対戦乙女用最終兵器
**第73話 対戦乙女用最終兵器 「ま…も……る」 その呟きと共に、目の前の男女が光の中に消えていく。 「ちッ!」 転移――男の能力なのだろう。先程の攻防では多少驚かされたが、この地に神界の民もいることも考えれば別に珍しい能力ではない。 取り合えず周囲を見渡してみるが、彼等が現れた様子も、現れる様子もない。 その後、一通り境内をみて回ったが、彼等の姿は何処にもなかった。 洵はデイパックから地図を取り出し、その場で広げる。すでに彼等が何処へ行ったのかは分からない。だが、男の傷は深いはずだ。 「治療するための道具・術が無いと仮定。俺なら……」 この神社の近くには、村とホテル跡がある。 村なら治療のための道具が手には入るかも知れない。人も集まりやすい。回復の術を持つ者がいるかも知れない。 だが、やって来る者のなかには自分の様な人間もいるはずだ。重傷の人間を連れ歩くには少々危険だろう。 ホテルはどのようなものかは分からない。『跡』という字がついてるため、受ける印象は良くない。 暫く考えた後、彼は結論を下す。 「俺なら村へ行く」 小一時間後、洵は平瀬村にある茂みに身を隠していた。 先程の戦いで手に入れた支給品。今、それの確認を行っていた所だ。 村には人が集まりやすい。 ヴァルキリーやブラムスといった強者がここに来ているかも知れない。先程の男女が自分より先に村へ来ているかも知れない。 仮に、あの男女が既にヴァルキリーと手を組んでいたら……正攻法では間違いなく勝てないだろう。 神社で支給品を回収した時点で、木刀以外は武器ではなさそうだということは分かっていた。 灰色の小さく薄い板と掌サイズの箱が二つ。どちらも見たことがない道具だ。 それでも、エンジェル・キュリオに似た力があるリバースドールなんて物があったのだ、 もしかしたら、これにもディメンジョン・スリップやタイマーリングの様な非常に役立つ力があるかも知れない。 この道具の力によっては、ヴァルキリーの様な強者さえ出し抜けるかも知れない。 そういう期待も込めて、説明書を読んでみたが、 「…………」 現実は非情であった。 箱の方――コミュニケーターは翻訳機能や通信機能など便利な機能がついているが、戦闘面では役に立たない。 板の方に至っては、これ一つだけでは意味がないようだ。 「むぅ……これがあれば何時でも阿衣と会話が……ゲフンゲフン……まったく、自分以外の全てが敵だと言うのに、 離れた相手と会話できる道具など何の役に立つんだ?」 洵は大きく溜息をついた後、道沿いに歩き出した。 ■ 平瀬村へ続く一本道を進みながら、ルシオはこれからのことについて考えていた。 彼の取り合えずの行動方針は『知り合いと合流(特にレナス)』なのだが、今頃になってこの行動方針に不安を感じ始めていたのだ。 (アリューゼ、メルティーナ、夢瑠、エイミ、洵、これにプラチナを加えて残り六人か。 プラチナは兎も角、他の五人は信用できるのだろうか……) 彼がレナスの下で仲間達と共に戦った期間はお世辞にも長いとは言えない。 おまけに、その短い期間はレナスのことばかり気に掛けていて、他の仲間とは余り交流を持たなかった。 この島に連れてこられている面々とも、数回言葉を交した程度の関係なのだ。 (ま、まぁ何時までもこんなことで悩んではいられないよな。それに彼女が自ら選んだ仲間達なんだ。多分……いや、きっと大丈夫さ) そう自分に言い聞かせて、彼は歩を進める。目的地はもうすぐそこまで迫っていた。 この村の雰囲気は、自分の故郷と何となく似ている気がした。 と言っても、風景は民家の数がそれほど多くないことくらいしか似ていない。 人がいないせいか、何とも寂しげな雰囲気をかもし出している……その寂しげな所が似ているのだ。 故郷には思い出したくないことが沢山ある。たが、それ以上にプラチナとの思い出が沢山あった。 そういった思い出に浸りながらも、彼はレナスを求め平瀬村を進む。 「プラチナ……ここにいるといいな」 ただ、注意力は確実に低下していた。 後方から物音が聞こえる。そう気付いた時には、 「動くな」 既に首筋に刀剣が宛てがわれていた。 「持っている荷物を全て前方へ放れ。死にたくないならな」 もし相手が悪かったら既に死んでいたなと、内心苦笑いをする。 直ぐに殺されなかったということは、相手は殺し合いに乗っていない可能性もある。 だから、取り合えず相手の指示に従うことにする。 「これでいいか?」 「お前はこの遊戯の中でどう動く? 答えろ」 相手はこちらの行動方針を聞いてきた。別に隠すようなことではないので、正直に話してやる。 