッ!」
「……頼む。」
アスファルトに額を押し付けられても、ウォンビックの人間離れした頭蓋骨ならば痛くも痒くもない。
だが、まだ初恋もしてない(とウォンビックは認識している)ような少女、トガという部下を守れず恥を重ねている…。
その事実は、ウォンビックの一軍の長たるプライドと人間としての性根を揺るがすが、その激情を抑えねばならない状況に、明確な『痛み』を感じていた。
「……だったらさ、正念党で幹部やらない? 2番幹部か6番幹部で。
エビエスが会計してくれてるけど急がしそうだし…ウォンビックくんって会計できる?」
「会計ならばできるが…しかし…。」
「適当で良いよ~、もし余った資金の一部をどっかの孤児院の募金に当てたりしても気付かないからさ。」
それを聞いて盛大に笑う神次郎に、肩を振るわせるエビエス。
「私は反対です! 横領容認の会計や裏切る可能性の高い者を幹部にするなどと!」
「良いじゃん、お金なら7桁か8桁くらい余ってるんだからさ。
それにウォンビックくんは自分の誇り捨てて、孤児院に執着する人だよ?
『必要以上の物を求めないから裏切らない』、って猩々鬼の貸してくれた漫画に描いてあった。
……人を殴らないでもデュエルは出来るよ……ウォンビックくん。」
福音だった。
キリスト教徒のウォンビックには、そのシャモンの言葉が救世主の声にさえ聞こえていた。
「…その申し出、喜んで受けよう、よろしく。」
「とりあえず、顔を上げてよ。」
ウォンビックは、他意なく顔を上げた。
その運動は、ウォンビックの腹筋と背筋が総動員した上半身は、その上に乗っていた物を後方に投げ飛ばす投石器だ。
……結果、頭を踏んでいた(というか乗っていた)神次郎は弾き飛ばされ、のた打ち回り、屋上のフェンスに叩きつけられた。
「……ふん、激痛だ。 私でなければ惨めに泣き叫んでいただろう。」
口調は厳としていたが、今にも泣きそうな子供のように顔を歪ませている。
だが、我慢しても誰も感心がないことに神次郎は気が付くと、さらにちょっと泣きそうになった。
「遊んでいる場合ではありませんよ、神第5幹部!」
エビエスに怒鳴られ、マジで泣きそうだよ、神次郎。
「幹部による多数決、それは正念党の原則にして最大のルール!
現在の幹部は5名、シャモン様が賛成するとしても私を含め三人が反対すれば、それで否決です。」
視線は、一挙にこの場のシャモンやエビエス以外の唯一の幹部、神次郎へと自然に集中する。
「ハ、ハーッハッハ! 私は構わん!
その程度のことで苦言を垂らす……ほど、器は小さくは無いッ!」
注目され、元気に立ち上がる神次郎。
「ック……ですがシャモン様、残る第3幹部と第4幹部が両名とも反対すれば、否決です。」
「大丈夫だよ、二人とも細かい事は気にしないから。」
その意見にはエビエスも賛成らしい。
正念党の幹部の中に、保守派はエビエス一人しかいないのだ。
「というわけで、よろしく。 ウォンビックくん。」
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