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幸運と不幸は紙一重? - (2008/02/29 (金) 21:56:34) の1つ前との変更点
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第59話 幸運と不幸は紙一重?
(ごめんね……プリシス。訂正する、2つじゃなかった)
黒服の男を追い掛けて森を抜けると、驚くことに獲物の数が増えていた。
(4つだった。目の前の3人と拡声器の娘)
自然に笑みが浮かんでくる。
『運が良い』こんなことを思ったのは何時が最後だったろうか?
獲物の様子がおかしい。
どうやら自分が現れたことに気付いていない様だ。
『運が良い』3人とはいえ、そんな間抜けの集まりなのだから。
思わず声に出して笑い出しそうになるのをグッとこらえ、代わりとばかりに剣を構えなおす。
「行くよ2人とも」
そしてアシュトンは一気に間合いを詰めに掛った。
■
「はやく、たす…逃げ……ごろざれちまう」
「あー、もう、だから何なのよ!」
助けを求めつつもこの場から逃げようとする男を、メルティーナは捕まえて思わず怒鳴る。
このキモ男の様子から切羽詰まった状態であること、何者かに追われていたことは予想できる。
だが、キモ男がやって来た方向からその『何者か』は一向に現れないではないか。
取り合えず何がおこったのか聞き出したかった。
「兎に角落ち着きなさい! 冷えない敵って一体何なの?」
その言葉を聞いた男は、メルティーナの両肩に掴みかかる。
「ちょっ……」
「またか、このド変態! お姉さまから離れろ!」
またしてもロジャーの言葉を無視し、男は必死の形相で訴える。
「ち、ちが……、み、見えない敵が……」
「……見えない敵?」
「そうだ、見えなアガァッーー!」
突然キモ男に異変がおこった。言葉の最中に妙な声を上げる。必死だった顔は間抜けなものに変わった。
横を見るとロジャーは何かに驚いた表情――こちらも中々の間抜け面だ。
メルティーナ自身にも異変があった。キモ男の変化とほぼ同時に腹部に鈍い痛みを感じた。
腹部を見てみる、透明な刃物の様な物が、キモ男を貫通して自身の腹部に刺さっていた。
メルティーナは慌ててキモ男を『更に後ろにいる何者か』ごと突き飛ばし、距離を取る。
ロジャーはそれを見るなり我に返り、心配そうに近寄ってきた。
「お姉さま、大丈夫ですか!」
「何とかね、深くは刺さってなかったみたい。それより……」
倒れた『2人』に目を向けると、キモ男は右側面を上に向けた状態で横になっていた。
「がぁ……」
キモ男が苦痛の声を上げると同時に、腹部から血が噴き出す。傷口をえぐったのだろうか?
「ぐぎゃぁぁああぁあぁぁ!!」
次の瞬間、腹部の傷口が上方向に向かって広がっていった。腹に刺さっていた刃物をそのまま振り上げたのだ。
傷口から勢い良く血が噴き出し、男の上――何もないはずの空間から臓物が現れ、ベチャっと地面に落ちる。
更にキモ男の首筋から血が滴り始め……ロジャーはその光景を呆然としながら眺めていた。
メルティーナは、そんなロジャーの耳元で、何かを囁いく。
■
(まずは1人……簡単じゃないか)
男の首を切り落としながら、アシュトンはそんなことを思った。
(クロード達や十賢者以外は対したことないのかもなぁ)
そうしている内に獲物の方に動きがあった。
女の方はデイパックから杖を取りだし、その場で構える。
少年の方は手ぶらでこちらに向かってくる。
(まずは彼から)
牽制のために、足下に転がっている男の首を少年に向かって蹴り飛ばす。
それに驚いたのか、少年は小さな悲鳴を漏らし足を止めた。
チャンスとばかりに急接近、斬りつけようとするも――その攻撃は途中から防御に切り替えた。
「でぇぇいやぁぁ!」
少年の手から斧の様な物が現れ、それを振り下ろしてきたのだ。
剣でそれを防ぎ、バックステップで距離を取り、次の攻撃に備えるが――それだけだった。
後の攻撃はその場で斧を振り回すだけのもの。つまり先程の攻撃はまぐれだったのだろう。
「……ギョロ」
溜め息混じりの一言、直後少年は炎に包まれた。
のたうち回る少年に止めを刺すべく近寄るが、背後からの声がそれを止める。
「ギャフー!(不味いアシュトン! 女の方だ!)」
女の方に目を向ける。
「……安息を得るだろう……」
術の詠唱だろうか?
