「幸運と不幸は紙一重?」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る

幸運と不幸は紙一重? - (2008/11/07 (金) 18:06:21) のソース

**第59話 幸運と不幸は紙一重?

(ごめんね……プリシス。訂正する、2つじゃなかった) 
黒服の男を追い掛けて森を抜けると、驚くことに獲物の数が増えていた。 
(4つだった。目の前の3人と拡声器の娘) 
自然に笑みが浮かんでくる。 
『運が良い』こんなことを思ったのは何時が最後だったろうか? 
獲物の様子がおかしい。 
どうやら自分が現れたことに気付いていない様だ。 
『運が良い』3人とはいえ、そんな間抜けの集まりなのだから。 
思わず声に出して笑い出しそうになるのをグッとこらえ、代わりとばかりに剣を構えなおす。 
「行くよ2人とも」 
そしてアシュトンは一気に間合いを詰めに掛った。 
■ 

「はやく、たす…逃げ……ごろざれちまう」 
「あー、もう、だから何なのよ!」 
助けを求めつつもこの場から逃げようとする男を、メルティーナは捕まえて思わず怒鳴る。 
このキモ男の様子から切羽詰まった状態であること、何者かに追われていたことは予想できる。 
だが、キモ男がやって来た方向からその『何者か』は一向に現れないではないか。 
取り合えず何がおこったのか聞き出したかった。 
「兎に角落ち着きなさい! 冷えない敵って一体何なの?」 
その言葉を聞いた男は、メルティーナの両肩に掴みかかる。 
「ちょっ……」 
「またか、このド変態! お姉さまから離れろ!」 
またしてもロジャーの言葉を無視し、男は必死の形相で訴える。 
「ち、ちが……、み、見えない敵が……」 
「……見えない敵?」 
「そうだ、見えなアガァッーー!」 
突然キモ男に異変がおこった。言葉の最中に妙な声を上げる。必死だった顔は間抜けなものに変わった。 
横を見るとロジャーは何かに驚いた表情――こちらも中々の間抜け面だ。 
メルティーナ自身にも異変があった。キモ男の変化とほぼ同時に腹部に鈍い痛みを感じた。 
腹部を見てみる、透明な刃物の様な物が、キモ男を貫通して自身の腹部に刺さっていた。 

メルティーナは慌ててキモ男を『更に後ろにいる何者か』ごと突き飛ばし、距離を取る。 
ロジャーはそれを見るなり我に返り、心配そうに近寄ってきた。 
「お姉さま、大丈夫ですか!」 
「何とかね、深くは刺さってなかったみたい。それより……」 
倒れた『2人』に目を向けると、キモ男は右側面を上に向けた状態で横になっていた。 
「がぁ……」 
キモ男が苦痛の声を上げると同時に、腹部から血が噴き出す。傷口をえぐったのだろうか? 
「ぐぎゃぁぁああぁあぁぁ!!」 
次の瞬間、腹部の傷口が上方向に向かって広がっていった。腹に刺さっていた刃物をそのまま振り上げたのだ。 
傷口から勢い良く血が噴き出し、男の上――何もないはずの空間から臓物が現れ、ベチャっと地面に落ちる。 
更にキモ男の首筋から血が滴り始め……ロジャーはその光景を呆然としながら眺めていた。 
メルティーナは、そんなロジャーの耳元で、何かを囁いく。 
■ 

(まずは1人……簡単じゃないか) 
男の首を切り落としながら、アシュトンはそんなことを思った。 
(クロード達や十賢者以外は対したことないのかもなぁ) 
そうしている内に獲物の方に動きがあった。 
女の方はデイパックから杖を取りだし、その場で構える。 
少年の方は手ぶらでこちらに向かってくる。 
(まずは彼から) 
牽制のために、足下に転がっている男の首を少年に向かって蹴り飛ばす。 
それに驚いたのか、少年は小さな悲鳴を漏らし足を止めた。 
チャンスとばかりに急接近、斬りつけようとするも――その攻撃は途中から防御に切り替えた。 
「でぇぇいやぁぁ!」 
少年の手から斧の様な物が現れ、それを振り下ろしてきたのだ。 
剣でそれを防ぎ、バックステップで距離を取り、次の攻撃に備えるが――それだけだった。 
後の攻撃はその場で斧を振り回すだけのもの。つまり先程の攻撃はまぐれだったのだろう。 
「……ギョロ」 
溜め息混じりの一言、直後少年は炎に包まれた。 
のたうち回る少年に止めを刺すべく近寄るが、背後からの声がそれを止める。 
「ギャフー!(不味いアシュトン! 女の方だ!)」 
女の方に目を向ける。 
「……安息を得るだろう……」 
術の詠唱だろうか? 
術は余り詳しくないアシュトンだったが、ウルルンの様子からアレが相当不味いものだと判断。 
直ぐに女の方へ向かおうとする。今ならまだ阻止できると思ったから。 
「永遠に……」 
だが、駆け出す瞬間何かを踏みつけて転倒。肩に掛けていたデイパックが放り出され、中身を前方にぶちまける。 
踏みつけたものを確認すると、それは先程自分が蹴り飛ばした男の頭部だった。 
「儚く」 
今からでは間に合わない。何だか分からないが直撃を貰う訳にはいかない。 
身を守る手段を必死に探し―― 
「セレスティアルスター!」 
女が術名叫ぶと同時に、天から光の柱が次々と降り注いだ。 
■ 