「……知り合いを捜している。できれば皆で一緒にこの島から脱出したい」 「あの男の話を聞いてなかったのか? ここから出られるのは一人だけだ」 「何事もやって見なきゃ分からないだろ。手段はこれから探す」 僅かな沈黙の後、不意に首に宛てがわれていた刀剣から解放される。 「ふん……どうやら目的は俺と同じの様だな」 その言葉を聞いて振り返った先にいたのは、この島に連れてこられた知り合いの一人。 倭国の特徴的な服に身を包んだ男、 「お前……洵じゃないか!」 ■ 「――そんなわけで、青髪の女と金髪の男の二人組には気をつけろ」 「友好的に近づいて油断した所を不意打ちか……良く無事だったな」 「ふん、俺を誰だと思っている」 ルシオと洵は並んで村を進む。 洵がルシオを殺さなかった理由。それは、決して気まぐれなんかではない。 「ルシオ、お前にこれを渡しておく」 「? なんだこれ?」 ルシオに渡したのはコミュニケーターの片割れ。 「仕組みは分からんが、これを持つ者どうしは離れていても会話ができる。使い方は歩きながら説明してやる」 コミュニケーターには他にも機能はあるが、それを教えてやる義理はない。 「どうしてそれを俺に?」 「この村での詮索が終わったら、一旦別れることを提案する」 それを聞いたルシオは怪訝な顔つきになるが、気にせず続ける。 「俺達の一番の目的は『ヴァルキリーと合流すること』だ。二人で一緒に探すより別々に探す方が効率がいい」 「しかし……」 ルシオが何か言いたげだが、そんなことは気にしない。 「ヴァルキリーと合流できたら、この『こみゅにけいたあ』を使って連絡をする。分かったな」 「あ、ああ」 まだ何か言いたげだが、渋々合意してくれた様だ。 ■ ――俺はあの時のことを良く憶えている。 ブラムスやレザード・ヴァレスの協力もあって、蘇ったヴァルキリーの様子。 取り乱していた。あのヴァルキリーがだ。原因はルシオにあるらしい。 この二人の関係については興味は無い。 ただ、ルシオの存在はヴァルキリーにとって弱点となるのではないか? そう考えた。 さて、俺達が無事ヴァルキリーと合流できたらどうするか? ルシオを人質にして、ヴァルキリーを手駒として使ってみるか? それとも、隙を見て二人とも殺るか? まぁ、結論はその時になってから出すとしよう。 もし、ヴァルキリーと合流する前にルシオが死んだ場合は? その時、ヴァルキリーは平静を保っていられるのだろうか。これはこれで興味を引かれる…… 「なあ、洵。取り合えずこの道具の使い方を教えてくれよ」 「ん……ああ、そうだな。では、まずはこの突起を――」 二人は、会話しながら一歩一歩着実に村の中を進んでいった。 「と、そうだ、もう一つ見せたい物がある」 「……スターオーシャン? ブルースフィア?」 「説明書によると『げえむぼうい』とやらが無いと意味が無い道具らしい。げえむぼういとは何か分かるか?」 「ごめん、聞いたことも無い言葉だ」 「…………」 「ついでだ、プラ……ヴァルキリーと並行してその『げえむぼうい』ってやつも探しておくよ」 「すまない、そうしてもらえると助かる」 【F-2/午後】 【ルシオ】[MP残量:100%] [状態:正常] [装備:アービトレイター@RS] [道具:無敵ユニット、コミュニケーター@SO3、確認済み支給品×0~1、荷物一式] [行動方針:知り合いと合流(特にレナス)] [思考1:洵と共に平瀬村で仲間の詮索] [思考2:ゲームボーイを探す] [現在地:平瀬村] [備考]: ※コミュニケーターの機能は通信機能しか把握していません ※マリアとクレスを危険人物と認識(名前は知りません) 【洵】[MP残量:80%] [状態:腹部の打撲、顔に痣、首の打ち身:戦闘に多少支障をきたす程度] [装備:ダマスクスソード@TOP、木刀] [道具:コミュニケーター@SO3、スターオーシャンBS@現実世界、荷物一式] [行動方針:自殺をする気は起きないので、優勝を狙うことにする] [思考1:出会った者は殺すが、積極的に獲物を探したりはしない] [思考2:現時点でルシオを殺すつもりはない] [思考3:ルシオを使ってレナスを利用もしくは殺害] [思考4:ゲームボーイを探す] [現在地:平瀬村] ---- [[第72話>迷い]]← [[戻る>本編SS目次]] →[[第74話>追い詰められし者の牙]] |前へ|キャラ追跡表|次へ| |[[第61話>金髪に赤いバンダナ]]|ルシオ|[[第83話>逆転協奏曲]]| |[[第60話>蘇る決意]]|洵|[[第83話>逆転協奏曲]]|