術は余り詳しくないアシュトンだったが、ウルルンの様子からアレが相当不味いものだと判断。
直ぐに女の方へ向かおうとする。今ならまだ阻止できると思ったから。
「永遠に……」
だが、駆け出す瞬間何かを踏みつけて転倒。肩に掛けていたデイパックが放り出され、中身を前方にぶちまける。
踏みつけたものを確認すると、それは先程自分が蹴り飛ばした男の頭部だった。
「儚く」
今からでは間に合わない。何だか分からないが直撃を貰う訳にはいかない。
身を守る手段を必死に探し――
「セレスティアルスター!」
女が術名叫ぶと同時に、天から光の柱が次々と降り注いだ。
■
大魔法『セレスティアルスター』
降り注ぐ光の柱がアシュトンの周辺を、ロジャーもろとも飲み込んだ。
位置が完全に把握できない敵を倒すなら、大魔法で広範囲を攻撃すればいい。
彼女の支給品に大魔法が行使できる『エレメント・セプター』が有ったのは幸運だった。
もっとも、エレメント・セプターは使い捨て。彼女のそれは大魔法と引き替えに崩れさっていた。
正直こんなに上手くいくとは思っていなかった。
『ロジャー、お願いが有るんだけど』
『ひっ……あ、はい、何でしょうお姉さま』
『悪いんだけど、アイツの相手をしてくれない? 私の武器貸して上げるから』
そう耳打ちすると、ロジャーは驚愕の表情を浮かべてこちらを見た。
『アレはおそらくディメンジョン・スリップ。簡単に言うと透明人間になれる道具。
アレ姿や気配は消せるけど、物音や声は消せないの。だから……』
『それを頼りに戦えってこと? そんなのオイラには無理……』
『あんたは強いんでしょ? 全力で私を守ってくれるんじゃなかったの?』
それを聞いてロジャーはうつむいた。
さすがに無理なお願いだと思った。断られたらさっさとこの場から退くつもりだった。ところが……。
『解りました、オイラがお姉さまのために必ずや奴を倒して見せます!』
そう言ってレーザーウェポンを手に取り、駆け出して行った。
守るべき対象に見捨てられるとも知らずに。
光の柱も最後の一本が収束していき、明らかになった視界には一見誰も立っていないように見えた。
「まっ、これで死ななきゃ……!?」
言葉途中で気付いた。何処かおかしい。何処だ?
地面に転がっているのは男の頭部といくつかの道具――これは別におかしく無い。
敵の死体が無い――透明人間なのだから当たり前だ。
ロジャーは――ボロ雑巾の様な姿になって、ぐったりしていた……
空中で静止した状態で。
「……ッ!! ダーク・セイヴァー!」
メルティーナは直ぐ様魔法を放つ。それに対し、相手は手にしたロジャーを投げつけて応戦。
(……これって、まさか)
彼女は数時間前に同じ様なことを体験している。そして、今回も同じ様に魔法は無効化された。
「また!?」
ただ、その後は違った。今回のロジャーは止まらずに激突する。
尻餅を付いた彼女は直ぐに起き上がろうとするが、相手はそれを許さなかった。
足を一閃。
倒れた彼女の腕を掴んで持ち上げ、その状態で一言悪態を付いた。
「さっきの術、凄く痛かったんだけど」
『何て無様なんだろう』『何故あの時逃げなかったのか』『私にはまだやらなければならないことがあるのに』
メルティーナの頭に様々な弱い言葉が浮かぶが、それらを無視して集中力を高める。
駄目元で、一発かましてやるために魔法の詠唱を行うが、
「させないよ」
それすら中断を余儀なくされる。
「あああああっ!!」
顔面に焼ける様な痛みが走る。顔を斬りつけられた様だ。
それだけでは終わらない、相手は更に剣を走らせる。腕に、胴に、足に、
何度も何度も何度も何度も……。
不可視の剣はメルティーナを相手に踊り続けた。
■
「やれやれ、大分てこずっちゃったな」
アシュトンは、ダルそうに体を引きずりながら荷物の回収・整理を行う。彼の体もボロボロだった。
大魔法が放たれた瞬間、彼はロジャーを掴み上げ、盾として利用した。
もっとも、形の小さいロジャーでは完全に防ぐことはできなかった。
それでもアシュトンは死ななかったし、四肢も無事だ。動くこともできる。