大魔法『セレスティアルスター』 
降り注ぐ光の柱がアシュトンの周辺を、ロジャーもろとも飲み込んだ。 
位置が完全に把握できない敵を倒すなら、大魔法で広範囲を攻撃すればいい。 
彼女の支給品に大魔法が行使できる『エレメント・セプター』が有ったのは幸運だった。 
もっとも、エレメント・セプターは使い捨て。彼女のそれは大魔法と引き替えに崩れさっていた。 

正直こんなに上手くいくとは思っていなかった。 
『ロジャー、お願いが有るんだけど』 
『ひっ……あ、はい、何でしょうお姉さま』 
『悪いんだけど、アイツの相手をしてくれない? 私の武器貸して上げるから』 
そう耳打ちすると、ロジャーは驚愕の表情を浮かべてこちらを見た。 
『アレはおそらくディメンジョン・スリップ。簡単に言うと透明人間になれる道具。 
 アレ姿や気配は消せるけど、物音や声は消せないの。だから……』 
『それを頼りに戦えってこと? そんなのオイラには無理……』 
『あんたは強いんでしょ? 全力で私を守ってくれるんじゃなかったの?』 
それを聞いてロジャーはうつむいた。 
さすがに無理なお願いだと思った。断られたらさっさとこの場から退くつもりだった。ところが……。 
『解りました、オイラがお姉さまのために必ずや奴を倒して見せます!』 
そう言ってレーザーウェポンを手に取り、駆け出して行った。 
守るべき対象に見捨てられるとも知らずに。 

光の柱も最後の一本が収束していき、明らかになった視界には一見誰も立っていないように見えた。 
「まっ、これで死ななきゃ……!?」 
言葉途中で気付いた。何処かおかしい。何処だ? 
地面に転がっているのは男の頭部といくつかの道具――これは別におかしく無い。 
敵の死体が無い――透明人間なのだから当たり前だ。 
ロジャーは――ボロ雑巾の様な姿になって、ぐったりしていた…… 

空中で静止した状態で。 

「……ッ!! ダーク・セイヴァー!」 
メルティーナは直ぐ様魔法を放つ。それに対し、相手は手にしたロジャーを投げつけて応戦。 
(……これって、まさか) 
彼女は数時間前に同じ様なことを体験している。そして、今回も同じ様に魔法は無効化された。 
「また!?」 
ただ、その後は違った。今回のロジャーは止まらずに激突する。 
尻餅を付いた彼女は直ぐに起き上がろうとするが、相手はそれを許さなかった。 
足を一閃。 
倒れた彼女の腕を掴んで持ち上げ、その状態で一言悪態を付いた。 
「さっきの術、凄く痛かったんだけど」 

『何て無様なんだろう』『何故あの時逃げなかったのか』『私にはまだやらなければならないことがあるのに』 
メルティーナの頭に様々な弱い言葉が浮かぶが、それらを無視して集中力を高める。 
駄目元で、一発かましてやるために魔法の詠唱を行うが、 
「させないよ」 
それすら中断を余儀なくされる。 
「あああああっ!!」 
顔面に焼ける様な痛みが走る。顔を斬りつけられた様だ。 
それだけでは終わらない、相手は更に剣を走らせる。腕に、胴に、足に、 
何度も何度も何度も何度も……。 

不可視の剣はメルティーナを相手に踊り続けた。
■ 

「やれやれ、大分てこずっちゃったな」 
アシュトンは、ダルそうに体を引きずりながら荷物の回収・整理を行う。彼の体もボロボロだった。 
大魔法が放たれた瞬間、彼はロジャーを掴み上げ、盾として利用した。 
もっとも、形の小さいロジャーでは完全に防ぐことはできなかった。 
それでもアシュトンは死ななかったし、四肢も無事だ。動くこともできる。 