「ギャフ?(おいアシュトン、あの小さい奴は何処へ行った?)」
「あれ? そう言えば……」
言われてからロジャーの首輪を回収していないことを思い出した。
辺りを見回すが、そこに有る死体は2つだけ。
「ギャ?(逃げられたのか?)」
「んー……多分そうなんだろうね。折角の獲物を取り逃がすなんて、やっぱり僕は不幸だなぁ」
溜め息を付きつつ彼は立ち上がる。
「ギャウ?(探すのか?)」
「いや、例の娘の所へ急ぐよ」
それを聞いてギョロとウルルンは顔を見合わせる。
「ギャフー(少し休んだ方が良いぞ)」
「僕のことなら心配いらないよ。それより、例の娘がいなくなってないかの方が心配だよ」
そう言って彼はよろよろと歩き出す。背中の二匹は『やれやれ』といった感じの仕草をしていた。
■
アシュトンがいた場所の直ぐ近くに、ロジャーは倒れていた。
直ぐに死んでもおかしく無いくらい重傷だったが、彼はまだ生きていた。
彼の幸運は3つ。
セレスティアルスターを受けたとき、グリーンタリスマンが発動したこと。
ダーク・セイヴァーに対し、ウィザードクロスが発動したこと。
そして、倒れたときに、もう一つのディメンジョン・スリップを無意識の内に握っていたこと。
【G-05/真昼】
【アシュトン・アンカース】[MP残量:70%]
[状態:疲労、ダメージ大]
[装備:アヴクール@RS、ディメンジョン・スリップ@VP]
[道具:無稼動銃、マジックミスト、レーザーウェポン、ルナタブレット、首輪×2、荷物一式]
[行動方針:プリシスの望むまま首輪を狩り集める]
[思考1:拡声器の主のところへ急ぐ]
[現在位置:G-05、南へ移動中]
【ノートン@SO3 死亡】
【メルティーナ@VP 死亡】
――あれから何時間経ったのかな? それとも何分かな?
身体のあちこちが痛い。
声が出せない、呼吸をするたびに苦痛が押し寄せる。
手足が動かない、四肢がちゃんと付いているかどうかすら分からない。
「……ッ!? これは」
「え……!? いやぁ!」
――声が聞こえた、男と……たぶん綺麗なお姉さまの声だ! 人が来たんだ!
「惨いな」
――惨いと言った。きっとオイラ達の状態のことだ。惨い状態でも、オイラはまだ生きているんだぞ。
「ディアス、この人……」
「あの時の男か」
――バカチン! そっちじゃない! まずはオイラを……。
「あの呼び掛け……この女性のものだったのかな?」
「この状態では何とも言えんな。それより……」
――そうだ、それよりオイラを……。
「早くここから離れるぞ。有らぬ疑いを掛けられるは御免だ」
――待って! オイラを無視するなんて酷いじゃんか! お願いだ、助けて……。
「……けて……」
「? レナ、何か言ったか?」
「え? 何も言ってないけど」
「そうか」
彼の不幸。
それは、最期までディメンジョン・スリップを手放さなかったこと。
【G-05/真昼】
【ディアス・フラック】[MP残量:100%]
[状態:正常]
[装備:護身刀“竜穿”@SO3]
[道具:????×2←本人確認済み、荷物一式]
[行動方針:ゲームに乗った参加者の始末]
[思考1:レナを最優先に保護]
[現在位置:G-05、三つに分かれた道]
【レナ・ランフォード】[MP残量:100%]
[状態:正常]
[装備:無し]
[道具:????×2←本人確認済み、荷物一式]
[行動方針:死にたくない]
[思考1:仲間と合流したい]
[現在位置:G-05、三つに分かれた道]
【ロジャー・S・ハクスリー@SO3 死亡】
【残り45人】
※ロジャーの死体はディメンジョン・スリップを握っているため見えません。
※エレメント・セプター、ウィザードクロス、グリーンタリスマンは壊れました。
**第59話 幸運と不幸は紙一重?
(ごめんね……プリシス。訂正する、2つじゃなかった)
黒服の男を追い掛けて森を抜けると、驚くことに獲物の数が増えていた。
(4つだった。目の前の3人と拡声器の娘)
自然に笑みが浮かんでくる。
『運が良い』こんなことを思ったのは何時が最後だったろうか?
獲物の様子がおかしい。
どうやら自分が現れたことに気付いていない様だ。
『運が良い』3人とはいえ、そんな間抜けの集まりなのだから。
思わず声に出して笑い出しそうになるのをグッとこらえ、代わりとばかりに剣を構えなおす。
「行くよ2人とも」
そしてアシュトンは一気に間合いを詰めに掛った。
■
「はやく、たす…逃げ……ごろざれちまう」
「あー、もう、だから何なのよ!」
助けを求めつつもこの場から逃げようとする男を、メルティーナは捕まえて思わず怒鳴る。
このキモ男の様子から切羽詰まった状態であること、何者かに追われていたことは予想できる。
だが、キモ男がやって来た方向からその『何者か』は一向に現れないではないか。
取り合えず何がおこったのか聞き出したかった。
「兎に角落ち着きなさい! 冷えない敵って一体何なの?」
その言葉を聞いた男は、メルティーナの両肩に掴みかかる。
「ちょっ……」
「またか、このド変態! お姉さまから離れろ!」
またしてもロジャーの言葉を無視し、男は必死の形相で訴える。
「ち、ちが……、み、見えない敵が……」
「……見えない敵?」
「そうだ、見えなアガァッーー!」
突然キモ男に異変がおこった。言葉の最中に妙な声を上げる。必死だった顔は間抜けなものに変わった。
横を見るとロジャーは何かに驚いた表情――こちらも中々の間抜け面だ。
メルティーナ自身にも異変があった。キモ男の変化とほぼ同時に腹部に鈍い痛みを感じた。
腹部を見てみる、透明な刃物の様な物が、キモ男を貫通して自身の腹部に刺さっていた。
メルティーナは慌ててキモ男を『更に後ろにいる何者か』ごと突き飛ばし、距離を取る。
ロジャーはそれを見るなり我に返り、心配そうに近寄ってきた。
「お姉さま、大丈夫ですか!」
「何とかね、深くは刺さってなかったみたい。それより……」
倒れた『2人』に目を向けると、キモ男は右側面を上に向けた状態で横になっていた。
「がぁ……」
キモ男が苦痛の声を上げると同時に、腹部から血が噴き出す。傷口をえぐったのだろうか?
「ぐぎゃぁぁああぁあぁぁ!!」
次の瞬間、腹部の傷口が上方向に向かって広がっていった。腹に刺さっていた刃物をそのまま振り上げたのだ。
傷口から勢い良く血が噴き出し、男の上――何もないはずの空間から臓物が現れ、ベチャっと地面に落ちる。
更にキモ男の首筋から血が滴り始め……ロジャーはその光景を呆然としながら眺めていた。
メルティーナは、そんなロジャーの耳元で、何かを囁いく。
■
(まずは1人……簡単じゃないか)
男の首を切り落としながら、アシュトンはそんなことを思った。
(クロード達や十賢者以外は対したことないのかもなぁ)
そうしている内に獲物の方に動きがあった。
女の方はデイパックから杖を取りだし、その場で構える。
少年の方は手ぶらでこちらに向かってくる。
(まずは彼から)
牽制のために、足下に転がっている男の首を少年に向かって蹴り飛ばす。
それに驚いたのか、少年は小さな悲鳴を漏らし足を止めた。
チャンスとばかりに急接近、斬りつけようとするも――その攻撃は途中から防御に切り替えた。
「でぇぇいやぁぁ!」
少年の手から斧の様な物が現れ、それを振り下ろしてきたのだ。
剣でそれを防ぎ、バックステップで距離を取り、次の攻撃に備えるが――それだけだった。
後の攻撃はその場で斧を振り回すだけのもの。つまり先程の攻撃はまぐれだったのだろう。
「……ギョロ」
溜め息混じりの一言、直後少年は炎に包まれた。
のたうち回る少年に止めを刺すべく近寄るが、背後からの声がそれを止める。
「ギャフー!(不味いアシュトン! 女の方だ!)」
女の方に目を向ける。
「……安息を得るだろう……」
術の詠唱だろうか?