「ギャフ?(おいアシュトン、あの小さい奴は何処へ行った?)」 
「あれ? そう言えば……」 
言われてからロジャーの首輪を回収していないことを思い出した。 
辺りを見回すが、そこに有る死体は2つだけ。 
「ギャ?(逃げられたのか?)」 
「んー……多分そうなんだろうね。折角の獲物を取り逃がすなんて、やっぱり僕は不幸だなぁ」 
溜め息を付きつつ彼は立ち上がる。 
「ギャウ?(探すのか?)」 
「いや、例の娘の所へ急ぐよ」 
それを聞いてギョロとウルルンは顔を見合わせる。 
「ギャフー(少し休んだ方が良いぞ)」 
「僕のことなら心配いらないよ。それより、例の娘がいなくなってないかの方が心配だよ」 
そう言って彼はよろよろと歩き出す。背中の二匹は『やれやれ』といった感じの仕草をしていた。 

■ 

アシュトンがいた場所の直ぐ近くに、ロジャーは倒れていた。 
直ぐに死んでもおかしく無いくらい重傷だったが、彼はまだ生きていた。 
彼の幸運は3つ。 
セレスティアルスターを受けたとき、グリーンタリスマンが発動したこと。 
ダーク・セイヴァーに対し、ウィザードクロスが発動したこと。 
そして、倒れたときに、もう一つのディメンジョン・スリップを無意識の内に握っていたこと。 

【G-05/真昼】 
【アシュトン・アンカース】[MP残量:70%] 
[状態:疲労、ダメージ大] 
[装備:アヴクール@RS、ディメンジョン・スリップ@VP] 
[道具:無稼動銃、マジックミスト、レーザーウェポン、ルナタブレット、首輪×2、荷物一式] 
[行動方針:プリシスの望むまま首輪を狩り集める] 
[思考1:拡声器の主のところへ急ぐ] 
[現在位置:G-05、南へ移動中] 

【ノートン@SO3 死亡】
【メルティーナ@VP 死亡】


――あれから何時間経ったのかな? それとも何分かな? 
身体のあちこちが痛い。 
声が出せない、呼吸をするたびに苦痛が押し寄せる。 
手足が動かない、四肢がちゃんと付いているかどうかすら分からない。 

「……ッ!? これは」 
「え……!? いやぁ!」 
――声が聞こえた、男と……たぶん綺麗なお姉さまの声だ! 人が来たんだ! 
「惨いな」 
――惨いと言った。きっとオイラ達の状態のことだ。惨い状態でも、オイラはまだ生きているんだぞ。 
「ディアス、この人……」 
「あの時の男か」 
――バカチン! そっちじゃない! まずはオイラを……。 
「あの呼び掛け……この女性のものだったのかな?」 
「この状態では何とも言えんな。それより……」 
――そうだ、それよりオイラを……。 
「早くここから離れるぞ。有らぬ疑いを掛けられるは御免だ」 
――待って! オイラを無視するなんて酷いじゃんか! お願いだ、助けて……。 

「……けて……」 

「? レナ、何か言ったか?」 
「え? 何も言ってないけど」 
「そうか」 

彼の不幸。 
それは、最期までディメンジョン・スリップを手放さなかったこと。 


【G-05/真昼】 
【ディアス・フラック】[MP残量:100%] 
[状態:正常] 
[装備:護身刀“竜穿”@SO3] 
[道具:????×2←本人確認済み、荷物一式] 
[行動方針:ゲームに乗った参加者の始末] 
[思考1:レナを最優先に保護] 
[現在位置:G-05、三つに分かれた道] 

【レナ・ランフォード】[MP残量:100%] 
[状態:正常] 
[装備:無し] 
[道具:????×2←本人確認済み、荷物一式] 
[行動方針:死にたくない] 
[思考1:仲間と合流したい] 
[現在位置:G-05、三つに分かれた道] 

【ロジャー・S・ハクスリー@SO3 死亡】

【残り45人】

※ロジャーの死体はディメンジョン・スリップを握っているため見えません。 
※エレメント・セプター、ウィザードクロス、グリーンタリスマンは壊れました。  

----

[[第58話>またまたご冗談を]]← [[戻る>本編SS目次]] →[[第60話>蘇る決意]]

|前へ|キャラ追跡表|次へ|
|[[第55話>君が望むなら僕は]]|アシュトン|[[第71話>絶望の笛(前編)]]|
|[[第55話>君が望むなら僕は]]|COLOR(red):ノートン|-|
|[[第55話>君が望むなら僕は]]|COLOR(red):メルティーナ|-|
|[[第55話>君が望むなら僕は]]|COLOR(red):ロジャー|-|
|[[第4話>野望のはじまり……?]]|ディアス|[[第66話>LIVE A LIVE]]|
|[[第4話>野望のはじまり……?]]|レナ|[[第66話>LIVE A LIVE]]|