術は余り詳しくないアシュトンだったが、ウルルンの様子からアレが相当不味いものだと判断。
直ぐに女の方へ向かおうとする。今ならまだ阻止できると思ったから。
「永遠に……」
だが、駆け出す瞬間何かを踏みつけて転倒。肩に掛けていたデイパックが放り出され、中身を前方にぶちまける。
踏みつけたものを確認すると、それは先程自分が蹴り飛ばした男の頭部だった。
「儚く」
今からでは間に合わない。何だか分からないが直撃を貰う訳にはいかない。
身を守る手段を必死に探し――
「セレスティアルスター!」
女が術名叫ぶと同時に、天から光の柱が次々と降り注いだ。
■
大魔法『セレスティアルスター』
降り注ぐ光の柱がアシュトンの周辺を、ロジャーもろとも飲み込んだ。
位置が完全に把握できない敵を倒すなら、大魔法で広範囲を攻撃すればいい。
彼女の支給品に大魔法が行使できる『エレメント・セプター』が有ったのは幸運だった。
もっとも、エレメント・セプターは使い捨て。彼女のそれは大魔法と引き替えに崩れさっていた。
正直こんなに上手くいくとは思っていなかった。
『ロジャー、お願いが有るんだけど』
『ひっ……あ、はい、何でしょうお姉さま』
『悪いんだけど、アイツの相手をしてくれない? 私の武器貸して上げるから』
そう耳打ちすると、ロジャーは驚愕の表情を浮かべてこちらを見た。
『アレはおそらくディメンジョン・スリップ。簡単に言うと透明人間になれる道具。
アレ姿や気配は消せるけど、物音や声は消せないの。だから……』
『それを頼りに戦えってこと? そんなのオイラには無理……』
『あんたは強いんでしょ? 全力で私を守ってくれるんじゃなかったの?』
それを聞いてロジャーはうつむいた。
さすがに無理なお願いだと思った。断られたらさっさとこの場から退くつもりだった。ところが……。
『解りました、オイラがお姉さまのために必ずや奴を倒して見せます!』
そう言ってレーザーウェポンを手に取り、駆け出して行った。
守るべき対象に見捨てられるとも知らずに。
光の柱も最後の一本が収束していき、明らかになった視界には一見誰も立っていないように見えた。
「まっ、これで死ななきゃ……!?」
言葉途中で気付いた。何処かおかしい。何処だ?
地面に転がっているのは男の頭部といくつかの道具――これは別におかしく無い。
敵の死体が無い――透明人間なのだから当たり前だ。
ロジャーは――ボロ雑巾の様な姿になって、ぐったりしていた……
空中で静止した状態で。
「……ッ!! ダーク・セイヴァー!」
メルティーナは直ぐ様魔法を放つ。それに対し、相手は手にしたロジャーを投げつけて応戦。
(……これって、まさか)
彼女は数時間前に同じ様なことを体験している。そして、今回も同じ様に魔法は無効化された。
「また!?」
ただ、その後は違った。今回のロジャーは止まらずに激突する。
尻餅を付いた彼女は直ぐに起き上がろうとするが、相手はそれを許さなかった。
足を一閃。
倒れた彼女の腕を掴んで持ち上げ、その状態で一言悪態を付いた。
「さっきの術、凄く痛かったんだけど」
『何て無様なんだろう』『何故あの時逃げなかったのか』『私にはまだやらなければならないことがあるのに』
メルティーナの頭に様々な弱い言葉が浮かぶが、それらを無視して集中力を高める。
駄目元で、一発かましてやるために魔法の詠唱を行うが、
「させないよ」
それすら中断を余儀なくされる。
「あああああっ!!」
顔面に焼ける様な痛みが走る。顔を斬りつけられた様だ。
それだけでは終わらない、相手は更に剣を走らせる。腕に、胴に、足に、
何度も何度も何度も何度も……。
不可視の剣はメルティーナを相手に踊り続けた。
■
「やれやれ、大分てこずっちゃったな」
アシュトンは、ダルそうに体を引きずりながら荷物の回収・整理を行う。彼の体もボロボロだった。
大魔法が放たれた瞬間、彼はロジャーを掴み上げ、盾として利用した。
もっとも、形の小さいロジャーでは完全に防ぐことはできなかった。
それでもアシュトンは死ななかったし、四肢も無事だ。動くこともできる。
「ギャフ?(おいアシュトン、あの小さい奴は何処へ行った?)」
「あれ? そう言えば……」
言われてからロジャーの首輪を回収していないことを思い出した。
辺りを見回すが、そこに有る死体は2つだけ。
「ギャ?(逃げられたのか?)」
「んー……多分そうなんだろうね。折角の獲物を取り逃がすなんて、やっぱり僕は不幸だなぁ」
溜め息を付きつつ彼は立ち上がる。
「ギャウ?(探すのか?)」
「いや、例の娘の所へ急ぐよ」
それを聞いてギョロとウルルンは顔を見合わせる。
「ギャフー(少し休んだ方が良いぞ)」
「僕のことなら心配いらないよ。それより、例の娘がいなくなってないかの方が心配だよ」
そう言って彼はよろよろと歩き出す。背中の二匹は『やれやれ』といった感じの仕草をしていた。
■
アシュトンがいた場所の直ぐ近くに、ロジャーは倒れていた。
直ぐに死んでもおかしく無いくらい重傷だったが、彼はまだ生きていた。
彼の幸運は3つ。
セレスティアルスターを受けたとき、グリーンタリスマンが発動したこと。
ダーク・セイヴァーに対し、ウィザードクロスが発動したこと。
そして、倒れたときに、もう一つのディメンジョン・スリップを無意識の内に握っていたこと。
【G-05/真昼】
【アシュトン・アンカース】[MP残量:70%]
[状態:疲労、ダメージ大]
[装備:アヴクール@RS、ディメンジョン・スリップ@VP]
[道具:無稼動銃、マジックミスト、レーザーウェポン、ルナタブレット、首輪×2、荷物一式]
[行動方針:プリシスの望むまま首輪を狩り集める]
[思考1:拡声器の主のところへ急ぐ]
[現在位置:G-05、南へ移動中]
【ノートン@SO3 死亡】
【メルティーナ@VP 死亡】
――あれから何時間経ったのかな? それとも何分かな?
身体のあちこちが痛い。
声が出せない、呼吸をするたびに苦痛が押し寄せる。
手足が動かない、四肢がちゃんと付いているかどうかすら分からない。
「……ッ!? これは」
「え……!? いやぁ!」
――声が聞こえた、男と……たぶん綺麗なお姉さまの声だ! 人が来たんだ!
「惨いな」
――惨いと言った。きっとオイラ達の状態のことだ。惨い状態でも、オイラはまだ生きているんだぞ。
「ディアス、この人……」
「あの時の男か」
――バカチン! そっちじゃない! まずはオイラを……。
「あの呼び掛け……この女性のものだったのかな?」
「この状態では何とも言えんな。それより……」
――そうだ、それよりオイラを……。
「早くここから離れるぞ。有らぬ疑いを掛けられるは御免だ」
――待って! オイラを無視するなんて酷いじゃんか! お願いだ、助けて……。
「……けて……」
「? レナ、何か言ったか?」
「え? 何も言ってないけど」
「そうか」
彼の不幸。
それは、最期までディメンジョン・スリップを手放さなかったこと。
【G-05/真昼】
【ディアス・フラック】[MP残量:100%]
[状態:正常]
[装備:護身刀“竜穿”@SO3]
[道具:????×2←本人確認済み、荷物一式]
[行動方針:ゲームに乗った参加者の始末]
[思考1:レナを最優先に保護]
[現在位置:G-05、三つに分かれた道]
【レナ・ランフォード】[MP残量:100%]
[状態:正常]
[装備:無し]
[道具:????×2←本人確認済み、荷物一式]
[行動方針:死にたくない]
[思考1:仲間と合流したい]
[現在位置:G-05、三つに分かれた道]
【ロジャー・S・ハクスリー@SO3 死亡】
【残り45人】
※ロジャーの死体はディメンジョン・スリップを握っているため見えません。
※エレメント・セプター、ウィザードクロス、グリーンタリスマンは壊れました。